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映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

ロマンス

2015年09月08日 | 邦画(15年)
 『ロマンス』を新宿武蔵野館で見ました。

(1)『紙の月』でなかなかの演技を見せた大島優子(注2)が主役というので映画館に行ってきました。

 本作(注1)の冒頭では、小田急の特急ロマンスカーのアテンダント(客室乗務員)の鉢子大島優子)が車内販売をしています。
 「失礼いたします。車内販売でございます。ご注文がありましたら、お申し付けください」と電車の中で声を上げる一方で、「電車はいい。目的地があって、帰って来る場所も決まっている。迷いがなくてとてもいい。私は迷ってばっかりだ」などと、内心の声が聞こえてきます。

 次いで、鉢子の部屋。
 ベッドで寝ている男(窪田正孝)の顔を見て、ため息を付いて勤めに出ていこうとすると、男が起きだして、「1万円貸して」と言います。鉢子がいい顔しないものですから、男は要求額を千円まで引き下げます。それで、2千円ほど枕許に置いて、彼女は部屋を出ます。



 1階に降りて郵便受けを開けると、郵便物の中に母親(西牟田恵)からの手紙が入っていたので、それをバッグに入れて勤務先に向かいます。

 勤務先のロッカー室で制服に着替える際に、鉢子は、母親からの手紙をポケットにしまい込みます。
 それから事務室に入っていきますが、壁の張り紙を見ると、鉢子がロマンスカー賞を受けた優秀なアテンダントだということがわかります。

 上司からの注意事項を聞いた後に乗り込んだロマンスカーでは、同僚の美千代野嵜好美)が乗客とトラブルを引き起こしてしまいます。でも、そこは鉢子、上手に処理して車内販売を続けると、乗客の中年男(映画プロデュサーの桜庭大倉孝二)がワゴンからお菓子の箱を盗むのを目撃してしまいます。

 さあ、鉢子は、この後どうするのでしょうか、………?

 本作は、主演の大島優子の相手役が映画プロデューサーであるとか、また格好の観光地として名が通っている箱根が舞台でもあり、ケーブルカーとかロープーウエーの場面があったり、豪華なラブホまで登場して、まさに“ロマンス”を盛り上げるのにうってつけの設定となっていますが、逆に外見をわざとそうした作りにして観客の期待を外しにかかっているような感じがします。なにしろ、“ロマンス”に関係するのは、大島優子の扮するアテンダントが乗車するのが小田急の特急ロマンスカーというだけなのですから!それでも、よく行く箱根の風景がいろいろと出てくるので、それなりに楽しめましたが(注3)。

(2)タナダユキ監督の作品は、これまで『四十九日のレシピ』や『ふがいない僕は空を見た』、『百万円と苦虫女』(DVDで鑑賞)を見ましたが、いずれの映画においても随分と特色ある現代女性が描かれています。
 『四十九日のレシピ』では、子供がいないことで悩み、不妊治療をしたりした挙句、夫と上手く行かなくなり実家に戻る妻が主人公(永作博美)ですし(注4)、『ふがいない僕は空を見た』では、高校生とコスプレセックスに入れ込む主婦(田畑智子)が描かれています。また、『百万円と苦虫女』も、百万円貯金して家を出た若い女(蒼井優)の自立を巡るお話です。

 そうした登場人物に比べると、本作の主人公の鉢子は、アテンダントとして優秀であるにせよ、ずっと普通らしく見える女性のように描かれています。

 この点については、公式サイトの「INTRODUCTION」で、「しっかり者だが優柔不断で流されやすい一面もある北條鉢子」と述べられていたり、劇場用パンフレット掲載のエッセイ「タナダユキが描く、“惑い”の中の女性たち」において映画ライター・塚田泉氏が「さしずめバカな女といったところ」と書いていたりします(注5)。下記の(3)で触れる渡まち子氏も、「仕事はできるがプライベートはグダグダの鉢子」と記しています。
 ただ、定職がなく小遣い銭も持たない同棲相手に少額のお金を置いていったりするぐらいのことは、26歳の女性にとって、それほど問題のある行動とも思えないところです。

 また、映画プロデューサーの桜庭の話に簡単に乗っかってしまう点についても、塚田氏は「やはり彼女に微妙な甘さがあったからだろう」と述べています。



 ですがこれも、何年も会っていない母親(注6)の手紙に「箱根にいる」とあり、もしかしたら死ぬ気かもしれないと言われたら、探してみようと思うのもそれほど不自然な行動でもないような気がします。
 鉢子は、そこら辺で見かけるごく平凡な女性と思えるところです(注7)。

 むしろ、よくわからないのは桜庭の方です。
 多額の負債を抱えて東京から逃げてきたはずにもかかわらず、レンタカー料金とか豪華ラブホテルのデラックスルームの料金を気前よく支払ったりする一方で、アテンダントのワゴンから菓子箱を万引きしてしまう金欠病ぶりを見せたりするのですから。
 また、「映画を作っている時は二度とやりたくないと思うけど、またやりたいと思ってしまう」などといかにも映画プロデューサーらしいことを口にする一方で(注8)、人相・風体がかなり貧弱で貫禄がなく(注9)、一般人が考えているようなプロデューサー像とはかなりかけ離れている感じがしてしまいます。
 要するに、桜庭はいわゆる「ダメ男」なのでしょうが、そんな人物が重責あるプロデューサーなどこなせるものなのでしょうか?

 新宿に戻った鉢子と桜庭は、何事もなかったかのように(事実何事もありませんでした)昨日の出発点に戻りますが(注10)、鉢子の方は直ぐに元の生活に立ち帰るにしても、桜庭の方は一体これからどうするのだろうかと、第三者ながらいささか心配になってしまいます。

(3)渡まち子氏は、「いつもダメ人間に優しいまなざしを向けるタナダユキ監督らしく、本作でもヒロインの欠点を決して否定しない。仕事はできるがプライベートはグダグダの鉢子が、少しずつダメな自分を認めていくプロセスが心地よい」として60点をつけています。



(注1)脚本もタナダユキ監督。

(注2)大島優子については、昨年末のこの記事では「一度、何かの作品でフルヌードになり、“女優魂”を見せつければ、世間の批判を沈めることができるのでは?」と書かれており、またタナダユキ監督も、『ふがいない僕は空を見た』で田畑智子の体当たり演技を映し出していますから、少しばかり期待させましたが、豪華なラブホテルでのごく常識的な入浴シーン止まりでした。

(注3)出演者の内、大島優子は『紙の月』で見ましたが、大倉孝二は『謎解きはディナーのあとで』、窪田正孝は『予告犯』で、それぞれ見ました。

(注4)実際には、主人公が戻った実家に入り込んでいるイモ(二階堂ふみ)の方が印象的でしたが。

(注5)塚田泉氏は、「それが1万円ならダメな女、きっちり千円ならまだ救いあり、そこに若干プラスしてしまう微妙な甘さを持つ鉢子」と述べています。

(注6)母親は、鉢子が小学生の時に離婚して、それ以来何人も男を引っ張りこんできてはうまくいかず、鉢子はそんな母親に愛想を尽かし、高校卒業時に親元を離れて一人で生活を始めたとされています。
 鉢子は「母親のことにいらついている自分が嫌になる」などと言いながらも、やはり母親ですから何かと気にもなるようです(箱根に家族で遊びに来た時のことをいつまでもよく覚えていたり、母親がよく歌っていた『いい日旅立ち』を歌ったりするのです)。

(注7)劇場用パンフレット掲載のインタビュー記事において、タナダユキ監督は「今回はちょっと肩の力を抜いて見られるような映画にしたかった」と述べているところからも、鉢子の性格はそれほど複雑に作られていないように思われます。

(注8)劇場用パンフレット掲載のインタビュー記事において、タナダユキ監督は、「(このシーンは)私もいつも考えていることです(笑)」と述べています。

(注9)桜庭が、「この映画は絶対当たります。50億は確実。真木よう子を確保しています」とか、「映画を作らないで後悔するよりも、作ってから後悔する方が」とか言って出資者を説得する回想シーンが挿入されていますが、貧相な人間によるあの程度の話で出資者が了解するものだろうかと訝しく思えてしまいます。

(注10)それぞれの思い出に相手のことがいくらかは残るにしても(そして、ある時、不意にその思い出が何かしらの作用をすることがあるにしても)。



★★★☆☆☆



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