杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

懲役病棟

2023年10月29日 | 
垣谷美雨(著) 小学館文庫

神田川病院の“金髪女医”太田香織と看護師・松坂マリ江は、ひょんなことから女子刑務所に派遣される。当初は、受刑者との距離を感じていたが、同僚から授かった不思議な聴診器を胸に当てると――
惣菜四三〇円の万引きで懲役二年を科せられていたり、夫からの執拗なDVに耐えきれず殺害に及んでいたり、はたまた悪い男にそそのかされ、クスリに手を出していたり、と彼女たちの切実な事情が見えてきた。
二人は受刑者たちとは個人的に接してはならないという禁を破り、あっと驚く方法で解決に乗り出してゆくが……。(あらすじ紹介より)

「受刑者は私だったかもしれない――
そんな想像を読者に抱かせる本書を心からお勧めします」
村木厚子さん(元厚生労働事務次官)

 「後悔病棟」「希望病棟」に続くシリーズ第三弾ということですが、いきなり本作から入りました。😁 

同じ房にいる4人の受刑者が発熱して診察を受けたことから、彼女たちの境遇を知った香織とマリ江が、医者と看護士の立場を超えて支援しようとするお話です。
初めは受刑者に対する偏見を持っていた香織でしたが、不思議な聴診器とマリ江の指摘で、実は彼女たちも何ら変わらない普通の女性であることに気付きます。罪を犯した事情は様々だけど、環境や男が悪いのだと結論付けた香織は、彼女たちを救うために行動を起こすのですが、同僚たちを使っての探偵まがいの行為をさせたり、受刑者の家族を呼びつけたりとかなり強引な手法です。でもそれが痛快なの。
金髪でため口の香織はおよそ医者らしくありません。何しろ元ヤンの過去があります。😁 実家もお医者さんのお嬢様な香織は世事に疎い所もあるのですが、マリ江が教育係的な立場でフォローしてくれていて、なかなか良いコンビになっていました。マリ江が作る晩御飯の美味しそうな描写も楽しかったし、病院に戻ってから作る(作らされる)お弁当の中身も美味しそう😋 

第一章 万引き犯 谷山清子 62歳
貧しさから万引きを繰り返している
手紙も面会もない一人息子を呼び出して母親の状況を伝えたことで面会に来るようになり身元引受人になったことで模範囚でいれば刑期が短縮

第二章 殺人犯 児玉美帆 40歳
夫のDVに耐えきれず殺した
夫の両親に子供たちが引き取られ手紙を出しても返事が来ていない
同僚の岩清水先生に頼んで夫の両親に子供たちの状況を聞いてもらうが、その際彼らが高齢で子供を可愛いと思えないことや息子が殺されたことで美帆を憎んでいることを知り、美帆の両親に子供を引き取ってもらうよう説得したことで子供たちや実家の親から手紙が来るようになった

第三章 覚醒剤事犯 山田ルル 26歳
両親からネグレクト状態で育ったため、自分の居場所を求めて悪い男に引っかかり覚醒剤を常習して収監
同僚の摩周湖先生に調べてもらい、男が実は結婚していて5人の子持ちであることを伝えたことで男と別れる決心がついた
出所後は同じ房の仲間と暮らすことになる

第四章 放火犯 秋月梢 80歳
孫が虐めで自殺した際、学校や教育委員会が事実を認めず隠そうとしたことで教育委員長の家に放火し収監
生き甲斐もなく死にたいと思っていることを知り、高齢の受刑者の現状を見せることで元気で出所したいと思うようになる

第五章 受刑者からの手紙
香織とマリ江が半年の派遣期間を経て病院に戻った後に4人の受刑者たちからそれぞれ手紙が届きます。本人が知らないところで動いてくれた二人への感謝が綴られていました。

解説 村木厚子 
3つのリアルを丁寧に説明・解説しています
罪を犯す人のリアル:受刑者=悪人ではなく、それぞれに事情があり時に被害者でもあること
刑務所の中の暮らしのリアル:番号で呼ばれ8時間労働などの日常
世間のリアル :受刑者に対する偏見や差別の目は出所後もつきまとう現実

香織先生たちのお節介が功を奏す形ですが、同じ房の年齢の異なる4人が家族のような関係になっていく様子もほっこりしてきます。もし親身になってくれる家族や友人がいたら、彼女たちは罪を犯さずに済んだのかもとも思いました。やっぱり人は独りでは生きていけないんだな~~😊

  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

愛する人に伝える言葉

2023年10月28日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2022年10月7日公開 フランス 122分 G

バンジャマン(ブノワ・マジメル)は人生半ばで膵臓がんを宣告され、母のクリスタル(カトリーヌ・ドヌーブ)とともに、業界でも名医として知られるドクター・エデ(ガブリエル・サラ)を訪れる。彼に一縷の希望を託す母子だったが、エデはステージ4の膵臓がんは治せないと率直に告げる。ショックのあまり自暴自棄になるバンジャマンにエデは、「命が絶える時が道の終わりですが、それまでの道のりが大事です」と語り、病状の緩和による生活の質を維持するために化学療法を提案し、「一緒に進みましょう」と励ます。
一方、母親のクリスタルは、息子が「不当な病」になったのは、自分のせいではないかという罪悪感に駆られる。彼女には、バンジャマンが若くして当時の彼女とのあいだに子供を作ったとき、息子の将来を思うあまり、彼らとの仲を引き裂いた過去があり、そうした心労を与えたことが病に繋がったのではないかと悩む。だが、ドクター・エデの助けを借りて、クリスタルは息子の最期を出来る限り気丈に見守ることを心に決める。(公式HPより)


ガンで余命宣告を受けた男とその母が穏やかに死と対峙していく姿を描いたヒューマンドラマです。主治医のドクター・エデを演じたガブリエル・サラは、実際に現役の癌専門医で、患者たちのためのタンゴの公演や音楽によるセラピーや、映画の冒頭で登場する看護師たちの精神的負担を和らげるような明るいミーティング風景も、実際に彼が病院で企画していることだそうです。
本作は死を語ることで生の尊さを描き出しています。

夏。
他の病院で膵臓癌を宣告され切除不能と言われたバンジャマンは、化学療法を断り第一人者と言われるドクター・エデを訪ねて治して欲しいと訴えます。けれどエデはステージ4の膵臓がんは治すことができず、緩和はできるがいつか癌に負ける日が来ると語り化学療法を勧めました。同行してきた母のクリスタルは息子が癌に侵された責任を感じていました。
受験を控えた学生たちに演劇を教えているバンジャマンは、彼らに「最期の日」の芝居をさせながら生きるための選択をします。

再びエデの元を訪れ化学療法を始めたバンジャマンですが、母に八つ当たりするなど気持ちが不安定になります。エデに余命を尋ねたところ統計上は半年から1年と告げられ一旦は自暴自棄になりますが、エデの励ましに少しずつ心を開き、化学療法を続けることにします。劇場で熱心に指導するバンジャマンに、学生のローラは思いを寄せるようになります。

秋。
病室での息子の衰弱していく姿に堪えられなくなったクリスタルはエデに心情を打ち明けます。エデは彼女に彼の傍にいて愛し甘やかすようにと励ましました。

クリスタルは息子の元恋人のアンナに電話をして息子の状況を知らせます。クリスタルはかつてバンジャマンとアンナの仲を引き裂いていました。アンナは二人の間に出来た息子のレアンドルの認知もしなかった二人を憎んでいましたが、事実を知らされたレアンドルは「ひとりで会いに行く」選択をします。

冬。
バンジャマンは病状が悪化し再入院しています。
レアンドルはエデから「患者は愛する人々に囲まれて安らかに旅発つのがいい」と諭されますが、一度も会ったことも連絡もなかった父と会う決心がつかず病室に向かうことが出来ずにいました。

やがて、治療の効果がなくなったことを告げたエデは、バンジャマンに意識のあるうちに会いする人に伝えて欲しい5つの言葉を教えます。
人生の整理を始めたバンジャマンは遺産の手続きを巡ってクリスタルと口論になり
どうするかは自分で決める、19年前のように指図させないと言います。当時の自分の選択が今でも彼を苦しめていました。

ローラが見舞いに訪れます。試験前にアドバイスをもらうことを口実に会いに来たローラですが、バンジャマンとの別れを察して病室を出て行きます。

バンジャマンは、看護師のユージェニー(セシル・ドゥ・フラン)に「誰も幸せにしなかったし、誰からも必要とされなかった」と弱音を漏らします。ユージェニーは黙って優しく彼を抱擁しました。(抱擁だけでなくそれ以上のスキンシップがあったような😥 さすがフランス映画だな)

再び病院を訪れたレアんドルですが、まだ父と会う覚悟はできず、父のための採血を申し出ますが自分の血だとは言わないで欲しいと告げます。

春。
バンジャマンは最後の力を振り絞ると、法定管理人を呼んで子供を認知し全財産を譲る遺言を残します。
衰弱していく息子に「ごめんなさい」と謝る母に、彼はエデから教えられた5つの言葉で応えます。
「赦して」「俺は赦す」「ありがとう」「さよなら」「愛してる」

週末。非番で病院を離れるエデとユージェニーが病室を訪れそれぞれ最後の別れを言います。ユージェニーが、彼の手を握り「あなたの血管にはあなたの息子の血が流れてるのよ」と囁くと、バンジャマンの目から涙がこぼれ落ちました。

クリスタルは音楽療法士に、息子が好きだった『愛の哀しみ』をリクエストし、ギターの音色を聴きながら席を外します。その間にバンジャマンは静かに息を引き取ります。彼の最期に居合わせたのはレアんドルでした。音楽療法士にギターを借りて、父の安らかな顔を見ながら『愛の哀しみ』を歌うレアんドルの歌声が響きます。


癌を宣告された患者が一縷の希望を求めながらもその望みを絶たれたら、まず感じるのが絶望でしょうか。バンジャマンも例外ではありません。でも彼は教え子たちの受験を後押ししながら、自らが受けた衝撃や悲しみを克服していきます。

化学療法を拒否していた彼はエデのQOLを保つためという言葉を受け入れて治療を始めますが、やがて効果も無くなりどんどん衰弱していきます。ブノワの演技力が光ります。
やがて迫りくる死を受け入れ、人生の整理を始めるバンジャマン。彼の心の中には母に従って息子を認知できなかったことへの負い目や後悔がずっと残っていました。
母のクリスタルは、息子の将来を思ってアンナとの仲を引き裂きましたが、本音は自分の元から息子が去っていくことが耐えられなかったのです。もし彼女が子離れできていたら違う人生が待っていたはず。病に倒れた息子を前に母もまた後悔に襲われています。
そんな二人をエデの教えた5つの言葉が救うのです。
過去は変えられないけれど、赦し感謝し別れを告げることで安らかな死を迎えることもできたのですね。

主治医が患者の家族の気持ちをも受け止め助言する姿も温もりを感じましたが、最期に立ち会うことなく別れを告げるのは少々違和感がありました。でもそういうドライな所が欧州流なのかな。それに、ベストを尽くして治療に当たり患者との信頼関係が築けているからこその割り切り方なのかもしれないなぁとも思いました。

同様に息子のレアんドルが意識のあるうちに父に会うことをしなかったことも、彼の葛藤は理解しても、やはり後悔が残りそうな気もします。
邦画なら会って和解というか赦し合う結末になりそうですが、本作の結末もやはりフランス映画らしいかな。😁

  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

魔女は甦る ネタバレ

2023年10月27日 | 
中山七里(著) 幻冬舎文庫

元薬物研究員が勤務地の近くで肉と骨の姿で発見された。埼玉県警の槇畑は捜査を開始。だが会社は二ヶ月前に閉鎖され、社員も行方が知れない。同時に嬰児誘拐と、繁華街での日本刀による無差別殺人が起こった。真面目な研究員は何故、無惨な姿に成り果てたのか。それぞれの事件は繋がりを見せながら、恐怖と驚愕のラストへなだれ込んでいく…。(「BOOK」データベースより)


