気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

短歌人11月号 同人のうた その3

2012-11-30 00:37:11 | 短歌人同人のうた
星空がつまつてゐると思ふなりドロップの缶いつまでも開かず
(金沢早苗)

小学館の「勉強マーク」に涙ぐむ影絵のあれはあにといもうと
(西橋美保)

きみがため編みてもみたし新版の「病床歳時記」初秋の風邪
(有沢螢)

誤植ひとつ見つけることの嬉しさを分かりはじめたある夏の夜
(村田馨)

息を吐くながくながく吐き出してそのさきに宇宙をひとつ産むのだ
(猪幸絵)

紐のある靴を選びぬ走り出す前にしばらく考えるため
(高野裕子)

代筆と思われる字で退会の葉書が来るはなおもてさみし
(橘圀臣)

夏逝くといふ感慨にしみて聞く井上陽水「少年時代」
(蒔田さくら子)

いちにちにひとり笑ひの幾たびぞ九月に咲きたる向日葵の花
(斎藤典子)

帰らざるゆえくきやかに刻まれてアメリカン・ニューシネマの夏は
(藤原龍一郎)

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短歌人11月号、同人1欄より。



きのうの朝日歌壇

2012-11-27 02:17:04 | 朝日歌壇
山小屋の脇に水張るドラム缶在りてひとひら秋雲映す
(富士吉田市 萱沼勝由)

普段着にけふはアイロンかけて行く百万遍の古本祭り
(福井県 大谷静子)

安全靴はきて夜勤の業務まつ秋の時雨の沖をながめて
(東京都 緒方輝)

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一首目。ドラム缶の水面に空が映り、そこに秋の雲があるという風景が素敵だ。こういう素直な歌を読むとほっとする。
二首目。百万遍の古本まつりは、以前よく行った。最近は本が増えすぎているので、自重している。普段着でありながら、アイロンかけてちょっと気を引き締めて行く作者の姿がつつましくて好感を持った。
三首目。どんな仕事かはわからないが、労働の歌というだけで尊く思う。安全靴の具体がいい。秋の時雨にやや重なりを感じたが、調べると時雨は冬の季語だった。

パソコンが不調のため、ブログの更新がなかなかできませんでした。新しいのに変えたので、パソコンについては大丈夫です。ぼちぼちしか進めませんが、気まぐれ徒然なので、ご容赦ください。


短歌人11月号 同人のうた その2

2012-11-22 01:58:59 | 短歌人同人のうた
掃除機を最強にしてのしてゆく 負けるが勝ちといふのは嫌だ
(紺野裕子)

会合に坐っていたら「うなぎパイ」行きわたらんと一座をめぐる
(柏木進二)

ベランダに秋の風来てジーンズとTシャツ二枚みるみる太らす
(川田由布子)

家出でてかへりきたればからつぽの郵便受けは清々とあり
(小池光)

図書館の内階段の大窓に揺るるけやきの陽の斑を踏めり
(渡英子)

脚のみの二日つづきの朝虹を告げたかれども告ぐる人なし
(三井ゆき)

寝つくまで扇ぎくれたる祖母のうちは青蚊帳の中霧流れたり
(松圭子)

あさがおの藍のすずしさ帰り来てスニーカーから素足抜くとき
(木曽陽子)

じりじりと天より地より湧く暑さ髪千本が燃え上がりさう
(古川アヤ子)

斃れたる一人を思う浴室のアレッポ石鹸やわくむめりぬ
(岩下静香)

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短歌人11月号、同人1欄より。(画像は、真如堂の紅葉)


今日の朝日歌壇

2012-11-19 20:15:06 | 朝日歌壇
人間は羽根がないから走るのだ。ウサイン・ボルト9秒58
(東京都 無京水彦)

百グラムの肉を買いきてひとり食む八十五歳バースデイの宵(よい)
(いちき串木野市 山元禎子)

ちかくてもとおき人いてとおくてもちかき人いてコスモスゆるる
(福島市 美原凍子)

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一首目。上句の把握が面白い。散文的かもしれないが、「。」を入れて読みやすくなっている。新聞上では縦書きだが、どちらにしてもこの場合は9秒58という数字表記が適切だと思う。
二首目。八十五歳にもいろいろある。肉を買って食べるところに作者の生の勢いを感じる。しかし百グラムと、やや少なめ。この数字を出したことで、リアリティが出た。
三首目。四句目までが、振り子のように行き来する構造で、結句はあっさりと締めている。「コスモスゆるる」は、「秋の夕暮れ」みたいに、何にでもあう結句。全体が淡いけれど、やはり心に沁みる歌だ。

短歌人11月号 同人のうた

2012-11-14 01:53:02 | 短歌人同人のうた
つきまとふこどもでありしむかしからひとつも減らずさびしさは粒
(阿部久美)

ただ一度父と入りし映画館いでて諏訪湖の眩しかりけり
(佐々木通代)

極熱のひと日の暮れて手に冷たきモーリタニアの蛸を洗ひぬ
(酒井佑子)

Twitter(つぶやきを)識らざるゆゑに耳とぢて目とぢてしづか睡蓮のはな
(柚木圭也)

夕立の冴え心地よく濡れてゆく世界はだれのものでもなくて
(鶴田伊津)

手のひらの湿りに指はゆめと書くたやすく生(あ)れて消え失せるゆめ
(春畑茜)

あふむける蟬とかたへのぬけがらとそのたまゆらを風過ぎりけり
(杉山春代)

鬼の子の一匹二匹踊りつつ母の記憶を食べに来るらし
(水谷澄子)

