映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

ミロクローゼ

2012年12月17日 | 邦画(12年)
 『ミロクローゼ』を渋谷のシネクイントで見ました。

(1)最近、『その夜の侍』で見たばかりの山田孝之が一人三役をこなすというので、映画館に足を運びました。

 映画の冒頭は、映画のラストの方で成人となって登場するオブレネリの子供の頃のお話。
 といっても、姿は子供ながら、朝は新聞を読み、電車で通勤もするのです。
 その彼が、公園で「偉大なミロクローゼ」(マイコ)と称する女性と出会い、直ちに好きになってしまい、家を買って一緒に暮らすことになるものの、ある時から彼女は家にやってこなくなります。



 そこで彼女の後を付けると、他の男と楽しそうに歩いたりするではありませんか。心に空洞のできたオブレネリは、再びつまらない日々を送るようになります(注1)。

 次いで、画面には、青春相談員の熊谷ベッソン山田孝之)が登場し、青春の悩みを持つ相談者からかかってくる電話を受けて、次々に過激なアドバイスを返していきます(注2)。
 どんどん彼の調子が上がって行き、果ては女を連れて車に乗り込んで走らすところ、とある道路で人を跳ね飛ばすことに。

 車が跳ね飛ばした男たちは、片目浪人の多聞山田孝之)が熱心に追い求めていたユリ石橋杏奈)の居場所を知る者どもでした。
 さあ、多聞は無事ユリと出会えるでしょうか、……?

 本作は、前に見た『チキンとプラム』のような恋を巡るおとぎ話と言えるでしょうが、そのテイストはまるで違っていて、見る者は、次々と繰り出される思いがけない場面の連続に呆気に取られてしまいます。それでも、恋する女性をどこまでも追い求める男の熱気が全編に漲っていて、不思議なことに混乱は起きないどころか、その面白さに目を奪われてしまいます。

 山田孝之は、途中から出ずっぱりで頑張っているところ、時代劇『のぼうの城』の大谷吉継といい、前作『その夜の侍』の木島といい、本作の三役といい、その演技の幅の広さ(ことに俊敏な動き)に驚いてしまいます。

 なお、ヒロインの「偉大なミロクローゼ」に扮しているマイコは、以前『カフーを待ちわびて』で見ましたが、その映画でも本作と同様に、主人公のもとから隠れてしまう女性を演じていました。

(2)本作には思いがけないところに思いがけない人が登場するので驚きます。
 その最たるものが、鈴木清順監督でしょう。



 多聞は、あちこちユリを探していると、蛾禅という刺青師が知っているという情報をつかみ、乗り込むと、その蛾禅に扮しているのが鈴木清順監督、なにやら呆けたようにTVのアニメを見ているのです(注3)。

 次いで登場するのが、最近見た『ふがいない僕は空を見た』で主人公・卓巳の母親を演じている原田美枝子
 多聞は、蛾禅の言った言葉に従って女郎を探すうちに、天拓楼という遊郭にユリがいることが分かります。ただ、登楼するための持ち合わせが少な過ぎるため、楼の中に設けられている賭場に入ったところ、そこで壺振り師として場を取り仕切っているのが、原田美代子扮するお竜です。



 前作と余りに違う役柄なこともあって、原田美枝子だとはなかなか気が付きませんでした。

 この天拓楼の場面は本作のクライマックス。登場人物だけでなく、威容を誇る天拓楼の外観、そこにいる女郎の扮装、玄関で多聞に対峙する案内人の雪音岩佐真悠子)の背景画などなどヴィジュアル的にも素晴らしく(注4)、さらには、多聞と楼の大勢の用心棒たちとの大立ち回りは、超スローモーションで描き出されますが、なかなかの見ものです(注5)。




(3)この作品を製作した石橋義正監督に関し、「ふじき78」さんが、「これ気にいった人は『オー! マイキー』より『狂わせたいの』を見た方がいいよ」と推薦されているので、前者についてはYouTubeで、後者はTSUTAYAでDVDを借りて見てみました。
 『オー! マイキー』は3分程度の話の集積で、現在まで100話以上制作されているようなので、ごく最初の方だけ見ましたが、日本に引っ越してきた外国人家族を巡るお話ながら、登場するのが全てマネキン人形だったり、最後に皆で大笑いしたりと、随分と毛色の変わった動画です(注6)。
 確かに『オー!マイキー』と本作との繋がりは薄そうな感じですが(注7)、他方、『狂わせたいの』は、本作と違ってモノクロで、全体が重苦しいトーンでありながらも、あっけにとられるような場面が薄いつながりで次々と繰り出されたり(注8)、歌(70年代昭和歌謡)と踊りがあったりと(注9)、本作に通じるものを持っているように思いました。

