杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

ブルーノのしあわせガイド

2023年04月30日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2013年4月13日公開 イタリア 95分 G

ローマで著名人のゴーストライターや家庭教師をしながら気ままな生活を送る中年男ブルーノ(ファブリッツィオ・ベンティヴォリオ)は、ある日、教え子ル(フィリッポ・シッキターノ)の母マリーナ(アリアンナ・スコンメニャ)から、自分が留守にする半年の間、ルカを預かってほしいと頼まれる。しかも、ルカは15年前にブルーノとの間にできた子どもだという事実を告げられる。ブルーノはルカに父親であることを隠しながら、一つ屋根の下で暮らし始めるが。 (映画.comより)


年齢や生きてきた環境も違うけれどどこか通じるものがあるふたりの、触れ合いと成長をユーモアたっぷりに描いたハートフル・コメディドラマです。
原題の「Scialla」はローマで流行した若者言葉でStai Sereno(まぁいいから、落ち着いて)の略で「Take it easy」と同義語のようです。

舞台となるローマのコロッセオやトレヴィの泉、フォロ・ロマーノ、真実の口などの観光名所をスクーターに二人乗りで飛ばしたり、バルやオープンカフェでのシーンもあり楽しめます。

ある日、教え子の母に呼び出されたブルーノは仕事で海外に行く自分の代わりに息子のルカと同居して欲しいと言われます。何故自分が?と驚く彼に、「私が誰か気付かない?」と彼女は15年前に一晩を過ごした仲であること、ルカはその時の子供だと明かします。戸惑いながらも受け容れ、ルカと過ごすうち、次第に父親としての感情が芽生えていくブルーノ。例えばキュウリ嫌いな自分と同じくルカもキュウリが嫌いだとか、そんなちょっとしたことが何だか嬉しくなるのね。
まるで父親みたいに(実際そうなんだけどね)束縛してくるブルーノに反抗しながらも、ルカも彼と向き合う中で学ぶことの楽しさに目覚めていきます。

ブルーノが自伝を代筆中のポルノ女優ティナ(バルボラ・ボブローヴァ)につい自分の話をしてしまうところや、ティナと一夜を共にした朝のリオとの会話など、イタリアらしい軽妙さもあって楽しめます。

リオが出来心で盗みを働いたのが詩人(ヴィニーチョ・マルキオーニ)と呼ばれる 裏社会のボスの家。すぐにばれてブルーノを巻き込んで窮地に陥りますが、詩人がブルーノの元教え子(彼は元教師)だったため、難を逃れます。この件がきっかけでブルーノはリオに自分が父親であることを打ち明けます。日本人なら恨み言の一つや二つ言いそうなものだけど、案外あっさり事実を受け入れるリオ。ま、ブルーノに一方的に非があるというわけでもないものね。

落第すれすれだった成績もグンと伸びたリオですが、結果は落第。努力を認めないのかと憤慨して学校に乗り込んだブルーノに担任はリオ自身が落第を申し出たのだと話します。まだ学ばなければならないことが残っているし、真面目に勉強してきたクラスメイトに申し訳ないという理由を聞いて、息子の成長をブルーノはきっと誇らしく感じたことでしょう。

出会いが人を変えていく二人の成長物語です。それにしてもリオって素直で可愛いなぁ😘 




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ヒポクラテスの悔恨

2023年04月26日 | 
中山七里(著)祥伝社(発行)

斯界の権威・浦和医大法医学教室の光崎藤次郎教授がテレビ番組に出演した。日本の司法解剖の問題点を厳しく指摘し、「世の中の問題の九割はカネで解決できる」と言い放つ。翌朝、放送局のホームページに『親愛なる光崎教授殿』で始まる奇妙な書き込みが。それは、自然死に見せかけた殺人の犯行予告だった。早速、埼玉県警捜査一課の古手川刑事とともに管内の異状死体を調べることになった助教の栂野真琴は、メスを握る光崎がこれまでにない言動を見せたことに驚く。光崎は犯人を知っているのか!? やがて浮かび上がる哀しき〝過ち〟とは……?死者の声なき声を聞く法医学ミステリー「ヒポクラテス」シリーズ慟哭の第四弾!(商品解説より)

本当は第三弾「ヒポクラテスの試練」が先ですね。
真琴先生も良い意味ですっかり法医学教室=光崎教授に染まっています。
TV局のHPへの書き込みに端を発し、一見自然死に思えるケースを解剖することで真実を暴いていくのは第二弾と同じ展開です。
埼玉・浦和医大の法医学教室が舞台ですから、持ち込まれ案件は全て埼玉県下で発生したものとなります。行ったことがある、聞いたことがある場所で起きる事件なので何とはなしに親近感というかリアリティを感じてしまいます。
アクセルを踏んだ古手川の足の上から更に踏みつける真琴の図式もすっかりお馴染みになりましたが、年下の真琴の方が古手川のやんちゃぶりを俯瞰している感があります。😀 

一 老人の声
”日本で一番暑い”熊谷市で起きた寝たきり老人の死は、初め老衰と判断されました。
しかし、古手川は発見から通報まで30分が経っていたことに不審を抱いて、真琴を巻き込んで解剖案件に持ち込みます。その結果、熱中症が死亡原因と判明し、介護に疲れた息子夫婦の犯行が疑われるのですが、老人の孫の少女との会話から真琴が真実に気付いて・・・。真夏故の悲劇でもありますがアンペアに余裕があればね~~。😞 
 
二 異邦人の声
川口市の鋳物工場で、ベトナム人実務研修生が肝臓がんによる肝臓破裂で死亡します。劣悪な環境下で実習生たちを国別に分けて互いの競争心を刺激するやり方を知り、古手川と真琴は民族対立が事件の背景にあるのではと考え、検死解剖に持ち込みます。その結果、肝臓がんによるものではなく、腹部圧迫による破裂だったことが判明します。対立していた中国人研修生たちが疑われますが、その圧迫痕の形状から浮かび上がったのは・・・。
外国人労働者が安価な賃金で働かされる弊害はもちろん日本人にも還ってくるわけで、なんだかやりきれないなぁ。

三 息子の声
秩父山中の山道で起きたバイクの事故は、ヘアピンカーブで横転して投げ出され頭部損傷で即死したと判断されました。しかし駆け付けた両親の態度に違和感を抱いた古手川は、自ら事故を再現検証して疑惑を裏付けます。解剖の結果、肝臓から農薬成分が検出され・・・
経営不振に陥ったイチゴ農家を営む父親と、施設に入所している母親は、定職にも就かず家業の手伝いもせずバイクを乗り回している不肖の息子に生命保険を掛けていました。金と愛情を秤にかけるわかりやすい動機ではあります。付け加えるなら母親の介護を手伝っている遠縁の男の存在が気になりますね。

四 妊婦の声
西川口駅近くの路上で、フィリピンパブで働く不法滞在のフィリピン人女性が嘔吐と大量出血で死亡します。外国人に解剖予算を割くのを嫌がった所轄署は熱中症で処理しようとしますが、聞き込みで彼女には恋人がいたことがわかります。解剖案件に持ち込み、堕胎の事実が判明したことで真相が暴かれます。相手の男が日本では認可されていない堕胎薬を胃薬と偽り飲ませたことで起こった死ですが、意図しなかったとしても男の身勝手さが招いた殺人には違いない。😠 

五 子供の声
浦和医大の産科教・吉住の生まれたばかりの赤ちゃんが突然死します。乳幼児突然死症候群による死だと検死解剖を拒否する教授ですが、彼の妻が光崎教授の先輩・蜷川教授の娘であること、助教授時代の光崎教授が経験したある事件に今回の「挑戦状」の差出人が絡んでいると思われることから、鑑定処分許可状を取って解剖に持ち込むのです。解剖に立ち会う吉住の前で、死亡原因が窒息=殺人であることが判明します。犯人の目的は、昔、蜷川教授と光崎教授が関わった事件(一件目の不審死の解剖が見送られたことで二件目の事件を生んだ小児性愛者による犯行)の犠牲となった家族による復讐でした。光崎教授の「カネで解決」発言はこの時の苦い経験に基づいていたのですね。そしてその犯人こそ三話に登場したあの男で、彼を逮捕したのも例によって古手川の上司の渡瀬警部。ほんとに美味しいとこ取りですね😁 

事件性がないと思われていたのが解剖すると・・という展開はこれまでと変わりません。そして「コレクター」同様、今回も「挑戦者」の存在で警察や法医学研究室の面々が振り回されるのも、解剖にかける費用が枯渇していくのもお約束。
死因究明が果たす役割や意義を推理小説という形で世間に訴えています。


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セイント・フランシス

2023年04月24日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2022年8月19日公開 アメリカ 101分 G

うだつがあがらない日々に憂鬱感を抱えながら、レストランの給仕として働くブリジット(ケリー・オサリヴァン)、34歳、独身。親友は結婚をして今では子どもの話に夢中。それに対して大学も1年で中退し、レストランの給仕として働くブリジットは夏のナニー(子守り)の短期仕事を得るのに必死だ。自分では一生懸命生きているつもりだが、ことあるごとに周囲からは歳相応の生活ができていない自分に向けられる同情的な視線が刺さる。そんなうだつのあがらない日々を過ごすブリジットの人生に、ナニー先の6歳の少女フランシス(ラモーナ・エディス・ウィリアムズ)や彼女の両親であるレズビアンカップル(チャリン・アルバレス、リリー・モジェク)との出会いにより、少しずつ変化の光が差してくる――。(公式HPより)


周囲から同世代の女性たちと比較され不安を募らせていく主人公が、ナニーの仕事で出会った6歳の少女フランシスと少しずつ心を通わせていく中で様々な気づきを得て、前向きな気持ちを取り戻していく姿を、ユーモアを織り交ぜつつ赤裸々なタッチでリアルに描き出した作品(映画.comより)で、34歳の迷える独身女性を等身大で演じたケリー・オサリヴァンが脚本も手掛けています。

