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プロミスト・ランド

2014年09月07日 | 洋画(14年)
 『プロミスト・ランド』を新宿武蔵野館で見ました。

(1)本作(注1)は、マット・デイモン(注2)が主演の作品だというので映画館に行ってみました。

 本作の舞台は、アメリカの小さな田舎町のマッキンリー(注3)。
 その町で、マット・デイモンが、大手エネルギー会社「グローバル社」のエリート社員のスティーヴに扮して、同僚のスーフランシス・マクドーマンド)と一緒に、シェールガスが埋蔵されている農地を所有する農場主と掘削権にかかるリース契約を次々に取り結んでいきます。



 ですが、環境活動家ダスティンジョン・クラシンスキー:注4)とか博識の高校教師フランクハル・ホルブルック)とかが現れ〔美人の小学校教師アリスローズマリー・デウィット:注5)まで出現します〕、仕事がはかばかしく進まなくなってしまいます。果たしてどうなることでしょうか、………?

 本作は社会派の作品であり、いかにも誠実そうなマット・デイモンが登場すると、話がどのように展開するのか先が読める感じになるところ、実際にもこちらが思ったとおりに映画が進行するので、世の中はそんな単純なものとはとても思えず、見終わると拍子抜けしてしまいます。とはいえ、映画『ネブラスカ』と同様、あまり紹介されることのない米国内陸の農村地帯の広々とした様子を垣間見ることができたのは収穫でした。

(2)(以下は、結末のネタばらしをしているので、未見の方はご注意ください)
 ラストの方で主人公のスティーヴは、環境活動家ダスティンの本当の身分を知り、会社が自分を全く信頼していないことがわかって、それまでとっていた態度を一変させることになります。



 ですが、スティーヴが勤務先のグローバル社をそんなに信じていたというのもなんだか理解し難い感じがします。
 彼は、自分が育ったアイオワ州での体験(注6)から、土地にしがみついた農民の厳しい状況をよく知っていると語ります。それで、貧しい土地を捨てる代わりに一定の金を得て都会に出た方が豊かな生活を送ることができるとして、マッキンリーでも契約獲得に努めていたものと考えられます。
 スティーヴとしては、農場などがどうなってしまうのかといったことよりも、むしろ貧しい農民の自立をサポートすることの方が重要だと考えていたのではないでしょうか(注7)?
 農民に必要な現金をつかませるという点において、スティーヴはグローバル社とつながりを持っていたのではないかと思えます。

 ただ映画で描かれるスティーヴは、埋蔵されているシュールガスの評価額を実際よりもかなり低く提示することで(注8)、農民に支払われる金額をかなり抑え込んでいます。そしてその結果として、会社に相当の利益をもたらしているのです(注9)。
 とはいえ、スティーヴはいったい何のために契約額を低く抑え込もうとしているのでしょうか?
 会社での昇進のため?
 だとしたら、ダスティンの身分が明らかになって、自分が会社にそれほど信用されていないと分かったとしても(注10)、そんなことはこの冷酷な競争社会ではよくあることと割り切れるのではないでしょうか?

(3)また、本作では、シュールガスの採掘の方法として「フラッキング」という言葉がよく出てくるところ、フラッキングについては、このサイトの記事で次のように述べられています。

 本作の「中でも頻繁に登場する言葉がフラッキングだ。「水圧破砕(ハイドロリック・フラクチャリング)」と呼ばれる掘削技術の略称で、砂や化学物質を混ぜた大量の水を高圧で地中に送り込み、ガスや石油が閉じ込められた頁岩(けつがん=シェール)層に亀裂を入れて回収する。世界のエネルギー地図を塗り替えつつあるシェール革命の中核技術だ。
 フラッキングそのものは1940年代からある古い技術だが、2000年代半ば以降に本格化したシェールガス・オイル開発で多用され、一般に知られるようになった。
 それに伴い、井戸の施工不良や廃水のずさんな処理などによって周辺の地下水や河川などが汚染されるケースが相次いで報告されている。
 ブルームバーグ通信の昨年末の調査では、米国民の66%がフラッキング規制の強化を支持している。米環境団体ナチュラル・リソース・ディフェンス・カウンシルによると、フラッキングが行われている30州のうち、使用する化学物質の情報開示を義務付けているのは14州にとどまる。情報開示基準は州によってバラバラで、連邦政府レベルでの規制を求める声が高まっている。
 米国外ではフランスやブルガリアはフラッキングを禁止。禁止はしていないがドイツは許可に慎重な姿勢だ」。

 本作の中でも、牛の死体が農地に転がっている写真(注11)をダスティンが農家に配ったり、小学校教師アリスにアプローチしたダスティンが、アリスの受け持ちのクラスで、フラッキングの問題点について模型を使ってわかりやすく小学生に教えたりするシーンが描かれています。

 確かに、「井戸の施工不良や廃水のずさんな処理などによって周辺の地下水や河川などが汚染されるケース」が見られるのでしょう。
 ですがそうだからといって、自分の勤務先に信用されていないとわかったスティーヴ(注12)が、それまでの態度を豹変させて、こんどはマッキンリーの農民たちに向かってその生活を守ることの大切さを訴えるというのはどうしたことでしょうか(注13)?これでは、単なる憂さ晴らし、あるいは会社に対する復讐にすぎないように見えてしまうのではないでしょうか?
 スティーヴは、会社から送られてきた資料によって、ダスティンが配布した写真の問題点がわかり、これで契約の獲得がスムースに運べると小躍りしたくらいであり、にもかかわらず会社の自分に対するやり方を知った途端に簡単に環境保護派の方へ鞍替えしてしまうものなのか、どうもよくわかりません。
 まあ、その前から高校教師フランクとか契約を結ぼうとしない農民の話を聞いたりしていくうちに、次第にスティーヴは、会社のシェールガス採掘の方法に懐疑的になっていったというのかもしれません(注14)。
 ただそうだとしても、単なる素人考えに過ぎませんが、スティーヴとしては、この場合いきなり0か100かの選択をするのではなく(また、農民にそうした選択を求めるのではなく)、会社にとどまりつつ、一方で契約の獲得を推進するとともに、他方で、フラッキングの問題点の解消に務めること(注15)を会社の幹部に対して訴えていく道もありうるのではないかと思うのですが。

(4)渡まち子氏は、「シェールガス採掘の悪しき側面の描き方が中途半端に終わっているのがちょっと気になるが、緑豊かな農業地帯と、農民の生活を淡々と描写し、そこに米国の良心を映し出したかのような静かな映像には心惹かれる」として65点をつけています。
 山根貞男氏は、「近年は珍しくなったアメリカの伝統的なサラリーマン映画で、深い味わいがある」と述べています。
 相木悟氏は、「丁寧につくられた、高品質な社会派ヒューマンドラマではあるのだが…」と述べています。



(注1)本作は2012年に制作されています。
 監督は、『永遠の僕たち』や『ミルク』などを制作したガス・ヴァン・サント

(注2)マット・デイモンは好きな俳優だとはいえ、本作をも含め最近の『エリジウム』や『幸せへのキセキ』、『コンテイジョン』など、演技は優れているとしてもストーリーからはいつもイマイチの感じを受けてしまいます。
 なお、マット・デイモンは、本作の主演のみならず、製作・脚本にも加わっています。
 ちなみに、マット・デイモンが脚本に加わった作品としては、『グッド・ウィル・ハンティング』や『GERRY ジェリー』があります。

(注3)架空の町とされています。
 劇場用パンフレット掲載の「Production Notes」によれば、ロケは全般に、西ペンシルバニアの農園地帯(ペンシルベニア州ワシントン郡のストレイト・リック・ロード)で行われ、町としてはペンシルベニア州ウェストモアランド郡エイボンモアが使われたとのこと。

(注4)ジョン・クラシンスキーは、本作の脚本をマット・デイモンと共に担当しています。
 最近では、『恋するベーカリー』で見ました。

(注5)ローズマリー・デウィットは、『私だけのハッピー・エンディング』で見ました。

(注6)スティーヴには、幼いころ暮らしていた町が、そこに置かれていたキャタピラーの工場が閉鎖されると廃墟になってしまった、という体験があります(「自分が大人だったら、金をもらって町を出ただろう」とフランクに語ります)。

(注7)農民に対してスティーヴは、「この町は死にかけている。金が入れば、家のローンも返済できるし教育資金も用意できる。プライドが何だ、今だって政府から補助を受けているではないか」などと話します(話した相手の農民には殴られてしまいますが)。

(注8)スティーヴは、マッキンリーの実力者リチャードと会った際に、「この町のシェールガスの評価額は3000万ドル」と言います(その後に、「あなたに提示できるのはその千分の一の3万ドルであり、それ以上望むのであれば僕たちは撤退する。ただし、再び戻ってきて、その際にはタダで全部もらうことになる」と付け加えるのですが)。
 ところが、その後の町の集会で、高校教師フランクは「この地の評価額は1億5千万ドルだ」とはっきり言い切ります(リチャードの苦虫を噛み潰したような顔が見ものです)。

(注9)契約締結数が他の社員よりも桁違いに多いこともあって、会社幹部のお覚えが大層めでたく、本作のはじめの方では部長昇進を告げられることになります。

(注10)スティーヴは、ダスティンから「お前は俺が動かしていた駒にすぎないのだ」と言われてしまいます。

(注11)その写真に写っているサイロのようなものが、写真が撮られた農場から見ることのできない別の地域の灯台であることがわかりますが(納屋のペンキが剥げているのも、フラッキングによってではなく、潮風によるもののようです)、スティーヴがそのことを明かす前に、ダスティンがその地名(ルイジアナ)を口走ったがために、スティーヴはダスティンの身分を知ることになります。

