気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

短歌人2月号 同人のうた その3

2013-02-27 21:49:28 | 短歌人同人のうた
強くなり弱くなりして暫くは棕梠の大葉を遊びいる雨
(山本栄子)

煮崩したいちじく掬う銀の匙どこに生きてもひとは寂しい
(佐藤慶子)

どんな店が建っていたっけ更地には狗尾草が揺れる ゆめだよ
(猪幸絵)

声あげて笑うことなき暮しなり雪降りくればなおさらのこと
(石川良一)

岡部桂一郎息絶え絶えにあるときを茸ご飯は炊き上がりたり
(高田流子)

銀と青との模様果てなき万華鏡刻刻冷えてゆく秋の部屋
(平野久美子)

浴室に誰もゐぬはずくぐもりて水の流るる音聞こえくる
(斎藤典子)

びはの木を揺りあげて吹く風の音のとほき明治の青年を恋ふ
(渡英子)

缶ビール一本飲めばこと足りる酒量のこともさびしからめや
(小池光)

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短歌人2月号、同人1欄より。本日、3月号到着しました。

今日の朝日歌壇

2013-02-25 18:05:39 | 朝日歌壇
ああつひに席譲らるる日の来たり決めたとほりにありがたう言ふ
(半田市 石橋美津子)

柔らかき冬日の中に目を細め膨らんでいる雀の孤独
(千葉市 愛川弘文)

諭吉らは今より長き毎日に恵まれしかやヅーフの写本
(京田辺市 田内正夫)

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一首目。年配になるとバスや電車で席を譲られる日が、いずれ来るだろうと覚悟していて、やはりそうなったという歌。「決めたとほりに」で作者の事前の覚悟がわかる。しかし、年配に見えるかどうかを別にして、荷物が多い人を見かけると席を譲ることも、譲られることもあり、作者の意識がやや過剰な気もする。「ありがたう」に作者の人柄が垣間見える。
二首目。四句目までは写実の歌だが、結句に「雀の孤独」を置いたことで、擬人法の歌になった。孤独なのは、作者の方で、その意識の反映として「孤独」という言葉が出たのではないか。結句を「一羽の雀」などとして写実に徹する方法もあるだろう。
三首目。「ヅーフの写本」は、幕末の蘭和辞典のことらしい。諭吉の時代に比べて、今の私たちは携帯電話やインターネットの普及で、いつも人と繋がっていて、なんと忙しいことか・・・。作者の嘆きが聞こえてくる。

今日の朝日歌壇

2013-02-18 20:49:49 | 朝日歌壇
シェアしてた体に別れの一蹴りを加えて我が子は生まれ出でいく
(東京都 黒河内葉子)

蠟梅は琥珀色した莟(つぼみ)からひいふうみいと時間をほどく
(松阪市 こやまはつみ)

一時間犬と話して帰りゆく女子中学生ありがたうと言ひ
(前橋市 荻原葉月)

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一首目。出産の歌だが、珍しい視点で詠まれていて新鮮に感じた。母親の胎内に子供を宿すとは言うが「シェア」には驚いた。確かにそうなんだ。別れの一蹴りというのにも、カラっとしたユーモアを感じる。
二首目。蠟梅は寒い時期にも春に先駆けて咲く花。下句の「ひいふうみい」がゆったりした時間の流れを感じさせる。
三首目。女子中学生は犬と話しながら、自分と対話しているのだ。また、家族や友達に言えないことを言っているのかもしれない。人間関係に不器用な様子が窺える。こういう時期を経て、大人になっていくのだろう。「ありがたう」に彼女のやさしさが表れている。

短歌人2月号 同人のうた その2

2013-02-18 01:02:40 | 短歌人同人のうた
つはぶきの葉に半身をうづめたる石仏に師走一日の光(かげ)
(大森益雄)

人形を作らぬ秋はさびしいと退(ひ)きていふ菊師はわれと同年
(蒔田さくら子)

ゆるやかにほどかれてゆく心根に若草のごとき老境はあり
(三井ゆき)

はなびらの剥がれるように忘れゆくあなたの顔を声よりはやく
(内山晶太)

洗たくもの干せばはしから凍みてゆくふるさとのふゆ遺詠のごとし
(紺野裕子)

ながく病み味覚おちると思ふ日の柚子の葛湯は胃腑をあたたむ
(椎木英輔)

母は子を亡くした後も母なりや関東平野に火事を求めて
(八木博信)

天皇の病状報ずる新聞にくるまれていた未使用の皿
(村田馨)

物思い一日分の重みかなかりんひとつを手にまろばせて
(守谷茂泰)

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短歌人2月号、同人1欄より。

そのをとこ心斎橋を渡りゆくむかしなじみの魚の目つれて
(近藤かすみ)

