杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

虫たちの家

2024年05月12日 | 
原田ひ香(著) 光文社(発行)

九州の孤島にあるグループホーム「虫たちの家」は、インターネットで傷ついた女性たちがひっそりと社会から逃げるように共同生活をしている。新しくトラブルを抱える母娘を受け容れ、ミツバチとアゲハと名付けられる。古参のテントウムシは、奔放なアゲハが村の青年たちに近づいていることを知り、自分の居場所を守らなければと、「家」の禁忌を犯してしまう。(あらすじ紹介より)


面白いタイトルに惹かれて手に取ってみました。
「虫たちの家」は、インターネットで傷ついた女性たちが社会から身を潜めて暮らす九州の孤島にあるグループホームです。ここでは互いに本名も過去も明かさず、マリアが付けた虫の名前で呼び合っています。

オーナーのマリアと古参のテントウムシ、それからミミズとオムラサキの4人で暮らしていましたが、新しくトラブルを抱えた母娘(ミツバチとアゲハ)を受け容れることになります。大人たちの中に未成年のアゲハが加わることで自分たちの暮らしに変化が起こるのではと心配するテントウムシの予感はやがて現実になります。

アゲハが村の青年たちと親密になっていると近所の老人から聞かされたテントウムシは、自分の居場所を守りたい一心で「家」の禁忌を犯しネットでアゲハの素性を調べてしまうのです。そもそもネット閲覧禁止を決めたのはマリアとテントウムシだったのに、どうして?と感じてしまいましたが、唯一の居場所を失うかもしれないという恐怖が理性を凌駕してしまったということでしょうか。

アゲハは傷害事件の被害者であるだけでなく、痴態画像をネットにばらまかれた過去をテントウムシに打ち明けていたのですが、そんな目に遭ったのに異性に近づくアゲハの行動が理解できないテントウムシは、アゲハの言葉をそのまま信じられなくなっての行動でした。そして調べるほどにアゲハの裏の顔が見えて来るのです。

物語は、過去の出来事の回想と現在が交互に描かれます。現在パートはテントウムシの視点ですが、過去は誰の視点なのか?初めはテントウムシの子供時代だと思っていましたが、実は・・・な衝撃が待ち構えていました。

ミツバチとテントウムシは過去に接点がありました。
過去を語る少女の母が神経を病んでいたことが伏線になります。

日本ではないどこか遠くの国で暮らす駐在員とその家族。政情不安なため壁で囲まれた敷地の外に出る事は出来ず、狭いコミュニティーの中で心理的に追い込まれていく少女の母。少女自身も友達ができずに現地人の家政婦と両親だけの世界の中で、大人の軋轢に巻き込まれていき、やがて彼女の一言がきっかけで母が自殺し、少女は父親と日本に帰国します。

アゲハが通っていた高校の生徒から話を聞いたテントウムシは、アゲハが自ら画像をばらまいたのか?今一つ信じられないまま島に戻ってきますが、マリアたちにネットを使ったことがばれていて、禁を破ったことで島を追い出されてしまうのです。
自分の居場所はここだ!と固く心に決めて戻ってきたのに逆の結果になったわけですね。
島を去る彼女にアゲハは「おばさん!」と叫びます。
一度もそんな言葉で呼ばれたことが無いテントウムシは、もう一つの意味(叔母)に気が付きます。

それから数年後。
清掃の仕事をして暮らしているテントウムシは、アゲハと再会します。
アゲハの母ミツバチはテントウムシが二年前に自分の父親に会いに来たことで、彼女が父の子供ではないかと疑い、アゲハを使って「虫たちの家」に潜り込んでテントウムシの居場所を奪おうとしたのでした。ミツバチ自身がその母と同じように心を病んでいる女性であり、そんな母に育てられたアゲハは、母の病の原因となったテントウムシを憎んでいたのですね。
だからといって自らを傷つける行為をするというのは、やはりアゲハにも同じ「血」が流れているからでしょうか。何だか切ないなぁ。
親たちの複雑な関係が娘たちに大きな影響と傷を残し悲劇を生む構図が哀しかった。

テントウムシが島を出た後、マリアは亡くなりミツバチ母娘は金目の物を盗んで出て行き、「虫たちの家」は崩壊していました。でもせめてもの救いはミミズとオオムラサキが元気に暮らしていること。そしてテントウムシと再び交流が始まりそうなことです。
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