杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

イマジン!

2022年08月26日 | 

有川ひろ(著) 幻冬舎

憧れの映像制作の現場に飛び込んだ、良井良助(27歳)。聞き慣れない業界用語が飛び交う現場に戸惑う日々だが、そこは現実と物語を繋げる、魔法の世界だった。「必死で知恵絞って想像すんのが俺たちの仕事だ」やがて良助は、仲間たちが作品に傾ける熱意に、焦がれるような思いを募らせていく——。走るしか能のない新米、突っ走る!行き先は、たぶん未来。
「有川浩」改め「有川ひろ」の、お仕事小説&ベタ甘ラブコメ。涙と笑顔と元気が湧いてくる、待望の最新小説!(本紹介より)

 

1.天翔ける広報室

良助がバイトに入った現場で制作されていたのが「天翔ける広報室」・・ってなんだか見たことあるドラマだよな~と思ったら2013年にTBS日曜劇場で放送された「空飛ぶ広報室」(航空自衛隊の全面協力で撮影され、東日本大震災後の松島へブルーインパルスが帰還する話も盛り込まれています)だ!しかも有川浩さんの小説のドラマ化じゃないですか 作者自身が自分の小説をネタに盛り込んで新たな物語を創り出すとはびっくりです。といってもこちらの主人公は、子供の頃に見た「ゴジラVSメカゴジラ」に触発されて映像の世界目指すも、入社予定の会社が夜逃げしたため夢を諦めざるをえなくなった良井良助。ひょんなことから制作会社のバイトに雇われた彼は、ドラマ制作現場で頑張って周囲に認められ正社員への扉が開きます。叶わないと諦めていた夢の扉が開いたのね。

2.罪に罰

良助が正社員となって初めての現場は、超絶我儘な監督と保身に終始するチーフ助監督と打っても響かないサード助監督で「荒れる」予感しかない

主演は「天翔ける~」に続いて喜屋武と聞いて喜んだのも束の間、撮影がスタートすると案の定、現場はピリピリ。内容自体が復讐劇の心理サスペンスだしね。セカンド助監督の島津幸がその優秀さで逆にチーフの妬みを買って虐められる展開はかなり痛い。そんな過酷な現場での良助の「イマジン」を効かせた機転がです。喜屋武が強面外見の佐々に好意を持っていて、ダシに使われた良助、早くも失恋です。

撮影裏話に登場するのはおそらくは「図書館戦争」と思われ、制作を受け持つ裏方の苦労あるある(ロケーション選びなど)も盛り込まれているのも興味深かったです。脚本を読み込んで、全体の繋がりに齟齬が出ないように考え、監督の性格に合わせてロケーション場所を提案するなど、業界あるあるがここでも盛り沢山でした。この監督のキャラは誰だろ?って想像するのもありかも ただ、個人的には自分の思い描く作品を作るために非人道的な振る舞いをするような人が作る映画は好きになれないかも。

3.美人女将、美人の湯にて~刑事真藤真・湯けむり紀行シリーズ

幸ちゃんが殿浦イマジンの正社員になります。今回は王道のTVドラマシリーズの制作に加わった良助。人当たりの穏やかな監督でホッと一安心でしたが、人気お笑いタレントが抜擢のプレッシャーから薬を飲み過ぎて酩酊状態となり全裸でいるところに遭遇してしまいます。慌てて一番近い避難場所として自室に引っ張り込もうとしているところにたまたま通りかかった監督も協力してくれますが・・・これがとんだ誤解を生んでしまうのね 「罪に罰」の監督も嫌だけど、この監督もなぁぁぁ (でもこういう人絶対いそうだな)良助のピンチを救ったのは幸ちゃんと彼女から連絡を受けた亘理、殿浦の両人。事態にショック状態の良助を励ます幸ちゃんに、良助惚れてしまうがな

4.みちくさ日記

モデルは、「空飛ぶ広報室」に続き作者自身の作品「植物図鑑」で、映画化にあたっての現場が描写されています。

原作のある映画は、本の熱烈なファンからはとかく比較されこき下ろされるものですが(自分でも思い当たるのでちょっと耳が痛い)、「みちくさ日記」もキャストが発表された途端激しいバッシングが起こります。主役の俳優が売れっ子アイドルだというだけで、演技以前にその容姿がイメージと合わないとか、茶髪はあり得ないとか・・・スタッフでさえ当初はそういう見方をしている節がありました。でも彼が原作を読み込んで勉強してきたことが現場に伝わると、風向きも変わります。元々原作ファンが多い現場でもあったようです。植物と天気相手のままならぬ状況をスタッフ一丸となって乗り切ろうとするその原動力は、まさに良い作品を作ろうという情熱でしょう。

5.TOKYOの一番長い日

こちらも小説が原作のでかい企画が舞い込んできて大張り切りの殿浦イマジンのスタッフたち。アクション大作は莫大な予算がかかるけど見入りも大きいんですよね

ロケで工事現場の音に邪魔され撮影が度々ストップした時の良助の機転に彼の成長を感じます。

百里基地でのヘリを使ったロケでは、突風に煽られて機材が機体に倒れ掛かり、中止になりそうなところを、「天翔ける~」で世話になった広報官の協力で再開することができます。一つ一つの現場の人間関係の積み重ねが実を結んだ一例になっていました。

撮影現場が一丸となって作り上げた作品の出来に、原作者も大変満足していたのですが、空気読めない局Pがやらかして、続編製作を拒否されてしまいます。なのに打ち上げでは全く反省の色もない発言に良助キレちゃうんですね。まだまだ若いぞ!周囲が凍り付くなか、またまた幸ちゃんが助け舟を出してくれて何とか事なきを得ました。この二人、やっぱりくっつくのか?? 

