気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

短歌人7月号 同人のうた その3

2017-07-12 10:34:40 | 短歌人同人のうた
しろくろの津島恵子が踊りをり<たそがれ酒場>の映画のなかに
(杉山春代)

遠ざかるひとがほがらにふりむけり遠ざかるのはわれかもしれぬ
(柘植周子)

一本の螺子も緩んでいかぬよう車両検修主任の目視
(村田馨)

山頂にて食べるおにぎり美味なるは山の空気の味かも知れぬ
(立花みずき)

生きている証のごとく印を押し回覧板を隣家にまわす
(山本栄子)

アスファルト割りて出でたる葛の芽の骨のごときが十二、三本
(三井ゆき)

胸のすきまにアンパンマンのマーチ沁む五月の帰路にひくく歌えば
(内山晶太)

価値観の違ひはかくもさかしまに事情と情事社会と会社
(本多稜)

裁ち鋏和紙一枚を切り離し鋏も和紙も無音に在りぬ
(平野久美子)

三人子が自転車に乗りついてきた遠い日のこと黄砂のむかう
(紺野裕子)

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短歌人7月号、同人1欄より。

短歌人7月号 同人のうた その2

2017-07-03 23:27:25 | 短歌人同人のうた
従順に「上」、「下」、「右」と答へゆくわれのこそばし視力検査に
(斎藤典子)

いつのまに見えなくなりし天津甘栗駅売店にをりをり買ひき
(小池光)

朝日放送夜ふけの「ヤングリクエスト」、「イムジン河」をリクエストして
(藤原龍一郎)

洗ひ髪に五月がにおふ少女期に富島健夫をこつそり読みし
(橘夏生)

「兜虫の手足をとれば柿の種」ベトナム戦争とほくありたり
(和田沙都子)

読み返す『出家とその弟子』若き日と異なる言葉にこころはうごく
(平林文枝)

川の面に映るさくらは影もたずわが遺影など要らぬとおもふ
(洞口千恵)

檸檬忌に檸檬を買ひしは十九の日そぞろ歩めり寺町界隈
(西台恵)

水煮缶アスパラガスに玉三郎の白い面差しふと思いたり
(池田裕美子)

濡れそうなつつじの紅をくぐりきて子猫が不意に人の顔する
(水谷澄子)

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短歌人7月号、同人1欄より。懐かしいネタに反応してしまう。

短歌人7月号 同人のうた

2017-06-28 23:10:43 | 短歌人同人のうた
春を歩く歩調というものあるごとし木橋にスズメ提に人の子
(久保寛容)

足の痛くない国へ行かう 人在らねば声に出て言ひ晴ればれとせり
(酒井佑子)

身籠ると身罷るどれも火を纏い見えぬところも焼き尽くしゆく
(鶴田伊津)

なだり濃き夕闇降ればふうはりと灯るごとくにひとつ傘ゆく
(大谷雅彦)

長谷寺の庭にくれなゐの牡丹(ぼうたん)の咲き盛りをりなまぐさきまで
(小島熱子)

夜の蜂蜜しよくたくのうへのつぼにあり甘をかかへて踞りゐる
(花笠海月)

アイリスのアイのかなしさ美しさすっくと立ちたる茎五、六本
(小林登美子)

病院を出でて大きな街角を曲がればいちめん葉桜の街
(関谷啓子)

絶え間なく散りゆく花と結社誌の我が我がに疲れてしまふ
(倉益敬)

ふりこぼす水乾きゆくときの間をすり抜けてゆく今といふ過去
(高田流子)

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短歌人7月号、同人1欄より。

図書館に本を返しに行くあひだ春風に捲られてゐたシーツ
(近藤かすみ)

短歌人5月号 5月の扉

2017-05-02 19:30:11 | 短歌人同人のうた
理髪業のサインポールと定休日つつうらうらに遍し昭和
定まらぬ客に向ひて定むる日ほかに休めば客去る定め
(針谷哲純)

