杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

サバカン SABAKAN ネタバレあり

2022年08月22日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)

2022年8月19日公開 96分 G

1986年、夏。斉藤由貴とキン肉マン消しゴムが大好きな小学5年生の久田(番家一路)は、夫婦ゲンカばかりだが愛情深い両親や弟と暮らしている。ある日彼は、家が貧しく同級生から避けられている竹本(原田琥之佑)と、イルカを見るため海へ出かける。溺れそうになったり不良に絡まれたりと様々なトラブルに遭遇しながらも友情を育んでいく久田と竹本だったが、やがて別れを予感させる悲しい事件が起こる。

 

1980年代の長崎を舞台に、2人の少年が繰り広げる冒険と、それぞれの家族との愛情に満ちた日々を描いた青春ドラマです。丁度世の中バブル期だった筈ですが、逆に素朴で長閑で愛情溢れる物語にノスタルジーを感じてしまいます。

久田(草彅 剛)は売れない小説家。妻とは離婚し娘と月に一度会っています。ゴーストライターで生計を立てながらも小説を書くことを捨てきれない彼は、新作を書くため依頼を断ります。

娘と水族館でイルカショーを観て楽しい時間を過ごした久田は、長崎の海を思います。小説の執筆にとりかかった彼は、最初の一文に悩み、ふと目に入った“サバの缶詰”に子供時代を思い出します。「ぼくには、サバの缶詰をみると、思い出す少年がいる」・・・

場面は1986年の夏に。久田少年は父親のことを書いた作文を担任に褒められます。友達との会話の流れで一年中ランニングシャツ姿で、唾を消しゴム代わりに机に魚の絵ばかり描いている竹本というクラスメイトの家を見に行くことになり、彼の家が廃墟のようにボロボロな外観だったため、友達はゲラゲラ笑って帰って翌日教室で話題にしてバカにしましたが、竹本はいつもと変わらない様子で机に魚の絵を描いていて、「ジャッキー・チェンよりタフ」だと久田は思います。

久田家は怒らせたら“長崎一怖い”母(尾野真千子)と、ち〇こを掻いてばかりいて母にどつかれる父(竹原ピストル)と生意気な弟の4人家族。食卓での兄弟喧嘩の様子も何か懐かしいような郷愁を感じさせます。強面の父なのに母に頭が上がらずそれでいて仲がめっちゃ良いのが伝わってくる演出に 尾野さんと竹原さんの夫婦漫才のような演技も素晴らしかったです。

斉藤由貴とキン消し(キン肉マン消しゴム)が大好きな小学五年生の久田は、ガチャガチャで目当てのキャラが出ず悔しがっている時に、100円玉が落ちているのを見つけて持ち帰ります。天体望遠鏡が欲しくて貯金していた彼は、落とし物として届けなければという罪悪感がありますが、父親に尋ねた答えに安心して貯金箱に入れるんですね。ところが翌日、約束もしていないのに竹本が訪ねてきて、「大事な話がある」と近所の神社に連れていかれ、イルカを見に行こうと誘われます。ブーメラン島の辺りにイルカが来たとヤンキーが話していたのを聞いたというのです。(ヤンキーが言うなら本当だと信じるというのもよくわからんけど

イルカは見たいけど、ブーメラン島はタンタン岩(山)を越え海を渡らなければならないから門限の5時までに帰れないと断ろうとする久田に、竹本は100円ネコババをネタに脅して無理やり承諾させます。「刑務所入るかイルカを見に行くか」という脅しも大人の今なら笑い飛ばせますが、子供にとっては深刻な問題なのよね

翌朝5時。そっと家を抜け出て自転車の二人乗りで出発しようとした時、父が出てきて「どこへ行く?」と声をかけます。怒られて止められるかと思いきや、父は荷台にタオルを巻いて座りやすくし、お金も持たせて送り出してくれます。男の子の冒険心をわかっているこういう親、いいな~~

冒険の始まりにワクワクを抑えられない久田でしたが、タンタン岩へ向かう急勾配の道に早くも音を上げ始めます。山頂の景色に圧倒されたものの下り坂で転倒して自転車が壊れてしまうというアクシデントが発生、自転車を押しながら辿り着いた海沿いの店でラムネを買って休んでいると、バイクでやってきたヤンキーたちが久田に絡みます。竹本が助けようと彼らに石を投げ逆に袋叩きに遭ってしまうのですが、通りかかったヤンキーたちの先輩の金山(八村倫太郎)が助けてくれます。金山、超かっこよかった!!