年下のジェイスとベッドインした翌朝のシーンは、夜の間に生理になった彼女の経血が映し出され、それを笑いながらチェックし合う姿が衝撃的というか違和感を覚えました😓 

レズビアンカップルのアニ―とマヤの6歳の娘フランシスのナニー募集に応じて面接に訪れたブリジッド。マヤが出産を控え、夏の間だけフランシスの子守を必要としていたのですが、フランシスと二人きりにされ打ち解けることができなかったブリジッドは諦めムードでした。何日も経った頃に突然採用の連絡を受けて喜んだブリジッドでしたが、我儘なフランシスに振り回されます。

妊娠が判明したブリジットは、ジェイスに産むつもりはないと告げます。
ジェイスは同意し、病院にも付き添い中絶費用も持つと言いました。ブリジッドは半分だけ負担してもらい、一緒に病院に行って経口中絶薬を家で飲みます。(日本では認可されてないよな~?)かいがいしく世話をしてくれるジェイスを鬱陶しがるブリジッド😝 強がっていてもやっぱり心身傷ついているんですよね。

フランシスが通うギター教室で講師のアイザックに興味を持ったブリジッドは、ギターを買って彼に近づこうとします。(ジェイスがいるのにどうよ??)フランシスと濃いメイクをしてロックバンドごっこをしていたブリジッドは、帰宅したマヤに叱られます。マヤたちが敬虔なカトリック教徒だということも関係しているのかな?

両親と一緒にウォーキングをしている時、母から結婚や出産について聞かれたブリジッドは不機嫌になりますが、帰り際にはハグして別れます。娘の友だちのSNSをチェックするとかは本人からしたらウザいけれど、愛情から出た行為だということもちゃんとわかっているんですよね。

育児ノイローゼ気味のマヤを見兼ねたブリジッドが、泣き止まないウォーレスを代わって抱っこするとすぐに泣き止み、マヤは複雑な表情を浮かべます。(我が子なのに懐かないって辛いよね~~でも精神的なストレスが赤ん坊に伝わるから彼も不安定になってしまうんだろうなと)

ジェイスが親友のチャドに中絶の話をしたと知って怒ったブリジットは、ジェイスが中絶で感じた自分の気持ちを綴った日記を読み聞かせることにもうんざりします。更に翌朝、トイレで生理用品を詰まらせたブリジッドは、チャドに直してもらう羽目になりいたたまれなくなります。

アイザックの個人レッスンを受け一夜を共にしたブリジッドですが、彼の考え方や振る舞いに気持ちが離れます。

ブリジッドが仕事に行くと、隣家のシェリルが息子と遊びに来ていました。彼女はブリジッドの大学時代の同級生でしたが、ブリジッドをメイドのように扱います。彼女の息子のヘンリーもフランシスをいじめているようです。誤って落としたヘンリーのおやつのニンジンをそのまま食べさせた一件から徐々にブリジッドとフランシスは仲良くなっていき、スケートやプール、海にも一緒に行って夏を過ごします。産後鬱のマヤとマヤの浮気を疑うアニ―の間が険悪になり、二人が離婚するのではと心配したフランシスに、ブリジッドは離婚しないよと答えて安心させます。

フランシスが目を離した隙に池に落ちてしまい、マヤから「親に過ちは許されない」 と怒られるブリジッドですが、不正出血がきっかけでマヤと悩みを打ち明けあったことで二人の距離感が縮まります。
花火大会に一緒に出掛けますが、ウォーレスに授乳しているマヤに隣にいた母親が周囲の目を気にするよう文句を言ってきます。その場はフランシスとブリジッドの機転で収まり花火を楽しんで帰ってくると、アニーが待っていました。マヤが子どもたちを寝かしつけに2階へ上がると、アニーは自分の悩みや感情をブリジッドにぶつけます。それを聞いて、ブリジットもカトリック信者である二人には言えなかった中絶のことを告白します。この夜、3人の中にある種の絆(友情?)が生まれたような・・。

夏の終わり。ブリジッドは久しぶりにジェイスに電話をして留守電にメッセージを残します。
新学期を迎えナニーとして最後の仕事は、フランシスを小学校に送ることです。彼女にエールを送り背中を押して見送ったブリジッドが、しばらくしてその場を離れようとすると、教室からフランシスが飛び出してきて叫びます。「生理が来たら電話する!」それはまだ何年も先のことだけど、フランシスの想いを受け止め笑って手を振るブリジッドなのでした。

断片的なエピソードの積み重ねの中で、ブリジッドとフランシス、マヤ、アニ―の距離が縮まり人間的にも成長していく様子が好ましかったです。でも生理や不正出血がやたら出て来るのはちょっと引いてしまうのですが・・これは国民性の違いも大きいんだろうな。

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後宮の烏4

2023年04月24日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
第七話 玻璃(はり)に祈る
前王朝の血を引く冰月(ひょうげつ)と明珠公主は、結婚の約束を果たせないまま戦の中で亡くなった。死後、幽鬼となった冰月は、同じく幽鬼になりさまよう明珠公主を柳の下で見つけたが、呼びかけても反応がない。その公主を救うため、冰月は楽土へ渡らず留まり続けていたのである。手を尽くしたが公主は呼びかけに応えてくれないままだった。どうすれば公主を救えるのか。寿雪はひとつの仮説を立てていた。

九九に憑りつき傷つけようとする冰月に怒りを露わにした寿雪が、彼を引き離そうとするシーンの迫力ある美しさに思わず二度見してしまいました。寿雪を止める高峻のタイミングも絶妙💛
明珠公主が冰月から贈られた玻璃の櫛が鍵だと推察した寿雪が、埋められていたそれを見つけ出したことで二人は無事に楽土へ渡っていきます。


第八話 青燕(あおつばめ)
飛燕宮の見習い宦官・衣斯哈(いしは)が夜明宮を訪ねてきた。衣斯哈は青燕の羽根を持つ少年の幽鬼を見かけ、その子を救ってほしいと寿雪に頼む。調べを進めていくと、衣斯哈が先輩宦官たちに棒で折檻されている場に遭遇してしまう。寿雪が止めに入ると、衣斯哈の指導役である康覧(こうらん)は震え上がる。寿雪の瞳の中に恐ろしい化物が見えたのだ。

先帝の代。哈彈族の少年・ 兪依薩(ゆいさ)は、燕夫人に懸想し、美しい鳥の羽根を献上して喜ばれたことから行動がエスカレートしていきますが、ある日誤って鳥を殺してしまい処刑されました。(鳥を殺すと死罪)。鳥が死んで初めて自分の浅ましい行為に気付き恥じて幽鬼となってしまった彼を、同期の宦官・史顕(しけん)が隠し持っていた青燕の羽根を使って救い、楽土へ送ります。
史顕は保身のために友を疑ったことをずっと悔いていました。高峻から「友」になろうと提案された寿雪が「友」とはどういうものなのかと考える回ですね。そして夜明宮の仲間がまた一人増えそう。


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満天のゴール

2023年04月23日 | 
藤岡陽子(著) 小学館(発行)

奈緒(33歳)は、10歳になる涼介を連れて、二度と戻ることはないと思っていた故郷に逃げるように帰ってきた。長年連れ添ってきた夫の裏切りに遭い、行くあてもなく戻った故郷・京都の丹後地方は、過疎化が進みゴーストタウンとなっていた。
結婚式以来顔も見ていなかった父親耕平とは、母親を亡くして以来の確執があり、世話になる一方で素直になれない。そんな折、耕平が交通事故に遭い、地元の海生病院に入院。そこに勤務する医師・三上と出会う。また、偶然倒れていたところを助けることになった同じ集落の早川(72)という老婆とも知り合いとなる。
夫に棄てられワーキングマザーとなった奈緒は、昔免許をとったものの一度も就職したことのなかった看護師として海生病院で働き始め、三上の同僚となる。医療過疎地域で日々地域医療に奮闘する三上。なぜか彼には暗い孤独の影があった。
一方、同じ集落の隣人である早川は、人生をあきらめ、半ば死んだように生きていた。なんとか彼女を元気づけたい、と願う奈緒と涼介。その気持ちから、二人は早川の重大な秘密を知ることとなる。
隠されていた真相とは。そして、その結末は・・・・・・・。(あらすじ紹介より)


専業主婦として夫を支え息子を育ててきた奈緒が、仕事柄家を空けることも多かったホテルマンの夫寛之から一方的に告げられたのは、ワインソムリエの篠田響子との不倫と離婚話でした。
涼介を連れ、逃げるように実家に戻った奈緒ですが、父・耕平には夏休みだからと嘘をつきます。ところが、父が交通事故に遭い海生病院に入院することになり、頼りの兄夫婦もあてにできず、留まることを余儀なくされてしまいます。

ずっと専業主婦だった奈緒は、献身的に夫を支え息子を育ててきたという自負がありましたが、夫の裏切りは彼女の自尊心を傷つけ引き裂きます。それでもまだどこかで夫が目を醒まして謝ってくれたらよりを戻しても良いと都合の良い期待を抱いてしまう彼女の心理はとてもよくわかってしまうので、もどかしいやら腹立たしいやらの導入部です。
浮気相手の方が強かで、妊娠を武器に直接奈緒に離婚を迫ってきます。病院にまでやってきて離婚をせかす姿を見て、涼介は父親を追い返します。ここに至ってようやく奈緒は離婚に応じる気持ちになります。

