団塊的“It's me”

コキロク(古稀+6歳)からコキシチ(古稀+7歳)への道草随筆 2週間ごとの月・水・金・火・木に更新。土日祭日休み

通訳者は透明人間

2024年03月22日 | Weblog

  通訳者を英語でinterpreterという。以前アメリカ人の通訳をした時、冗談で通訳者は実はinterrupter(邪魔する人、さえぎる人、妨害者)だと言われたことがある。言い得て妙と感心した。私もしばしば通訳をしながらそう思ったものだ。

 カナダ留学から日本に戻った頃は、まだ英語を話すのも読むのも書くのも自分の中では最高レベルだった。今は、コキロク(76歳)となり、日本語さえ問題をかかえている。英語など見る影さえない。通訳として資格を持っていたわけではないが、裁判所に請われて外国人の殺人犯の通訳を結審するまで務めた。私自身は、請われたと思っていたが、呼び出し状には、常に「○月○日何時に○○の裁判に通訳として出頭せよ」とあり、変な気持ちになったものだ。またある会社の外国人技術者の自社製品である機械の操作訓練校の通訳として2年間働いた。青年の船の外国人講師の通訳として乗船したことも5回ある。離婚して子供たちを他県他国に行かせて一人暮らしをしていた時、夜中に突然警察から電話がかかってきた。外国人が事故を起こしたが、言葉が通じなくて困っているので、迎えに行くので助けて欲しいと言われた。支度をして待っていると、パトカーがサイレンを鳴らして家の前にとまった。まわりの家の人たちが、窓やドア越しに覗いているのが見えた。きっと私が逮捕されたのだと思ったに違いない。社会のためになればと思って、できる限り時間が許される範囲で、いろいろな通訳をさせてもらった。良い社会勉強になった。“邪魔する人”“さえぎる人”でなかったことを願っている。

 通訳をして、通訳は、透明人間のような存在だと思った。話す人と聞く人の間で機械的に一つの言語から他の言語に転換する。いくら通訳が「それっておかしいよ。そうじゃないよ」と思っても、私情を一切込めてはいけないのである。言われたことをそのまま転換する、それが仕事なのだ。だから正直、ストレスも半端ない。NHKの国際放送などで同時通訳が入ると、必ず通訳者が交代する。それは、同時通訳は、ものすごい集中力が必要で、長時間続けられるものでないからだ。また感情ある人間が、自分を消して、他に人たちの間に立つことは、実に大変な事である。

 21日の朝、ラジオを聴いていた。7時58分ある番組が終わろうとしていた。そこで突然「只今、ニュースが入ってきました。アメリカ大リーグドジャースの大谷翔平選手の通訳の水原一平さんがドジャースの通訳を解任された…」と第一報を伝えた。さあ、それからラジオもテレビもネットも大騒ぎになった。昨日は、大谷選手の新妻の試合観戦の様子がこれでもかと放送された。新しいチームで初めての公式戦。水原一平通訳も華々しく大谷選手と行動を共にしていた。これから大谷選手がどう新チームで活躍できるかと人々が期待していた。

 通訳経験がある私に、水原通訳の心情を少し理解できる気がする。犯したことは、犯罪である。人間、四六時中、自分が接している人が、凄い選手だったり、社会的に偉かったり、権力者だったり、有名人であったりすると、自分を錯覚してしまうのだろう。私もきっとそういう人間だと思う。だからこそ通訳者は、透明人間でなければならないのだと思う。ただ心配なのは、大谷選手が、法的に選手生活を終わらせられなければと心から祈っている。

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