一 魔女の末裔
捜査歴12年の中で最も凄惨な現場に遭遇した槇畑。損壊度の激しいバラバラ死体の身元は、残されていた身分証から現場近くのスタンバーグ製薬会社に勤めていた桐生隆と思われました。
本人確定のため診察券にあった歯科医院を訪ねた槇畑は、院長から桐生が薬学に関して特異な思考の持ち主で、自身を魔女の末裔と言っていたことを聞き出します。

捜査会議に合流した宮條は、桐生が務めていたスタンバーク社は新種の覚せい剤ヒートを作って巷に流していた疑惑があるという情報が開示します。
ヒートは攻撃本能を高める副作用があり、最近都内で起きた3件の凄惨な事件はヒートによって引き起こされていました。

二 魔女を狩る者
事件現場の近くで嬰児誘拐事件が発生します。近辺では飼い猫が9匹もいなくなっていました。
槇畑は宮條と組むことになり、スタンバーク社の研究所を訪れますが中に入ることはできません。捜査をしようにもドイツ本社の許可が下りないのです。
都内で事件を起こした少年たちにヒートを流したのが桐生だと判明し、宮條は独自に捜査を続けます。裏組織の恨みを買い妹を無残に死なせてしまった過去を持つ宮條は覚せい剤とその売人を深く憎悪していました。

その宮條が槇畑に電話をかけてきますが、話し始める前に突然切れてしまい、連絡がつかなくなります。もしやと再び研究所を訪れた槇畑の前に遺体現場で会った桐生の恋人の薬大生の鞠村が現れ、モデルガンで撃った烏を調べるようにと渡されます。そしてその烏からヒートが検出されます。

鑑識の結果や、スタンバーク社の元研究員の証言、宮條の友人の麻薬取締官の話を総合して事件の真相を直感した槇畑は、以前から事件の真相に気付いて動いていた毬村の行動を止めようとしますが、押し切られて一緒に証拠を見つけに行くことになります。

桐生を殺した犯人は研究所が閉鎖された際に打ち捨てられていた実験動物の死骸を食べてヒートに汚染され狂暴化した烏でした。

三 魔女の下僕
ヒートの半減期を延ばすことに成功した桐生は、少年たちで実験をしますが、予想以上の効果に慌てた本社は研究所を閉鎖し、薬を処分していました。
桐生の生い立ちを知り彼の人間性を信じていた鞠村は、桐生の汚名を晴らし烏に復讐しようとしていました。

槇畑と鞠村は、烏がねぐらとしている洞窟の奥で、宮條の死骸や嬰児の着衣などの証拠を発見しますが、鞠村が思わず上げた悲鳴に反応した烏たちに襲われます。必死に研究所に逃げ込みますが、烏の執拗な攻撃に地下室に閉じ込められてしまいます。真っ暗で低温の地下で、緊急時の電源を作動して桐生が作ろうとしていたヒートの解毒剤の資料を発見しますが、侵入者用の防御装置が作動して再びロビーに戻らざるを得なくなった二人は、鞠村が作った簡易爆薬で脱出を試みます。威力はすさまじく烏と共に研究所も業火に包まれますが、間一髪、渡瀬たちにより二人は救い出されます。

エピローグ
病室の槇畑を渡瀬が訪ねてきます。
烏の攻撃を全身に受け、片目も失った槇畑ですが、全治二か月で済んだのは、烏の嘴から入ったヒートの攻撃本能を高める力のおかげでした。
しかも、夥しい出血をしたせいでヒートの成分は体内に蓄積されずに排出されていました。

渡瀬に退職願を破棄され復帰を促されるも、彼の気持ちは揺れています。
右眼を失い、仕事への不安もありますが、毬村を守り切れなかった自戒の念も強かったのです。彼女は身体の3割に火傷を負い集中治療室で昏睡状態が続いています。槇畑は、過去に救えたかもしれない命を見捨てたという後悔を抱えていて、毬村を守ることでその思いを克服できるのではという気持ちがありました。

研究所が灰燼に帰したことで、桐生が生み出したヒートの解毒剤やその製造方法も灰になり、事件そのものの立件も困難でした。烏相手にどうすることもできないものね。

リハビリのため外に出た槇畑は、渡瀬から事件現場の近くで主婦が狂暴な野犬に襲われた話しを聞かされます。槇畑は、事件は終わりではなく、ヒートで狂暴化した獣たちによる事件が今度増えるのではないかと予期したヒートによって凶暴化した獣たちの事件が増えることを予期します。
その時、片目の烏(以前鞠村に頼まれて撃った)と目があった彼は、コイツが首謀者だと直感します。そして彼の視界は黒く覆われ・・・。


犯人探しは前半だけで、後半は烏との壮絶なバトルが延々続きます。
正直飛ばし読みしたくなるほどの、一難去ってまた一難の連続で、宮條の妹の事件描写といい、この手のジャンルは苦手です。😞 
犯人が人ではなく烏という点で特異な展開ですが、そもそも、彼らを狂暴に変えたのは人間というわけで。😣 物語に登場する製薬会社が、人類の黒歴史の主役的立場というのも不気味です。研究所を閉鎖する際に焼却処分ではなく敢えて実験動物の死骸を野外の穴に放置したのも、冷酷な意図を感じます。彼らが作ろうとしていたのは痛みを感じず暴走する闘争本能のままに殺戮をする兵士であり、薄々気付いていながらなお及び腰の政府の対応では本当に未来が危ぶまれるぞ。


  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

愛にイナズマ

2023年10月27日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2023年10月27日公開 140分 G

26歳の折村花⼦(松岡茉優)は気合に満ちていた。幼い頃からの夢だった映画監督デビューが、⽬前に控えていたからだ。だが物事はそううまくはいかない。滞納した家賃は限界で、強制退去⼨前。花⼦の若い感性をあからさまにバカにし、業界の常識を押し付けてくる助監督(三浦貴大)からは露⾻なセクハラを受け怒り⼼頭だ。そんな時ふと⽴ち寄ったバーで、空気は読めないがやたら魅⼒的な舘正夫(窪⽥正孝)と運命的な出会いを果たし、ようやく⼈⽣が輝きだした⽮先……。卑劣で無責任なプロデューサー(MEGUMI)に騙され、花⼦は全てを失ってしまう。ギャラももらえず、⼤切な企画も奪われた。失意のどん底に突き落とされた花⼦を励ますように、正夫は問う。
「花⼦さんは、どうするんですか?映画諦めるんですか?」
「舐められたままで終われるか!負けませんよ、私は」
イナズマが轟く中、反撃を決意した花⼦が頼ったのは、10年以上⾳信不通の家族だった。妻に愛想を尽かされた⽗・治(佐藤浩市)、⼝だけがうまい⻑男・誠⼀(池松壮亮)、真⾯⽬ゆえにストレスを溜め込む次男・雄⼆(若葉⻯也)。そんなダメダメな家族が抱える“ある秘密”を暴き、⾃分にしか撮れない映画で世の中を⾒返してやる!と息巻く花⼦。突然現れた2⼈に⼾惑いながらも、 花⼦に協⼒し、カメラの前で少しずつ隠していた本⾳を⾒せ始める⽗と兄たち。修復不可能に思えたイビツな家族の物語は、思いもよらない⽅向に進んでいく。そして、“ある秘密”がもたらす真実にとめどなく涙が流れる…。”アフターコロナ”の“現代”で、社会の理不尽さに打ちのめされた花子と正夫が、10年ぶりに再会したどうしようもない家族の力を借りて反撃の狼煙を上げる、愛と希望とユーモアに満ちた痛快なストーリー。(公式HPより)


石井裕也監督オリジナル脚本のコメディドラマということで、もっとお気楽な内容を想像していましたが、業界あるある話が散りばめられた前半は期待に反してどんよりムードです。ところが、後半、花子が家族と合流すると一転コミカルさが加わり、最後は家族愛の人情話になっていきます。
主題歌は、エレファントカシマシの「ココロのままに」です。

映画製作費1500万は低予算の部類のようですが、自費で撮っていた花子にとっては大金。この1500万という数字は誠一の車(本当は社長から借りていた)の値段や、詐欺集団の儲け金額、治が払った慰謝料などあちこちに登場します。

花子の脚本「消えた女」は、幼い頃に突然いなくなった母親を題材にしています。
やっと映画にすることができると喜ぶ花子でしたが、助監督とソリが合わずに脚本だけ取られて降板させられてしまいます。このあたりのエピソードは現実にあるだろ!というリアルさがあって、こちらまで息苦しくなってしまいました。でも花子自身にも問題があるんですよね。😔 若さゆえの花子の未熟さと融通の利かなさが業界慣れした助監督には歯痒く苛立たしかったのかもとも思いました。彼よりも口先だけで丸め込もうとするプロデューサーの厭らしさの方が気に障ります。

花子は「赤」に拘っています。でもその理由は明かされず終いだったような。😔 
赤い自転車に乗り、お節介の挙句に鼻血を出して「アベノマスク」(誰も使わないからタダで貰えると言う説明に失笑)を朱に染めた正夫との出会いが状況を変えていきます。バーで会ったその日のうちに二人はキスしちゃうのね😁 
空気を読めない正夫ですが、純粋で真っ直ぐなところは花子と似ているかも。
正夫の幼馴染でルームシェアしていた落合(仲野太賀)は、花子の映画に出る筈だったのですが、彼女が下ろされたことで降板となり絶望して自殺してしまいます。

正夫と落合の葬式で再会し、夢を諦めるのかと問われ発奮した花子は、自分の家族を
使って自主映画を作ろうとします。正夫は彼女にコツコツ貯めた70万の通帳を渡し使って欲しいと言います。花子の父は胃癌末期で余命宣告をされていますが、次男以外に伝えられていませんでした。突然帰ってきた娘に戸惑いながらも協力しようとする姿がどこかユーモラスに描かれます。家族の前では乱暴な言葉遣いの花子に驚く正夫でしたが、彼女が本音で向き合えるのが家族なのだということにも気付いています。次男は牧師になっていて父も入信しているので、家にはマリア像が置かれ、食事の前には祈りを捧げます。祈りが終わるまで大人しく待っている他の家族の姿も何だか微笑ましい。😊 

仕事を辞めた正夫はカメラ係として一緒についてきますが、違和感なく溶け込んで見えます。
花子の母の失踪の理由は兄たちも知っていましたが、幼かった花子を思い遣って教えていませんでした。母は父の暴力が原因で他に男を作って家を出ていました。父は母に携帯を渡し代金をずっと払い続けていましたが一度も使われることがなかったのです。花子の希望で電話すると、すでに母は亡くなっていたことがわかります。更に失踪の原因となった父の荒れた理由についても意外な事実が父の親友(益岡徹)から語られるに至って、この家族なかなか素敵じゃん!と風向きが変わってきます。
詐欺話しに盛り上がっていた客の言動を我慢していた彼らが、正夫の言葉に触発されて一丸となって立ち向かうなどはなかなか感動的な場面ですがしっかりオチもありました。
母の携帯を解約しようとして店員(趣里)に木で鼻をくくるような対応をされ憤慨する様子も実際アリアリだよな~と可笑しさと腹立たしさが入り混じった気持ちになりました。

それぞれの生活に戻った一家。誠一は社長(高良健吾)に妹を侮辱されたことに腹を立て退職します。

一年後。父が亡くなり、兄妹は母と同じ海に散骨します。花子は皆に映画のタイトルは「消えた女」ではなく「消えない男」に変えると宣言します。

雄二は父(の幽霊)に「最後に皆でハグしたい」と言われ、兄妹と正夫を呼びます。
ハグするしないで揉めている兄妹に正夫は「皆さんもうハグしてますよ」と一年前の動画を見せます。そこには酔っぱらった父を布団に寝かせようとしている子供たちのに嬉しそうな父の顔とハグしている姿が映っていたのでした。

  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ザ・クリエイター 創造者

2023年10月24日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2023年10月20日公開 アメリカ 133分 G

