気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

ディーゼルの列車 向山文昭 

2019-07-16 00:18:04 | つれづれ
たそがれを感じて点る街灯に時間差のあり秋のかえり道

花びらが散るというより少しずつ枝が現わる窓の桜木

脱ぎおきし靴下をまた履くときに残る形が左右を示す

引越しに運び出しゆく冷蔵庫水平に持てば柩の重さ

三色のボールペンの胴やや太く中に色別棒グラフあり

空からの我が家の写真この点は犬の墓だと家族のみ知る

実をもてば枝と枝とにある格差おなじ幹へとつながりながら

戦地からの父のはがきを見つけたり裏にある絵はジャワの踊り子

ブランコを押してくれとはもう言わぬ一年生の音読の声

大小の画面ならべる電気店十人の安倍と向かい合うなり

(向山文昭 ディーゼルの列車 青磁社)

空間 生沼義朗 

2019-07-12 00:44:02 | つれづれ
救急の部署名サインはQQと書けば済みたり救急なれば

感覚は感情に支配されるゆえ昨日濃い水、今日薄い水

  七夕前後
「夫の川」という誤植あり、妻が殺した夫の死体が川を流れる

遠火事はまた遠花火、親族間殺人つねにメディアの向こう

昼闌けて立ち止まるごとき沼津港の時間を人がうごかしている

伊豆の野を越えて峠をなお越えてバスは石油で動かす脚絆

言葉が先かこころが先か分からぬがに卵を黄身と白身に分ける

心身が健やかならざれば死刑さえ執行されぬ死刑囚あり

灯油売りの過れるときに椅子の背に掛けしスカートまた滑り落つ

壊れたる木製の扉ゴミとして捨てられてあり春の日暮れに

(生沼義朗 空間 北冬舎)