資格は取ったものの一度も職に就いていなかった奈緒ですが、涼介と生きていくために職を得ねばならず、海生病院で働くことになります。とはいえ、全くのペーパードライバーならぬペーパー看護師の彼女は初めのうちは足手まといでしかありません。
そんな奈緒を、耕平の事故の時に付き添ってくれた医師の三上が往診診療に連れて行き、徐々に奈緒も仕事を覚えていきます。奈緒は三上が時々孤独な表情を浮かべているのが気になります。

意識を失って倒れているところを助けた、奈緒たちと同じ集落に住む隣人の老女・早川順子と顔見知りになり、涼介も懐いていきますが、彼女は人生を諦め命の終わりを待ち望んでいました。そんな彼女を奈緒と涼介は何とか元気づけたいと思いますが、ある時彼女の日記に書かれていた重大な秘密を知ってしまいます。

奈緒と耕平の確執の原因は、母の手術前に年配の看護婦から言われた「手術を止めてお母さんを転院させなさい。」との言葉です。その真剣さに訳がわからぬまま父に手術の中止を懇願しますが聞き入れてもらえず、母は術後の合併症で亡くなり、それがきっかけで奈緒は看護婦になるのを辞め家を出て早くに結婚したのでした。この時の看護師が誰だったかもわからず終いのままでした。

早川は、若い頃に東京で結婚して子供もいましたが、9歳の時に病死します。息子の死は自分のせいと罪悪感に苛まれ夫とも離婚した彼女は、訪問介護の看護師として働く中で、上松高志という11歳の少年に出会います。彼は母を早くに亡くし、アル中の父の暴力(背中に熱湯をかけられ大火傷を負ったことも)を受けながらも難病を患う祖母の介護を一人で担っていました。早川の来訪を心待ちにしていた高志を早川も我が子のように可愛がっていました。ところがある日、夏祭りに出かけた二人がアパートに戻ると彼の祖母が痰を咽に詰まらせて亡くなっていました。お祭りに早川と行きたかった高志はお父さんが家にいると嘘をついていたのです。彼を救おうと早川は自分のミスと申告して罪を被り退職して故郷に戻り、10年前まで海生病院で看護師として働いていた・・・ここまで知って奈緒は彼女こそが自分に母の手術を止めるよう忠告した看護師だったのだと気付きます。偶然、奈緒の母を受け持つことになった早川は、主治医が不慣れな手術をしようとしていると知り反対したのですが、強行されてしまい、奈緒の母が亡くなった後で、病院側の落ち度を糾弾しようと証拠を集めていましたが、それがばれて懲戒免職にされていたのです。

また、三上の背中の火傷を偶然見たことのある奈緒は、彼が高志君だと確信します。
三上は、里親に育てられて姓が変わっていましたが、祖母の死以来姿を消した早川に嘘をついたことを謝れないままで、自分のせいで祖母が亡くなり早川も看護師を辞めることになったことに罪悪感を背負い続けていました。
年に一度、観光客の振りをしてこの地を訪れて早川の安否を確認していた彼は、早川が倒れているところに出くわし、何か病気を患っていると知り、求人募集に応募して海生病院にやってきたのです。

倒れて病院に担ぎ込まれた早川は大腸がんとわかりますが、手術を拒否して退院しようとします。奈緒は早川に三上こそが上松高志だと教えて引き合わせます。長年のわだかまりを解いた二人。三上は早川に手術の執刀医の許可を得ますが、開腹してみると既に腹膜播種を起こしていて手遅れでした。
その後。急変した早川は、三上に「あなたは、いつでもいい子だった。私は最後にあなたに幸せしてもらってゴールを迎えるの。高志くんのお母さんになりたかったの…」と話して奈緒や涼介たちに見守られながら息を引き取ります。

三上が訪問診療で患者に渡していた「☆」のシールは、昔早川がご褒美にくれた「頑張ったシール」を真似たものでした。沢山の黄色い☆のシールは満天の星の輝きを放ち、人生のゴールを彩ってくれたのです。
三上は早川の手を取り「お母さん、たくさんの星をありがとう」と呟きます。

限界集落に生きる高齢者の命に寄り添い支える医療従事者を主人公に、医療過疎地の現状や、終末医療、ヤングケアラーや児童虐待といった現実問題も織り込まれています。その中で一際印象的だったのが、「死」を「人生のゴール」と捉え、「満天のゴール」を目指してシールを集めるように一日一日を大切に生きる老人の姿でした。あんな風にゴールを迎えられたら幸せな人生ですね。

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ブラックアダム

2023年04月22日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2022年12月2日公開 アメリカ 124分 G

5000年の眠りから目覚めた破壊神ブラックアダム(ドウェイン・ジョンソン)。かつて彼の息子は自らの命を犠牲にして父を守り、その力を父に託した。ブラックアダムの力は、息子の命と引き換えにして得られたものだった。そのことに苦悩と悔恨を抱えるブラックアダムは、息子を奪われたことに対する復讐のため、その強大な力を使って暴れまわり、破壊の限りを尽くす。そんなブラックアダムの前に、彼を人類の脅威とみなしたスーパーヒーローチーム「JSA(ジャスティス・ソサイエティ・オブ・アメリカ)」が立ちはだかる。(映画.comより)


アンチヒーローであるブラックアダムの誕生秘話を描いた作品ということですが、アベンジャーズまではかろうじて覚えているけれど、「JSA」って何?「シャザム」って何?状態でした。

冒頭で、5000年前のカンダックが描かれます。「サバック(悪魔)の冠」の材料となる「エテルニウム」を探す王は、奴隷たちに過酷な労働を強いていました。 遂に耐えかねた一人の少年奴隷が反乱を起こします。魔術師たちによりシャザムの力を与えられた少年は王を殺しその支配を終わらせ消息を絶ちます。

現代。インターギャングの支配を受けるカンダックの街を訪れた考古学者のアドリアナ(サラ・シャヒ)は、弟のカリム、助手のサミールとイシュマエルと遺跡でサバックの冠を発見しますが、彼らを尾行していたギャングに奪われそうになります。彼女が足元に刻まれていた呪文「シャザム」を唱えると勇者テス・アダムが現代に復活し敵を蹴散らしますが、エテルニウムロケットの爆発で気を失います。
彼が目覚めたのはアドリアナの息子アモンの部屋。 アモンの話に興味を示さず出ていく彼を追いかけたアモンはギャングに捕まって殺されそうになりますが、アダムに助けられます。ドアからではなく壁をぶち抜いて出ていくので部屋はボロボロです(^^;

一方、遺跡での事件を知った政府高官のアマンダ・ウォーラーは、ヒーローチーム「ジャスティス・ソサエティ・オブ・アメリカ(JSA)」に、アダムの拘束を命じます。
アダムが町のギャングを虐殺していくのは町の人々にとってはまさしくヒーローで、それを止めようとするJSAは逆にギャングの仲間のような印象になります。
ちなみに空の王者ホークマン(オルディス・ホッジ)がリーダーで、魔術師ドクター・フェイト/ケント・ネルソン(ピアース・ブロスナン)、嵐を操るサイクロン(クインテッサ・スウィンデル)、巨大化するアトム・スマッシャー(ノア・センティネオ)がメンバーです。特にホークマンはアダムに対して敵意満々で、何だかどちらが悪役かわからなくなりそう。

アダムの動きを封じることに成功した彼らですが、民衆はアダムの復活を喜びます。ところがこれに困惑したアダムはその場から去って王の宮殿(遺跡)へ逃げ込みます。

冠を託されたアモンが部屋に戻ると、死んだと思われていたイシュマエルがいました。彼はギャングの仲間で、冠を奪おうとしてカリムを撃ちアモンを捕まえて逃走します。アモンが隠した冠を見つけたアダムは、ホークマンらと共にイシュマエルのアジトへ向かいます。自分は王の子孫だと明かしたイシュマエルは、アモンと冠の交換をアドリアナに要求し、冠を受け取るとアモンを撃ちます。間一髪、アモンを助けたアダムでしたが、怒りが暴発して大爆発を起こしてしまいます。フェイトたちが母子を守りましたが、イシュマエルは冠を抱えたまま焼死し、アダムは姿を消します。

実は、本当の英雄はアダムの息子のハルートだったのです。ハルートの力を恐れた王に致命傷を負わされた父アダムを救うため、自らの力を与えたハルートは無力になり、王に殺されてしまいます。目の前で妻子を殺されたアダムが怒りに任せて虐殺を行い、その罰として魔術師により投獄されていたのでした。ホークマンたちに真実を告げて呪文を唱えて無力な人間に戻ったアダムは投降し「タスクフォースX」の基地に幽閉されます。

ドクター・フェイトは、サバックの冠を手にしたイシュマエルが、冥界の英雄サバックとなり世界を滅亡させる予知夢を見ます。それは現実となり、彼を迎え撃つJSAでしたが歯が立ちません。フェイトは遺跡にバリアを張ってメンバーが入れないようにしてから1人でサバックに立ち向かい、同時アダムに世界を救ってほしいと念を送ります。目を覚ましたアダムは脱出に成功し、夢に現れた妻子に勇気づけられサバックに立ち向かいます。フェイトは殺されてしまいますが、彼の兜を手にしたホークマンが幻覚を見せてサバックの動きを封じ、アダムがとどめを刺します。

ホークマンと和解したアダムは、玉座を破壊して、カンダックの守護者となると宣言しました。

お馴染みの続編予告のエンドクレジットでは、アマンダの警告に「この世界に俺を止められる人間はいない」と言うアダムに「地球外の人にはできる」と反論するシーンが。怒ったアダムの前にスーパーマンが登場して「ブラックアダム、話をしよう」と言いました。

マーベルコミック、ますますキャラが入り乱れてついていけなくなりそうです。😓

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七人の秘書 THE MOVIE

2023年04月21日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2022年10月7日公開 118分 G

