気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

時間グラス 池田裕美子 短歌研究社

2022-04-10 23:06:48 | つれづれ
南十字星に隣り蠅座のあるあわれ死にゆく際(きわ)に兵が見しもの

砂時計を時間グラスとよぶときのすいせんの香をこめて雪ふる

きさらぎの春をはらみて蠟梅をぬらすあわゆきゆうべは晴れて

蛇口にかざす朝のてのひら窓際のハーブをつみし薄荷のにおい

せん妄の父に苦悶のきれぎれの花からすうり夜にからまる

一瞬に永遠をみるよろこびのスターマインが揚がるフィナーレ

かたつむりの這いたるあとのひかりいて路地は薄目の秋陽のまひる

くれないと縹(はなだ)もみあう夕焼けの浜に蛸干す竿棚ならぶ

いさかいてややに淋しき夕まぐれポトフに散らすパセリをきざむ

いつも背中を押してくれてたまなざしの記憶にそらの秋は深まる

(池田裕美子 時間グラス 短歌研究社)

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短歌人、鱧と水仙でご一緒している池田裕美子の第三歌集。何度か鱧水の合評会のあと、これから旅行に行くという話は聞いていたが、そのチャンスにしっかり歌を作っておられたのを改めて知る。文語できっちりと作られた歌で、この作風なら旧かなにする人が多いだろうが、あえて新かなを選ぶ。旧かなの抒情過多を嫌ってのことだろうか。知的好奇心に満ちて行動する歌人の一冊。