ブーメラン島目指して泳ぎ出した二人。くらげに刺されないよう長袖のシャツを着るとか、竹本はとっても物知りなんですね それにしてもけっこう距離ありそうなのに小学生が泳いで渡れるって何気に凄いぞ!島に着く直前に足が攣った久田を助けてくれたのはバス停で見かけた女子高生の由香でした。イルカを探しますが結局見つけられず、浜に戻った二人は由香にサザエをご馳走になり、壊れた自転車と一緒に金山(由香の彼?)に送ってもらいました。竹本に自分を誘った理由を聞くと、「お前は(家を見て)笑わんかった(バカにしなかった)から」と答えます。

「じゃあね、またね!」と互いに何度も言い合い別れた二人は、この冒険をきっかけに「タケちゃん」「「ヒサちゃん」と呼び合い一緒に釣りをしたり、みかんを盗んで内田のじじい(岩松 了)に追いかけられたりして夏休み中過ごします。寿司が好きだけれど高いから滅多に食べられないと言ったヒサちゃんを家に誘ったタケちゃんは、サバの缶詰で寿司を握ってふるまってくれました。その美味しさに感激するヒサちゃんは、タケちゃんの4人の妹弟も一緒に食べようと誘います。みんなで食べたらもっと美味しいというヒサちゃんって良い子だよね。 亡くなった漁師だった父がよく作ってくれたと話し寿司職人になるのが夢だと言うタケちゃん。ボロボロの外観と違って家の中は綺麗に片付いているのをみても母(貫地谷しほり)と一家6人が貧しいながらも仲良く暮らしていることが伝わってきます。

とっくに「友だち」と思っていたヒサちゃんでしたが、タケちゃんの母の話を聞いて逆に彼から友だちと思われていなかったと誤解し、学校が始まるとタケちゃんを避けてしまいます。なんとも切ない誤解 何故避けられたのかわからず落ち込んで帰宅した息子の様子が気がかりな母が、その夜事故に遭い帰らぬ人になってしまうの。両親を亡くした竹本兄弟妹は、それぞれ親類に引き取られることが決まります。

それを知ったヒサちゃんが、ありったけの貯金でサバ缶を買って駅に走るんですね。ホームで電車を待つタケちゃんにそれを差し出し「友だちばい!おいたち友だちばい!」と言うと、彼は「知っとる」と答えます。そこにやってきた内田のじじいも袋一杯のみかんを渡します。憎まれ口をたたき合っていたけれど、じじいもタケちゃんのことを可愛がっていたのね

伯父と電車に乗り込んだタケちゃんを「じゃあね、またね!」と見送るヒサちゃん、タケちゃんも「じゃあね、またね!」と返します。あの冒険の日のシーンが蘇るなぁ!! 駅前には息子を追いかけてきた父が立っていて、たまらず懐に飛び込んで泣きじゃくる彼を黙って抱きしめます。家に帰ると、母も同じく抱きしめます。それを見て「僕も」という弟を父が抱きしめてやり・・・いつもと変わらない賑やかな夕食風景が繰り広げられます。

そして場面は再び現在へ。この夏の日の思い出を小説にした久田の本が出ました。それを読んだ元妻から、娘が長崎に行きたがっているとメールが来て、彼は「3人で行かないか」と返します。故郷の駅のホームのベンチに座る久田に声をかけたのは寿司職人になった竹本。二人はずっと友だちだったんですね 離れ離れになった竹本兄妹弟たちですが、年に一度は集まっていることが示され、親戚のところで厄介者扱いされていないというのも何だかホッとします。

竹本をバカにするクラスメイトたちや、3人組のヤンキーは別として、二人はそれぞれの親にちゃんと愛されて育っていたし、かけがえのないひと夏の思い出が育んだ友情をずっと保ち続けていたのも嬉しく思いました。


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