2055年、人間を守るために開発されたはずのAIが、ロサンゼルスで核爆発を引き起こした。人類とAIの存亡をかけた戦争が激化する中、元特殊部隊のジョシュア(ジョン・デビッド・ワシントン)は、人類を滅亡させる兵器を創り出した「クリエイター」の潜伏先を突き止め、暗殺に向かう。しかしそこにいたのは、超進化型AIの幼い少女アルフィー(マデリン・ユナ・ヴォイルズ) だった。ジョシュアはある理由から、暗殺対象であるはずのアルフィーを守り抜くことを決意するが……。(映画.comより)


「ギャレス・エドワーズが監督・脚本を手がけた近未来SFアクショ作品です。

序章:The Creator/創造者
技術開発が進み、ロボットは高度な人工知能(AI)を組み込んだ人型となり、社会に溶け込んでいきました。医療やスポーツ、労働、治安維持などその活動範囲は多岐にわたっていきます。けれど2055年にAIの暴走によりロサンゼルスで核爆発が起きたことで西側諸国は方針を転換し、AIを危険因子として排除する決定を下します。他方、ニュー・アジア諸国はAIとの共存を望んで平和に暮らしていました。

2065年。ニュー・アジアのコ・ナンで妊娠中の妻マヤ(ジェンマ・チャン)と穏やかな夜を過ごしていたジョシュア・テイラーの前にアメリカの特殊部隊が襲ってきました。ジョシュアはAIの創造主「Nirmata(ニルマータ)」 を探るための潜入捜査員でしたが、この作戦は知らされていませんでした。彼の素性を知り驚き失望したマヤは、ジョシュアを振り切り他のAIたちと逃げ出します。彼女の乗った舟は「NOMAD(ノマド)」(宇宙ステーション)により迎撃され、愛する人を目の前で失ったジョシュアは呆然とします。

5年後。ロサンゼルスのグラウンドゼロで清掃作業をしているジョシュアをアンドリュース将軍(ラルフ・アイネソン )とハウエル大佐(アリソン・ジャネイ)が訪ねてきます。ニルマータのノマド破壊計画を阻止する極秘チームへの参加を請われ、断るジョシュアでしたが、マヤの生存が確認された映像 を見せられて、会いたい気持ちから引き受けることにします。

研究所があった場所は農村になっていました。闇夜に紛れて上陸したチームは住民に銃口を向け、地下に隠されていた研究所へと侵入し虐殺していきます。
兵器があると思われる厳重なドアのロックを解除して中に入ると、そこには椅子に座ってテレビを観ているAIの少女がいました。困惑するジョシュアの隙をついて少女は逃げ出します。後を追ったジョシュアはチームの飛行機が撃墜されたのを目撃します。翌日、この少女を見つけたジョシュアはハウエルの命令を無視して、少女にマヤのところに案内させようとします。もちろんハウエルは追ってきます。ハウエルは息子がAI(シミュラント)の女性に騙され殺されたことでAIへの憎悪を煮えたぎらせている女性です。彼女の冷酷な振る舞いも軍人というだけでなくそこに起因しているのでしょう。😖 


第1章:The Child/子
農家に逃げ込んだ二人は警察に包囲されますが、少女の遠隔で電子機器などを制御する能力で難を逃れます。彼女が発達したAIだと気付いたジョシュアは、アルフィーと名付けて通りかかった家族連れの車で逃亡します。検問所を突破し、鉄道でニュー・アジアの大都市に住むジョシュアの親友・ドリュー( スタージル・シンプソン )を訪ねます。そしてハウエルたちも二人の追跡を続けます。

第2章:The Friend/友
アルフィーのコードを調べたドリューは、彼女が最も強力な兵器になる可能性があると告げます。そこへニュー・アジアの警察が踏み込んできて、彼のシミュラントの恋人・カミ(ヴェロニカ・グゥ )が爆発で犠牲になります。間一髪で脱出した3人は、マヤのビーコンを追って5年前、二人が暮らしていた家に辿り着きます。しかしそこにはマヤはおらず、ビーコンを探知したアメリカ軍の攻撃でドリューが倒れます。息を引き取間際、ドリューはジョシュアにマヤこそがニルマータだと伝えます。

第3章:The Mother/母
ジョシュアとアルフィーは、ハルン(渡辺謙)率いるニュー・アジアの武装組織に捕まります。ハルンは、2055年の核爆発はAIの暴走ではなく人間の入力エラーだったのに、アメリア政府が不当にAIに責任転嫁したと語り、AIは人間と平和に共存したいと願っているだけだと主張します。そしてマヤが父の死後に二代目のニルマータになったと言いました。
ハルンはジョシュアを殺そうとしますが、アルフィーが逃がします。
組織の村に連れていかれたアルフィーを、ジョシュアはハルンの隙をついて連れ出しますが、ハウエルとアメリカ軍が村を襲ってきます。
ほぼ一方的に殺戮するアメリカ側なんですが、「G-13」と呼ばれるちょっとユニークな武器が登場。ずんぐりしたドラム缶みたいな形のロボットで、ひたすら直進する時限爆弾なのですが、その走る姿がなんだか可愛いの。だけどやってることは旧日本軍の人間魚雷または特攻隊そのものなんだけど😓 

アルフィーはあらゆる電子機器をコントロールする能力があります。で、このロボット(G-14)を止めるのだけど、次の瞬間撃たれて重傷を負ってしまいます。彼女が意識を失うとこの能力も失われるのでロボットの自爆スイッチも再びオンになるのね。😆 
アルフィーを治せるのはニルマータだってことで、彼女を連れてハルンたちと山奥の寺院に脱出したジョシュアですが、そこで昏睡状態のマヤと再会します。マヤは「あの夜」身籠っていた子どもを喪い自らも昏睡状態に陥っていました。シミュラントはニルマータに害を加えることができないため、彼女は死ぬことができないのです。
アルフィーは「あの夜」の数週間前に、マヤの胎内でスキャンされた子供のDNAに基づいて作られていました。マヤがアルフィーの開発者で、産みの母だったのです。

ジョシュアはマヤの生命維持装置を切ります。そこへやってきたハウエルは、マヤの脳の記憶をチップに保存します。(脳の記憶をメモリに記録させ別のシミュラントにメモリをダウンロードすると一定時間意識が移る装置があり、これを使ってハウエルはジョシュアの裏切りを知った😔  )ハウエルを殺したハルンは、ノマドを破壊して戦争を終わらせるためにアルフィーの力が必要だとジョシュアに語ります。

アメリカ軍に捕まってロサンゼルスに連行された二人。アンドリュース将軍から、アルフィーを殺すよう命じられたジョシュアは実行したと見せかけて彼女を救出して逃亡します。

二人は月行きの宇宙船に乗り込んで、アルフィーの能力を使い宇宙船をノマドに着陸させます。アンドリュース将軍によるAI拠点への大規模ミサイル攻撃を阻止するため、ジョシュアは自分が時限爆弾を設置する間、アルフィーにノマドの動力を遮断して攻撃を阻止させます。将軍の妨害にあい、逃げ道を塞がれたジョシュアは、アルフィーを脱出ポッドに乗せて発射した後、ノマドの中でマヤの姿をしたシミュラントを見つけます。(ハウエルがダウンロードしたメモリチップを使ってアルフィーが起動させていました)駆け寄る二人はしっかり抱き合います。直後にノマドは大爆発を起こし地上に落下していきました。

無事に着陸したアルフィーは、ジョシュアとの別れに涙したあと、ノマドの破壊を祝う他のシミュランとたちを見て微笑むのでした。

AIを敵対視する西側諸国と、共存しようとするニュー・アジア。アメリカが攻撃するのはAI(シミュラント)だけではなく生身の人間、ましてや兵士でもない農民や女子供までという、冷酷非情さに、どうしてもAI側を擁護したくなります。😔 
核攻撃(9.11を連想させる)を受けたという認識がAIに対する憎悪になり、自分たちが正義だという思い込みや傲慢さがとても鼻につきました。ジョシュアが黒人という設定も、何だか皮肉に感じます。AIは所詮感情を持たない機械だというある種偏見を持っていたジョシュアでしたが、アルフィーと行動を共にするうち認識を改めていきます。相手を知ることが差別や偏見を取り除くことに繋がることを伝えているのだと感じました。アメリカ一番!な独善的な結末じゃないところは高評価です。😉 

ニュー・アジアの舞台は東南アジアが主になっているようですが、ハルンは時折日本語😒 仲間はどう見ても日本人じゃないのでちょっと不自然😅 ま、日本でも撮影してたようなので(ほんの少しだけしか出てこなかったけど)スルーしよ。

  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画ネメシス 黄金螺旋の謎

2023年10月23日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2023年3月31日公開 99分 G

⼈気探偵事務所となった『ネメシス』に異変が起きる。突如、依頼がピタリと⽌まり経営難に…仕⽅なく、⼩さな事務所に移転したアンナ(広瀬すず)、⾵真(櫻井翔)、そして、社⻑の栗⽥(江⼝洋介)だったが、追いうちをかけるように、アンナは仲間たちが次々に悲惨な死を遂げる悪夢を毎晩⾒るようになる。時を同じくして、怪しげな⾏動を取り始める⾵真…。そんなある⽇、アンナの⽬の前に“窓”と名乗る奇妙な男(佐藤浩市)が現れる。
アンナの夢に何度も現れるその男は、ある要求を伝える…「私たちが握⼿をしなければ、夢は⼀つずつ現実になっていく」。
その予⾔を阻⽌する為、⾏動を開始するアンナ。しかし…相棒・⾵真の怪しい⾏動を不信に感じたアンナは、かつての敵、天才・菅朋美(橋本環奈)に助けを求める。アンナは連鎖する悪夢を断ち切る事が出来るのか?⾵真は本当に裏切ってしまうのか?出演者たちが⼝々に「難しい脚本」だと称した、何重にも複雑に交錯した物語の先に、本当の裏切り者が姿を現す!(公式HPより)


ドラマ「ネメシス」の映画化です。監督は入江悠。
神奈川県警捜査一課の勝地涼、中村蒼、富田望生、メネシスをサポートするチームネメシスメンバーの大島優子、上田竜也、奥平大兼、加藤諒、南野陽子、真木よう子など、ドラマ版のキャストに加え、映画版キャストとして佐藤浩市が正体不明の男「窓」を演じています。

TVドラマの時から違和感のある作品で、映画公開時も劇場で観たいとは思わなかったのですが、レンタルなら、ま、いっか~!と
でもやっぱり好みじゃない😞 

アンナの悪夢は人為的に作られたもので、目的は彼女の父が残したデータを奪うこと。これがメインテーマです。
繰り返される悪夢が次第に増幅していくのも疲れるし、結局そこかい!な結末だし、ドラマの時の登場人物たちが総出のいわば「まつり」状態なのもなんだかな~。
うん、波長が合わない作品でした。好きな人、ごめんなさい😅 




  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ゴーストブック おばけずかん

2023年10月21日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2022年7月22日公開 113分 G

寝静まった子どもたちの枕元に現れて「願いをかなえたいか?」とささやく謎のおばけ。どうしてもかなえたい願いがある一樹(城桧吏)たちは、学校で噂になっているそのおばけに導かれ、「おばけずかん」を探すことに。あやしい店主(神木隆之介)がいる迷路のような古本屋で図鑑を手に入れたものの、古本屋から出ると、そこには知らない世界が広がっていた。一樹たちは図鑑の秘密を知る図鑑坊の助けを借りながら、おばけたちを相手に命がけの試練に挑むが……。(映画.comより)


「ALWAYS 三丁目の夕日」の山崎貴監督が、子どもたちに人気の童話シリーズ「おばけずかん」を実写映画化した作品です。

一樹、太一、サニーの仲良し3人組が自転車で向かった先は、サニーが近所のお年寄りから聞いた「願いが叶う祠」です。3人が手を合わせ真剣に願い事をします。3人の願いが入った白く光る玉を持ち帰ったおばけが店主に差し出すと彼は「素晴らしい」と喜び、願いを叶えるための試練を与えると言いました。その夜、3人の枕元に布を被った小さなおばけが現れて「願いを叶えたければ、祠にある本屋でおばけずかんを手に入れろ」と言って消えました。