短歌人2月号 同人のうた

2013-02-14 23:01:56 | 短歌人同人のうた
睫毛濃き人でありしよななそぢの死のおもて少年微睡せる如く
(酒井佑子)

あなたへとなめらかとなる髪とよぶ冷たき束を背に垂らしつつ
(西村美佐子)

大縄におそれもせずにはいりゆく子らの背中に冬日砕ける
(鶴田伊津)

豚まんとぶたのまんぢゆう日本語の深きところに夜の灯ともる
(春畑茜)

美容室のそとには海がにほひをりとりかへしのつかぬことなどあらず
(金沢早苗)

晩秋の落葉松林とお月さま善きことばかりの一世のごとく
(庭野摩里)

檜葉の香のマットの沈む浴槽より介護の森へ入りゆくわれか
(洞口千恵)

暢気な父さんが向うからやってくるぞ そう思わせたらしめたものだ
(宮田長洋)

東京にありてさみしくなりし今日竹山広の歌に縋りぬ
(山寺修象)

空き瓶に薔薇さしてなんのかなしみか最初からゐなかつたカナリア一羽
(橘夏生)

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短歌人2月号、同人1欄より。

きのうの朝日歌壇

2013-02-12 01:52:48 | 朝日歌壇
人生は二毛作です勤め終え小菊つちかう講習うける
(山形県 高橋まさじ)

とんぼ玉だいじにするねと言った友ふっつり逝きぬなんにももたずに
(奈良市 古味直香)

特別な用じゃないんよ繰り返す受話器の向こう故郷の母
(西宮市 木野英子)

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一首目。「人生は二毛作です」の口語が効いている歌。私の場合は、短歌を作るようになったのが遅く、二期作の人生だと思う。支えてくれる仲間に感謝。
二首目。とんぼ玉は、穴の開いたビー玉のこと。「だいじにするね」と言ってもあの世まで持って行くことはできない。作者の取り残されたようなさみしさが伝わってくる。結句の「なんにももたずに」の字余りが効果をあげている。
三首目。成人した子供と話がしたいけれど、きっと忙しいだろうから、自分のおしゃべりで煩わせてはいけないと思う母の気持ちがわかる。そんな優しい母のいる作者を、羨ましく思って読んだ。

歌の評を書くのは、本当に難しいと痛感するこの頃。平凡なことしか書けないけれど、止めたら、ますます上達の見込みがなくなる。粘り強く続けるしかない。

きのうの朝日歌壇

2013-02-05 18:28:55 | 朝日歌壇
試験場に大きなくしゃみこだまして弓弦(ゆづる)のごとき空気緩みぬ
(東京都 嶋田恵一)

房総の陽は斜めなり石蕗(つは)の花の黄の輝きぞ鮮やかに濃き
(青梅市 津田洋行)

冬の日の自転車乗りは吹く風に痛さが違う左右の耳たぶ
(下野市 石田信二)

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一首目。入学試験の季節である。みな、とても緊張するだろう。その中での大きなくしゃみ。一瞬、場が和んだのだ。人間が集まれば、くしゃみをする人もいて当然。「弓弦のごとき」という比喩が適切で美しい。
二首目。自然の有り様を丁寧に詠んでいて好感の持てる歌。房総には、春の訪れも早い気がする。こういうオーソドックスな自然詠を、懐かしく珍しく思ってしまう。
三首目。下句が秀逸。痛さ、左右の耳たぶというところで、実感が出た。

毎週月曜には、今日の朝日歌壇を書こうと思いながら、きのうはどうしても書けませんでした。ゆっくり行くことしかできません。「気まぐれ」ということで・・・

短歌人2月号 2月の扉

2013-02-02 17:00:30 | 短歌人同人のうた
けさの落葉特選五枚を拾ふときおのづとはづす右手袋を

雪降れば赤き手袋買ひにゆくこころは永久(とは)に齢に届かず

(和田沙都子 手袋いろいろ)

手袋の左右をつなぐ紐長く鉤針編みに結びてやりぬ

素っ気ない軍手がもっとも有用で自転車をこぐ深し冬天

(林悠子 ろ・く・ぶ・て)

ヒロインが手袋嚙んでぬぐところ真似してゐたり夜の帰り道

とことはに白手袋のミッキーマウスゑがほひとつに乗り切る秘訣

(川井怜子 ヒロインが)

手袋のまま煙草喫ふ男ゐてひとしほ寒き夕昏れの駅

人は皆長生きすれば年をとる軒に軍手は並び干されつ

(手袋雑感 大橋弘志)

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短歌人2月号、2月の扉。今月のお題は「手袋」