 
自死の数北海道が一番と今日三回も報道さるる
(明石雅子)

肩車の父の肩ごし太陽がじわり落ちゆく海を見ながら
(橘夏生)

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短歌人11月号。同人1欄より。

今日の朝日歌壇

2012-11-11 19:10:03 | 朝日歌壇
新しき墓石のあり刻まれし少年の名に触れつつ読みぬ
(八戸市 山村陽一)

藤袴(ふじばかま)紫苑鶏頭葛の花君に老いたる母ひとり在る
(愛知県 中山郁子)

葉先よりぽとりと落ちし天道虫が死んだふりする今日の小春日
(佐賀市 古賀ゆき)

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一首目。悲しい歌だ。少年の名というところで、はっとさせられる。思わぬ事故か病気か、死ぬはずもない若さで亡くなった少年、その家族や友人の悲しみを思うと胸が痛い。悲しいとは書いてないが、悲しさが伝わってくる。
二首目。上句に挙げられた花はどれも地味な花。その花と同列のように「君に老いたる母ひとり在る」という。「居る」でなく「在る」に注目する。「居る」とすると介護や病気やいろいろなことを思わせて人間くさくなるが、「在る」として植物と並べて詠うことで、距離ができる。水臭いかもしれないが、この距離が好ましい。
三首目。特にわからないことの何もなく、すんなり読める歌。結句、今日の小春日の「の」が気になった。ここを「は」にするとどうだろう。「は」とすると、小春日に重心がかかりそうだ。「の」の方が天道虫に目が行く感じがする。助詞の使い方は微妙。正解はないが、とても気になる。あくまでも主観の問題だが。


短歌人11月号 11月の扉

2012-11-11 10:40:56 | 短歌人同人のうた
それぞれにかさねきし日々思ふときひときは高きひぐらしのこゑ

向日葵の道ぬけてきし郵便夫 ふたたび花のなかに消えゆく

(原田千万 はがき)

茄子の花ひらきましたと絵手紙に添え書きにじむ前略草々

葉書より鈴虫の声わきあがれ耳に補聴器好まぬ人に

(武藤ゆかり 三河の蟬)

鳩居堂の絵はがきが好きな母でした来年またねと送り火を焚く

大安を選びてポストの奥ふかく投稿ハガキおとす駅前

(池田弓子 鳩居堂の絵はがき)

木の机を明るくしたる絵葉書はまことに青き南米の空

三枚の絵葉書買ひて一枚は海原渡る余白に光

(梶倶認 八首の葉書)

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短歌人11月号、11月の扉から。今月のお題は、葉書。

今週の朝日歌壇

2012-11-08 17:17:57 | 朝日歌壇
あの角に小豆の匂いたちこめる和菓子屋ありて水曜の朝
(村上市 内山恵美子)

水音がスキデスココガイイノデスちいさき声で溝蕎麦の花
(福島市 美原凍子)

つゆ草の群れに出会いて歩を止めぬあれでいいのだきのうのことは
(神戸市 高寺美穂子)

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一首目。言葉だけで、和菓子屋の様子も和菓子の美味しさも想像させる。言葉のちからを感じる歌。結句は、あっさりでいいと思う。
二首目。私もごく最近、川の中洲の溝蕎麦を歌にした。たまたま横を歩いている人が花の名を教えてくれたから。溝蕎麦がいいそうな言葉をカタカナにしたのが、巧み。
三首目。選者の永田和宏氏は、ポジティブ志向と書いている。「あれでいいのだ」と思うしかないこと、いろいろあり。それ以上考えたり、悔やんでも無駄。つゆ草の群れが美しい。

毎月曜日に書いていた「今日の朝日歌壇」、ずんずんずれこんで木曜日になってしまいました。近藤は元気です。少々、気まぐれです。

画像は、溝蕎麦。季節の花300のサイトからお借りしています。


雲ケ畑まで 近藤かすみ歌集

2012-11-05 17:41:58 | 雲ケ畑まで
白日傘さして私を捨てにゆく とつぴんぱらりと雲ケ畑まで
(近藤かすみ)

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私の第一歌集『雲ケ畑まで』が出来あがりました。短歌をはじめてからの十年余りの歌、351首を収録しています。
栞は、香川ヒサ、大辻隆弘、小池光のお三方に書いていただきました。栞だけでも読みごたえあります。本体ももちろん、飽きずに読んでいただけるように工夫しました。
六花書林よりの発行です。定価:本体 2300円。
お問い合わせは、コメント欄にお書きください。
よろしくお願いいたします。

ことのはしらべ 田中教子

2012-11-01 19:16:03 | きょうの一首
いま何を買ひに来たのかわからなくなつてオレンジ三個を買ひぬ
(近藤かすみ)

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歌友の田中教子さんの本『ことのはしらべ』が、文芸社から出版されました。
田中教子さんは、第三回中城ふみ子賞受賞の歌人として活躍されるとともに、長く万葉集の研究をなさっています。
歌集『空の扉』『乳房雲』二冊に続き、いよいよ歌論集の出版です。

「万葉集と現代短歌」という大きな柱とも言うべき論のほかに、茂吉の万葉語、野菜、果物の歌など、読み物としてたのしい文章も入っています。
野菜、果物の歌のところで、私の上記の歌を取り上げていただきました。

論文と短歌とエッセイと、どれも楽しんで勉強になる一冊です。
アマゾンでも、購入できます。
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秋の夜長に、いかがでしょうか。

こちら、『雲ケ畑まで』も、よろしうに。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4903480720/ref=ox_sc_act_title_2?ie=UTF8&smid=AN1VRQENFRJN5