翌朝、彼らは3人揃って同じ夢を見たことを知り驚きます。
クラスに産休代理教員の葉山瑤子先生(新垣結衣)がやってきました。
「とりま先生!」と声をかけられ顔を引きつらせた先生は、東京で派遣切りに遭っていました。とりまの意味はとりあえず間に合わせってこと?😓 

放課後、祠へ向かった3人はそこに建っていた見慣れない古本屋の中に恐る恐る入ります。彼らを見かけた瑤子先生も後を追って本屋に入りました。
居眠りしている店主を横目に“おばけずかん”を見つけますが、店主に声をかけられ思わず逃げ出します。先生と別れて家に戻った彼らは町に人気が無く、看板の文字が逆さまでスマホも通じないなど様子が変だと気付きます。そこに3人の幼馴染の橘湊が現れ驚き戸惑います。

助けを求めて瑤子先生の家にやってきた4人ですが、家の中は上下が逆になったりぐるぐる動いたりしていて、夜になると家の外には沢山のおばけたちが。

おばけずかんの中は白紙だったのですが、翌朝になると「図鑑坊」というおばけが載っていました。それは一樹たちの枕元に現れたおばけです。
何とか捕まえるとそのページに済のスタンプが押され、表紙の3本線が2本に、数字が7から6に変わりました。どうやら線が残り時間、数字がおばけの数だと気付きます。

彼らは次々とおばけを捕まえていきます。
「山彦」は太一がうまく誘導し、「一反木綿」は瑤子先生と湊が捕まえました。
先生は皆を励まそうとお揃いのTシャツを作りました。
翌日。「百目」は湊の機転 で、「うんてい」にあの世に連れ去られそうになった皆を一反木綿を呼び出したサニーが助けます。
自分だけ助けになっていないといじける一樹の前に現れた「見合わせおばけ」は湊の誘導ですんなり図鑑に入っていきました。
残るは「ジズリ」時間と空間を歪めて支配する神獣と知り、一樹たちは願いを叶えるために現れたのだと確信します。彼らの願いは「湊を助けてください」で、実は現実世界で湊は工事現場の足場の下敷きになり意識不明で入院していました。それを先生に打ち明けているのを湊に聞かれてしまいます。彼女の体の色が薄くなり、皆はあまり時間がないと考えます。何とかジズリで時間を戻し湊を助けようと、あのTシャツを着た5人はジズリのいるという小学校へやってきます。

これまで捕まえたおばけたちを呼び出し一緒に戦いますが、ジズリのパワーに歯が立たないまま、湊の色がどんどん薄くなっていきます。もみるみる薄くなっていきます。ジズリの時空に吸い込まれて元の世界に戻された4人でしたが、諦めずにもう一度時空に飛び込んで、見合わせおばけの一樹を利用してジズリを捕まえると、記憶が消されることを知った上で「湊の事故の前に連れて行って」と頼みます。

無事に湊を守ることができて願いが叶えられ、記憶が消えていつもの日常が戻ってきます。教頭先生に紹介された瑤子先生が子供たち元気に挨拶をします。図鑑の冒険の前には不安でいっぱいだった先生でしたが、子供たちとの冒険の中で先生になりたいという確かな願いが育っていました。記憶を失っていたとしてもその思いは消えなかったのかな。

店主は図鑑坊を連れて「さぁ次の願いを探しに行こう」と旅立ちます。おばけずかんのジズリのページには「最後まで諦めなければ大丈夫」の文字がありました。

ジズリの外見は「メン・イン・ブラック」に登場する虫生物に似てグロいけれど、他はどこか愛嬌があってちっとも怖くありません。
大事な仲間を守ろうと団結して困難に立ち向かう子供たちと、巻き込まれてしまった瑤子先生が次第に新たな夢を見つけ出す姿に好感が持てます。
先生に憎まれ口をきく太一が実は彼女に好意を抱いていたというのも好きな子に意地悪してしまう「男の子あるある」ですね😁 

「妖怪大戦争」では少年だった神木君が今作では店長(大人)役で出ているのも何だか感慨深いです。😌 

  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アナログ

2023年10月20日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2023年10月6日公開 120分 G

手作りや手書きにこだわるデザイナーの水島悟(二宮和也)は、自身が内装を手がけた喫茶店「ピアノ」で、小さな商社に勤める謎めいた女性・美春みゆき(波瑠)と出会う。自分と似た価値観のみゆきにひかれた悟は意を決して連絡先を聞くが、彼女は携帯電話を持っていないという。そこで2人は連絡先を交換する代わりに、毎週木曜日に「ピアノ」で会う約束を交わす。会える時間を大切にして丁寧に関係を紡いでいく悟とみゆき。しかし悟がプロポーズを決意した矢先、みゆきは突然姿を消してしまう。(映画.comより)


秋の映画は恋愛モノが多くなります。😁 
ビートたけし初の恋愛小説「アナログ」の映画化という点と、ニノ主演という点に惹かれて観てみました。基本、甘ったるい恋愛モノは苦手なのですが、今作はほぼプラトニックに進んでいく情緒のある内容で、クスっと笑える場面や涙腺が緩んでしまうセリフなども散りばめられていて引き込まれました。ニノの演技も安定の上手さです😍 


建築デザイナーの悟は、手作り模型や手描きのイラストに拘っています。今時CAD を使わず製図版を使っているのはまさに「アナログ」
一方、みゆきは携帯を持たない女性。これも今時ありえね~~感があるけれど、逆にその不便さが二人をより強く結びつけていくんですね。

幼馴染の高木(桐谷健太)と山下(浜野謙太)との待ち合わせで訪れた喫茶店「ピアノ」で悟はみゆきに出会います。「ピアノ」はかつて彼が内装デザインをしたお店です。みゆきに窓扉の取っ手やトイレのペーパーホルダーといったさり気なく施していた自身の拘った部分を褒められた悟は彼女に運命を感じます。みゆきの方も、イタリアでオーダーメイドした亡き母の形見のバッグを素敵だと言ってくれた悟が気になります。

浮かれている悟に、友人たちや入院中の母・玲子(高橋惠子)もアプローチをけしかけます。
次に「ピアノ」で彼女を見かけた悟は、徹夜仕事で伸びた髭を剃るためコンビニで髭剃りを買い慌てて剃って、びしょ濡れで彼女の前に。このシーンは「中坊かよ!」な初々しさがあり、思わず「頑張れ~!」と思ってしまいます。勇気を出して食事に誘った悟にみゆきは快く応じ、楽しい時間を過ごした後、連絡先を交換しようとした悟に、みゆきは携帯を持っていないと答えます。でもその代わり、何もなければ毎週木曜日の同じ時間に「ピアノ」で会う約束をします。

約束した最初の木曜日に、大阪に出張した悟が仕事のトラブルで「ピアノ」に行けなかったり、焼き鳥屋デートで悪友たちに出くわしたりとアクシデントも楽しい時間に変わり、二人の仲は順調に深まっていきます。(携帯持ってなくても用事が出来て店に行けない時にはマスターに電話して伝えて貰うという手もあるんだけどと一応突っ込んでみる😁

みゆきがクラシックが好きだと知った悟は、ある木曜日にクラシックコンサートに誘います。ところが演奏の最中にみゆきは突然涙を流して席を立ち、追ってきた悟に「ごめんなさい」と謝り帰ってしまい、それから二週間「ピアノ」に現れませんでした。

大阪出張中の悟に病院から連絡があり、母の死を知らされます。通夜は木曜日でした。その翌週、久々に「ピアノ」で会った二人はお互いに謝り、みゆきは夜の海に悟を誘います。(実は通夜の日、高木が「ピアノ」に来てみゆきに悟の母のことを話していました)亡き母との海での記憶を思い出して涙する悟をみゆきはそっと抱きしめました。(彼女も過去に大切な人を亡くしていて、だから悟の悲しみが自分のことのようにわかったのです。)

毎週会うようになった二人は、初めて昼に会い海へ行きます。砂浜に落ちていた凧で遊んだ後、凧糸を利用して作った糸電話の糸を徐々に長く延ばしながらの会話で、悟の告白もみゆきの返事も波の音がかき消して互いに届かない場面・・・いや、本当に届いていなかったの?少なくとも悟の声は届いていた筈…と思ったら、やっぱりそうきましたか!な展開が待っていました。

みゆきにプロポーズすることを決意した悟は高木たちに頼んで一緒に指輪を買いにいきます。(本当に仲良いのね!)
指輪を手に「ピアノ」でみゆきを待つ悟でしたが、その日は彼女に用事ができて(それでもそのことを伝えにわざわざやってきたのですが)渡せず、別れ際「来週、ちゃんとお話ししたいことがある」と伝えた悟に、彼女は「私もです」と答えてくれました。

でもその日を境にみゆきは「ピアノ」に現れなくなります。
店に通い続けながらも、悟は次第に自分の気持ちが重くなったからだろうと考えるようになり、仕事で大阪に常駐することになって、遂に悟は通うのを諦めます。

1年後。大阪の悟を訪ねてきた高木と山下は、みゆきが突然姿を消した理由を語ります。ラジオ局勤めの山下の妻・香織(佐津川愛美)が貰って来た音楽素材用のCDの中にみゆきの姿を見つけた山下は、それが天才ヴァイオリニストと言われた「ナオミ・チューリング」(旧姓は古田奈緒美)だと知ります。彼女は、留学中に出会ったピアニストのミハイルと20歳で結婚しましたが、元々病弱だったミハエルを亡くしたことで音楽界を引退し日本に帰国していたのです。
さらに高木は奈緒美が事故に遭い重体に陥ったというネット記事を見つけていました。その日は悟がプロポーズをする予定だった“木曜日”だったのです。

奈緒美の姉・香津美(板谷由夏)から、脳障害と下半身麻痺が残り意思の疎通ができない妹は、悟の知る“みゆき”とは違うと言われますが、悟はそれでも会いたいと訴えます。再会した“みゆき”(奈緒美)に悟が声をかけても、彼女が反応をすることはありませんでした。

後日、香津美から奈緒美の日記を見せられ読んだら忘れることを条件に読ませてもらいます。そこには心が落ち着ける「ピアノ」という場所を作ってくれた悟と出会い、素性や過去を問う事もせずただ自分を“温かい場所”へ連れて行こうとしてくれた彼に惹かれていったこと、悟の母の死を知って彼の傍にいたいと思いそれが自分自身の願いであることに気付いたこと、糸電話越しの告白を聞いて彼と生きていきたいと答えたこと、再びヴァイオリンを手にして、いつか演奏を聴かせたいと思ったことなどが書かれていました。また、事故に遭う前に携帯電話を購入していたことも聞かされます。

病院を再訪し、奈緒美の今後の生活を手伝わせて欲しいと頼む悟に、香津美は日記を読ませたことを詫びた上で、「あなたはあくまでも“他人”」と断りますが、悟は「みゆきさんと“家族”になろうとした」と話し「少しでも会うことを許して下さい」と懇願しました。この時奈緒美にわずかな表情の変化が見られ、それは感動のラストへ繋がる伏線にもなっていました。

悟は会社を辞め、海近くに個人事務所を建てて、リモート通話や3Dの模型作成を駆使して仕事をしています。そして毎週木曜日には奈緒美の家に行き、車椅子を押して散歩をします。彼女は相変わらず無反応で、教会を訪れた時にプロポーズの言葉を口にしても何も応えませんでした。

そして一年が経ちました。
奈緒美といつもの海まで散歩に出た悟が、家へ戻ろうとした時、奈緒美の手が悟の手に触れます。(奇跡が起きたのです。脳の障害が回復する確率はかなり低いとは思いますが可能性はゼロじゃないものね)覚束ない声で「今日、木曜」と呟いた彼女に悟は「はい、今日からずっと“木曜日”ですと答えます。彼の目から流れ出る涙をそっと拭う奈緒美・・・悟の「寒いから帰ろうか」の言葉に微笑む奈緒美。

彼女がヴァイオリン奏者だった過去については予想できても、結婚歴があったことは驚きでした。奏者を引退するほどの悲しみを背負った彼女が、悟と出会うことで前に進もうと決意したものの、不幸な事故でその幸せさえ潰えたかに見えましたが、悟の献身的で深い愛情が奇跡を起こします。悲しい中にも希望の見えるラストです。