熾烈な戦いの末に政界のドンを辞任に追いやった秘書たちは、今日もラーメン萬で平和な日々をかみしめていた。そんな彼女たちのもとに新たな依頼が舞い込む。今度のターゲットは信州一帯を支配する「九十九ファミリー」。
表の顔は経済を潤してくれる地元の名家だが、実はその裏の顔は国家と繋がり私腹を肥やすためには手段を厭わない極悪一家だった…。過去最大の悪人を懲らしめるため、雪深き地に向かった七人。しかしそこで彼女たちを待ち受けていたのは、絶体絶命…史上最高難易度の任務と、決して知られてはいけないある秘密だった!(公式HPより)


名もなき秘書として働きながら、裏ではそれぞれのスキルを駆使して人知れず弱者を救う、いわば「現代版・必殺仕事人」的な一話完結の中園ミホ脚本によるTVドラマの映画バージョンです。

ドラマの最終回でラスボス粟田口大臣を成敗した七人の次のミッションは、
千代が淡い恋心を抱く今回の依頼人は、信州のラーメン屋「味噌いち」の店主・緒方航一(玉木宏)。失踪した二郎を探し出して土地を取り戻したいとやってきます。
二郎(濱田 岳)は九十九ファミリーの次男で「雷鳥牧場」の経営者であり、七菜の婚約者です。二人はマッチングアプリで出会いましたが、結婚披露宴の直前に牧場が火事になり行方不明になりました。火事は放火で二郎が犯人とされますが、七菜と実は二郎の兄である航一は無実を信じています。

九十九ファミリーは地元の名家として知られる裏で、私腹を肥やすために手段を問わない極悪一家の設定です。いかにもなわかりやすさだね。(笑)
特に信州のドンと呼ばれる「アルプス雷鳥グループ」のCEOの道山(笑福亭鶴瓶)は、国家権力と繋がっており、私腹を肥やすためには手段を厭わない極悪人です。

巧みな潜入スキルで一家に接近する秘書たち・・・ってそんなに簡単にドンを始め三男・四男の秘書に潜り込めるわけないだろ!と突っ込んでおきます。

秘書軍団の元締めの萬 敬太郎(江口洋介)は、「ラーメン萬」の店主ですが、副業は司法書士で、かつて政治家秘書でした。(彼の決め台詞は「ここからは引き取らせてもらおうか」)九十九ファミリーの養女であり顧問弁護士の美都子(吉瀬美智子)はどうやら元カノのようです。

ちなみに秘書たちの名前とスキルは以下の通り(公式HPより)

・望月千代(木村文乃)
元銀行常務秘書。秘書としてのスキルの高さに加え、家計を助けるために働いていた銀座のクラブでNo.1まで登り詰めた洞察力と会話力で、相手を手玉に取ることに長けている。七人の中心的存在。

・照井七菜(広瀬アリス)
銀行頭取秘書。のんびりして仕事ができるタイプではないが、その素朴な人柄で機密情報をいつの間にか聞き出してしまう。お人好しで勝手に依頼人を「ラーメン萬」に連れてきてしまう。圧倒的に男運が無い。

・長谷不二子(菜々緒)
元 警視庁 警務部長秘書。正義感が強く、捜査一課の刑事だった時に男社会の組織の中で苦しんだ経験から秘書軍団に入る。警察のネットワークと空手を駆使して、武力行使してくるターゲットを制圧していく。

・パク サラン(シム・ウンギョン)
元大学病院 病院長秘書。医療の知識は豊富だが、経済的困窮のため医師の道を断念した過去をもつ。ハッキングによる情報取集を担当している。決め台詞は「懲らしめてやりましょう」。

・風間三和(大島優子)
元東京都知事秘書。都知事のメディア戦略指南、手話通訳を務め、語学と剣道の心得もある。実家の風間グループとは疎遠でも、時にそのコネクションを利用してまで作戦遂行する。萬にほのかな想いを寄せる。

・鰐淵五月(室井 滋)
家政婦/元 政治家秘書。家政婦としてターゲットの家や拠点に潜り込み、不正の証拠を集める。

政治家や町の有志を招待した場で道山の悪事を暴く見せ場では、彼女たちの華麗なアクションを楽しめます。更に父親を憎んでいる彼が最も父の闇の部分を受け継いでいると明かされるに至って、千代の淡い恋は消えてしまうのね。
愛し合っていた筈の二郎に振られる形になる七菜と合わせて、男運が無いのは彼女たちに共通する展開のようです。

道山と粟田口は昔からの繋がりがあることと、病院に逃げ込んだ道山と一緒の病室で二人が高笑いをするラストで、続編を作る気満々なのね。

味噌ラーメンと醤油ラーメン、どっちも食べたくなる作品でした😁

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ヒポクラテスの憂鬱

2023年04月21日 | 
中山七里(著) 祥伝社文庫

埼玉県警のホームページの掲示板に“修正者”を名乗る書き込みがあった。今後、県下で起きる自然死・事故死に企みがないかどうか見極めろという。同日のアイドルの転落死にも言及したため、県警の古手川と浦和医大法医学教室の助教・真琴は再捜査と遺体の解剖に臨んだ。結果、炙り出されたアイドルの秘密と司法解剖制度の脆弱さとは?シリーズ第二弾、待望の文庫化!(「BOOK」データベースより)


警察は初め悪戯と判断しますが、小手川はコレクターの意図を探って法医学に携わるの関係者に心当たりがないかと真琴たちに尋ねます。
コレクターの指摘に該当する事故死を調べ、遺体を解剖すると新たな真実が暴かれることが重なります。

一 堕ちる
コンサートのステージで足を踏み外して転落死したアイドルの佐倉亜由美の事故の裏に隠された真実。犯人の想定外だった彼女の持病が解剖により明らかになります。「商品」に手を付けた男も、ファン心理が暴走した男も同罪だね。

二 熱中せる
シングルマザーの比嘉久瑠美の娘の美礼の熱中症死は、ベランダではなく娘を車中に残し同居相手の瓜生とパチンコに興じていたためと一旦は判断されますが、娘が邪魔になった久瑠美が、一週間食事を与えずに餓死させた事実が解剖で暴かれます。継子の虐待ではなく実母による殺人というのが😠 

三 焼ける
新興宗教の教祖・黒野の焼死体が発見され捜査が行われます。遺体を渡せと教祖の復活を信じる信者が押しかける中を脱出し、解剖を行うとその死は自殺であることが判明します。

四 停まる
老人が散歩の途中で突然倒れて亡くなります。自分が大きな声を上げたせいと思い込んでいた翔太に小手川と真琴はそうではないことを諭して安心させます。老人は痴呆を患う妻に虐待されていると思われていましたが、解剖でペースメーカーを入れていたことがわかり、保険金目当てでの自殺の線が出てきます。妻を想う故の行動だったかもというのが何だか切ない話です。
 
五 吊るす
横領の末に首吊り自殺をしたとされた7つ違いの姉・涼音の死に疑問を抱く妹の茜。コレクターの指摘で再捜査をする中、夏帆という女性の死に類似点が見つかり彼女の弟の継男も同様に疑念を抱いていることがわかります。容疑者として二人の死に共通する赤塚という男が浮かびますが、遺体は既に荼毘に付されています。そこで真琴が思いついた「実験」はかなり衝撃的で破天荒でしたが、それが突破口となって逮捕に至るのです。更に継男がコレクターであることも判明します。

コレクターの指摘する事故は急増していき、浦和医大だけでなく解剖を依頼された医師たちは忙殺され疲弊していくとともに予算も底をついてきます。
一体の解剖には25万の費用がかかりますが、警察にも大学にも潤沢な予算があるわけでなく、とりわけ死者への出費への理解度はまだまだ低いのだという事が、小説の中で繰り返し登場するのは「バチスタ」シリーズの筆者も同様に訴えていましたね(^^;

このままでは解剖が必要な死体が出ても出来なくなってしまい、真実も闇に葬られることになりかねません。・・・とここまで読めば、何となくコレクターの目的が察せられる・・かな?

六 暴く
「コレクター」だと認めた継男でしたが、彼が書き込んだのは自分の姉と茜の姉の2件だけだと主張します。では残りは誰が?
そうこうする中、古手川の同期の姫川巡査部長が飛び降り自殺します。遺書には不倫を示唆する内容が書かれ、彼女が前日に堕胎していたこと、嬰児が奇形児だったことがわかります。不倫相手の男は、彼女に時間をかけて砒素を盛っていました。奇形児となったのも砒素の影響が考えられました。精神的に追い詰められた彼女を自殺に追い込んだのは紛れもなく不倫相手であり、彼こそがコレクターだったのです。光崎に遺体を解剖されて砒素を盛った事実が暴かれることを恐れた彼は、書き込みにより解剖件数を増やして予算不足に陥らせた頃を見計らって犯行に及ぼうとしたのですが、目論見に反して自殺されてしまったのでした。何という身勝手な!!そして警察内部の事情と死体の状況を知りうる人物は前作の「~誓い」から頻繁に登場していたアイツ。わかってみればなるほどな~~の犯人。最後にそれを暴くのは古手川の上司の渡瀬班長です。彼は初めから「彼」を疑っている節があり、ラストで美味しいところを攫っていきました。😲 まだまだだね、古手川君!

