気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

桜蘂 近藤寿美子 短歌研究社

2019-08-08 23:20:02 | つれづれ
春の雪うすく積もれば信号機のひとつひとつにひさしあること

伝言のあとに#を押してから半音階をずれゆくわれか

へび苺摘めば草かんむり取れてへびのやうなる母あらはれむ

ゆびさきに往復はがきの線を折る片側ふはり浮きて届かな

背伸びして子は樅に星つけてゆく去年は届かざりしこずゑに

開かれて自販機は臓(はら)を晒しをり青年が缶を補充してゆく

五分だけ湾の向かうの景を買ふ展望台の望遠鏡に

にくづきとふ月を抱へて秋の夜の臓腑ひそかに光りてをらむ

この階は産むためここにゐる人と産むための臓器失ふ人と

ミシン目をそつと切り取るやうにしてきのふのわれをしづかに放す

(近藤寿美子 桜蘂 短歌研究社)