悟の友人の高木と山下がまた良いんだな~!😂 まさに男友達ならではのやりとりに笑い、友を気遣う様子に胸が熱くなりました。もう一人、「ピアノ」のマスター(リリー・フランキー)の包み込むような優しい人柄にも💛です。

  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

あの日のあなた

2023年10月19日 | 
遠田潤子(著) ハルキ文庫

交通事故で唯一の肉親である父を亡くした、大学生の片瀬在。尊敬する父の「弔いごと一切不要」という遺言に戸惑いつつも、その通りにすませた。しかし、生前は立入禁止だった父の書斎で遺品整理をはじめた矢先、全く知らない女性と自分の名が書かれた母子手帳を見つけてしまい、激しく混乱する。父は一体何を隠していたのか――在は主を亡くした書斎で、まるで葬儀を営むかのように、父親の本当の姿と向き合っていく。単行本『お葬式』を改題。ラストは希望溢れる感動長篇、待望の文庫化。(解説・瀧井朝世) 


旧家の跡取り息子で、常に完璧な佇まいで誰からも好かれ、夫婦仲も良かった父・和彦は在にとって理想の父親且つ男性像でした。その父の奇妙な遺言のせいで一切の弔い事が出来なかった故に、在は父の死を悼み悲しむプロセスを踏めず、どこか虚ろな気持ちを抱えてしまいます。自他ともに認めるファザコンでしたから尚更ですね。

秘密基地と言われ絶対覗かぬよう言われてきた父の書斎に初めて入って遺品整理をしていた在が、引き出しの奥にあった母子手帳を見つけたことで、父が愛していたのは自分と母親ではなく、自分は偽物・スペアだったのではないかという疑問に苦しめられることになります。

父の事故直後、家の前で見かけた少女が、母子手帳に書かれていた名前の女性と瓜二つだとわかり混乱する在は、この謎を解こうと動き始めるのです。

徐々に父の過去が明かされていきます。
父は両親を早くに亡くし、祖父母も亡くなっていました。高3の時、交際していた森下翠の妊娠がわかると進学せずに結婚しようとしますが、翠の家族に猛反対されます。家を飛び出した翠と同棲を始めますが、ある日翠が交通事故に巻き込まれて無残な死を遂げていました。
この事件が影を落とし、翠の姪の水樹は苦しんでいました。

伯母に憧れ続けていた水樹が中学生の時、和彦の存在を知り訪ねて行ったことがきっかけで、二人は月に数度会うようになります。翠を忘れられない和彦は、彼女そっくりな水樹と翠の話をすることを嬉しかったのですが、水樹の好意を告白された時に自分の過ちに気付きます。
翠を忘れ、前を向くことを決意した直後に彼もまた事故で還らぬ人になったのです。

夫の浮気で離婚した翠の母は、その際に弁護士に不利な条件を飲まされたことに憤り、娘に過剰な期待をかけて復讐の道具にしようとしていました。娘の妊娠に激しい拒絶反応を起こし、結果的に娘を死に追いやってしまいます。姉を守れなかった後悔が水樹の父にはあり、母との諍いが絶えず、妻は出て行き、水樹が祖母と父の間で苦しんできました。

旧家の嫁として跡取りを望まれていた和彦の母は、お百度参りをして和彦を授かりましたが、出産の時に亡くなっていました。続いて父が、祖父が、そして祖母が亡くなり、天涯孤独となった和彦が家庭に恵まれず吃音になった翠と心を通わせたのは自然な成り行きだったのでしょう。

高校の時までは不愛想で傲慢と言われていた和彦が変わったのも翠が残した日記の最後のページに書かれたいた願いを実践したからでした。 でもね~~・・・翠が好きだった「あなた」の歌詞のように暖炉と仔犬と可愛い子供のいる家庭を作り、完璧な夫・父・男を演じ続けてきた和彦の執念を思うと正直重すぎて怖いぞ😓
彼の翠に対する想いと、結婚した在の母や息子の在への愛情は全く別物だとしても、やはり妻子に対する裏切りだよな~~😡 
妻が夫の秘密に気付いてなかったとも思えません。それでも夫の愛に縋っていたのだとしたら悲し過ぎです。

在の友人の高岡の境遇もかなり悲惨。独り暮らしをしているのは病弱で入院を繰り返していた彼が家での居場所を無くしていたからで、自分から家族を捨てたと思っていたけれど実は家族の方が彼を見捨てていたと気付くあたり悲し過ぎです。😭 

なので、最後に在と水樹に救いがあったとしても、この話には共感できなかったな。

  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

グッバイ・クルエル・ワールド

2023年10月18日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2022年9月9日公開 127分 R15+

年齢もファッションもバラバラ、互いに素性も知らない5人組の強盗組織が、ラブホテルで秘密裏に行われていたヤクザの資金洗浄現場を襲い、1億円近い大金の強奪に成功する。強盗たちは金を山分けし、何食わぬ顔でそれぞれの日常に戻っていった。しかし、金を奪われたヤクザが裏金で現役の刑事を雇い、強盗組織を本気で追い始めた。騙されて分け前をもらえなかった強盗組織のひとりも、ラブホテルの従業員を巻き込んで立ち上がり、金に群がるクセ者たちの大波乱の物語が始まる。(映画.comより)


西島秀俊、斎藤工、玉城ティナ、宮川大輔、三浦友和が強盗組織のメンバー、彼らを追い詰める刑事を大森南朋、ラブホテルの従業員を宮沢氷魚が演じるクライムエンタテインメント作品。高田亮のオリジナル脚本で、監督は大森立嗣。

水色のフォード・サンダーバードのカーステレオから流れるソウルナンバー。乗っている5人は互いに素性を知らない一夜限りの「仲間」
目出し帽をかぶり、ピストル片手に乗り込んだラブホテルの部屋ではヤクザ組織の資金洗浄が行われています。
首尾よく大金を手に入れ車を乗り捨てると、萩原(齋藤工)は運転手役の武藤(宮川大輔)と美流(玉城ティナ)に僅かな金を投げ捨て「さっさと消えろ」と言い放ちます。どうやら二人は萩原に借金がある様子。全身タトゥーの萩原の狂暴性が垣間見えます。😆 

数日後、萩原の前に現れた二人は別の仕事を請います。3人は深夜の宝石店を襲いますが、その場で萩原は美流を殴りつけ瀕死の状態で置き去りにし、武藤も別の場所で殺されます。初めから二人を使い捨てる気だったのね。

彼らに大金を奪われたヤクザの杉山は、刑事の蜂谷(大森南朋)を使って5人の行方を探させます。完全にヤクザの手先に使われている悪徳刑事です。

安西(西島秀俊)は別居中の妻みどりと娘の元に戻って、手にした金でみどりの実家のホテルを立て直そうとします。地元商店街の人たちにも受け入れられ経営も軌道に乗るかと思われた矢先、彼の前に飯島が現れます。元ヤクザの過去を隠していた安西は飯島に脅され従業員として雇うことにします。

ラブホテルの受付をしていた矢野(宮沢氷魚)が5人の情報源と知った蜂谷は美流と矢野を杉山の元へ連れて行きます。矢野は借金漬けの美流と知り合い、彼女を助けて二人で幸せになるために、ホテルで耳にした裏金の話を美流に話したことがきっかけで5人の強盗計画が決行されたのでした。
杉山は二人に身元の割れた萩原を殺すよう命じます。
雨合羽を着て散弾銃を手に萩原たちヤクザのたむろする喫茶店に現れた二人が派手に皆殺しにするシーンはまさに劇画調。ちゃんと合羽の前を閉じなきゃ血まみれになるぞと突っ込んでしまいました。

萩原が殺されたと知り落ち着かない安西でしたが、酔った飯島が安西の過去をバラしたことで住民から突き上げられます。飯島は安西が大金を手にしたことを知ってそれを手に入れようと近づいてきたのです。怒りに任せて安西は飯島を撲殺します。杉山は実際の被害額より多い額を奪われたと偽情報を流していて、それに食いついた飯島が杉山に密告していました。安西を追ってホテルにやってきた杉山興行の構成員と蜂谷でしたが、既に安西は姿を消していました。

蜂谷は、矢野と美流に安西を殺させようとしますが、逆に二人に刺されてしまいます。

浜田を訪ねた安西は、県知事の収賄現場となるガソリンスタンドを襲撃しようとして浜田の手配した者たちに裏切られ銃を向けられますが、そこに矢野と美流が現れて銃撃戦に。もう滅茶苦茶ですね😓 
隙をついて美流に銃弾を撃ち込んだ安西ですが反撃をくらいます。

ビルの屋上からガソリンスタンドの爆発を見た安西は驚きますが、そこに安西が現れて浜田を撃ち殺します。

妻子に見放され、満身創痍の安西がやってきた海辺の道路にはこれまた瀕死の蜂谷がました。蜂谷は自分にとどめを刺そうとした杉山を撃ち殺していました。
「こんな所に住みたかった。」と笑い合う二人の前に杉山興行の構成員たちが現れ・・・銃声が。

さて、最後に笑ったのは誰?
賄賂の大金を手に美流を連れて逃げた矢野?彼は逃げ延びることができたのかしら?

とにかく全員がクズで殺されてもしょうがないという。
足を洗い真っ当に生きようとしていた安西ですが、その手段が強盗ですからやっぱり同情はできないなぁ😩 

  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ザ・ホエール

2023年10月14日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2023年4月7日公開 アメリカ 117分 PG12

40代のチャーリー(ブレンダン・フレイザー)はボーイフレンドのアランを亡くして以来、過食と引きこもり生活を続けたせいで健康を損なってしまう。アランの妹で看護師のリズ(ホン・チャウ)に助けてもらいながら、オンライン授業の講師として生計を立てているが、心不全の症状が悪化しても病院へ行くことを拒否し続けていた。自身の死期が近いことを悟った彼は、8年前にアランと暮らすために家庭を捨ててから疎遠になっていた娘エリー(セイディー・シンク)に会いに行くが、彼女は学校生活や家庭に多くの問題を抱えていた。


劇作家サム・D・ハンターの舞台劇を原作に、死期の迫った肥満症の男が娘との絆を取り戻そうとする姿を描いたヒューマンドラマで、272キロの巨体の男を演じたフレイザーは、第95回アカデミー賞で主演男優賞を受賞しています。

大学のオンライン授業でエッセイの書き方を指導する講師として生計を立てるチャーリーですが、自分の姿は映しません。彼は妻子を捨てて恋人アランの元に走りましたが、そのアランを亡くしたショックから家に引き籠り暴飲暴食の日々を過ごした結果、今では体重272kgの肥満体となっていて、その姿を晒さぬようカメラが故障していると装っていたのです。

訪問看護師のリズは唯一の友人で、彼女の手助けを借りて暮らすある月曜日、チャーリーが発作を起こしている時にニューライフ(キリスト教系の新興宗教)の宣教師トーマス(タイ・シンプキンス)が訪れます。
駆け付けたリズは、トーマスがニューライフ信者と知ると彼を追い返します。家族がニューライフ信者の彼女は、この宗教を快く思っていませんでした。リズは今度こそ病院に行くよう説得しますが(以前から何度も通院か入院を勧めていました)、チャーリーは金も保険証もないと言い張って、断ります。

火曜日。リズから鬱血性心不全と言われたチャーリーは、ネットで調べて自分の状態から余命は長くないと知ります。そこでチャーリーは8歳の時に捨て10年間音信不通だった娘のエリーを呼びます。
17歳になったエリーは、母メアリー(サマンサ・モートン)と自分を捨てて男に走った父が許せず憎んでいました。娘には未練を残すチャーリーでしたが、メアリーは娘をチャーリーに会わせようとはしなかったのです。

母親や学校でトラブルを抱えていたエリーに、チャーリーは全財産12万ドルをやると持ち掛けます。エリーのレポートの書き直しと引き換えに自分にエッセイを書いて欲しいと頼むチャーリーでしたが、エリ―は去って行きます。
 