検死報告書を見ただけで、ただの事故かそうでないのか疑念を抱く光崎の卓越した能力(経験値)には遠く及ばないまでも、直感的に疑念を抱き真実に向かって突き進む真琴の行動は古手川にますます似てきた感があります。そして互いの好意も確実に育まれていて、何作目で結ばれるのかという期待も出てきますね😁 

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海とジイ

2023年04月17日 | 
藤岡陽子(著) 小学館文庫

最期を見据えた生き様から光を得る人生賛歌
舞台は、美しくもありときに恐ろしい顔を見せる海と島。3人のおじいさん=ジイの生き抜く姿と,そのジイから思いを受け取る人々の心模様をときに温かく、ときにいきいきと、ときに静かな筆致で描ききります。全3編の物語。
(〈 書籍の内容 〉より)

●海神~わだつみ
いじめが原因で不登校になった小学四年生の優生。ある日、瀬戸内の島に暮らす曾祖父を訪ねることになる。死期が近いはずの曾祖父・清次は、病人とは思えないほど元気に優生らを案内し、饒舌に振る舞う。その後入院となった曾祖父と優生が交わした二人だけの約束とは……。

優生はトイレでの虐めが発端となって外でトイレに入ることができず心に深い傷を負い不登校になってしまいます。父親・毅の対応は逆に優生との間に溝を生んでしまい母親の千佳も対処に悩みながら一年が過ぎた頃、毅から病気の曾祖父に子供たちを会わせたいと頼まれて初めて夫の故郷の島を訪れます。
明日をもしれない病人の筈の清次自身が港に迎えに来ていて、長い階段の上に建つ大天狗神社へ案内します。(実は清次は毅に優生のことを頼まれていたのです。大雑把な性格に思えた夫が実は子供の頃は弱虫泣き虫だったこと、夫が息子に話した「大のおもらし」をした子は夫自身だったことを知り千佳の夫に対する見方にも良い変化が生じたようです。)

神社の帰り、無理がたたって倒れた清次が病院へ運ばれ、優生が病室で清次と交わした約束は「じーちゃんが死んだ次の日から学校に通う」というものでした。天狗様に「探し物」を見つけてもらえと教えた清次。優生の願いは強い心を願った毅と同じだったのね。親が子を想う気持ちが伝わってくる話です。

●夕凪~ゆうなぎ
70代後半の老医師とそのクリニックに20年以上勤め、支え続けてきた48歳看護師の女性。ある日、クリニックを閉院すると宣言した後老医師が失踪する。必死で探す看護師の女性が行き着いたのは瀬戸内の島。もう戻らない、と告げる老医師の覚悟とは。静謐でほのかに温もる大人の慕情。

看護師の志木と月島先生の間には恋愛と呼べるような甘さはありません。
大学病院での人間関係に疲れ果て、転職した月島クリニック。クズ男の誠一とズルズル関係を続けていた彼女は、月島医師が誠一を餌に毒を注入して動けなくして幼虫に与えるジガバチに擬えたことで目が醒めます。この時から月島に対する尊敬や感謝の気持ちが育っていったのかなぁ。

突然の失踪に、どうしても探さなければという思いが募る志木は、わずかな手掛かりをもとに島を訪れます。彼女を支配していた感情は恋慕とは少し違うような気がします。月島医師は過去横領の罪を着せられて病院を追われましたが、その時庇ってくれた先輩医師が島の診療所にいて、病に倒れた彼に恩返ししたかったのだと話します。
妻と離婚し息子とも一度も会っていない彼が、人生の終わりが近づいた時に生じた想い(怖さや寂しさ、虚しさ)に触れた志木は、引き止めることもできず独りで島を後にします。う~~ん・・彼女は月島に共依存状態だったのかも。

●波光~はこう
すべてを陸上競技に捧げてきたが、怪我により人生どん底になってしまった澪二。試験を前に逃げるように子供の頃訪れていた島にある祖父の家へ。石の博物館のリニューアルオープンの準備を手伝ううちに、今まで知り得なかった祖父の青春時代、親友、そして唯一の後悔を聞き……。

怪我でエースの座も大学のスポーツ推薦も消えてしまった澪二は、友人の励ましの言葉も心に届きませんでした。大晦日、母との些細な諍いから家を飛び出した澪二は祖父のもとを訪れます。社長を退いた後、島で石の博物館を開いた祖父の意外な過去(祖父が大学時代に出会った親友との間の友話)を知り、翻って自分を心から心配し励ましてくれる友の存在に改めて気付くのです。

瀬戸内の離島に住む3人のジイがそれぞれ伝えたかったこと、それは「消えゆく命から次の命へ残したいメッセージ」です。その奥底にあるのが「私は何を残した(残せる)だろう」という渇望にも似た思いです。

それぞれの物語の登場人物が実は繋がっているのですね。地理的には優生の曽祖父が住む佐柳島の隣が月島医師と澪二の祖父が住む高見島です。澪二の祖父は月島医師により一命をとりとめており、さらに優生の祖父こそが澪二の祖父の親友でした。人と人が時間を超えて環になって繋がっていくような縁を感じさせる作品です。

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破戒

2023年04月16日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2022年7月8日公開 119分 G

瀬川丑松(間宮祥太朗)は、自分が被差別部落出身ということを隠して、地元を離れ、ある小学校の教員として奉職する。彼は、その出自を隠し通すよう、亡くなった父からの強い戒めを受けていた。
彼は生徒に慕われる良い教師だったが、出自を隠していることに悩み、また、差別の現状を体験することで心を乱しつつも、下宿先の士族出身の女性・志保(石井杏奈)との恋に心を焦がしていた。
友人の同僚教師・銀之助(矢本悠馬)の支えはあったが、学校では丑松の出自についての疑念も抱かれ始め、丑松の立場は危ういものになっていく。苦しみのなか丑松は、被差別部落出身の思想家・猪子蓮太郎(眞島秀和)に傾倒していく。
猪子宛に手紙を書いたところ、思いがけず猪子と対面する機会を得るが、丑松は猪子にすら、自分の出自を告白することができなかった。そんな中、猪子の演説会が開かれる。
丑松は、「人間はみな等しく尊厳をもつものだ」という猪子の言葉に強い感動を覚えるが、猪子は演説後、政敵の放った暴漢に襲われる。
この事件がきっかけとなり、丑松はある決意を胸に、教え子たちが待つ最後の教壇へ立とうとする。(公式HPより)


島崎藤村の名作「破戒」の映画化は、木下恵介監督(1948年)、市川崑監督(1962年)に続き、前田和男監督により60年ぶりに製作されました。
名作の色褪せない輝き、訴える力は健在で、丑松を演じた間宮祥太朗の内に秘めた苦悩を抑制された演技が新鮮でした。丑松を支える友人を演じる矢本悠馬が醸し出す銀次郎の曇りのない人柄には安心感を貰えます。

丑松が蓮華寺に引っ越した理由は、前の下宿先で、「穢多(えた)」と知れた途端に「不浄だ」と忌み嫌って追い出す騒ぎが起きたからです。実は彼も「穢多」で、父親から出自を隠し通すよう強く戒められていました。明治になり身分制度が廃止されたとはいえ、人々の心に強く根ざしている部落差別に憤りながらも声を上げることのできない丑松は、病の身ながら被差別部落出身を公表し「新平民中の獅子」と呼ばれる思想家猪子蓮太郎に傾倒していきます。

教師として生きるためには秘密を明かさないことと理解はしていても、自分を偽らず強く生きる姿に憧れ思い悩む丑松は、次第にふさぎ込み顔色も悪くなっていきます。
同僚の土屋銀之助は師範学校時代からの友で、猪子蓮太郎に傾倒していく 丑松を心配します。

彼らが勤める小学校に、郡視学の甥の勝野文平が赴任してきます。保守的で新たな思想を嫌う校長は、身体を壊し学校を辞するよう求められた老教師の風間敬之進を、恩給が受けられるまではと庇う丑松を煙たく思います。
敬之進の息子の省吾は、丑松の受持ちの生徒です。旧士族の敬之進には前妻と後妻の間に子供が7人いて、省吾と姉の志保は前妻の子です。生活は苦しく、志保は口減らしのため蓮華寺の養女となっていました。日露戦争に従軍している長男が帰ってくれば家計も助かると言う敬之進。志保は蓮華寺で丑松の面倒を良くみてくれていて、仄かな恋情を抱く彼は風間家の困窮に胸を痛めます。
父の戒めを思い出し、志保に惹かれる気持ちを抑えようとする丑松。

ある日、市議会議員の高柳利三郎(大東俊介)を見かけた丑松は、彼の妻が同郷(部落出身)だと気付きます。後日、丑松を高柳利三郎が訪ねてきて、妻の出自について口を閉ざすよう要求してきます。高柳は妻の実家の財力目当てに娶ったのです。その高柳を校長は次の市議会選では学校を上げて支持すると表明しますが、対抗馬は猪子蓮太郎が支持している弁護士でした。

以前から自分の出自を明かさず手紙を送っていた丑松を、猪子蓮太郎が浄蓮寺に訪ねてきます。それを知り急いで猪子の宿に向かった丑松は彼に熱い思いをぶつけます。自分のような出自の者に対等に接してくれると感激する猪子に、自らの出自を告白しようと決意した丑松は、次に会ったら自分の話を聞いて欲しいと伝えて別れます。
しかし、弁護士の応援演説会の後、猪子は高柳が雇った者たちに襲われ命を落とします。

志保に想いを寄せる文平は、丑松をよく思っておらず、旧友との会話の中で丑松が部落出身であることを知ると、教員の中に部落出身のものがいるという噂を流します。

志帆との縁談をもちかけられても話を逸らし、じわじわと自分の出自が明らかになる不安が彼を苦しめ塞ぎがちになる丑松を心配して理由を尋ねる銀之に、彼は覚悟を決めて自分の出自を打ち明けます。隠していたことを詫びる丑松に、銀之助は驚きながらも今まで無神経な発言で傷つけてしまっことを謝罪します。世間の人は知った途端に態度を変えるだろう場面で、銀之助の誠実さと人間性が際立ちますね。