通り過ぐるヘアーサロンにひとはなく鏡はならび鏡をうつす
春のきて公設市場の定休日ひだまりひろく鳩らあゆめり
(村山千栄子)

シャッターに「定休日」の紙貼られ盛り塩あれば食べ物屋と知る
大企業に若き命を捧げたるあなたに定休日をあげたかった
(謝花秀子)

火曜日の朝の鏡に映りたる女の顔に軽くウインク
火曜日の夜の鏡に映りたる女の顔に「好きだよ」と言ふ
(高田流子)

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短歌人5月号、5月の扉。題詠*定休日を詠む

短歌人4月号 同人のうた 3

2017-04-24 23:36:18 | 短歌人同人のうた
俳人の楽天蔑し歌人(うたびと)の厭世嗤ふこの短詩形
(西台恵)

忘れるたびにキオスクで買ふボールペンがもう一生分 窓ぎはにたつ
(和田沙都子)

何ごとも起こさず二月の一日は翳りゆくかな翳りゆくのみ
(高野裕子)

きさらぎは春くる前のひと休み遠き山なみ夕日によろふ
(高田流子)

深い雪わたしを何処に連れてゆく永い間のわが想ひびと
(大和類子)

木蓮の銀の蕾は光り合い一刻者の烏を去らしむ
(川田由布子)

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短歌人4月号、同人1欄より。

寒暖の差の激しい4月は、一番苦手な月かもしれません。桜が苦手。

短歌人4月号 同人のうた 2

2017-04-12 12:17:35 | 短歌人同人のうた
3Bの鉛筆を用ゐ草色の手帳に記すうたのかけらを
(小池光)

よべばすぐもどつて来さうな田村さんの写真によばれまたみる歌集
(蒔田さくら子)

雨水まであと幾日か夕やみに暦の二月しろく泛びぬ
(斎藤典子)

納豆巻き囓りながらに読む外信トランプの馬鹿トランプの馬鹿
(森澤真理)

金借りて姿消したる老人のハンカチは椅子に忘れられをり
(吉浦玲子)

みどりの葉すらりと立ちてすずしかる水仙の花は少年のかほ
(加藤満智子)

そしてまた死は石のようか上向きに揃えられたる母の足に触る
(小野澤繁雄)

濡れている冬の星空祈るごと歩けば遠くなる帰り道
(八木博信)

いつも飴持ち歩く人ととなりあひ会話とぎれて食むハッカ飴
(寺島弘子)

靴ひもを結び直して出てゆきしあの日の吾子はさらに遠のく
(岩下静香)

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短歌人4月号 同人1欄より。

さまざまに指の触れたる上掛けのパッチワークに身は覆はれて
(近藤かすみ)

一月に有沢螢さんのお見舞いに行ったことを一連にして、4月号詠草として十首を送った。載るのは七首。事情を知らずに読んでもわからない歌である。
ほかの方の作品を読んでいて、家族や友人の挽歌があるが、どこかが欠けていてうまく読み取れない。歌そのものとして良くないとダメだから仕方がない。


短歌人4月号 同人のうた

2017-04-02 23:55:30 | 短歌人同人のうた
動かざる足裏(あうら)に踏絵のキリストが「吾(あ)を踏みて立て」と夢に囁く
(有沢螢)

迷うため一駅手前で降りてみる二月の風を涼しく受けて
(猪幸絵)

衣料品売り場平常営業の静けさグンゼ八分袖あり
(柏木進二)

塩町の夜の空地に消残れる半畳ほどの雪の明るさ
(倉益敬)

消耗戦となりゆくばかりの介護なりさあれ『兵たりき』読む嘔吐こらへて
(武下奈々子)

福豆をひとつぶひとつぶ選りてゐるうちに百年経つ心地せり
(洞口千恵)

薄氷がジグソーパズルのやうに割れだれにでも死はたつた一回
(小島熱子)

山墓に水仙の花たむければやさしかりけり冬の陽射しは
(杉山春代)

降る雨に市電の青き火花散る記憶ありたりこの雨の午後
(藤原龍一郎)

はたらいてお金にかえて原付を少しうるさくする使い道
(斉藤斎藤)