水曜日。エリーが再び訪ねてきますが、チャーリーがまだ書き直しに手を付けていないと知ると帰っていきます。入れ違いに現れたトーマスは、何とかチャーリーの役に立ちたいと訴えますが、やってきたリズに追い出されます。
リズはトーマスに、兄のアランは元々ニューライフの宣教師だったが、チャーリーと出会い脱会したことで心を病み亡くなったことを打ち明けます。

木曜日。エリーはチャーリーに(母の)睡眠薬を入れたサンドイッチを食べさせて眠らせます。訪ねてきたトーマスに大麻を勧めたエリーに、彼は自分のことを話します。故郷で、ひたすらパンフレットを配るだけの布教活動に疑問を持ち戸別訪問をした彼を教会は非難し、それに反発した彼は教会の金を盗んで他所で布教しようと逃げて来たのですが、その金も底をついていました。エリーは彼の写真を撮り、その発言を密かに録音していました。

その時、メアリーを連れたリズがやってきます。チャーリーの様子がおかしいことに気付き、彼が睡眠薬で眠らされたと知って激怒しますが、目を覚ましたチャーリーはエリーにレポートを渡し、エリ―はその場を立ち去ります。

メアリーは、娘が邪悪に育ったと嘆き、それを見せたくなくて会わせなかったと明かします。2人の会話を聞いたリズは、チャーリーに預金があることを知り、その金で医療を受けられたのにと怒りますが、彼はエリーのための金だと言います。メアリーは子育て、自分は金でそれぞれベストを尽くしたのだと。

全員が引き上げ独りになったチャーリーは暴食を始めます。そこにトーマスが戻ってきて、エリーが写真と録音した音声データを教会と彼の両親に送ったことで、双方とも許してくれたというのです。チャーリーは彼に故郷に帰るよう促します。

金曜日。チャーリーはオンライン授業の中で生徒たちに正直な文章を書くよう呼びかけ、自分のありのままの姿を晒し、授業が終わるとPCを叩きつけて破壊します。冒頭の真っ黒な画面からこの結末は想像できましたが、PCの破壊は彼の決別の意志なのかな。

訪ねてきたリズに、彼はアランの死は自分のせいだと伝えます。アランの部屋に残されていた聖書のある箇所を見つけたトーマスが彼に教えたのです。リズは兄がチャーリーと出会わなければもっと早くに死んでいただろうと返します。
エリーがトーマスにした行為も、彼を家に帰すためだったのだろうとチャーリーは言います。本当は優しい子だと彼は見抜いているのね。

エリーが、書き直してもらったレポートが不合格になったと怒ってやってきます。実はそれはエリーが数年前に書いたメルヴィルの『白鯨』の感想エッセイでした。チャーリーがこのエッセイを読むシーンが何度も登場しますが、彼は娘のエッセイに才能を感じてずっと大事にしてきたことが伝わります。

エリーにこれまでのことを謝罪し、彼女には才能があること、彼女こそ自分の「最高傑作」であることを伝えたチャーリーは、その巨体を全身全霊で立ち上がらせ娘に近づきます。その姿はまさに「白鯨」のよう。それを見たエリーもまた父に一歩近づいていくのでした。

離婚以来疎遠だった娘との絆を取り戻したいと願う主人公の“最期の5日間” の舞台は、主人公の住むアパートの一室です。何しろソファから立ち上がるのも自力では難しいほどの巨体です。演じるブレンダンの壮絶な演技が高く評価された作品でもあります。(醜い肥満体ながら目だけは「死んで」いないのよね~)彼がそうなった理由は苦悩する恋人を助けられなかったことへの後悔や、恋人を追い込んだのが自分ではないかという恐れです。

妻への愛は冷めても娘への愛情は変わらず持ち続けていた彼は、自分の命より娘にお金を残すことを優先します。自分が娘の立場だったら、いくら憎んでいたとはいえ金より父親の命の方が大事だと思うだろうから、彼の愛は重荷になりそうな気がするんですが😫 娘は自分を捨てた父を憎みながらも心の底では慕っています。本当はもっと早くに謝罪の言葉を聞き、交流したかったのです。それでも最期の5日間は彼女にとってリスタートの日々になりました。初日、「立ってここ(私のところ)まで来て」と言った娘に、父は最期の力を振り絞って応えます。このラスシーンと「白鯨」をリンクさせる手法も評価されたのかな。😁 


  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

クスノキの番人

2023年10月11日 | 
東野圭吾(著) 実業之日本社文庫
 
恩人の命令は、思いがけないものだった。
不当な理由で職場を解雇され、腹いせに罪を犯して逮捕された玲斗。
そこへ弁護士が現れ、依頼人に従うなら釈放すると提案があった。
心当たりはないが話に乗り、依頼人の待つ場所へ向かうと伯母だという女性が待っていて玲斗に命令する。
「あなたにしてもらいたいこと、それはクスノキの番人です」と……。
そのクスノキには不思議な言伝えがあった。(あらすじ紹介より)


玲斗の境遇はかなりシビアです。妻子ある男の子として生まれた彼は認知もされず、その母も小学生の時に亡くなり、祖母・富美の手で育てられます。
働いていた会社で客に欠陥商品である事を話したことで不当解雇 され、退職金代わりにと盗みを働くのですが、すぐにばれて捕まってしまいます。
なんか、どうしようもない負のスパイラルだよな~と思っていると、救いの手が差し伸べられるんですね。敏腕弁護士により起訴されずに釈放されるのですが、その交換条件が何とも変わったものだったのです。

実は玲斗の母には異母姉がいて、それが依頼主の柳澤千舟です。
柳澤家の敷地内にある月郷神社の管理が仕事ですが、一番大事なのはクスノキの管理だと言われます。柳澤家は代々クスノキの番人をしていて、現在は千舟が務めていますが、その手伝いを彼女は玲斗に命じます。といっても、千舟からは詳細を教えてもらえず、自分で見つけていかなくてはなりません。

巨大なクスノキの幹の内側には洞窟のような空間があり、そこでお祈りをすると願いが叶うと言われていて、昼間は出入り自由ですが、夜間は予約制で祈念者以外誰も近付いていけないというルールがあります。

社務室で寝泊まりし、仕事にも慣れてきた頃、祈念に訪れている佐治寿明の娘の優美に父は何をしているのかと聞かれます。父の浮気を疑う優美に強引に頼まれ、玲斗は優美と一緒に佐治の行動を探りながら、クスノキについて考えを巡らせることになります。

予約が新月と満月の夜に集中していることに気付いた玲斗は、千舟にその訳を尋ねますが、いずれ分かるとかわされます。

老舗「たくみや本舗」の跡取り息子の大場壮貴が、付き添いの福田守男とやってきます。「しっかり気持ちを込めてお願いします」と言う福田に「俺なんか無理に決まってるだろ」と最初から諦めている様子の壮貴が気になります。

千舟にスーツ一式を誂えてもらい、柳澤グループの謝恩会に連れ出された玲斗は、場違いな思いになりながらも役員たちが顧問である千舟を排除しようとしていること、彼女が原点と考えるホテルを閉鎖しようとしている動きを察します。

千舟に祈念記録のデータ化を命じられた怜斗は、同じ名字の人が別々の夜に祈念していることに気付き、その関係について千舟に尋ねると、「重要なのは祈念の違いは何か」だと答えが返ってきます。

佐治のきっかけが遺言だったり、壮貴の話から祈念を申し込む際に戸籍がチェックされる事を知り、祈念にやってきた津島 老人が妻に祈りが伝わるかは自分が他界した後の事だと話しているのを聞いて、怜斗はクスノキは祈念者の念を預かる力があるのかもと考えるようになります。

父の尾行を続けていた優美は、女性と一緒にいるのを目撃し、ますます疑いを濃くします。
5年前の名簿にあった「佐治喜久夫」が、介護施設に入っていた佐治の兄だとわかりますが、既に亡くなっていました。玲斗は優美を誘って、喜久夫が入っていた施設を訪ねます。当時の担当者から、彼が彼が5年前に一度だけ外泊したことを聞き、祈念を紹介した向坂春夫(既に亡くなっています)と親しくしていたことを知ります。

優美はクスノキに盗聴器を仕掛けることを玲斗に認めさせますが、佐治に気付かれてしまいます。喜久夫のことを持ち出すと、佐治は祈念の内容を話してくれました。

佐治の兄は跡継ぎとして育てられていましたが、ピアノの才能に気付いた母は音楽の道に進ませようとします。しかし音大に進んだ彼は挫折し、最終的に重度のアルコール中毒となっていました。責任を感じた母は最期まで兄の世話をしていましたが、兄の死後認知症となってしまいました。
佐治は、母宛ての未開封の兄の手紙を発見し「クスノキに預けました」の意味を千舟に尋ねました。そこで預念者(新月の夜に念を預ける人)と受念者(満月の夜に受け取る人)の関係と、血縁者なら受念できることを知らされ、受念した彼は、喜久夫の想いとピアノの音色を受け取ります。これ兄から母への贈り物だと思った佐治ですが、音楽の素養のない彼は何度も受念に来て頭の中の曲を再現しようとしていたのです。優美が愛人と誤解していたのは佐治の鼻歌を再現する協力をしていたピアノ講師でした。

音楽に自信のある優美が父が預念した後に自分が受念したいと考えます。預念者の邪念までも全て伝えてしまうことを怖れる佐治でしたが、優美に説得されて決意します。亡くなった後で受念するという意味はそういうことなのかもと玲斗は思います。旅の恥じゃないけど死んじゃったらもう関係ないもんね😁 

壮貴から受念できない場合はどうしているのかと問われた玲斗は、彼が父と血縁関係がないのではと気付きます。実際、壮貴は14歳の時に父から告げられていました。それなのに祈念した理由は、周囲の疑念を取り除くためと気付いた玲斗は、壮貴に「父が生きていたらどう考えるか想像してみては」と伝えます。後日訪ねてきた福田は、自分も彼が実子でないことを知らされていたことを話し、壮貴の変化に故人の志が受け継がれたことを知って玲斗に感謝を伝えました。

千舟の家に初めて招かれた玲斗は千舟から屋敷を引き継いで欲しいと言われ合鍵を渡されます。さらに、隠し部屋に保存されている150年余の祈念の記録と祈念のための蝋燭を見せられ、製法を後日教えると言われます。

銭湯で以前にも会った老人との会話の中で、千舟が自分に何か念を残したと気付いた玲斗は密かに受念しました。

千舟が顧問を自ら降りることとその理由を知った玲斗は、彼女の無念も受け取ります。忘れ物を届けるふりをして役員会議の場に同席した彼は役員たちの前で千舟の功績と残した思いを熱く語り、その姿に千舟は彼が受念したことに気付きます。

完成した曲は、佐治の母・貴子が入居している介護施設で演奏されます。玲斗と千舟も招待され一緒に聴きます。演奏が始まると、貴子の様子に変化が現れ何か言い始めます。「喜久夫のピアノ」と何度も言いながら涙を流す姿に、喜久夫の想いが確かに伝わったのだとわかります。

受念して、千舟が認知症を発症していることを知った玲斗は「忘れるってそんな悪いことじゃないかもしれませんよ、覚えていなくてもいいじゃないですか」と言います。彼女がいつも持ち歩いていた手帳は大事なことを忘れないためのメモだったのですね。

千舟は、自分のプライドや嫉妬から妹の美千恵に姉らしい事をしてやれなかった事を悔やんでいました。富美から玲斗が警察に掴まったと知った時、妹にしてやれなかった事をすることが妹へのせめてもの詫びになると思い
、またクスノキの番人の後継者を育てたかったというのもありました。

全てが終わったら命を絶つつもりでいた千舟の気持ちをも感じ取っていた玲斗は「どんな千舟さんでも自分は受け入れます」と訴えます。
千舟は手帳を開いてホテル柳澤の存続が決定したと話しました。

預念者の言葉ではすべてを伝えられない想いをクスノキは記憶し、受者に伝えます。すべてというからには隠しておきたい負の感情もということになるのですが、だからこそ想いの強さを感じます。そして両者の間には深い信頼関係があることもわかります。

