気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

撓みたわみて 堤純子 青磁社

2020-10-12 09:38:35 | つれづれ
砂浜に幼はひたすら貝拾ううなじに垂れし髪かきあげて

「魚の棚」ぴくぴく跳ねるかれい蛸生きいるままに購い急ぐ

紅白を咲き分け「思いのまま」という一本の梅に紅を数える

終戦の一年生のわが背には母手作りのランドセル負う

元朝の京風雑煮わが味に故郷の味は三日目食ぶ

天然の翡翠で彫らるる白菜の虫二匹置くみずみずしさよ

午後八時封書受け取る「マイナンバー」我が名数字に置き換わりたり

しろがねの薄の原に風奔り撓みたわみてすっくと戻る

夕べには紅のきざして淑やかに酔芙蓉の花ひとときを在る

夫の逝き妻の役割終えし今しどろもどろのわがための時間

(堤純子 撓みたわみて 青磁社)

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「好日」所属の第一歌集。妻として母としての長い歳月の重みを感じさせる一冊だ。良妻賢母の生き方がすばらしい。こういう生き方はもうできない。

半券

2020-10-09 00:27:41 | つれづれ
手洗いの水が出るのを待っていたわたくしの手は人間の手か 竹内亮

何回も読めば詩になるうつむいて竹の葉よわく揺れる窓辺に とみいえひろこ

ぜったいに離さないから 約束が嘘になるとき遠くに行ける 山本夏子

喪の花を注文している人の背とあいだを置けりかすみ草ほど 岩尾淳子

ねめねめとカレーをライスと混ぜながらわたしのなかのうつわを測る 高田ほのか

夜の浜、何も見えないことを見に来たのに街の灯が刺さる、目に 千種創一

失言をきみが許してくれるならレターパックで送る紫陽花 原田彩加

天窓の灯りが照らす清潔な落雁の箱かかえて露地へ 藤本玲未

(半券 山本夏子さん発行の同人誌)

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エッセイ 私の行きたいところ

すっきりとした印象の同人誌。風通しのいい感じがする。

シアンクレール今はなく 川俣水雪 静人舎

2020-10-03 18:44:03 | つれづれ
それぞれに遠き故郷あることの白紙答案 今朝 雪愛宕

ねえ坊やもっといいもの見せたげる籠の螢は逃がしておやり

ホルマリン漬けの巨大な脳ひとつ遺りて春の螺旋階段

有るほどの菊列島になげ入れよひとつ制度の命終の朝

秋の夜の蛇口にくめる一杯のみづすきとおる なむあみたふつ

喫茶店シアンクレール今はなく荒神橋に佇むばかり

本日のおすすめ日本海の鱈クセある文字の小さき黒板

日本を洗濯したるそのついでバケツでサッと水撒いてくれ

潮風はまだ冷たくて散歩するはずの浜辺を遠景に置く

いつもなら加茂大橋ですれちがう午前6時のカントに遭わず

(川俣水雪 シアンクレール今はなく 静人舎)

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「塔」「月光の会」所属。高橋和巳、高野悦子に惹かれて作られた歌が多いが、その時代を共に生きたわけではない。その時代に心を置いてみて詠んだものだ。京都の固有名詞の歌が魅力的。京都をよく詠うわたしとしてはキャラがかぶってはいけないと思う。