気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

いま二センチ 永田紅 砂子屋書房

2023-03-26 22:51:00 | つれづれ
からんからんすっからかんに音はなし陽射しの中に壜があるだけ

上澄みを生きているのはつまらないアメンボ飛び出すときの脚力

本の背に指かけ斜めに引きだせば子規も斜めに後頭部見す

論文の小舟を乗り継ぎながら往く研究生活十六年目

親指と人差し指のあいだにて「いま二センチ」の空気を挟む

病院に兄持ちくれし無花果の皮剝けば白き粒の乳湧く

いつもいつも仕事している祖父ならむ祖母は空色の着物のままで

柳とは馬繋ぐのに良き木らしそのような訳で出町柳は

川の字の一画目なるわたくしのはらいの脚が布団より出る

海口とよばず河口と名づけたるこころは真水に身体与えき

(いま二センチ 永田紅 砂子屋書房)

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塔短歌会、永田紅の第五歌集。2012年から2015年までの作品を収める。妊娠、出産、育児、研究者としての仕事。京都での暮らしがいきいきと描かれる。歌には発見があり、芯があり、すんなり読ませるための工夫がある。生活の場の重なるわたしはどれも頷きながら、楽しみながら読んだ。