どこかなげやりだった玲斗が、番人を通して変わっていく姿が描かれ、千舟との間にも深い信頼関係と愛情が育まれていくのも心地よかったです。
優美に対する下心で彼女に協力することになったけれど、どこかで自分の気持ちをセーブしているのが少し切ない。でもこの二人、結ばれそうな気もしますが😊 

  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ロストケア

2023年10月11日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2023年3月24日公開 114分 G

早朝の民家で老人と訪問介護センターの所長の死体が発見された。捜査線上に浮かんだのは、センターで働く斯波宗典(松山ケンイチ)。だが、彼は介護家族に慕われる献身的な介護士だった。検事の大友秀美(長澤まさみ)は、斯波が勤めるその訪問介護センターが世話している老人の死亡率が異常に高く、彼が働き始めてからの自宅での死者が40人を超えることを突き止めた。
真実を明らかにするため、斯波と対峙する大友。すると斯波は、自分がしたことは『殺人』ではなく、『救い』だと主張した。その告白に戸惑う大友。彼は何故多くの老人を殺めたのか?そして彼が言う『救い』の真意とは何なのか?
被害者の家族を調査するうちに、社会的なサポートでは賄いきれない、介護家族の厳しい現実を知る大友。そして彼女は、法の正義のもと斯波の信念と向き合っていく。(公式HPより)


葉真中顕の小説「ロスト・ケア」をもとに、 連続殺人犯として逮捕された介護士と検事の対峙を描いた社会派サスペンス作品です。

斯波と猪口(峯村リエ)、新人の足立由紀(加藤菜津)が利用者宅で認知症の梅田老人の世話をしています。優しく献身的な斯波の姿が印象に残ります。老人の娘の美絵(戸田菜穂)は3人の子供を育てながら夜は夫の焼き鳥屋を手伝い、昼は父親の介護をしていますが、心身共に疲れ切っていて限界に見えました。

帰る途中で利用者の老婆の徘徊を見かけた斯波は彼女に声をかけ家に送っていきます。足立はそんな斯波に尊敬の念を覚えます。

利用者が亡くなり、通夜に向かった斯波、猪口、足立。シングルマザーで幼い娘を育てながら介護をしていた同居の娘・羽村洋子(坂井真紀)に斯波は労いの言葉をかけます。

検事の大友秀美(長澤まさみ)は、高級老人ホームにいる母(藤田弓子)を一か月ぶりに訪問しますが、認知症の母との会話は微妙に嚙み合いません。冒頭で大友が孤独死して時間が経った人の家に入っていくシーンがあり、伏線になっていました。

そして事件が起こります。
梅田家でケアセンター長の団(井上肇)と梅田老人の死体が見つかり、借金のある団が預かっていた合鍵を使って窃盗目的で侵入し、足を滑らせて階段から転落死の線で捜査が始まるのですが、部屋に落ちていた注射器に疑問を持った大友の捜査で斯波が浮かびます。

取り調べで斯波は正当防衛を主張しますが、通報しなかった理由を問われ仕事に支障がでるからと答えます。介護士不足の現状をそれとなく示すシーンですね。

検察事務官の椎名(鈴鹿央士)の指摘で、ケアセンター八賀の利用者の死亡件数が平均より圧倒的に多いことに気付いた大友は、斯波の部屋にあった介護ノートを調べ、利用者たちの死亡推定日が斯波の休日と重なることを突き止めます。
大量殺人での立件を目指し、県警の沢登刑事(梶原善)の協力を得て斯波が仕掛けた盗聴器と41人の被害者の写真を前に彼を尋問したところ、彼はあっさりと殺人を認め、自分の行為は救いなのだと言います。
梅田老人の殺害時に盗みに入った団と揉み合いになり、注射器を落としたことに気付かずその場をあとにしていたのです。

斯波が犯人だったと知って激しいショックを受けた足立はセンターを辞めてしまいます。でも次の仕事が風俗ってどうよ😓 

42人を殺した(救った)と言った斯波に、大友はあと一人は誰なのかと考え、斯波の前歴を調べ始めます。すると彼には前職から3年4か月の空白期間があり、その間は脳梗塞の後遺症のある父親(柄本明)の介護をしていたことがわかります。仕事を辞め時間の融通の利くアルバイトで生計を立てていたものの、父親の認知症が進んでバイトもできなくなり、生活が困窮しても生活保護も受けられず、遂には父親の「殺してくれ」という願いを受け入れて、注射器を手に入れタバコから抽出したニコチンを入れて殺害したと言う彼は、検死で心不全とされ犯行がばれなかったことが後の殺人のきっかけになったのだと話します。

本当に困っている人を助けられない社会には穴があり、そこに落ちたら這い上がれないという斯波を、大友は介護の辛さから逃げたくて犯した身勝手な殺人だと責めます。

介護士として働くうち、かつての自分たち父子のように介護に疲弊する家族を目の当たりにした斯波は、自分が救って欲しかったように彼らを救ったのだと言います。大友はそれでも家族に勝手に殺してよいのかと反論しますが、長年音信不通だった父親が孤独死したアパートを訪ねたばかりの彼女の脳裏には斯波の言い分の方が正しいのではとの思いが浮かびます。
「殺人はよくないというあなたも私を死刑にして殺そうとしている」と言う斯波に大友は自分の信念が揺らいでいきます。

裁判で、斯波は家族の絆は呪いでもあり、自分の行為は喪失の介護(ロストケ)であり間違っていたとは思わないと主張しながら、犯した罪は認めて極刑にも甘んじる姿勢を見せます。自分も母も彼に救われたと言った羽村洋子と「お父ちゃんを返せ!人殺し!」と叫ぶ梅田美絵に遺族の思いも一様ではないことが伝わります。

羽田洋子は春山(ずんのやす)との再婚を決めます。年が離れているためまた介護をさせてしまうのではと躊躇う春山に、洋子は誰にも迷惑を掛けないで生きられる人なんていないし自分も迷惑をかけるかもと答えます。

老人ホームの母の更に症状が進んだ姿に、思わず母の膝に顔をうずめた大友に、「よしよし」と何度も言いながら頭を撫でてくれる母に、彼女は「お母さん」と涙を流します。

結審後、斯波と面会した大友は、まるで告解するかのように自分の両親のことを話します。斯波は、父親を殺したときのことを話し始めます。
認知症になり苦しんでいる父の尊厳を守るために殺害を決意し実行した後で、父が不自由な手で折ったと思われる鶴を見つけます。それを開くと拙い文字で、「お前が息子で幸せだった」と感謝の言葉が綴られていました。

福祉のセーフティネットからも零れ、家族という絆に縛られて身動きが取れないまま心身疲弊していく者がいる一方、手厚い介護を受けながら不自由なく生きていける者もいる。まさに格差社会の行き着く先が生んだ犯罪です。
安全地帯から糾弾する大友より、斯波の主張に耳を傾けたくなる気もちになってしまいそうになりますが、それでも他者の命を他人が奪ってよいと言う理由にはならないよな~~。😩 



  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

帰らない日曜日

2023年10月07日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2022年5月27日公開 イギリス 104分 R15+

1924年、初夏のように暖かな3月の日曜日。その日は、イギリス中のメイドが年に一度の里帰りを許される〈母の日〉。けれどニヴン家で働く孤児院育ちのジェーン(オデッサ・ヤング)に帰る家はなかった。そんな彼女のもとへ、秘密の関係を続ける近隣のシェリンガム家の跡継ぎであるポール(ジョシュ・オコナー)から、「11時に正面玄関へ」という誘いが舞い込む。幼馴染のエマとの結婚を控えるポールは、前祝いの昼食会への遅刻を決め込み、邸の寝室でジェーンと愛し合う。やがてポールは昼食会へと向かい、ジェーンは一人、広大な無人の邸を一糸まとわぬ姿で探索する。だが、ニヴン家に戻ったジェーンを、思わぬ知らせが待っていた。今、小説家になったジェーンは振り返る。彼女の人生を永遠に変えた1日のことを──。(公式HPより)


グレアム・スウィフトの小説「マザリング・サンデー」を映画化し、第1次世界大戦後のイギリスを舞台に、名家の子息と孤独なメイドの秘密の恋を描いたラブストーリー。(映画.comより)

冒頭に登場する馬の足の話は、シェリンガム家が所有していた競走馬のことで、馬の頭と胴体は両親が所有し、息子3人が足を一本ずつ所有していたとポールが語り、4本目の足は誰が?という問いかけがなされます。

運命の「母の日」、彼女が仕えるニヴン夫妻(コリン・ファース、オリビア・コールマン)は、ホブデイ家、シェリンガム家との昼食会に行く予定です。孤児院育ちで帰る場所がないジェーンにニヴン氏は「自分の裁量で好きに過ごしなさい」と言って小銭を渡します。
屋敷にかかってきた電話はジェーンの秘密の恋人からの誘いでしたが、ジェーンは間違い電話だったと偽ります。

メイド仲間のミリーと自転車で出かけたジェーンは母の家に行くというミリーを駅まで送ると、シェリンガム家のアプリィ邸に 向かいます。
駅で汽車を待つ女性たちが一瞬皆メイド服を着ているように見せたのは、この日がそういう日だということを強調しているように見えました。

電話の相手は、シュリンガム家の跡取り息子のポールで、“つがい”(両親のこと)が出かけ屋敷には誰もいなくなるから表玄関に来るようにと誘われます。普段使用人は表玄関から入ることはないことが「裏ではなく」という言葉で伝わりますね。

屋敷に入って目についたのはシュリンガム夫人が大事にしている蘭の花です。「暗い家にせめてもの華やかさを」のセリフでこの家に不幸があったことを示唆しています。

ポールは幼馴染のエマと婚約していて、昼食会はその前祝いですが、彼は「法律を猛勉強する」と偽り、ジェーンと秘密の逢瀬を決め込んだのです。
ニヴン家に仕え始めた頃、アプリィ邸のメイドと知り合い挨拶をしているところをポールが通りかかり、二人は他人行儀な挨拶を交わしますが、この時既に二人は深い関係だった?それともこれがきっかけだった??😓 

初めて入る屋敷に興味津々のジェーンをポールは寝室に誘いゆっくりと衣服を脱がすと誰の目も気にせず愛し合う二人。何度も抱き合った後、ポールは子供の頃の川でのピクニックの話をします。3家族は昔からの付き合いがあり、ニヴン家の戦死した息子ジェームズとエマが恋人同士だったことを話し、「君には何でも話せる、皆が避けたがっている話も」と心の内を明かし「君は友達、心の友だ」と言います。

ポールの二人の兄も戦死していて、彼が後を継いで弁護士となりエマと結ばれることは既定路線で、身分違いの恋が許される筈もないことはジェーンも初めからわかっています。

服を着ようとするポールをベッドから眺めながら、ジェーンは「エマがもしこの屋敷にやってきて、古い自転車を目にしたら?」と彼に問いかけます。
ポールは16時までは誰も戻らないから好きに過ごすといい、キッチンにあるパイも食べていいし、片づけもしなくていい。鍵は玄関に置いておくからと言うと、「さようなら、ジェーン」と部屋を出ていきます。つまり、これで関係は終わりという宣言ですね。

ジェーンの中で、ポールとのこれまでの思い出が時を行きつ戻りつ登場するので少し頭が混乱してしまいます。でも客観的にみたら、ポールは彼女と添う考えは微塵もなかったよね。😖 

1948年。ジェーンは作家になっていて、恋人のドナルドに話しの続きをします。

ポールが出かけた後、ジェーンは裸のままで屋敷の中を探索します。(全裸じゃなくても良いんじゃないの?と思うけど、服を脱ぐことで階級差を取り払って対等な関係を表しているらしい)それはまるで彼のこれまでの軌跡をなぞるかのような行動に思えました。

ドナルドとの出会いは、働いていた本屋で、母親へのプレゼントを探す彼にヴァージニア・ウルフの小説『オーランドー』を薦めたのがきっかけです。

また話が戻り・・・
ポールの遅刻にしびれをきらし乾杯しようとした3家族ですが、「一人足りないが」との言葉に、「一人じゃない、全員死んだ」とニヴン夫人が感情を爆発させます。3家族の中で戦死を免れ生き残っているのがポールとエマだけなのだという事実がはっきり示されるシーンです。微妙な空気のまま昼食会は始まります。

