気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

麦笛 室井忠雄 六花書林

2022-08-04 22:48:09 | つれづれ
「最初はグ-」を流行らせたるは志村けん令和の春に死にゆきにけり

働けばしあわせになると信じつつ生きてきたりぬ昭和の時代は

旅人のわれは味わうあしひきの会津のやまのコクワひとつぶ

生栗を五つほど入れわがからだ午後五時半のバスタブに浮く

アルミニウムでつくる一円玉よりも価値ある紙の二円切手は

火葬場担当でありし若き日死者を焼く原価を計算せしことのあり

甘酒を売っていたから和菓子屋になっても「あまざけ」屋号は楽し

九十歳まで生きた葛飾北斎は七十歳から本領発揮す

下向きに生きた羊を殺すとき仰向けにして空を見せやる

濡れないように包んでとどく朝刊の記事一面が豪雨災害

(室井忠雄 麦笛 六花書林)

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短歌人の室井忠雄の第四歌集。読みやすくわかりやすい。ちょっとした豆知識を歌にしているだけのようだが、深く身にしみる。味わいの濃い「ただごと歌」と言えばよいのだろうか。小池光の弟子のひとり。謂わばわたしの兄弟子のような存在だと、改めて認識した。こういうすっきりした歌に癒やされる。