問われるまでは言う必要はないと助言する銀之助でしたが、全てを曝け出す決意をした丑松は、最後の授業の中で生徒に自分は部落出身だと告白し、皆さんが大人になった時に瀬川という教員がいたこと、伝えてきたことを思い出して欲しいと言いながらその場で泣き崩れます。その姿に生徒たちも涙を浮かべながら辞めないでと縋りつきます。

職を辞し、独り上京しようとする丑松を、志保を連れた銀之助が待っていました。
文平から丑松の出自を聞かされていた志保は、全て承知の上で丑松に添うつもりだったと伝えます。共に歩き出した二人に学校を抜け出した生徒たちも見送りに駆け付けます。生徒たちを連れ戻しにきた文平に、銀之助は怒りを露わに責任は全て自分が取る。君は帰って校長の機嫌でも取っていろと怒鳴りつけ、その権幕に驚いた文平は立ち去ります。

生徒たちに「またどこかで会いましょう」と最後の言葉をかけ志保と共に歩き出す丑松・・・。東京での生活は困難が待っているだろうけれど、希望の光が射す結末です。

部落民への差別が無くなったとしても別の差別が生まれるだろうと語る猪子の言葉が強く心に残ります。一世紀が経っても尚その差別は完全には消えておらず、性差別や人種、宗教差別などあらゆる差別が今も世界中に現存しているから・・・。
だからこそ、銀之助のような公正で曇りのない目をした人が世の中の大勢を占めるようになってほしいと心から願います。



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バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版 

2023年04月15日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2022年6月17日公開 119分 G

瀬戸内海の離島。日本有数の資産家(西村まさ彦)が、莫大な遺産を遺して謎の変死を遂げる。資産家は死の直前、美しき娘(新木優子)の誘拐未遂事件の犯人捜索を若宮に依頼していた。
真相を探るため、ある閉ざされた島に降り立つ獅子雄(ディーン・フジオカ)と若宮(岩田剛典)。二人を待ち受けていたのは、異様な佇まいの洋館と、犬の遠吠え。容疑者は、奇妙で華麗な一族の面々と、うそを重ねる怪しき関係者たち。やがて島に伝わる呪いが囁かれると、新たな事件が連鎖し、一人、また一人消えてゆく。底なし沼のような罠におちいる若宮。謎解きを後悔する獅子雄。
これは開けてはいけない“パンドラの箱”だったのか?その屋敷に、足を踏み入れてはいけない―― 。
終わらない謎へ、ようこそ。


アーサー・コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」シリーズを原案に、犯罪捜査コンサルタント・誉獅子雄と精神科医・若宮潤一が数々の難事件に挑む姿を描いたテレビドラマ「シャーロック」の劇場版。原作シリーズの中でも人気の高い「バスカヴィル家の犬」をモチーフに、不気味な島で暮らす華麗な一族をめぐる事件を描く。(映画.com解説より)
監督は「容疑者Xの献身」の西谷弘。

背筋震わす新たな本格心理スリラー映画が誕生と謳っていますが、正直ピンときませんでした。島という閉鎖的な舞台で資産家一族の思惑が絡んだ殺人事件と見せかけて実は・・・な真相も、現代に置き換えると数々の矛盾点が気になります。
いくら闇サイトといっても「あんなもの」が買えるのかしらん?可能だとしたらそっちの方がはるかに怖いんですけど😰 

「娘を誘拐した」と言う脅迫状が届き、犯人の指示通り身代金1千万円を持ち指定された墓地へ独りで向かった千鶴男でしたが、犯人は現れず、暗闇の中に赤い目をした犬を見ます。家に戻ると娘の紅は解放されていました。1ヶ月後、千鶴男は元主治医の若宮に誘拐事件の真相を求めリモートで相談している最中に突然苦しみ初め、息子の千里(村上虹郎 )の前で死亡してしまいます。

警視庁捜査一課長の江藤(佐々木蔵之介)から最期に会話した者として取り調べを受けた若宮と誉は、彼の死因が日本からは絶滅した筈の狂犬病だったと知ります。ちなみに霞島は江藤の出身地。
千鶴男が見た犬の正体と事件の繋がりに興味を惹かれた二人は、江藤の(無言の)要請もあり霞島へ。千里の招きで山奥の古びた洋館に住む蓮壁家を訪れ、千鶴男の妻の依羅(稲森いずみ )、使用人の馬場(椎名桔平 )、地震学者の捨井(小泉孝太郎)、リフォーム業者の冨楽朗子(広末涼子)、紅の愛犬ヴィルと会った二人は、立ち退きを求める脅迫状が何通も届いていたことや、誘拐事件の日に千鶴男が足を負傷していたことを聞き出します。

蓮壁家の墓地で何者かが見張っていることに気付いた誉は姿を消し、若宮に「誰もひとりにするな」と電話で忠告します。その夜、千鶴夫が隠していた多額の現金と遺言書を取りに廃坑に向かう千里に同行しようとした若宮は、異様な睡魔に襲われ眠ってしまいます。翌朝、千里の凍死体が廃坑で発見されます。

息子の死に異様に取り乱す依羅 の様子に違和感を覚える誉。彼は誘拐事件以前の脅迫状を送ったのは捨井だと見抜いていました。島に大きな地震が起こると予測していた捨井の動機が、古びた豪邸は危険だと考え紅を守ろうとする善意と恋心から来ていると察した誉は捨井は今回の事件の犯人ではないと考えます。さらに、紅が勤めていたキャバクラや、江藤の父が署長を勤めていた警察署、冨楽の倉庫などで聞き込みをした誉はある仮説を立てます。

謎を解く鍵は廃坑にあると考えた若宮は、ヴィルを連れて廃坑へ向かいますが、赤い目の犬に襲われます。しかしそれは犬の仮装をした誉(仮装までする必要あるのかは疑問だけど)で、赤い目の正体は赤いライトを着けたドローンでした。この辺は現代的ですね。

激怒する若宮に、誉は犯人をおびき出すための作戦だと言い、その場に現れた冨楽朗子と夫の雷太(渋川清彦 )が犯人だと指摘します。夫婦の動機は20年前に娘の碧海を誘拐されたことにありました。長年娘を探し続け、遂に目に面影を残す紅と出会った夫婦は、リフォームを提案して蓮壁家に取り入り、紅の歯ブラシを盗んでDNA鑑定に出して娘である確信を得た上で紅に真実を打ち明けます。(離島の広さはわからないけど、それなりに閉鎖された空間で大人になるまで出会わないというのもちょっと不自然だぞ)

長年自分だけが家族の中で冷遇されてきた紅は、真実を知って蓮壁家への復讐を夫妻に持ち掛けます。気持ちはわからないでもないけど、皆殺しにして資産乗っ取りを企むほど憎んでいたとは・・・。

計画の首謀者は紅だったという事実にショックを受ける若宮。使用人の馬場だけが紅に親切だったと聞いた誉は急ぎ邸宅へ戻ります。
紅は若宮によって睡眠薬で眠らされていましたが、依羅は馬場の手で殺されており、彼自身も首を吊っていました。
昔紅が描いた馬場の絵の裏に書いた遺書には、20年前の真実(目を離した隙に娘を死なせてしまった依羅が、夫に怒られるのが怖くて碧海を誘拐した)が記されていました。息子が産まれたことや夫が誘拐の事実を知ったことで、夫妻は紅を冷遇するようになったことや、紅が馬場にだけ殺害計画を教えていたことも書かれ、全ての罪を自分が背負い死んで詫びるとありました。(そもそも、あの時点で奥様を止めていたらこんなことにはならなかったんだけどね~~)

駆け付けてきた冨楽夫妻に「必ず出頭するから紅が目を覚ますまで家族だけの時間が欲しい」と言われ、邸宅を出た二人の前に、花束と婚約指輪を持った捨井が現れます。そこに突然大きな地震が襲ってきます。邸宅に駆け寄る捨井を残し車を走らせるよう指示する誉。
目を覚ました紅を囲んで抱き合いながら土砂に呑み込まれる3人。
(あれ?捨井はどうした?最後まで狂言回し的役割で可哀相過ぎる)

すぐに警察を呼んでいればと後悔する若宮に「彼女はもう苦しむことはない」と慰める誉。そういえば、ホームズにしろ金田一にしろ、悪人ではない犯人は逮捕ではなく死による救済が用意されていることが多かったっけ(^^;

江藤は自分の父親が20年前の誘拐事件の時に捜査から逃げたと思っていたのですが、誉は江藤に、父親は職を辞してまで碧海を探していたのだと言います。それでも逃げたことに変わりないと嘯く江藤でしたが、街頭で島への義援金を呼びかける声に立ち止まり財布の中の小銭を全て入れるのでした。😌 

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ヒポクラテスの誓い 

2023年04月14日 | 
中山七里(著) 祥伝社文庫 

浦和医大・法医学教室に「試用期間」として入った研修医の栂野真琴。彼女を出迎えたのは偏屈者の法医学の権威、光崎藤次郎教授と死体好きの外国人准教授・キャシーだった。凍死や事故死など、一見、事件性のない遺体を強引に解剖する光崎。実は「既往症のある遺体が出たら教えろ」と指示していた、その真意とは?(公式サイトより)


海堂尊の小説「バチスタ」シリーズや、ドラマ「科捜研の女」「アンナチュラル」「監察医朝顔」など法医学を扱ったものは好きで、この本も題名に惹かれてチョイスしました。
日本における遺体検索の件数や精度はまだまだ改善されるべきですが、それが世間一般の認識となっていないのは残念なことです。