制作会社に入るという夢が叶った良助は、初めはそれだけで満足していたのですが、仕事を続けるうちに、その先の夢が芽生えてきます。

佐々の「おら、走れ! 新米なんざそれしか能がねえんだから!」に素直に応じて率先して動く良助はほんとまっすぐでいい奴。殿浦社長の「自分が何をしたら相手が助かるだろうって必死で知恵絞って想像すんのが俺たちの仕事だ」も彼の胸にスッと入ってきます。自分には何ができるのか、ここで何をすべきかを想像することが出来るというのが良助の最大の長所ですね

内定をもらった会社から受けた最低な仕打ちに挫けた夢が、「殿浦イマジン」で再び輝きだし、映像業界で働く楽しさ、遣り甲斐を見つけていく良助と一緒に、この業界の色々な面を知ることが出来てとても楽しく読み終わりました。

ただ、努力は必ず報われるわけではない現実も見えてきます。それでもいつか報われるかもと信じて次の現場に向かうことが大事なのだとエールを送られている気がしました。

多くのTVドラマや映画化作品を持つ作者だからこそ書ける業界お仕事小説ですね 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

異動辞令は音楽隊!

2022年08月26日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)

2022年8月26日公開 119分 G
部下に厳しく、犯人逮捕のためなら手段を問わない捜査一課のベテラン刑事・成瀬司(阿部寛)。高齢者を狙ったアポ電強盗事件を捜査する中で、令状も取らず強引な捜査を繰り返した結果、広報課内の音楽隊への異動を言い渡されてしまう。不本意ながらも音楽隊を訪れる成瀬だったが、そこにいたのは覇気のない隊員ばかりで……。(映画.comより)

 

「ミッドナイトスワン」の内田英治監督が、警察音楽隊のフラッシュモブ演奏に着想を得て、最前線の刑事から警察音楽隊に異動させられた男の奮闘をオリジナル脚本で描いた作品です。主題歌は髭男の「Choral A」

豊槻市ではアポ電強盗事件が多発していました。捜査一課の刑事・成瀬は、捜査は足で行うものと机上で行われる捜査会議を軽視し、一課長の篠田誠(岡部たかし)や、県警本部長の五十嵐和夫(光石研)を無視するかのような態度を取り怒りを買います。

コンビを組む若手刑事の坂本祥太(磯村勇斗)とアポ電強盗グループの一員と目星をつけた西田優吾(高橋侃)の家に向かった彼は、手荒な尋問をしますが、西田は口を割りません。

成瀬は妻と離婚し、認知症の母(倍賞美津子)と二人暮らしですが、娘の法子(見上愛)が祖母に会いによく顔を出しています。

文化祭に祖母を連れて行く約束を父が忘れていると知って怒った娘にラインをブロックされて焦る成瀬ですが、さらに、五十嵐から音楽隊への異動を命じられます。子供の頃に和太鼓をやっていたこと、西田への強引な尋問が問題となったこと、極めつけは部下からパワハラの投書があったことがその理由でした。

衝撃を受けながら向かった音楽隊の事務所は本部から離れた場所にあり、音楽隊隊長で指揮者の沢田(酒向芳)が紹介するメンバーの中にはやる気の無さそうな者も見受けられ、交通課所属のトランペット奏者の来島春子(清野菜名)からは補充が一人だけかと不満を漏らされます。

ドラム担当と言われた成瀬は交通機動隊所属でパーカッションの広岡達也(渋川清彦)から指導を受けることになります。自動車警ら隊所属のチューバ奏者・国沢正志(板橋駿谷)はメンバーそれぞれ楽器に名前を付けていると言い、同僚でサックス奏者の北村裕司(高杉真宙)は刑事志望だったけれど研修で失敗して叶わなかったようです。

飲んだ帰り、法子が男子たちと歩いているのを見かけて問い詰めた成瀬は、今日が文化祭だったことを指摘されます。揉み合った際に娘のギターを落としてしまった彼は、怒った娘に腕時計(昔、父の誕生日にプレゼントした)を壊されます。

逮捕寸前で逃げられた3年前の強盗傷害事件を追っていた成瀬は、犯人の顔を覚えており、その男が
アポ電強盗犯の頭だとにらんでいました。また被害者が出たとニュースが流れ、いてもたってもいられず捜査一課へ顔を出した成瀬でしたが「もう刑事ではない」と追い返されてしまいます。その夜、倉庫で見つけた和太鼓を投げ捨て声を上げて泣く成瀬の背から刑事一筋30年やってきたのに何故?という悔しさが伝わってきます。