 なにはともあれ、こうした多方面にわたる特異な才能を持った石橋義正監督の存在を知ることができただけでも、本作はクマネズミにとり意義深い作品でした。



(注1)この話は、後半に再度登場し、そこでは大人の姿になったオブレネリを山田孝之が演じています。

(注2)新幹線の可愛い売り子に夢中だという青年からの電話相談に対しては、「天竜川の河川敷でコーヒーを作って、鉄橋を通過する新幹線に向かって捧げるポーズを取ってみたまえ、そうすれば、次回新幹線に乗ったら彼女は君に抱きついてくるだろう!」などと答えます。
 なお、新幹線の売り子役の佐藤めぐみは、ブログの映画レビューではほとんど取り上げられていない『あんてるさんの花』に出演していました!

(注3)多聞が蛾禅にユリの写真を見せると、「3年前にここに来たが元気だった」と応え、「うちに来るのは皆女郎だが、ここに女郎はごまんといる」と付け加えます。

(注4)天拓楼は、なんだか『千と千尋の神隠し』に登場するお湯屋「油屋」のような感じがしますし、楼の中に入ると蜷川実花監督の『さくらん』のような極彩色。さらに、雪音の背景画は、劇場用パンフレット掲載「Director’s Interview」によれば、弘前の「ねぷた」のようです。

(注5)多聞の話しの後は、もう一度最初のオブレネリの話の続きです。大人になったオブレネリが「偉大なミロクローゼ」を探してとある旅館に入ったところ、彼女はその旅館の若女将に就いていて、そばにいるのが旦那・なきゃむら奥田瑛二



 彼は、別に変わった格好をしているわけではないので驚きませんが、『汚れた心』や『るろうに剣心』とはまた全然違ったキャラクターを演じています。
 大人のオブレネリが、思い切って「偉大なミロクローゼ」に「もう一度帰っておいでよ」と言ったところ、なきゃむらに、「何なんだ、あんた!」と怒鳴られ殴られたあげく、旅館から追い出されます。

(注6)例えば、第1話「日本での生活がはじまる」(監督・脚本:石橋義正)は、歯磨きをしないと口が臭くなるといった会話、日曜日に学校に行ったら休みだったということ、マイキーが水まきの水をかぶってしまうことなどから構成されています。

(注7)『オー!マイキー』のアニメ的な雰囲気は、本作のオブレネリを巡る物語のそれに通じているのかもしれません。

(注8)『狂わせたいの』は、話の展開がループをなしていて、最後の場面が冒頭の場面につながっています。この点も、冒頭のオブレネリの話が最後に再度登場する本作と類似しているといえるでしょう。

(注9)がら空きの最終電車に乗り込んだサラリーマンの前の席に座る女は、男が「あのー」と声をかけると、やにわにブラウスを開きますが、その下は裸で、乳首には鈴が付けられ、おまけに緊縛状態。アレッと思う間もなくオープニング・クレジットが流れ、背後には「狂わせたいの」を歌う女が映し出されます。そして場面は、……。



★★★★☆


象のロケット:ミロクローゼ


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4 コメント

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Unknown (ふじき78)
2012-12-17 23:33:14
> 不思議なことに混乱は起きないどころか、その面白さに目を奪われてしまいます。

話が戦略的に存在しない。全く皆無ではないが、限りなく話を聞かせようというテイストは薄い。でも、展開が早いので全く気にならない。話を否定する為に「話がない話」を単に作ってしまう人がいるのに(思い出せないけどいた気がする)、これは立派。
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ストーリー (クマネズミ)
2012-12-18 05:52:20
「ふじき78」さん、TB&コメントをありがとうございます。
確かに、本作は、豪華絢爛の映像を映し出すことがメ
インで、ストーリーは二の次といえるかもしれないとこ
ろ、恋する女を求める男の情熱を描き出すストーリー
こそが、逆にそうした映像を鮮烈なものにしているの
ではないでしょうか?
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美術スタッフに問題が (通りすがり)
2013-07-11 14:16:01
俺は見てないんだけどたぶんすばらしい作品なんだろう
バミリオンも好きだったから。


しかし、そのバミリオンもそうだけど、この映画にも「木村真束」氏が美術スタッフとしてかかわっている。狂わせたいのに至っては俳優として出演している。

この木村し、あろうことか、大津いじめ自殺事件の加害者の親なのだ。
芸術家としてはすばらしいが親としては最低だ。
どうも複雑な気持ちなのだ。
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ダンマリ (通行人)
2013-11-11 07:51:01
石橋氏は大津事件に、ダンマリを決め込みましたね
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