栂野真琴は内科の津久場教授の指示で広範な知識と単位の修得のために法医学教室にやってきます。
法医学教室の光崎藤次郎教授は斯界の権威で、解剖の腕は超一流ですが、傲岸不遜で口が悪く、頑固な人物。キャシー・ペンドルトン准教授はアメリカ生まれですが流暢な日本語を話します。彼女は「死体好き」を公言しており、医学生の時に光崎のことを知って日本にやってきました。初対面で、キャシーは真琴をヒポクラテスの誓いの宣誓文のプレートの前に連れて行きます。
臨床医を目指している真琴にとって死体を扱う法医学への関心は薄く、この言葉も今一つピンと来なかったのですが、光崎の信念に触れるうち、次第に法医学にのめり込んでいき、物語の終わりには、ほんの少しではあるけれど理解できる気がすると言います。生きている患者を担当している時には見えなかったものが、死者と語らうようになってからぼんやり見え始めて来たと、法医学教室に残ることを願うようになるのです。

一 生者と死者
泥酔状態で凍死した中年男性
二 加害者と被害者
自転車で道路に飛び出し乗用車と衝突して死亡した女性
三 監察医と法医学者
レース中にコースアウトして防波堤に激突した競艇選手
四 母と娘
容態が急変して病院に運ばれ治療中に死亡したマイコプラズマ肺炎患者
五 背約と誓約
腹膜炎によるエンドトキシンショックで死亡した10歳の少女

一見、犯罪性のなさそうな遺体を半ば強引に解剖する光崎教授の狙いが明らかになるのは五話目です。それらの遺体に共通していたある事実を隠蔽しようとしていたのも意外な人物ですが、わかってみればなるほどな伏線は第一話からあったのですね。
受け身だった真琴が最終話では自ら動いて真相に近づきます。この彼女の変化は法医学者としての成長でもあるのです。

さて、上司の渡瀬警部も相当の曲者(でも検挙率はピカイチ)ですが、その部下である埼玉県警捜査一課の古手川和也刑事がまた猪突猛進な熱血刑事で、感情的で気の強い真琴とどこか似た面があるので、最初は反発していた真琴の気持ちにも変化が生じてきます。法医学ミステリーではあるけれど、今後恋愛要素も仕掛けられているようです。

シリーズ第四弾まで出ているようなので続編を読むのが楽しみ♪

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パリタクシー ネタバレあり

2023年04月12日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2023年4月7日公開 フランス 91分 G

パリのタクシー運転手のシャルル(ダニー・ブーン)は、人生最大の危機を迎えていた。金なし、休みなし、免停寸前、このままでは最愛の家族にも会わせる顔がない。そんな彼のもとに偶然、あるマダムをパリの反対側まで送るという依頼が舞い込む。92歳のマダムの名はマドレーヌ(リーヌ・ルノー)。終活に向かう彼女はシャルルにお願いをする、「ねぇ、寄り道してくれない?」。人生を過ごしたパリの街には秘密がいっぱい。寄り道をする度、並外れたマドレーヌの過去が明かされていく。そして単純だったはずのドライブは、いつしか2人の人生を大きく動かす驚愕の旅へと変貌していく!(公式HPより)


終活に向かうマダムを乗せたタクシー運転手が、彼女の人生をめぐるパリ横断の旅に巻き込まれていく姿を描いたヒューマンドラマ。(映画.comより)

マドレーヌを演じるシャンソン歌手のリーヌ・ルノーは、エイズアクティビストと尊厳死法制化への活動の長年にわたる功績を称えられて、2022年にレジオン・ドヌール勲章を受賞しているそうです。シャルルを演じているコメディアンのダニー・ブーンとは実生活でも親交が深いとか。

タクシーが走るのは、エッフェル塔やシャンゼリゼ通り、ノートルダム寺院、凱旋門、パルマンティエ大通りといったパリの観光名所でもあります。

マドレーヌの自宅があるブリ=シュル=マルヌは中心部から12km以上離れています。最初の寄り道は12区のマドレーヌが生まれ育った町ヴァンセンヌ。
パルマンティエ大通りは、マドレーヌの母が働く劇場があった10区から11区に渡る大通りで、今では若者に人気のエリアです。マドレーヌとシャルルが一服したアルコル橋は、1944年のパリ解放時には自由フランス軍の戦車が通りました。橋から見えるコンシェルジュリーはかつての牢獄で、その奥に見えるパレ・ド・ジュスティスはマドレーヌが裁かれた裁判所です。エッフェル塔を過ぎ、シャンゼリゼ通りで、二人はアイスを食べます。この時マドレーヌは夫との過去を話すの。重すぎる量刑に憤慨するシャルル。ヴァンドーム広場でシャルルは娘とのドライブでイルミネーションを見せた話をします。老人ホームからの催促の電話を無視して、シャルルはマドレーヌをディナーに誘いマレシャル=ジュワン広場のある17区のレストランで夕食をとります。お金に困っているシャルルでしたが、医師である兄への無心を止め、レストランの支払いも自分が持ちます。ディナーの後腕を組んでタクシーに戻る際のマドレーヌの何と幸せそうな笑みでしょう。老人ホームがあるイル=ド・フランスの街クルブヴォアがゴールです。

不愛想な上にすぐにカッとなるシャルルですが、妻や娘への愛情に溢れています。初めは嫌々話に付き合っていたシャルルでしたが、マドレーヌの語る彼女の人生の喜びや悲しみに触れることで、うんざりする仕事場だったパリを再発見する旅に変っていきます。免停寸前の彼がうっかり赤信号を渡って警官に停められた時、マドレーヌは婦人警官に何事かを告げて、解放されます。彼女は自分が心臓病で手術を受けに向かう途中であり、シャルルは孫で心配のあまり注意がおろそかになっていたのだと言ったのだと笑います。

戦時下でのアメリカ兵との短く熱い恋は、彼の帰国で終わりを告げ、授かった息子が生きがいとなったマドレーヌでしたが、その後結婚した夫はDV男で、息子を守ろうとした彼女は過激な反撃をします。当時は男尊女卑がまかり通り、DVも離婚も世間が認めず、有罪となった彼女は刑に服します。裁判官も陪審員も皆男性で、夫の嘘を受け入れた結果です。出所し母と息子の元に戻ったのも束の間、世間の目に曝され続けて苦しんだ息子は写真家となってパリから逃げるように戦場に赴き半年後に亡くなります。その後の彼女は活動家となって独身を貫いたようです。
彼女の夫は、連れ子が邪魔で、妻を独占したかったのと自分の子供が欲しかったのだと思いますが、マドレーヌにとっては息子が一番だった。気持ちのすれ違いが生んだ不幸な関係だった気がします。

タクシー代を払おうとするマドレーヌに「後日面会に行くからその時に」と帰ったシャルルは、妻に彼女の話をして会わせたいと言います。しかし、後日ホームを訪れたシャルルは前日にマドレーヌが亡くなったと聞かされます。彼女は重い心臓病で余命いくばくもなかったのだと。警官に語ったのは半分は本当のことだったのね。

葬儀に赴いたシャルル一家の前に彼女の代理人が現れ、手紙を渡します。そこには自由に生きろと書かれており、彼女の遺産の小切手も入っていました。

老人ホームへの入居は本意ではなかったマドレーヌにとって、シャルルに自分の人生を話し、彼と心を通い合わせたこの一日は、アメリカ兵と恋に落ちた三か月の次に幸せな時間だったのですね。そしてシャルルにとっても自分を見つめ直すきっかけになった筈。
マドレーヌが父親から聞いたという「怒ったら人は一つ歳を取り、笑顔で一つ若返る」という言葉が深いです。渋面だったシャルルの表情がだんだん明るくなっていくのも良かった!

フランス映画らしい深くて味わいのある余韻の残る作品です。

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耳をすませば

2023年04月07日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2022年10月14日公開 114分 G

読書が大好きで元気いっぱいな中学生の女の子・月島雫(安原琉那)。
彼女は図書貸出カードでよく見かける、ある名前が頭から離れなかった。
天沢聖司(中川翼)―――全部私よりも先に読んでる―――どんなひとなんだろう。あるきっかけで“最悪の出会い”を果たした二人だが、聖司に大きな夢があることを知り、次第に惹かれていく雫。聖司に背中を押され、雫も自分の夢を胸に抱くようになったが、ある日聖司から夢を叶えるためイタリアに渡ると打ち明けられ、離れ離れになってもそれぞれの夢を追いかけ、また必ず会おうと誓い合う。
それから10年の時が流れた、1998年。雫(清野菜名)は、児童書の編集者として出版社で働きながら夢を追い続けていたが、思うようにいかずもがいていた。もう駄目なのかも知れない―――そんな気持ちが大きくなる度に、遠く離れたイタリアで奮闘する聖司を想い、自分を奮い立たせていた。
一方の聖司(松坂桃李)も順風満帆ではなかった。戸惑い、もどかしい日々を送っていたが、聖司にとっての支えも同じく雫であった。ある日、雫は仕事で大きなミスをしてしまい、仕事か夢のどちらを取るか選択を迫られる。答えを見つけに向かった先は―――。(公式HPより)


スタジオジブリのアニメ映画の原作の柊あおいの漫画の実写映画です。中学時代の物語に加えて、2人が大人になった10年後がオリジナルストーリーで描かれています。
監督・脚本は「ツナグ」「約束のネバーランド」の平川雄一朗。

原作漫画は未読ですが、ジブリアニメは観ました。
今作はアニメに忠実に描かれている印象を受けましたが、舞台を見ているようで、セリフ回しがアニメにあまりにも寄せ過ぎなために不自然過ぎてイタイ印象を受けました。

出版社で編集者として働きながら作家になる夢を追っていた雫ですが、コンクールに応募しても落選が続き気持ちが挫けてきます。仕事の方も、受け持っていた児童作家の園村(田中圭) から担当を外れて欲しいと言われ凹みます。でも編集長の顔色ばかり窺って自分の意見を言えず流されてる彼女に信頼を持てなくなった園村の気持ちの方が良く理解できるぞ。

10年間一度も会わない関係を遠距離恋愛と呼べるのかは疑問ですが、ここにきてようやく雫は聖司に会いに行くんですね。そういえば、アニメ版ではバイオリン職人になるためにイタリアに行った聖司ですが、実写ではチェロ奏者を目指してに設定が変わってますね。

聖司と会って、「昔聞こえた心の音が今は聞こえない」と悩みを打ち明けた雫に聖司も同じだと言い、雫に作家になる夢を諦めて欲しくない言います。
聖司のチェロで、「翼をください」を歌った雫は何かが吹っ切れた様子。いやいや、これってアニメ版の「カントリーロード」の代わりですか?回想編ではめいっぱいアニメ版に寄せていたのに歌は違うんかぃ!と突っ込んでおきます。😁 

そして有休を無理やりお願いして同僚にフォローしてもらってイタリアまで行ったのに、聖司のカルテットのメンバーのサラから「住む世界が違う」 と言われて逃げ帰る雫。自分に自信が持てない時のキツイ言葉はこたえるけれど、そもそも雫ってこんなにビビりの消極的な子だったっけ?

