気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

雲の行方 上野春子 六花書林

2019-09-30 00:10:37 | つれづれ
まん丸な地球に裏と表なく用なき人はこの世におらず

平凡で小さきものよ幸福は千鳥饅頭ちどりが一羽

釘箱に林檎箱より抜きし釘亡き父しまいき曲がれるままに

折紙の兜で節句飾ろうか息子は母に似るろくでなし

黒失くし白を貰いて白失くし黒を拾いてさす黒日傘

死んだふりしているような顔覗く棺に白菊納めんとして

しろたえのごはんに落とす生卵混ぜてたちまち黄金(こがね)の御飯

ままごとのようだね夕餉紙の皿紙に器を畳に広ぐ

目白来る窓の辺に寄り電卓を叩けり春の事務服を着て

祖父吸いし莨にその名覚えたる桔梗が咲けりさみしき色に

(上野晴子 雲の行方 六花書林)

湖と青花 渡辺茂子 不識書院

2019-09-22 00:39:52 | つれづれ
春灯の下に解きゆく母の絹美醜まざまざ見せて逝きたり

曖昧に省き来たりし助詞ひとつ厨に飛ばし玉葱きざむ

余韻曳きて走る車中に眼(まなこ)閉ぢ今日の桜は一樹に足らふ

藍染めの小さき袋購ひぬ入れてもみむか吾がはかなごと

ひとり行くは孤独にあらず穂すすきの落暉に染まる湖までの道

屈まりて水琴窟の音聞ける人は自づと素顔見せたる

蒼空に白旗のごとはためかす施設に持ちゆくタオル幾枚

ざつくりと切る大根のみづみづと窓に雪降る劫初のごとく

これとこれ切りて繋がむボードには吾の臓器の右に左に

濁点を付け忘れたる文送り夜にしたたらす目薬一滴

(渡辺茂子 湖と青花 不識書院)

紫のひと 松村正直 短歌研究社

2019-09-16 12:14:43 | つれづれ
上流へむしろながれてゆくような川あり秋のひかりの中を

言うことに疲れ畳の制服の息子をひろい壁に掛けたり

境内に桜はあるを花咲けば桜のなかに寺あるごとし

るるるると巻き取るパスタ 正解を知っていながらいつも間違う

水はひかりを光はみずを弾きつつ滝壺ふかくに声をひびかす

水面へと鯉は盛んに口を出しもっともっとと求めてやまず

目鼻なくなるまで生きるということの人にはなくて石仏は立つ

一度しかない人生の一度目を生きて迷えり昼のメニューに

つかまえたはずが捕まえられていて洗濯ばさみに垂れるハンカチ

困ってることがあったら言ってよね困っていても困るのだけど

(松村正直 紫のひと 短歌研究社)

微風域 門脇篤史 現代短歌社

2019-09-10 23:42:35 | つれづれ
側溝に入れなかつた雨たちがどうしやうもなく街をさまよふ

ハムからハムをめくり取るときひんやりと肉の離るる音ぞ聞ゆる

権力の小指あたりに我はゐてひねもす朱肉の朱に汚れをり

なにもなき日々をつなぎて生きてをり皿の上には皿を重ねて

捨つるため洗ふ空き缶水道の水を満たせばふたたび重し

アヲハタのジャムの小瓶に詰めてゆく自家製ジャムのたしかなる熱

コピー機を腑分けしてゐる一枚の詰まりし紙を探しあぐねて

五線譜にをさまるやうに生きてゐるコロナビールにさし込むライム

会議室を元の形に戻しをり寸分たがはずとはいかねども

ひえびえと異国のみづに満たされてペットボトルはひかりのうつは

(門脇篤史 微風域 現代短歌社)