気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

冬の向日葵 足立尚彦 ミューズ・コーポーレーション

2020-05-14 23:46:33 | つれづれ
気の利いた歌など詠めぬ我なればリズムに合わせ瑣末を記す

まじまじと地球を見ればのんびりと足立君いて歌風を変えず

小保方さん、籠池さんがなつかしくまもなく終わる平成の世は

占い師だった頃占い師のすすめで占い師やめてしまった

牧水を好きにならねばなりません宮崎に棲むひとの宿命

内閣府の定義にそのままあてはめる我は公式ひきこもりなり

エンディングノートをみたび書き直す徐徐に完成しゆく我が死は

☆割り箸が割り箸らしく捨てられて私は私らしく老いゆく

輪ゴムとかボールペンとか納豆とか安いと思う心配になる

近眼の我には星座が見えなくて他人事のように今後も生きる

(足立尚彦 冬の向日葵 ミューズ・コーポレーション)

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八雁所属の足立尚彦(たかひこ)の6冊目の歌集。後半は「冬の向日葵」という小説。
主人公の父親はタカピコ。短歌って、のびのびゆったりマイペースで作ればいい、って励まされる。

ナラティブ 梶原さい子 砂子屋書房

2020-05-11 23:33:21 | つれづれ
ホームには春のコートが立ち並ぶ肩に落ちたるだんだらのひかり

ゆり根ひとひらゆり根ふたひら歳月はときに思はぬかがやきを見す

コピー機のボタンを押してぞくぞくと文字を生ましむ光のなかに

もう二度と死ななくてよい安らぎに見つめてゐたり祖母の寝顔を

眠るたびに別の水辺に行きながら薄らいでゆけ細(さざら)なる傷

ランドセルの仕立ての丈夫かがりたる糸のあはひに泥入り込める

誰も知らずけれど誰もを知るやうな思ひに立てり墓地のくさはら

生まれくるまへからわたしを知るひとの多くして浦に白き泡たつ

☆ みづうみをめくりつつゆく漕ぐたびに水のなかより水あらはれて

波がここまで来たんですかといふ問ひが百万遍あり百万遍答ふ

(梶原さい子 ナラティブ 砂子屋書房)

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第六歌集。<ナラティブ>とは語り。百歳になる祖母を見送り、祖父の抑留されたシベリアを訪ねる。東日本大震災の傷跡は深く残ったまま、津波の被害の問いに百万遍も答える。「生まれくるまへからわたしを知るひと」の中で生き続ける人生。地に足のしっかりとついた歌のかずかず。みづうみを漕ぎゆく歌の丁寧さに最も惹かれた。