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短歌人4月号、同人1欄より。

今日は、短歌人関西歌会のため奈良へ。毎年四月は奈良で行われている。行きは最寄り駅から地下鉄で近鉄奈良駅まで直通で快適に行くことができたが、帰りは京都駅で乗り換え、最寄り駅でまたバスに乗り換え。とにかく観光客が多い。日本語でない言葉を話す人もかなりいて、人の多さに感心する。乗り物では、スマホで音楽を聴いてさまざまなことをやり過ごす。
今日の詠草にアーモンドの花を詠んだ歌があった。こんな花です。

短歌人3月号 同人のうた その3

2017-03-22 15:22:03 | 短歌人同人のうた
雪どけの道に長靴汚しつつふるさとの空ある日うつくし
(木曽陽子)

曲がらない大根とまっすぐな人参さびしき世を渡りゆく
(長谷川富市)

雲梯のパイプとパイプにおさまっているなんて 冬の北斗七星
(𠮷岡生夫)

こんな所に歌の切れ端落ちてゐる拾ひ集めて今日の一首を
(高田流子)

ザンパノが砂をつかみて哭くところありありとして汀べの波
(三井ゆき)

内職をしてゐる母の傍らにおもちやの電車走らせをりき
(神代勝敏)

小柄なれど耳の大きな方にして悠仁さまは信号がすき
(今井千草)

閉店記念にもらひし椅子に腰掛けて振り返りみる杳き歳月
(中地俊夫)

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短歌人3月号、同人1欄より。

短歌人3月号 同人のうた その2

2017-03-11 10:48:09 | 短歌人同人のうた
仏壇にクリスマスケーキ供えいる叔母とともあれ過ごす好日
(久保寛容)

一本の胡瓜にまぶす塩の量時のながれといくばくのしろ
(柘植周子)

海の中にゐる人は上つて下さい くり返しくり返し言ふ すぐに上つて下さい
(酒井佑子)

雪ははや声を失ひ雪としてここに降りつ積むひざ折るごとく
(阿部久美)

夕闇は馬のごとくに濃くなりぬ冬の京都をたちてたちまち
(小池光)

プレートが動きだすまで増幅す クリック・いいね・クリック・いいね
(本多稜)

ナショナリズムとヒューマニズムが手をつなぐオリンピックという物語
(生沼義朗)

トランプにどこか似てをり嚙みつき魔フレッド・ブラッシー現役の顔
(倉益敬)

るりふかき星座の切手あまた貼りこづつみおくる母となる子へ
(佐々木通代)

息子(こ)の葬儀を終へし夫婦の庭先に半月ぶりの干し物白し
(藤田初枝)

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短歌人3月号、同人1欄より。

短歌人3月号 同人のうた

2017-03-08 10:37:49 | 短歌人同人のうた
冬日差す水のほとりは明るくて鷗のこゑのひびき降るなり
(青輝翼)

あらかじめ決められた質疑応答の隙間を紋白蝶が流れる
(猪幸絵)

旧年となりてゆくなり十二月のカレンダーの絵がわれをとりなす
(柏木進二)

霜月のひと月かたちを変えながら空より降(くだ)るあめみぞれゆき
(加藤隆枝)

思いやりその「やり」にある鈍感をくだいてくだいてトイレに流す
(鶴田伊津)

うちつけに火が意志を持つライターよりらふそくに身をうつししときに
(花鳥佰)

「ものみの塔」断るわれにドア開けてくれてありがたうと男去りゆく
(竹浦道子)

ぽつんぽつんと灯の点る郭しんとして過去世のやうに靴音ひびく
(小島熱子)

さえざえと貴婦人笑ふ長楽館ホールの絵画に内緒よ、といふ
(西橋美保)

冬空に鳴る裸木よゆるゆると朽ちてゆくなり父の肺葉
(洞口千恵)

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短歌人3月号、同人1欄より。

けむりほどの縁(えにし)あらねど星野源あかるく恋を唄ふは楽し
(近藤かすみ)