日本に帰り、仕事に前向きになった雫は園村にもきちんと謝罪します。少し大人になったということでしょうか。そして「書きたいこと」も見つかったような・・・。
ラストは、数ヶ月後に帰国した聖が雫の家の前まで自転車でやってきて「思い出の丘」に連れて行ってプロポーズって・・・突然すぎだろ!!

主役の二人より、中学の同級生で雫の親友の原田夕子(内田理央) と、杉村竜也(山田裕貴) のカップルを見ている方が楽しかったというのが正直な感想です😒

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猫のお告げは樹の下で

2023年04月06日 | 
青山美智子(著) 宝島社文庫

ふと立ち寄った神社で出会った、お尻に星のマークがついた猫―ミクジの葉っぱの「お告げ」が導く、7つのやさしい物語。失恋した相手を忘れたい美容師、中学生の娘と仲良くなりたい父親、なりたいものが分からない就活生、夢を諦めるべきか迷う主婦…。なんでもない言葉が「お告げ」だと気づいたとき、思い悩む人たちの世界はガラッと変わっていく―。あなたの心もあたたかくなる連作短編集。(「BOOK」データベースより)

[一枚目]ニシムキ
失恋した美容師のミハルへの「お告げ」はニシムキです。
彼女には時子さんという叔母がいるのですが、お洒落とは程遠く「貯金が趣味」と言っていた彼女を敬遠していました。時子さんから中古のマンションを買って近くに引っ越してきたから遊びにおいでという手紙をもらったミハルが訪ねていくと、強烈な西日の当たるリビングに通されます。でも時子さんにとってはこのニシムキの部屋こそが購入の決め手だったのです。時子さんと話しているうちに、ミハルは失恋の痛みがいつか誰かを幸せにするほど素敵なものに変わる、その時まで忘れずに待とうと思うようになります。 リビングの窓から見える夕暮れの景色の息をのむような美しさに「私はね、この空を買ったの」 という時子さんが重なりました。

[二枚目]チケット
思春期の娘との距離感が掴めず戸惑う耕介へのお告げはチケット。
娘のさつきから、彼女が大好きなアイドルグループのコンサートチケットに応募したいと頼まれてスマホで申し込んだら当選するのですが、うっかり自分の名前で応募したため、思いがけず娘と一緒に参加することになります。
そうそう!今は紙のチケットじゃなく電子チケットで本人確認が当たり前なのよね~~😖 
アイドルグループのアルバムをこっそり買って、娘の好きなアイドルの名前(たっちん)と顔を覚えて、当日は一緒にコンサートを楽しむ耕介が微笑ましい。コンサー直前に出た、たっちんの熱愛報道に凹む娘に熱く叱咤激励する姿は妻の美恵子さんじゃなくとも惚れ直すわ~~💛
二人のためにメンバーカラ―のブレスレットをお揃いで作って送り出す美恵子さんの絶妙なアシストも😊 でした。

[三枚目]ポイント
就活生の慎へのお告げはポイント。
これまで親や周囲に流されるままに生きて来た慎が、バイト先のCDショップの先輩の竜三さんからギターを借りたことで、自分の進む道を自ら考えるようになります。部屋の壁に貼った一枚の紙に★を書き込むのを見た慎に、竜三さんは「ポイントカード」みたいなものと説明します。一杯になったら喜びがもらえる、感謝の気持ちを忘れたくないのだと言う竜三さんに、慎はこれまでの自分を反省します。そして自分にしかできないことではなく、自分だからできることを探し始めるのです。

[四枚目]タネマキ
店を畳み、息子の妻と孫と暮らす哲さんへのお告げはタネマキ。
プラモデル屋を営んでいた哲は、妻の定年を機に店を畳んでのんびり暮らそうと思っていたのですが、妻から離婚を切り出され驚愕します。息子からは家族をないがしろにして自分の好きなことばかりしてきたからだと言われます。
独りで暮らしていた哲の前に、突然押しかけるように同居してきた息子の嫁の君枝から遠慮なくこき使われ閉口しながらもいつしか哲はこの暮らしを楽しみ始めていました。口下手な哲のことを君枝はとてもよく理解しているのが伝わってきます。
孫の未央が車のプラモデルに興味を示したことが嬉しくて、一緒に作ろうとしますが、まだ2歳の未央は目を離した隙にタイヤを喉に詰まらせてしまいます。哲は愛する者が自分から離れていくことを恐れるあまりに偏屈を装っていますが、そんな彼に君枝は子供の頃の出会いを語ります。兄のプラモデルを過って壊した君枝が哲に直したもらったことでドールハウスという趣味を持ち、それが店を持つ夢に繋がっていったのです。タネマキは哲のこれまで蒔いてきた夢とか希望の種のことだったのね。

[五枚目]マンナカ
小4のちょっと内気な深見和也へのお告げはマンナカ
転校初日に家に遊びにきた岡崎君たちから、大好きな苔をカビと馬鹿にされフカビとあだ名を付けられた和也はショックを受けます。担任がクラスに馴染むようにと岡崎君を隣の席にしたことで、更に彼の心は疲弊していきます。彼と向かい合って食べる給食の時間が耐えられなり教室を飛び出した和也は、保健室で給食を食べるようになります。保健室には朝礼で倒れた山根先生も来ていました。養護の姫野先生に抱えられる姿を子供たちも先生たちも笑いますが、和也はそんな彼らに違和感を覚えます。山根先生も苔が好きだとわかり、さらに黴も人の役に立つのだと教えてもらった和也は、自分にも思い込みがあったことに気付きます。その山根先生が心を病んで退職すると知り、和也はタラヨウの葉に手紙を書いて姫野先生に頼んで届けてもらいます。山根先生からは丁寧なお返事が届きました。山根先生にとって、和也という生徒との出会いはきっと一筋の希望となったのかもしれませんね。
マンナカとは自分が真ん中に行くことではなく、自分の思う事が真ん中だと自信を持てという意味だったようです。
皆の輪から外れないよう浮かないようと無理をして息が出来なくなるより、自分らしく胸を張っていようと決めた和也が岡崎君の目を見て対峙した時、目を逸らしたのは岡崎君の方でした。

[六枚目]スペース
幼稚園に通う悠のお母さんの千咲へのお告げはスペース
10歳年下のママ友の何気ない言葉に無意識のうちに張り合い傷ついていた彼女は、心の余裕(スペース)を失っていました。「こうに決まっている」と思い込んで初めから諦めている自分に気付いた時、その思い込みを外して心のスペースを広げ「何も決まっていない」に上書きするというアドバイスを宮司さんに貰った彼女は長年の夢である漫画家を再び志すようになります。

[七枚目]タマタマ
占い師の彗星ジュリア(ニコさん)へのお告げはタマタマ
派手な化粧と衣装で本当の自分を隠している彼女が、唯一心を許せる相手が税理士をしている高校の同級生のともやんです。
宮司から荒魂と和魂の話を聞いた彼女は、占い師になった頃の想いを思い出します。マスコミに出て派手な活躍をすることを止め、ひっそり必要としてくれる人にだけ匿名で仕事をすることを選んだ彼女は、偶然の再会(たまたま)を得て二つの「タマ」を上手に使い分けるのね。
一旦は断った玉木たまきさんの依頼を受けて失くした鍵が見つかりますが、たまきさんはその鍵を箱を開けるのではなく閉めることに使います。箱の中身は空でしたがその理由は、他人の悪口や愚痴を一切言わないたまきさんの「本当の思い」を箱に向かって話していたからです。たまきさんにとって形はなくとも他人に決して見られたくないものだったのです。

ここだけの話
7話に登場した人達がそれぞれ幸せに暮らしていることが宮司さんの口から語られます。お告げの意味を考え、気付くことで彼らは自らを変えることができました。

それぞれ独立した物語ではあるけれど、登場人物たちが何気にすれ違っていたりします。神社の通りの角に建つ雑居ビルの閉店した店が哲さんのプラモデル屋さんだったり、そのビルの上階にともやんの税理士事務所が入っていたり・・・。
哲さんは君枝さんと二人でプラモデルとドールハウスの模型専門を新規オープンして仲睦まじく喧嘩しながら暮らしています。ちなみに宮司さんの父親と哲さんは幼馴染だったのね。ニコさんはともやんの事務所の一角で覆面セラピストをしているそうです。和也君が山形に帰った山根先生とタラヨウの葉で文通をしているというエピソードがほっこりします。

小太りで温和な宮司さんもミクジに会う事ができました。彼へのお告げは「☆」ミクジのお尻にあった星形マークです。その意味は?仲間だよかな、それとも・・・。

受け取ったお告げを自分なりに考えることで彼らは前向きに変わります。
ほっこりと心があたたまる読後感です。

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