一方ジェーンは裸のままでパイを食べ、蘭の花びらをお腹の下に潜ませてから、自転車で屋敷に戻ります。そこでニヴン氏からポールが車の事故で亡くなったと聞かされ、一緒にアプリィ邸に同行して欲しいと言われたジェーンは、動揺を隠しきれずに水を飲みに行くと言って時間をもらい必死に心を鎮め冷静を装います。ニヴン氏が懸念したのはポールの自殺の可能性で、そのために彼の部屋に遺書らしいものが残されていなかったか確認したかったのです。もしそんなことになったらシェリンガム夫妻は悲しみから立ち直れないだろうと考えたのかな。😞 

ドナルドに作家になった理由を聞かれた時、きっかけは3つ。一つ目は生まれた時。二つ目はタイプライターを貰った時。三つ目は秘密と答えました。
やがて2人は結婚しますが、ドナルドが転んで怪我をしたのがきっかけで脳に腫瘍があり余命が短いことを告げられます。ドナルドは黒人で、この結婚にも障害はあったかもしれませんね。

ニヴン夫人は孤児のジェーンに「生まれた時から奪われていて失うものが何もないのはあなたの強み」だと言い幸せな子と言います。息子二人を戦争で亡くした夫人の絶望が伝わりますが、同時に持てる者の傲慢にも感じました。
その夜、自分の部屋に戻りオランダ帽(ポールに着けさせられた避妊具)と蘭の花を取り出しながら、ジェーンは「失うものは何もない、これから手に入れていくだけ」と決意し、以前ポールに言われた「記憶を呼び出し描写して自分のものにし言葉で再現する」「君ならできる」という言葉を思い出します。その後、ジェーンはニヴン氏に暇をもらいたいと願い出ます。書店に勤めるという彼女にニヴン氏は「それもいいな」と答えるのでした。

残された時間を惜しむように寄り添う二人。
死の間際「三つ目の秘密が知りたい」と呟いたドナルドにジェーンは耳元で「愛している」と伝えました。

著名な小説家となった老年のジェーン。大きな賞を受賞した彼女にコメントを求めて家に押し掛けてきた記者たちに彼女は一言「書くしかなかったの」と答えます。

群がる記者たちの後ろに、かつてポールに恋した若い日の自分の姿が見えました。「4本目の足は、私のだったのよ、ポール」とジェーンは語りかけるのでした。

う~~ん・・この「足」が何を比喩しているのか、結局私にはわからなかった😭 そして現代の女性にとって、これをラブストーリーと感じるのかも少々疑問が残ります。ポールは自分の孤独をジェーンで埋めようとしていただけで、彼女を対等な人間として扱っていたとは思えないんだもの。



  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

永遠の1分。

2023年10月04日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2022年3月4日公開 日本 97分 G

東日本大震災のドキュメンタリーを作るために来日したアメリカ人映像ディレクターのスティーブ(マイケル・キダ)は、被災地を訪れた際に見かけた演劇の舞台をきっかけにコメディ映画を作ることを思いつくが、作品製作に暗雲が立ち込めてしまう。しかし、彼には映画を撮らないといけないある理由があった。一方、3・11で息子を亡くし、ロサンゼルスに移り住んだ日本人シンガーの麗子(Awich)は、歌のせいで息子を失ったという罪悪感にさいなまれていた。シンガーとして活動することや日本に残してきた夫と向き合えない年月を過ごしていた彼女は、夫からの手紙の中にあるものを見つける。(映画.comより)


「カメラを止めるな!」の上田慎一郎が脚本、撮影監督を務めた曽根剛がメガホンをとったヒューマンドラマで、「笑い」がもたらす癒しの力によって、人々が困難や葛藤を乗り越えていく姿が描かれています。(映画.comより)

冒頭で男女の別れのシーンのあと、去って行く女性を「レイコ!」と呼び止めた男を銃口が狙い・・と思ったら、実は外で映画の撮影が行われていました。演技指導する監督のスティーブ の前に現れたパトカーは本物の警察。撮影許可を取り忘れていて大騒ぎになり、上司のアルに謝る彼に「限界だ!」とキレたアルは、2011年の日本の大震災のドキュメンタリーを撮るか辞めるかと迫ります。

了承して相棒のボブ(ライアン・ドリース)と日本行きの飛行機に乗り込みながら、彼はニンジャ映画を撮るつもりだとボブに言います。

2019年7月の東京で、二人は通訳の小林レイナ(ルナ・フジモト)と街の人々にインタビューをしますが、誰もが震災を忘れかけていました。震災の風化を懸念しながら東北を訪れた彼らは、まだ続いている復興の様子を目にします。
スティーブはロスの大地震の折に妻のジュリアを喪っていました。

ドキュメンタリーを撮ることを決意したスティーブは、広場で演劇の練習をしている人々に気付きます。津波に巻き込まれるシーンの練習だと女性記者マキ(片山萌美)から聞いて「表現が不適切では」と言った彼に彼女は「(劇を)観に来て下さい」と答えます。水族館で行われた芝居は、震災の半年後から毎年演じられていて、内容に涙したり笑ったりの観客を見つめながらスティーブは、3.11のフィクショションコメディを作ることを思い立ちます。そば屋でボブに話すと反対されますが、そこに特大おにぎりの「スマイルボール」が運ばれてきます。それは震災後に作られたメニューで、「食べるものがなくても笑ってほしい」という思いで作られたものでした。
笑顔でかぶりつくスティーブを見てボブも協力を承諾します。

リサーチに出かけ、説明を聞きながら被災地を回る中で、厳しい事実を知り、危険なのになぜまた帰ってくるのかと尋ねたスティーブに、ガイドは「忘れてしまうんだと思う」と答えました。津波の映像の迫力に呆然とする3人に「命はたったひとつだから」というガイドの言葉がささります。

沢山の人達に話しを聞く中、部外者が映画を作ることについて尋ねると「興味を持ってくれるだけありがたい。でも精神的にしんどくなる映画を積極的に観ようとは思わないかも」と言われます。

ある男性は、死のうとした時にカレーの良い匂いがしてやめたこと、再度死のうとした時に、寝ぼけた少年が足元で立ションして諦めた話をして、その少年は命の恩人だと言いました。
役場の職員は、餅にわさびを仕込んだ思い出話をして大笑い。何故と聞くスティーブたちにそうでもしないと気持ちが滅入ってしまうからだったと答えます。

笑いが救いになることに気付いたスティーブは、復興に奮闘する人々のコメディを作ろうと決意しますが、どこの製作会社にも不謹慎だと断られてしまいます。レイナの好意にこれ以上甘えるのはよそうと決めた二人は、言葉の壁もあり苦戦しますが、そんな二人にマキから連絡が入り、記事にしていいかと聞かれます。炎上を恐れるボブでしたが、事実を書くという言葉を信じたスティーブは承諾。しかし徹夜で仕上げた記事は上司の近藤(渡辺裕之)に中傷的な内容に書き直されてしまいます。
被災地出身の近藤は部外者が震災に触れることを忌み嫌っていました。

発売された記事を読んで傷ついた二人。ボブは先に帰国し、スティーブもまた空港に向かいます。タクシーの中でラジオから聴こえてきた女性の歌声が気になった彼に、運転手は彼女はレイコといい、アメリカ在住で、3.11の地震で息子を失ったと話してくれました。

震災直後、仕事で留守にしていたため息子を助けられなかったと悔やみ、歌を封印した彼女は、ロスで友だちに紹介された店で働き始めました。当時、放射能を恐れる客や従業員に日本人であることを理由に差別されていた彼女に店のオーナー(アレキサンダー・ハンター)は歌うことを勧めます。彼の「歌に罪はない。歌は人を殺さないが、人を救うことはできる。」 という言葉と、友人のホームパーティで出会ったスティーブの「忘れなきゃ前に進めない」という言葉に背中を押されて再びステージに立ったレイコですが、日本に残してきた夫からの手紙は一度も開封することなく箱に仕舞われていました。

2019年6月。レイコはあの店でオーナーと別れ・・・そう!冒頭のあのシーンです。ポストに届いた手紙は既に箱一杯になっています。スティーブを乗せたタクシーの運転手こそが彼女の夫の和雄でした。

忘れ物をしたと車を引き返させたスティーブは、マキに会いに行きました。
彼女は会社を辞めていました。味方になってくれようとしたわけを尋ねたスティーブに彼女は「部外者でいたくなかった、一緒に戦いたかった」と答えます。実は彼も会社を辞めていて、マキに映画は自費で製作するので力を貸して欲しいと頼みます。

被災地の人と作るべきと考えた彼は、以前出会った劇団をマキに紹介してもらい協力を頼みます。もっと3.11を知るべきというマキの助言に従いインタビューを続けるなかで、ボブやレイナ、以前インタビューした人たちも集まってきて撮影が始まりますが、またもや中傷記事がネットにあがり、疲れも出て現場の空気が険悪になります。そんな中、マキが持ってきたワサビ入りのスマイルボールを口に入れたスティーブとボブはむせ込み、その後で大笑いして、撮影は明るく再開されます。そして数日後無事クランクアップを迎えます。

2019年12月。和雄のタクシーに再び乗ったスティーブは、彼に映画を撮り終えたことを話し、この前の曲をリクエストします。映画のエンディングにこの曲を使おうと考えたのです。

マキは近藤を訪ね、ネットニュースの中傷記事は彼の仕業かと尋ねた後で、自主上映会に招待します。

2020年2月。
手紙を入れた箱は蓋がしまらなくなるほどになっていて、レイコは遂に手紙を開封します。「お前の歌が聴きたい。待っている。」と書かれた手紙やスティーブの作った映画のことが書かれた手紙もありました。

自主上映会に近藤もやってきました。
映画は、首をつろうとした男が、寝ぼけた少年の立ションや、料理の匂いにつられて思いとどまり、もちに混ぜられたワサビに大笑いする人々の姿を見るうちに笑えるようになります。
ある日、ニンジャの絵本を読みながらニンジャは困った人を助けるヒーローだ と言った少年の父親ががれきの下から見つかり、少年はふさぎ込みニンジャはお父さんを助けてくれなかったと泣き出します。

翌日、5人の大人がニンジャに扮して、コメディショーを始めました。それを見て笑う人々の中に少年もいました。エンディングに流れるレイコの歌声。レイコ本人もネットで流れる画面を見ながら涙していました。

近藤は笑顔の観客を見て、マキに何も言わずに帰っていきました。

客席にマスク姿が多かったと言うスティーブに、マキは新型感染症のことを教えます。

2020年3月11日。
フリーになって初の取材相手にマキはスティーブを選びオンラインで話しています。世界が大変な状況になったことを話たあと、映画をオンラインにアップした理由を聞いたマキに、「この映画は困難に立たされた人間を描いている。世界は困難に直面している今、何かに役立つかもしれない。今日は3月11日。もうすぐ14時46分だ。この瞬間だけは忘れない。大切な人を想うとき、俺は笑ってこの瞬間を迎えたい。」と答えるスティーブ。

ロスでは、閉店した店を借りてレイコが配信していました。彼女は息子を震災で亡くした傷から逃げるように夫と離れアメリカに来た事、でも事態が収束したら日本に戻りたいと思っていることを話します。その画面をマキ、スティーブ。和雄が見つめていました。レイコは10年ぶりに書き下ろした新曲を「これが私の黙禱」と言って歌い始めるのでした。

スティーブは当初はドキュメンタリーに食指が動かず、ニンジャ映画で誤魔化そうとしていましたが、被災地の人たちにインタビューし、実際の映像に触れる中で気持ちに変化が生じます。彼もまたロス地震で愛する人を喪った傷を抱えていたことも大きかったのでしょう。
部外者が面白おかしく映画を作ると誤解した近藤は中傷記事を流しますが、出来上がった映画を観て考えを改めたことがその表情から伝わってきたのも良かったです。

重い題材ですが、だからこそ風化させてはならないという想いが伝わってきます。誰かと繋がり笑うことで前を向いて生きていけると教えられた気がしました。

  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする