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ニューヨーク、アイラブユー

2010年05月09日 | 洋画(10年)
 『ニューヨーク、アイラブユー』をTOHOシネマズ・シャンテ・シネで見ました。タイトルから、なんとなくお洒落な映画の雰囲気が伝わってきたからですが。

(1)この映画は、10人の監督がそれぞれ別個にニューヨークを舞台にした愛のドラマを撮影するというやり方で制作されています。
 といっても、単にいくつかの短編映画を順番につなぎ合わせただけという通常のオムニバス映画と異なり、この作品では全体的な構成の面に随分と配慮が払われています。すなわち、11人目の監督が、10個の短編を有機的につないで一つの映画を仕上げる方式が採られ、たとえば、一つの短編が二つに分割されて間をおいて映し出されたり、同じ俳優をいくつかの短編の中に少しずつ登場させた上でラストのエピソードに繋げたりしています。
 ニューヨークという都市は色々の側面があり、そこで育まれる愛も様々だということでオムニバス映画とし、それでもなおかつニューヨークでの出来事だという点で統一性をもたせようとして、こうした方式で制作したのでしょう。

 加えて、この映画では、『ビフォア・サンセット』や『その土曜日、7時58分』でおなじみのイーサン・ホークとか、『ブーリン家の姉妹』のナタリー・ポートマンといった今をときめく俳優や、世界的バレエ・ダンサーであるキューバ人のカルロス・アコスタなどの個性溢れるスターが、目白押しに映画に登場するのです。
 さらには、杖をついて歩く夫とレインコートを着た妻の老夫婦が、なんのかんの言い合いしながら街の通りから海岸まで歩くだけのエピソードとか、インド人の宝石商とユダヤ人の女性仲買人とが熱心に宗教の話をし出す短編というように、観客の意表を突くような映像がいくつも映し出されます(後者のエピソードでは、ナタリー・ポートマンが鬘を外すと丸坊主だったりします!)。

 構成面での配慮、豪華な配役陣、それに興味深いエピソードと3拍子そろった出来栄えと言えるでしょう。
 といっても、意味がよく理解できないお話とか(元オペラ歌手イザベルが泊まったホテルのホテルマンが、突然イザベルの部屋の窓から飛び降りて自殺してしまいます)、ニューヨークということで格好をつけ過ぎているのではないかといったもの(イーサン・ホークが熱心に口説いた相手は娼婦でした)もあることは否めませんが。

(2)こうしたオムニバス形式で都市を捉えた映画としては、最近のものとしては、『パリ、ジュテーム』(2006年)とか『TOKYO!』が思い浮かびます。
 ここでは、2008年に公開された後者について簡単に触れてみましょう。この作品は、3人の外国人監督が、東京を題材にして3つの短編を制作して、それが一本にまとめられているオムニバス映画です。気鋭の監督の手になったものだけに、それぞれ前衛的な要素がちりばめられて、なかなか興味深いものがありました。
 第1話のタイトルは「インテリア・デザイン」で、米国のミシェル・ゴンドリー(「恋愛睡眠のすすめ」)が監督し、藤谷文子や加瀬亮が出演していますし、第2話は、フランスのレオス・カラックス監督(「ポンヌフの恋人」)の作品で、「メルド(Merde)」というタイトルの下、ドゥ二・ラヴァン、ジャン=フランソワ・バルメールなどが出演しました。
 中では、「シェイキング東京」というタイトルの第3話が面白く、監督は韓国のポン・ジュノで(あの『母なる証明』!)、香川照之や蒼井優などが出演しています。
 東京で10年間引きこもりを続けている香川照之が、注文したピザを持ってきた配達人・蒼井優を恋してしまうというストーリー。何とか彼女に会おうとして、香川照之は、ついに10年にしてはじめて家を出ます。ところが、その女性も引きこもりだったとしたら、…ということで、地震の場面が何度も出てきますが、この作品は比較的分かりやすくまとめられているな、と思いました。



 今回の『ニューヨーク、アイラブユー』と比べると、『TOKYO!』の方は、3話がばらばらな感じがします。それというのも、前者のような各話をつなぐストーリーがないためでもあるでしょうし、ある意味で東京の何でもありの雑然としたまとまりのないところを表しているのかもしれません。

(3)目に入った評論家の論評は少ないながら、渡まち子氏は、「アンサンブル・ムービーの欠点は物足りなさが漂うことと出来栄えにばらつきがあること。何よりこのテの企画そのものが最近氾濫しずぎている気がする。それでも、豪華キャスト、豪華監督がごく短い時間で知恵を絞る小品を見るのは楽しい。NYの空気を感じながら、短編小説を味わう感覚で、気軽に楽しみたい」として65点をつけています。
 確かに、お手軽に制作できるために、「このテの企画そのものが最近氾濫しずぎている」のかもしれませんが、この『ニューヨーク、アイラブユー』に限って言えば、各エピソードの質はなかなか高く、その上それらを有機的につなげようとの努力の跡がよくうかがえることから、マズマズの出来栄えといってもかまわないでしょう。



★★★☆☆


象のロケット:ニューヨーク、アイラブユー


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