(注12)ただし、マッキンリーで自社のやり方に反対する高校教師フランクにはMITを出てボーイング社で研究員をしていた経歴があることを知ったグローバル社の幹部が、スティーヴに対し「君は交代させよう」と言うのですから(この時は、スティーヴが「フランクは趣味でやっているにすぎない」と言って強く反対したために立ち消えになりましたが)、スティーヴはある程度、会社が自分をどう見ているのかわかっていたものと思われます。

(注13)集会でスティーヴは、「祖父の納屋を思い出した。そこのペンキを塗った際に、「なんでこんな無駄なことをするのか」と訊いたら、祖父は物を大切にすることの大切さを教えてくれた」、「「足下に大金が眠っており、それを取り出そう」と言ってきたが、それは明らかに嘘だ」、「僕らはこれからどこに進むのか、今すべてが試されている、失うべきではない。僕らの納屋なんだ」などと喋ります。

(注14)でも、最後の集会までスティーヴは、そんな素振りは少しも見せていなかったように思います(マッキンリーの牧場にいる馬が小型なことは随分と気になっていたものの)。
 元々、スティーヴは、グローバル社に対して訴訟が提起されていることは知っていましたから(集会で訴訟のことを聞かれて「負けたことはない」と反論していますし、「採掘方法が不完全で汚い」と言うフランクに対し「ほぼ完全だ」とも答えています)、ダスティンとかフランクの話を聞いてはじめて環境問題に目覚めたわけではないはずです。

(注15)周辺の地下水に対する汚染を100%抑えこむというのではなく、一定の許容範囲内に留めるというのであれば、会社としても対応が可能なのではないかと想像されるのですが。



★★★☆☆☆



象のロケット:プロミスト・ランド


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5 コメント

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Unknown (ふじき78)
2014-09-23 10:17:12
主人公の態度は憂さ晴らし的であるとも思うんですが、土地の老教師との話し合いで、老人はもう長くその土地に住まないものの、町の大半の者が子供たちを含めて汚れた土地で暮らしていくのだという示唆も、自分の住んでいた土地から逃げた主人公にカウンターパンチで効いてるのだと思います。
環境くんが灯台である事により生地を偽っていた嘘がネタバラシになるけれど、逆に、そこだけが「嘘」であるという事を主人公が分かってしまうというのが肝なのでしょう。多分、それまではある程度そういう事実がある事は分かっていても、その土地に長居しない彼には実感はなかった。
後は地主の一人であるアリスと長い付き合いをするためには、その問題に真摯に向き合う必要が生じたとか。
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Unknown (クマネズミ)
2014-09-23 22:36:24
「ふじき78」さん、TB&コメントをありがとうございます。
確かに、スティーヴがあのような演説を最後に集会でするに至る伏線は、「レモネード少女」といい、いくつか張られているのでしょう。
ただ、ダスティンの身分が判明する直前まで、スティーヴは、決してどっちつかずの態度ではなく、住民投票に勝てると意気揚々としていたのです。それで、ダスティンの身分がバレてあのように豹変するのはどうも腑に落ちないのですが?
なお、「地主の一人であるアリスと長い付き合いをするためには、その問題に真摯に向き合う必要が生じた」ことも考えられるでしょうが、学校の先生であるアリスと違って、実際に土地を経営する(農業を営む)ことになるスティーヴには、そのための資金をどこからどうやって調達するのか、という問題がすぐに生じることになるのではないでしょうか?
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Unknown (ふじき78)
2014-09-23 23:57:49
> 実際に土地を経営する(農業を営む)ことになるスティーヴには、そのための資金をどこからどうやって調達するのか

レモネードを24¢で売る。


彼自身、自分をずっと「いい人」と言っており、自覚的にそうあるようある程度意識して振る舞っているので、彼が会社に対して持っていた適度な信頼が打ち崩されてしまった後、ただ勝つ事のみを考える訳にはいかなくなったのではないでしょうか? 環境活動家の派遣は会社がスティーヴを信用していない事を彼に分からせてしまう。なら、農家と契約するために彼に与えられている情報(シェールガス採掘の危険性)でさえ、彼に正しい情報を与えられている保証はない訳ですから。
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Unknown (クマネズミ)
2014-09-24 06:13:01
「ふじき78」さん、再度のコメントをありがとうございます。
おしゃるように、スティーヴは、高校教師フランクが認めるくらいですから、本当に「いい人」なのでしょう。
ですから彼は、会社の言い分を鵜呑みにしてではなく、自分の幼いころの体験に基づき、貧しい農民に現金を持たせることが必要だとの信念を持って、契約取りの仕事に就いていたはずです。
確かに、「ただ勝つ事のみを考える訳にはいかなくなった」にせよ、また「彼に正しい情報を与えられている保証はない訳」にせよ、180度反対の方向にいきなり踏み出してしまうのはどうかなと思えてしまいます。
90度位向きを変える選択肢がありうるのではないでしょうか?そして、それが常識的ではないでしょうか?
いったいスティーヴは、貧しい農民たちの抱える多額の借金の問題については今後どう考えるのでしょうか?そして、自分が抱え込むことになるかもしれない新たな借金についても?
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For Backlink (Digital Steps)
2020-02-27 16:33:53
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