豊槻市民大会での音楽隊の演奏はバラバラで、成瀬や演奏に合わせてフラッグを振るカラーガードの柏木(モトーラ世理奈)のミスもあり、野次を飛ばされて散々な結果になり、来賓で来ていた知事も怒って帰ってしまいます。そんな中、音楽隊のファンだという老女・村田ハツ(倍賞美津子)だけが、成瀬に「あなたのドラムは勇気をもらえる。」と褒めてくれました。

打ち上げの席で、春子は自分は音楽が好きで警察音楽隊に入ったと話します。後日、春子の母が営む居酒屋で彼女と腹を割って話した成瀬が帰宅すると母がいません。慌てて捜し回る彼の前に国沢と北村が乗るパトカーが停まり、母が降りてきます。母は隣町まで歩いて行ってしまったのです。(徘徊が始まったのね。)彼らが帰った後、春子が成瀬の忘れていった上着を持って訪ねてきます。中には警察手帳が 警察官としてあってはならないミスに肩を落とす成瀬に、春子は見なかったことにすると仄めかします。起きてきた母の行動に様子を察して合わせてくれる春子。その後、倉庫で和太鼓とトランペットでセッションをする二人のエピソードに成瀬の気持ちの変化が示されます。

この夜を境に、成瀬は変わっていきます。広岡の知り合いからドラムセットを譲り受けて練習するうち、どんどん楽しくなって貸しスタジオでも練習するようになった成瀬。ある日スタジオで法子とそのバンド仲間と会ってセッションした彼は娘に謝り和解します。
マーチングの練習が上手くいかないまま終わりにしようとする沢田に、もっと練習した方がと提案した成瀬。成瀬に否定的だった北村ら、初めは嫌がっていたメンバーもその熱意に打たれて変わっていきました。

駅前で行われた犯罪撲滅キャンペーンで音楽隊も演奏します。アポ電強盗犯を捕まえるための情報提供を得ようと捜査一課も来ていて、成瀬の変化に驚きます。ハツも来ていて褒めてくれました。坂本と再会した成瀬は、過去の自分の行為を謝罪します。しかし、五十嵐は音楽隊の廃止を考えていました。

再びアポ電強盗事件が発生し、遂に死者が出ます。被害者はあのハツでした。坂本は西田の家に踏み込んであるチラシを目にします。それは1か月後に行われる、ミュージックフェスタの案内でした。

成瀬が頼み込んで、霊安室でハツと対面した音楽隊員たちは彼女を演奏で送ります。霊安室から出ると坂本がやってきて、西田が口を割りグループの頭が成瀬が追っていた男だったと判明したことを伝えます。ミュージックフェスタで西田が男に接触するので協力をして欲しいと言う坂本に、成瀬は「その日は音楽隊最後の定期演奏会だから無理だ」と断るんですね。(え??

1か月後。会場で張り込む一課の面々の前で、ピエロの格好をした楽器隊が西田の周りを囲みます。ピエロの正体は成瀬たち音楽隊員でした。ちゃんと協力してるんじゃん 成瀬は西田の後ろに座っていた目深に帽子をかぶり杖を持つ男を指さし「こいつが頭だ!」と叫びます。捜査員が一斉に迫りますが、男は杖や椅子を投げつけ彼らを振り払って逃げ出します。いやいや、捜一なんだからそんな簡単にやられないでよね~ 執念で追いかけた成瀬ら音楽隊が遂に男を捕え事件は解決します。一行は演奏会の会場に向かいますが、渋滞にはまって動けなくなり、このままでは間に合わないと諦めかけた時、坂本がパトカーのサイレンを鳴らしてやってきて先導してくれ、無事到着します。

舞台に向かう成瀬に坂本は告発者は自分だったと謝罪します。それ、今言うか??なんですが、成瀬は彼を許し部署は違っても俺たちは同じ警察官だと言います。いかにも昭和な猪突猛進男が明らかに変わったとわかる瞬間ですね。 演奏会では一曲しか披露されませんでしたが、劇中では、「宝島」他、最初に成瀬が聴いた「パプリカ」や「茶色の小瓶」「聖者の行進」「威風堂々」「アメイジング・グレイス」など多数演奏され、しかも俳優陣は吹替無しで演奏しているんだとか

会場には母を連れた法子の姿もありました。アポ電強盗犯逮捕の瞬間がネット動画で拡散されているのを見た知事が音楽隊を褒めたため、五十嵐は音楽隊の解散を断念せざるを得なくなったようです (あれ?子供優先で楽隊諦めた春子はどうすんのかな?)

町の中心部から音楽隊事務所が離れている設定の割には隊員たちの行き来に時間的な制約を感じなかったり、強盗団の頭が外見から想像できないほど強かったりの違和感もありましたが、本業と兼業しながら頑張っている隊員たちの姿にハツさんじゃなくても勇気を貰える作品でした。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする