杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

かばん屋の相続

2021年07月31日 | 

池井戸潤(著) 文春文庫

池上信用金庫に勤める小倉太郎。その取引先「松田かばん」の社長が急逝した。残された二人の兄弟。会社を手伝っていた次男に生前、「相続を放棄しろ」と語り、遺言には会社の株全てを大手銀行に勤めていた長男に譲ると書かれていた。乗り込んできた長男と対峙する小倉太郎。父の想いはどこに?表題作他五編収録。(「BOOK」データベースより)

 

働く男たちの愛憎、葛藤を描いた文春文庫オリジナル短編集ということで、著者お得意の銀行(信金)の融資に関わる者たちの視点で描かれた6編の短編小説です。個人的には「下町ロケット」「半澤直樹シリーズ」「民王」などTVドラマ化された作品や映画になった「空飛ぶタイヤ」「七つの会議」などで馴染み深いけれど、小説として読んだものは案外少ない気がします。これは友人お勧めの一作。

・十年目のクリスマス

十年前に火災事故で倒産した神室電機の社長の羽振りの良い姿を見た当時担当だった銀行員の永島の疑問から始まります。当時、危機を迎えていたその会社への融資の可否に葛藤した永島にとって、一文無しになった筈の神室社長の羽振りの良さの理由が気になるのは銀行員の性というヤツでしょうか調べて見えてきた真実を永島がどう扱うのか、双方の人生を絡めたその決断は銀行員としてではなく一個人としてなのかも。

・セールストーク

小島の印刷会社を担当していた江藤は融資を見送らざるを得なくなります。窮地に陥った小島でしたが、別口から5000万の融資を取り付け危機を乗り越えます。その融資先が個人だと聞いて上司の北村は相手が気になり調査を開始。すると意外な人物に辿り着きます。与信検査という銀行の監査に重ねた北村や江藤、小島のリベンジが痛快でした。

・手形の行方

堀田はニュージシャン志望で銀行員はデビューまでの腰掛と嘯く若手ですが、時折大口の案件を獲得してくるため上司たちも不満を抑え込んでいました。ところが1000万の手形を紛失するという事件が起こり、彼を監督する立場の伊丹は事態の収拾に奔走することになります。一方で伊丹はこの事件の真相を探り、遂に真相を突き止めます。犯人は堀田をやっかむ同僚か、彼の態度に腹を据えかねていた手形を渡したタバタ機械の社長か、それとも・・愛情のもつれが招いたとはいえ、同じ銀行員として仲間が連日通常業務の傍ら必死で捜索している姿に良心は痛まなかったのか?「二人」の心中がイマイチ理解できなかったけれど、堀田が配置換えという左遷に甘んじてまで銀行に残っている理由が、親になる責任に目覚めたからという伊丹の推測に少しだけ堀田の苦悩を見た気がします。

・芥のごとく

20年近くも鉄鋼会社を経営してきた豪傑女社長の土屋。入社二年目の土屋が担当となり、何とか土屋の会社を支えようと奮闘しますが・・・マチキンに手を出したらもう破滅は避けられない、それでも急場を凌ぐために頼らざるを得なかった土屋の窮状と、追い詰められた彼女の選択が切ない。努力だけではどうにもならない現実が苦くのしかかってくる結末でした。

・妻の元カレ

銀行員としての自分の行先が見えてきたヒロトが、妻の元カレから来た葉書を見つけたことから始まる物語は、就職時は勝ち組だった自分と就職できずに負け組だった元カレの逆転する人生と、妻が元カレと続いているのではないかという疑惑に苛まれる平凡な男に起きた結末が描かれます。いるよな~~こういう人!自分に自信が持てないから妻にも真実を問い質せない、というか彼女が自分の元を去っていくのが恐いのよね。元カレの仕事が失敗し倒産した時、妻はどちらを選んだのか・・・まぁ、女性目線でいけば当然の結末かと でもこの妻の個人的評価は最低!

・かばん屋の相続

かばん屋のお家騒動を、信金の担当員の視点から描いています。2006年に起きた「一澤帆布」の相続争いに着想を得たのではと推測されているようですが・・・家の商売を嫌って大手銀行員となった兄と職人となり商売を盛り上げてきた弟。父親がなくなり、株券全てを兄に渡すという遺言状の真贋はともかく、元大手銀行員という経歴に胡坐をかき、弟から全てを奪った傲慢な兄の誤算と、生前弟に相続放棄するように言った父親の真意が明かされる場面は胸がすく思いでした。それでも、この兄、しっかり次の職場を確保するあたり、転んでもただでは起きない才覚はあるのね

 

銀行という特殊な環境での様々な思惑や、金融業界独特のルールなども興味深く、融資を受ける側の中小企業の経営者たちの人間くさい物語に華やかな都市銀行とは違う地元に密着した中で起きる事件にいつしか頁をめくる手が止まらなくなっていました。


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ジャングル・クルーズ ネタバレ注意

2021年07月30日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)

2021年7月28日公開 アメリカ 127分 G

アマゾンのジャングルの奥深くに「“奇跡の花”を手にした者は永遠の命を手にする」という不老不死の伝説があった。行動力と研究心を兼ね備えた植物博士のリリー(エミリー・ブラント)は、この秘密の花を求めて危険に満ちたアマゾンへ旅立つ。リリーが旅の相棒に選んだのは、現地を知り尽くしたクルーズツアーの船長フランク(ドウェイン・ジョンソン)。ジャングルに生息する珍しい動物やスリルあふれる先住民の村、滝の裏側など名所の数々を、時にジョークを交えながら観光客相手にガイドしているフランクだったが、彼にもまた、奇跡の花を求める、ある理由があった。「伝説に近づく者は呪われる」と言われる、アマゾン奥地の「クリスタルの涙」を目指してジャングルを進むリリーたち。そこで彼らは恐るべき真実を知り、奇跡の花をめぐる争奪戦に巻き込まれる。(映画.comより)

 

1955年のオープンと同時に作られた、ジャングルをボートで探検するディズニーランドで人気のアトラクション「ジャングルクルーズ」を実写映画化したアクションアドベンチャー作品です。これぞディズニー作品!な王道アクション娯楽大作になっています。

世界大戦前の設定で、英国上流階級のファッションやアマゾンの村の高揚感溢れる賑わい、鬱蒼と茂るジャングルの植物や動物、どこまでも続く川の様子など、目と耳で楽しませてくれます。

弟のマクレガー(ジャック・ホワイトホール)の協力で、探検の道標となる矢尻を盗み出したリリー。彼女は父親から聞かされていた伝説の“奇跡の花”があれば沢山の人々の命を救えると考えています。マクレガーはお洒落で綺麗好きで慎重派の英国紳士ですが、「走りながら考える」行動派の姉をサポートするため一緒にジャングル行くんですね。後に明かされますが、マクレガーは同性愛者である自分の唯一の理解者である姉に絶対の信頼と愛情を持っているのです。

アマゾン奥地へのガイドを紹介してもらうため、リリーが事務所を訪ねると、借金のかたに取られた船の鍵を取り戻しに入り込んでいたフランクがいて、うさん臭さを感じながらも依頼しようとしたところに、マクレガーが本当の事務所の主の二―ロ(ポール・ジアマッティ)を連れて戻ってきます。乱入してきた豹を撃退したフランクを見て、ニーロより安いガイド料だったこともあり、リリーは彼を雇うことにします。(実はこの豹はフランクの相棒でした。

ところが、“奇跡の花”を手に入れて、世界を支配しようと企むドイツ帝国のヨアヒム王子(ジェシー・プレモンス)が矢尻を取り戻そうとリリーたちを追ってきます。追手を交わして船に乗り込んだ一行ですが、目的のためなら手段を選ばない王子は、潜水艦に乗り魚雷をぶっ放します。この騒動がハチャメチャに楽しくて、アトラクション的要素満載でした。そもそも港やアマゾン川に潜水艦がやってくること自体が奇想天外なわけですが

ヨアヒム王子は“不死”の呪いにかけられてジャングルに囚われたまま生き続けるアギーレ(エドガー・ラミレス)をアマゾン川の水を使って蘇らせます。呪いにより川から離れられない彼らでしたが、ある男の策略でジャングルに囚われていたのね その姿は全身蔓と蛇に覆われて不気味さ満載!どこか「パイレーツオブカリビアン」の呪われた海賊たちを連想させます。アギーレがスペイン人というのも、侵略者のイメージに沿って作られたキャラかしらん

ジャングルの中を何日も旅するリリーたちはランドのアトラクション同様、滝に落ちそうになったり首刈り族に襲われたりと危険に遭遇します。中にはフランクの仕込みもあったりで、何が本当で何がお芝居かわからなくなりそうです。

首刈り族の首長は若い女性のサム(ベロニカ・ファルコン)です。(ここにも女性躍進の効果が)リリーは彼女に矢尻に彫られている言葉を翻訳してもらうのですが、そこにアギーレたちが襲ってきて、フランクが刺されて川に落ちてしまいます。リリーはジャングルに逃げ込んで難を逃れますが、翌日生きているフランクに遭遇。実は彼は本名はフランシスコと言い、アギーレと共に探検をした400年前の人で、アギーレの非道な行いを見て彼を裏切り首刈り族の首長の娘を助けましたが、同じく呪いにかかって不死の身になっていたことが明かされます。刺されても血が出ないし何度でも生き返っちゃうのね

怪我をしたマクレガーを残し、二人は「クリスタルの涙」目指して旅を続け、遂に目的の地に!水中のレバーを命がけで操作するリリーと彼女を助けるフランクの間に仲間以上の何かが芽生えたのが伝わってきます。

そこへアギーレが捕まえたマクレガーを伴い現れ、矢尻を使って“奇跡の花”を咲かせるよう迫るのね。 この花が咲く様はまるで藤の花のよう。どこか『塔の上のラプンツェル』のワンシーンを連想させました。

結末は悪人が滅んでリリーとフランクがなハッピーエンド。ワクワクとドキドキの夢いっぱいのアクション作品でした


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朝が来る

2021年07月29日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2020年10月23日公開 139分 G

一度は子どもを持つことを諦めた栗原清和(井浦新)と佐都子(永作博美)の夫婦は「特別養子縁組」という制度を知り、男の子を迎え入れる。それから6年、夫婦は朝斗(佐藤 令旺)と名付けた息子の成長を見守る幸せな日々を送っていた。ところが突然、朝斗の産みの母親“片倉ひかり”を名乗る女性から、「子どもを返してほしいんです。それが駄目ならお金をください」という電話がかかってくる。当時14歳だったひかり(蒔田彩珠)とは一度だけ会ったが、生まれた子どもへの手紙を佐都子に託す、心優しい少女だった。渦巻く疑問の中、訪ねて来た若い女には、あの日のひかりの面影は微塵もなかった。いったい、彼女は何者なのか、何が目的なのか──?(公式HPより)

 

直木賞、本屋大賞受賞作家・辻村深月のヒューマンミステリー小説を河瀬直美監督のメガホンで映画化しています。栗原夫婦とひかりを引き合わせる浅見静恵を浅田美代子が演じています。

実の子を持てなかった夫婦と、実の子を育てることができなかった14歳の少女を繋ぐ「特別養子縁組」によって、新たに芽生える家族の美しい絆と胸を揺さぶる葛藤を描く。血の繋がりか、魂の繋がりか──現代の日本社会が抱える問題を深く掘り下げ、家族とは何かに迫り、それでも最後に希望の光を届ける(公式HPより)

幼稚園で子供同士のもめ事が起こり、呼び出された佐都子。息子を信じたい気持ちともしかしたらという思いが交差する中、栗原夫妻が養子縁組を決意するまでの過程が丁寧に描かれます。並行して、ひかりが何故子供を手放すことになったのかも描かれ、彼女の人となりも示されます。

夫妻の元に突然訪れた若い女性、それは家族に絶望し友人に裏切られてボロボロになったひかり本人だったことが後に明かされます。あまりの変容に本人だとわからず、14歳のひかりにもらった手紙を見せる佐都子。過去の自分を突きつけられて我に返ったかのような反応のひかり。わかってみれば、とても切ない場面でした。

もめ事の真実もわかって誤解も解けた頃、姿を消したひかりを探す警官の訪問を受けた佐都子は、あの女性がひかり本人だったと知ります。ひかりの前に朝斗を連れて現れた佐都子。おそらくは必死でひかりを探し回ったのだろうと思えるシーンです。きっとひかりも立ち直れる、そんな希望のある結末でした。

 


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ブレイブ 群青戦記

2021年07月28日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2021年3月12日公開 115分 PG12

 

集英社「週刊ヤングジャンプ」で連載された笠原真樹原作のコミック「群青戦記」の実写映画化です。

個人のタイムスリップじゃなくて学校一つ丸ごとってのが斬新な設定です。冒頭で屋上から雷鳴と共にジャンプした「彼」の目的は? 一年後、再びの雷鳴と共にタイムスリップした生徒たちは、いきなり野武士たちの襲撃を受けパニックに陥って大半が殺されてしまいますが、それってありですかぃ!!な展開。流血ドバドバなこの手の作品はスクリーンで観なくて良かったわぁ。 そもそも、大勢殺される時点で歴史が狂ってしまっているわけですよ。大丈夫なの??

松平元康(三浦春馬)の軍勢に助けられ何とか生き残った生徒たちですが、数人が織田方に人質に取られて連れ去られてしまいます。

考太と蒼は元康と交渉して、丸根砦にいる人質を取り戻すために戦うことになります。この学校はスポーツ名門校で、野球部やアメフト部、ボクシングにフェンシング、空手に剣道、弓道などに秀でた生徒たちと特進クラスの頭脳派が揃っているという設定です。 

志願した救助隊は30名弱、それぞれの部活道具を用いて乗り込もうとしますが、途中で織田軍に襲われ、遥を守ろうとした考太がまさかの死亡!普通、主だった登場人物は最後まで生き残るんじゃないの??そういう意味でも新鮮な驚きが この時遥も連れ去られてしまいます。

これまで一度も何かに一生懸命になったことがなかった蒼ですが、元康から“一生懸命”ではない、一つの所業に命を懸ける“一所懸命”を教えられたことで勇気づけられ、残った仲間たちと再び立ち上がります。

砦に連れて来られた遥は簗田が1年前に行方不明になった生徒の不破だと気付きます。彼は歴史の改変という野望を抱いて織田信長(松山ケンイチ)の家臣になっていたのでした。

一方、留守番組の特進クラスの小暮サトシ(草野大成)たちは、校舎中庭の霊石に雷を落とせば現代に帰れることに気付き、雷が落ちる時間を割り出しました。それまでに救出組が戻って来なければならないというタイムリミットが設定されます。

3つのグループに分かれて砦を襲う救出組ですが、仲間は次々と倒れていきます。仲が悪そうで実は篤い友情で結ばれていた空手部の相良煉(福山翔太)とフェンシング部の成瀬勇太(飯島寛騎)とか、全身に矢を受けながら仲間を守るアメフト主将とか・・・

人質の女生徒たちを助け出したかと思ったらボクシング部の黒川敏晃(鈴木仁)が彼女を守って殺されちゃったり、どこまで犠牲者増えるの?

絶体絶命のピンチをまたもや軍勢を率いた元康が駆けつけて助けてくれました。仲間を一足先に逃してから遥を助けに向かった蒼の前に不破が現れ、咄嗟に蒼を庇った元康が殺されるに至り、蒼の怒り爆発!全力で不破に戦いを挑み、遥の助けもあって倒すことができました。(不破はその前に木下藤吉郎も手にかけますが、こちらは防具に守られ助かっているのね

タイムリミットが迫る中、馬で学校の敷地に戻ってきた蒼と遥ですが(乗馬できたんかい!!と突っ込んでおく)、蒼は書き換えられた歴史を戻すため残ることを決意していました。現代に戻った遥は、新しく徳川家康の画が発見されたと言うネットニュースを見て(蒼の顔と彼女が渡した手ぬぐいの柄の着物姿です)安堵の笑顔になるのでした。戦国時代では、元康となった蒼が信長に下り、名を家康と改める場面が出てきます。

おいおい!死んだ生徒たちはどうなったの?遥が傷を負ったまま松葉杖状態ってことは元通りというわけではないですよね。一体どうやってこの事態を収拾したのか、あまりにも荒唐無稽で、元はコミック何でもありとしても無茶苦茶過ぎ!俳優陣は豪華だけど、内容がねぇぇぇ


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映画トムとジェリー

2021年07月25日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2021年3月19日公開 アメリカ 101分 G

ニューヨークの高級ホテルに引っ越してきたジェリーと、そんなジェリーを相変わらず追いかけるトム。新人ホテルスタッフのケイラ(クロエ・グレース・モレッツ)が働くそのホテルでは、世界が注目するセレブカップルのウェディングパーティが行われようとしていたが、トムとジェリーのせいで台無しになってしまう。汚名返上のためタッグを組むことになったトムとジェリーが、世界一素敵なウェディングパーティを開こうと奮闘する。(映画.comより)

 

多才だがお調子者でドジなネコのトムと、見た目はかわいらしいがずる賢く容赦ないネズミのジェリーが繰り広げるドタバタを描いた「トムとジェリー」の実写映画化です。といってもトムとジェリーはアニメーションで描かれていて、実写映像に融合されているのですが、これが何だか浮いてるというか溶け込んでないのですごく違和感がありました。 劇場の予告でもその印象が強かったのでDVD待ちにしたんだけど正解だな。

マンハッタンで住む家を探していたジェリーは、同じくマンハッタンにやってきたトムが盲目の振りをしてキーボードを弾いてお金を稼いでいるのを見てちょっかいを出して喧嘩になり、トムのキーボードは壊れてしまいます。この騒動に巻き込まれたケイラは仕事をクビになってしまうのね。

ロイヤル・ゲート・ホテルでドゥブロー(ロブ・ディレイニー)支配人に嘘を付いて仕事に就いたケイラ(この時点でただの優しい女性というわけじゃなくて一癖あるキャラですね)ですが、ジェリーもねぐらをこのホテルに定め、彼を追ってトムもやってきてまたいつものドタバタが始まるの。ケイラの仕事仲間には料理長のジャッキー(ケン・チョン)や、ドアマンのちょっと風変わりなジョーイ、バーテンダーのキャメロンなど。

ケイラはトムをボーイに推薦し、一緒にジェリーを捕まえようとしますがうまくいきません。そんな時、セレブカップルのプリータから失くした指輪を探すよう頼まれます。実は指輪はジェリーが盗んでいたのね。なんだかんだでジェリーとも取引して指輪は無事戻り、プリータからの信頼も得て、ケイラはトムたちが起こした騒動でクビになったテレンス(マイケル・ペーニャ)の代わりにイベントの責任者になり張り切りますが、テレンスのトムとジェリーを利用したリベンジに遭い、結婚式は滅茶苦茶になってしまいます。プリータは思いついたら意見も聞かずに突っ走るベンに結婚は白紙に戻したいと指輪を返して去ります。

反省したトムたちは、ケイラを助け、ベンとプリータの結婚式を仕切り直そうと駆け回ります。

最後はセントラルパークで動物たちも参加しての結婚式。履歴書を搾取した相手の女性をケイラが連れて来て、彼女も就職することができました。ピアノを弾くジェリーにまたもやちょっかいを出して喧嘩を始めそうな二人をケイラたちが睨んでいるのに気づいたトムは、急いで「The End」と書かれたカーテンを閉めます

トムとジェリーの他に、プリータたちのペットのネコのトゥーツやブルドッグのスパイク、像に孔雀、鳩やマンハッタンの野良猫たちも出てきますが、全てアニメーション。そりゃ~実写だったら動物虐待の連発になってしまうものね

でも、わざわざ実写にする必要、あったかなぁ

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THE UPSIDE/最強のふたり

2021年07月24日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2019年12月20日公開 アメリカ 125分 G

スラム街出身で無職、妻と息子にも見放されたデル(ケビン・ハート)は、ハンディキャップを持つ大富豪フィリップ(ブライアン・クランストン)の介護人として働くことになる。秘書のイヴォンヌ(ニコール・キッドマン)を始め周囲は、キャリアも教養もなくお調子者のデルを雇うことに反対する。だが、お互いに一人の人間として接し、刺激し合う二人は忘れていた充実した日々に満たされていく。しかしフィリップの心には、誰にも言えない秘密があった。そんなある日、ふたりを揺るがす出来事が起きてしまう。果たしてどん底だった彼らは<人生のアップサイド>に辿り着けるのか?

 

スラム街出身の無職の男とハンディキャップを持つ大富豪という、住む世界の全く違ったふたりが出会ったことで巻き起こる笑いと友情に心熱くなる物語で、実話に裏付けられているだけに説得力もあります。もちろんオリジナルのフランス版も鑑賞していますが、細かな内容は忘れていたかな エンディングはオリジナル版とは異なっていて、「え?予告で流れていたあのシーンはここで登場するの??」でした

フィリップがデルを介護者として採用したのは、彼の態度が障害者でも普通の人でも変わらないということの他に、利害関係のないデルなら自分の延命拒否に対しても素直に従うだろうという打算でしょう。これまで彼に対する周囲の腫れ物に触るような態度や、同情し見下すような視線に我慢がならなかったこともあるでしょう。フィリップが無意識に求めていたのは対等な関係なんですね。

デルは結婚と離婚を経験し、息子のいる父親です。身勝手な行動で妻に愛想を尽かされ、息子にも冷ややかな視線を浴びせられていたデルは、職に就くことで家族の信頼を取り戻そうとして、フィリップの提案を受け入れるのね。

フィリップを特別扱いしないデルの態度が逆にフィリップの気難しさを和らげます。二人の間に雇用主と介護者の枠を超えた友情が育っていく過程がいくつかのエピソードと共に語られます。オペラに全く興味のなかったデルが傾倒していく様子や、痛みを和らげるための「葉っぱ」でハイになったフィリップの行動など、コミカルでちょっと下ネタも入って描かれていました。

デルはフィリップの文通相手と強引に電話で会話させ、デートさせますが、相手はフィリップの素性を知った上で近づいてきたことがはっきりして、予想していたこととはいえフィリップは深く傷つき、感情に任せてデルを解雇してしまいます。

この一件の前に、傲慢な階下の住民からの嫌味の仕返しとしてデルが描いた絵を高額で売るというエピソードがあります。デルは渡された絵の代価を妻子のための家の購入にあて、彼の得意とする機械作業の仕事に就くんですね。

再び自分の殻に閉じこもってしまったフィリップを心配したスタッフからデルに連絡が入り、彼は強引にフィリップをドライブに連れ出すの。これが冒頭のパトカーとのカーチェイスに繋がります。このデルの荒療治に再びフィリップに笑顔が戻ります。そして彼の事故の原因となったパラグライダーに乗り空中に手を広げ、「自由」を楽しむ二人が映し出され、エンドロールです。

秘書のイヴォンヌのキャラ設定はオリジナルと異なり、聡明でフィリップには上司以上の好意を抱きながら胸に秘めて仕える女性として描かれていました。そして二人の関係もやっぱりハッピーな結末になりそうで 個人的にはこちらの方が好みですし、ハリウッドらしい結末だなぁ。


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楽園の烏

2021年07月23日 | 

阿部智里(著) 文藝春秋(出版)

「あのお方は慈悲深い」誰もが称えた。同じ笑顔で。

「この山を売ってはならない理由が分かるまで、売ってはいけない」
資産家である養父の奇妙な遺言とともに、ある「山」の権利を相続した安原はじめ。その途端、彼のもとに「山を売ってほしい」という依頼が次々と舞い込み始める。この山には一体、何が隠されているのか? その答えを知っていると囁く美女に誘われ、山の内部に入ったはじめは、そこで信じられないものを目にする――。(本紹介文より)

猿との大戦から20年後。東京から、八咫烏たちが住む異界「山内」で再び物語が動き始めます。

何より驚いたのは、金烏一家が全く登場しないこと。それに雪哉が博陸侯雪斎と名を変えて山内の最大権力者となっていることでした。(私にとっては雪哉という名前の方が馴染み深いので以後も雪哉と書きます

自堕落でお気楽そうに見える安原はじめの行動も、彼の正体が明かされてみればなるほど!と思わされます。

頼斗は北家の中流貴族の子息ですが、素直で純真な性質と貴族の高潔さは西家の明留にとても似ています。

今作では千早がはじめや頼斗を助ける形になるのですが、雪哉とは袂を分かつ関係になっていて(でも敵対しているわけではないのね)、彼の口から出た言葉から明留が亡き人になっていると推察されます。千早は元々雪哉のことを全面的に信用していない節がありましたが、茂丸があんなことになってからの雪哉の変わりようが恐ろしいほどです。

そもそ奈月彦は同族の八咫烏に対して、決して酷い扱いはしなかった筈。とすれば金烏一家が出てこないのは・・・

はじめを山内に連れてきた「幽霊」の正体とは そして彼女の名前はやっぱり最終頁に出てきました。新刊いつ出るんだろ??

今回の舞台は朝廷ではなく、谷間です。「空棺の烏」で朔王と雪哉の出会いが書かれましたが、今作では彼の跡を継いだ「トビ」という少年が頼人やはじめたちと行動を共にします。年齢以上に賢くリーダーとしての素質も持ち合わせていますが、何といってもまだ子供。最終的には雪哉の冷酷な計画に騙される形で「家族」を喪うんですね。

山内の平和を乱す八咫烏は20年前山内を襲ってきた「猿」と同じだと冷酷に言い放つ雪哉に、あのひねくれてはいたけれど故郷や家族をこよなく愛し若宮を支えようとしていた青年雪哉はどこに消えてしまったのだろうと悲しくなってきます。

ただ、これも最終章で、彼が敢えて酷薄さを装った疑惑が出て来ちゃうんですね~~ はじめと共に山内を去っていった頼斗の行動も意味深です。

ますます次巻が楽しみになりました。

 


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約束のネバーランド

2021年07月22日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2020年12月18日公開 118分 G

幸せに満ち溢れた楽園のような孤児院、「グレイス=フィールドハウス」
そこで暮らす孤児たちは、母親代わりでみんなから“ママ”と呼ばれている、イザベラ(北川景子)のもと、里親に引き取られる年齢になる日を待ちわびていた。エマ(浜辺美波)、レイ(城桧吏)、ノーマン(板垣李光人)の3人も、いつか外の世界で暮らすことで、より幸せな日々がやってくると信じていた。“その日”がくるまでは……。
里親が見つかり、孤児院を笑顔で後にするコニーを見送ったエマとノーマンは、彼女が肌身離さず抱きしめていた人形が、食堂に落ちているのを偶然見つける。忘れ物の人形を届けるため、決して近づいてはいけないと、ママから教わっていた「門」に向かった2人がそこで目にしたのは、
無残にも命を奪われ、食料として出荷されるコニーの姿だった。
そう……、みんなが「楽園だと信じていた孤児院」は、実は「鬼に献上する食用児を育てる農園」で、さらには母親のように慕っていたママは、「最上級の食用児を育てる飼育監」だったのだ。全てが偽りだったと気がついた3人は、孤児たち全員を引き連れた、無謀ともいえる脱獄計画をスタートさせる…。(公式HPより)
 
「週刊少年ジャンプ」連載のコミック「約束のネバーランド」の実写映画です。TVアニメ版をちらっと見ているので大体のストーリーは知っていましたが、通して見ていなかったので「あ、そうだったんだ!」という発見もあって楽しめました。
 
天真爛漫で誰よりも真っすぐな性格のエマ、理性的でリーダー格のノーマン、現実主義でクールなレイは同年齢の15歳の設定ですが、城君はともかく、後のふたりはちょっと無理があるような・・・でもキャラ的には「有り」かな。
渡辺直美の演じるイザベラの補佐役(シスター)クローネは、ママの座を狙って足を引っ張ろうと企み、子供たちに農園の秘密(人間と鬼の間で交わされた密約)を話し、脱走を見逃そうとします。でもママの方が一枚上手で、クローネは排除されてしまうの。
 
ノーマンの仕掛けた罠で裏切者(密告者)の正体が判明しますが、実は彼こそが小さな頃から孤児院の秘密に気付いて脱走する機会を窺っていたのね。柵の先にある壁に登って偵察しようとしたノーマンとエマはママに見つかってしまいます。ママはエマの足を折りすぐには逃げ出せないようにしたうえで、これまでの仮面を脱ぎ捨てノーマンの出荷を告げます。
レイとエマはノーマンを逃がそうとしますが、ノーマンは壁の上に登ってその先を調べた上で、皆を逃がすため自らが犠牲となる選択をします。
絶望が諦めに変わったように見えた二人ですが、それはママを欺くための芝居でした。
 
レイの出荷前夜、彼が自ら焼身自殺を図り孤児院に火をつけた・・・かに見せて、4歳以下の子供たち(6歳になるまでは出荷されないのでそれまでに必ず迎えに行くと約束したのね)を敢えて残して脱走する子供たち。密かにそのための練習をし、道具を準備していたのです。
壁を登り谷を越えて対岸にロープを渡し次々と脱出する子供たち。この作戦もノーマンがエマに手紙で残していました。
 
最後に残ったエマは追ってきたママと対峙します。ママはエマの年齢の時、同じように逃げ出そうとして諦めたことを話します。この時レイが彼女の子供であることも暗示されるんですね。エマはママが自分たちを壁の向こうに行く強さを持つよう育ててくれたのではないかと言います。
エマがロープを渡り、子供たちが壁の向こうに消えていくのを見守るママはこの時自らの死を覚悟していたのですね。遥か昔、自分が諦めてしまった希望を彼女はエマたちに託したのかもしれないなぁと思いました。
 
物語はまだ序章といったところでしょうか?続編が作られたら観たいけど、年齢的にはもっと無理が出てきそうですな。

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雪の女王 ゲルダの伝説

2021年07月21日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2019年制作 ロシア 87分

雪の女王の悪い魔法のため、家族を失いそうになっていた王様は、世界からすべての魔法を封印する方法を見つけた。
それは、魔法を習得した者を鏡の世界に閉じ込めてしまうという方法だった。雪の女王も鏡の世界に閉じ込められていた。
魔法の国でありながら、魔法使いを全て閉じ込めようとする王様。魔法使いの家族でありながら、今だ魔法を使えないゲルダだだけが、
王様を止め、世界を救える唯一の人間だった…。ゲルダは、海賊の娘や動物たちの助けを借りて、冒険の旅に出る。(Amazon作品紹介より)

 

「美女と野獣」「トイ・ストーリー」のスタッフによる魔法の国を舞台にした友情と冒険の物語ということですが・・・これシリーズなのね。

でもって四作目なのね 普通に童話「雪の女王」のお話じゃなかったのね さすがにCGはディズニーアニメに劣らない出来です。自動お掃除ロボットが街を行き交う様は魔法の国というより近未来っぽいかな。

ヒロインのゲルダは魔法使いの家族の中で一人だけ魔法が使えません。でも鏡の国に閉じ込められた家族を救おうと一生懸命で、そんなゲルダを海賊の娘のアルフィダや、トロルたちや、前作で彼女を裏切ったらしい少年ローランが助けてくれるんですね。最初から観ていればストーリーが繋がるのでしょうけど・・。

王様は息子の王子を溺愛してるけど、王妃はいないの?王子の方も父親の横暴を「お前の未来のためだ」と言われて見てるだけなの?

そもそも魔法の国なのに科学に没頭する王様ってどうなの?などなど頭の中で???が回っていました。

鏡の国に囚われている雪の女王の方は、孤独が辛くなっていたのか、自分を閉じ込めた魔法使いたちがやってきても大人しく彼らに協力してるしな~~もっとも彼女の方は鏡の国を抜け出せるなら敵でも手を組むと決めたようですが

どんどん冷酷になる王様の方が悪役です。(巨大ロボットの中に入って岩怪獣になったローランと戦闘って、映画の方向性がわからなくなりそうだけど)大切な人を次々奪われて遂にゲルダの能力が開花しますが・・え?尻尾??竜??人間じゃないんですか~~ それとも魔法使いのコスチュームなのかしらん?

扉が破壊されそうになった絶体絶命のピンチに、父を諫めようと王子が自ら扉の向こうに消えた=王子も魔法使いだったことで、王様の態度が豹変。自分が間違っていたと逆にゲルダに助けを求める展開は急過ぎでしょ 

雪の女王もゲルダの赦しをもらって解放されましたとさ。彼女も一応改心したってことですかね。どうもテーマは「許し=赦し」だったようです。

カイとアルフィダ、ゲルダとローランの仲もなハッピーエンドでした。


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竜とそばかすの姫

2021年07月19日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)

2021年7月16日公開 121分 G

50億人がすれ違う美しくも残酷な仮想世界。ベルの歌声は世界を変える――

自然豊かな高知の田舎に住む17歳の女子高校生・内藤鈴(声:中村佳穂)は、幼い頃に母を事故で亡くし、父と二人暮らし。母と一緒に歌うことが何よりも大好きだったすずは、その死をきっかけに歌うことができなくなっていた。曲を作ることだけが生きる糧となっていたある日、親友に誘われ、全世界で50億人以上が集うインターネット上の仮想世界<U(ユー)>に参加することに。<U>では、「As(アズ)」と呼ばれる自分の分身を作り、まったく別の人生を生きることができる。歌えないはずのすずだったが、「ベル」と名付けたAsとしては自然と歌うことができた。ベルの歌は瞬く間に話題となり、歌姫として世界中の人気者になっていく。数億のAsが集うベルの大規模コンサートの日。突如、轟音とともにベルの前に現れたのは、「竜」(佐藤健)と呼ばれる謎の存在だった。乱暴で傲慢な竜によりコンサートは無茶苦茶に。そんな竜が抱える大きな傷の秘密を知りたいと近づくベル。一方、竜もまた、ベルの優しい歌声に少しずつ心を開いていく。やがて世界中で巻き起こる、竜の正体探しアンベイル。<U>の秩序を乱すものとして、正義を名乗るAsたちは竜を執拗に追いかけ始める。<U>と現実世界の双方で誹謗中傷があふれ、竜を二つの世界から排除しようという動きが加速する中、ベルは竜を探し出しその心を救いたいと願うが――。現実世界の片隅に生きるすずの声は、たった一人の「誰か」に届くのか。二つの世界がひとつになる時、奇跡が生まれる。(公式HPより)

 

母親の死により心に大きな傷を抱えた主人公が、もうひとつの現実と呼ばれる50億人が集うインターネット上の仮想世界<U(ユー)>で大切な存在を見つけ、悩み葛藤しながらも懸命に未来へ歩いていこうとする勇気と希望の物語(公式HPより)

「サマーウォーズ」「未来のミライ」の細田守監督が、超巨大インターネット空間の仮想世界を舞台に少女の成長を描いたオリジナル長編アニメーションです。ベルのデザインは「アナと雪の女王」のジン・キムが担当しています。

遊びに出かけた川が増水し、取り残された子供を救おうとした母を鈴は必死に止めますが、母は振り切って川に飛び込みました。その結果子供は助かったものの母は亡くなってしまったのね。母の行動を理解できず心に傷を負った鈴は、人前で歌えなくなってしまいました。彼女を心配した親友に誘われた仮想世界Uの中で、鈴は自然に歌うことができました。その歌声は評判となり瞬く間にUの世界の歌姫になります。

仮想世界の中のもう一人の自分であるAsのコスチュームをプロデュースしているのは毒舌メガネ女子の親友のヒロちゃん(幾田りら)。この子のネット知識ってば半端ね~~!! ちなみにUはボディシェアリング機能でユーザーの隠された能力を引き出すんですね。スキャンした生体情報から自動生成されてデバイスが常時本人の生体情報と連動している・・って既についていけなくなってる私 「あつ森」がもっと進化したらこんな風になるのかなぁ? いや、映画「アバター」みたいだったりして

ベルのコンサート(コンポを付けた巨大くじらが登場しますが、細田作品ってくじら率高いような)に乱入してきた竜は、狂暴さからUの住人に嫌われているのですが、何故か気になってしまったベルは彼と話をしようと接触を試みます。次第に竜が乱暴なだけではなく孤独や傷を抱えて苦しんでいることに気付くベル。二人には心の傷という共通点があったのね。でも竜を悪と見なして排除しようとする正義を辞任するAsたちが執拗に竜をアンベイルしようと追いかけベルも巻き込まれていきます。ベルが竜の「城」で彼と踊るシーンは彼女の名前もまんま「美女と野獣」のオマージュですね

現実世界の鈴にはヒロちゃんの他にも、何かと気にくれるくれる幼馴染のしのぶ君(成田凌)がいます。お互いに好意を抱いているのに素直になれない二人・・青春の王道だ しのぶ君はバスケが上手でクールで女の子に人気のあるキャラでございます。父親(役所広司とは母の死後、コミュ不足でどこか距離感がある関係。これは男親故の不器用さも大いに関係していそうですが 他にも全校生徒の憧れのルカちゃん(玉城ティナ)や一人だけのカヌー部でインターハイを目指す熱血男子のカミシン(染谷将太)、母も入っていた合唱隊のメンバーのおばさんたち(森山良子、清水ミチコ、坂本冬美、岩崎良美、中尾幸世)が鈴を見守っています。

竜の正体は父親に虐待されている兄弟の兄の方でした。何十億人のAsの中から見つけ出せるのも同じ日本人なのも突っ込みは無しで

助けたいという想いを信じて貰うため、鈴は敢えてアンベイルされて素顔で歌い出します。

彼女の歌声ってちょっと独特だけど心の直接語り掛けるような不思議な魅力があるんですよね

心を開いてくれた竜ですが、父親が気付いて、居場所を告げる前にネットを切断されてしまいます。画像から現実の住所を割り出していくのも、現実に出来そうな感じなのがちょっと怖いかも

兄弟を力ずくで連れ戻そうとする父親の前に鈴が立ち塞がります。傷つけられても怯まず真っ直ぐに目を見て動かない彼女の身体中から放たれる強い意志の前に、父親は怯み逃げ出します。(でもこれを鈴一人の行動とするのは現実的ではないような気もするんですけどね~~

竜の少年は、鈴が父親に正面から立ち向かう姿に、自分も逃げたり我慢するだけではなく、向かっていく勇気が必要なんだと気付きます。これは大人が助けることで解決するのではなく、少年少女が自らの行動で苦境を切り拓くことの大切さを伝えているってことでしょうか。

ネットの世界は、自分と相容れない者への容赦ない排除行動や、自らの鬱憤を見も知らぬ他人に向けて晴らすかのような状況が当たり前のように見受けられますが、この作品でもそういう風潮が描かれていて、正義を振りかざす者たちの醜さも暗に示されていました。


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烏百花 蛍の章 八咫烏外伝

2021年07月17日 | 

阿部智里 (著)文春文庫

「どうあったって、成就することのない恋だ。さっさと諦めて、楽になってしまいたかった」―身分違いゆえに深く秘めた想い、愛する人の窮地を救うための切ない嘘、自らの命をかけた覚悟の恋が、異世界「山内」の歴史の流れの中で宝石のように煌めく。大ヒットファンタジー「八咫烏シリーズ」本編では語られなかった、あの人の物語。(「BOOK」データベースより)

 

シリーズの主役級から名もない里烏まで、秘めた想いが溢れ出るエピソードが詰まっています。

「しのぶひと」は雪哉の勁草院2年目、草牙時代にあった縁談にまつわるお話。端午の節句で行われた神事の花形射手を務めた雪哉を見てその成長に驚く真赭の薄に来た思いがけない縁談。還俗して女の幸せをと願う浜木綿や若宮に澄尾が雪哉を推したのです。雪哉に対して弟以上の感情を持ちえなかった真赭の薄は激高し、澄尾に怒りを爆発させます。でも彼の自分への気持ちには気付かないんですね 

「すみのさくら」は浜木綿が入内にあたり義妹に見せた態度の理由が、彼女の過去から語られます。南家当主の姫として将来は長束の后にと育てられていた墨子(浜木綿の本名)ですが、ある日突然攫われるように連れ去られます。身分を剥奪され、山烏の孤児たちと暮らすようになった墨子はそこで両親の死の真相を知ることになります。若宮の母の死に関わった両親の墓には花すら供えられることもなかったある日、宗家の若宮と出会い、自分の母を殺した者の墓参りをする若宮に心惹かれた墨子は若宮と友達になるのね。彼女の両親ははめられたのではないかということも亡き母の羽母から聞かされた墨子は、南家の思惑に逆らい若宮のために働こうと入内を決意していたことがわかるエピソードです。

「まつばちりて」は「烏は主を選ばない」に登場する秘書官の松韻が主人公。
谷間の女郎が生んだまつは、才を認められて落女(女としての生を捨てて男として生きること)となり大紫の御前の藤宮連に加わります。大紫の御前の恩に報いようと固く忠誠心を誓った彼女の前に一人の男が現れ、激しく対立するのですが・・・大紫の御前は、自分が求めて得られなかった「愛」に対する嫉妬心が強い女性だということが夫である金烏代の口から語られる場面では、金烏代の諦観がにじみ出ています。本シリーズでは金烏代の不甲斐なさばかりが強調されていますが、そうなってしまった理由は過去の恋愛にあるのかな?と思わせる場面です。松韻を慕う後輩(恋愛感情ですね)に陥れられ窮地に立たされた彼女を救うために、男は心にもない嘘を付きます。出世を諦め左遷された男の元に、松韻を見出した(育ての親のような存在ですね)宮烏が訪れます。男の真意に気付いた松韻は、卵(二人の子供)を守るため愛に殉じて死んでいったのです。彼女が残した卵を抱き締め慟哭する男の痛みが伝わってくるようでした。

「ふゆきにおもう」雪哉の実母にまつわるお話。

垂氷郷郷長の次男雪哉と三男雪稚が行方不明になり母の梓は必死で幼い二人を探します。
雪哉の実母は北家当主の姫君・冬木で、梓は彼女の侍女でした。身体は弱かったけれど怜悧な彼女は、自分が気に入った者しか傍に置かず、そうでない者に対しては冷淡だったため誤解されていましたが、本当は無垢な者には優しい女性だったのです。雪哉は母の性格をそっくり受け継いでいるのね 梓は冬木の数少ない理解者でした。そんな冬木が恋したのが雪正で梓も陰ながら応援しますが、嫁いだ冬木に子ができず、彼女の望みだと言われて梓が側室になり、雪馬が生まれます。ところが冬木が乗り込んできて大騒ぎに!梓を側室にと望んだのは冬木ではなく彼女の母が仕組んだことで、さらに雪正からはそもそも冬木ではなく梓を妻にと望んでいたと明かされるのです。騒ぎの後、冬木は雪正に強引に迫り卵を産んで死んでしまいます。後妻となった梓は分け隔てなく雪哉を育ててきたのですが、口さがない者たちからいつしか雪哉は事情を察していたのね。彼の捻くれた性質はむしろ幼い頃の周囲の心ない陰口の影響大かも。雪哉に裏表があることを行方不明事件が起こって初めて知った梓は、同時に冬木が起こした騒動の真意に気が付くのです。賢い冬木は自分が雪正に好かれていないことを承知の上で、それでも自分が愛した人の子供を生きた証に望んだのでしょう。哀しくて強い決意のもとに雪哉は生まれてきたのね。これもまさしく母の愛 そのことに雪哉が気付く日は来るのかしら?そして幼い兄弟を助けたのは先の金烏?空間の綻びを繕うことができるのは金烏代ではないよね??

 

「ゆきやのせみ」は「黄金の烏」と「空棺の烏」の間のエピソードで、外伝の中でもコミカルでほっと一息つける一作です。

地方巡啓で南領にやってきた若宮と護衛の澄尾、雪哉ですが、若宮の放浪癖が祟り、食い逃げの濡れ衣を着せられて若宮と澄尾が投獄されてしまいます。若宮は浜木綿が身分を偽っていた時に使っていた「墨丸」の名前で色々しでかしていたので、それがばれると非常に拙い立場になるという。若宮を捜しにきた雪哉は不承不承ながら真犯人を探し出して二人を解放しますが、そこへ南家当主がやってきます。正体バレバレですが隠し通すため逃げ出した若宮と雪哉は、追手をかわすためと徒歩で山越えをしますが、その途中空腹のあまり蝉を食べようとする若宮の毒見のため、蝉を食べさせられた雪哉。無邪気に「口から蝉の足が出てる」と指摘する若宮に殴りかかる雪哉の気持ち、わかるわかる

 

「わらうひと」は、完結編から半年後の出来事。
ある日、義手義足をつけた澄尾が彼女の元にやってきて想いを伝えます。澄尾の自分に対する気持ちに気付いていた真赭の薄ですが、彼女の中でその答えは決まっていました。ところが、返事を聞いた途端「それでいい」とあっさり帰っていく澄尾に、自分なりに真剣に考えていた気持ちを侮辱されたと感じた彼女はまたまた怒ってしまいます。一方、千早は保護されている西家を出て谷間で暮らしたいという妹の結に猛反対し、心配した明留が姉の真赭の薄に助けを求めます。女同士、結の本心を聞いた真赭の薄は彼女の応援に回るのね。誰かの庇護の元にいれば幸せだと考える男と、自らの力で生きていきたいと望む女。結だけでなく真赭の薄の生き方にも共通します。千早に結の気持ちを伝えに出向いた真赭の薄は澄尾と出会い、彼の言葉の本心を聞き出します。初めは高慢な宮烏の姫だと思っていた彼女の出家後の心持ちに惚れ、叶わぬ恋と知る故に何とか欠点を探そうとして逆に深みにはまった澄尾でしたが、その気持ちを必死に抑えてきました。でも生死の境をさまよう中で「手を握ってくださいませぬか」と口にしたことで想いがばれちゃったんですね。回復した時、彼は自らの気持ちを伝えることでその思いにけじめをつけようとしたのです。真赭の薄が澄尾という男の本当の姿とその影の努力に気付いて思わず呟いた「あなた、存外にいい男なのね」に反応して「やっとお気づきなさったか」と笑う澄尾。これは二人の関係もまた変わってくるのかしらん?


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オンネリとアンネリとひみつのさくせん

2021年07月17日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2019年5月25日公開 フィンランド 75分 G

オンネリとアンネリの家の前に、身寄りのない孤児たちが暮らす「子どもの家」ができる。高い柵に囲まれたそこは、所長のミンナ・ピンナが子どもたちを厳格なルールで支配する自由のない場所だった。ある日、逃げ出した少年から施設内でのひどい扱いを聞かされたオンネリとアンネリは、子どもたちを助けることを決意。近所のリキネン夫妻やノッポティーナ&プクティーナ姉妹、プティッチャネン親子とともに、「ひみつのさくせん」を開始する。(映画.comより)

 

マリヤッタ・クレンニエミの名作児童文学「オンネリとアンネリ」シリーズの実写映画化3作目は少女達の夏休みのお話です。前2作に比べ成長したオンネリとアンネリは、最早小さな女の子ではないけれど、その世界観は変わっていません。成長した二人に合わせ、衣装や小物もちょっぴり大人っぽくなっていますが、色使いも含めてお洒落度も上がっている感じ!キャストは変わらず、初夏のフィンランドを舞台に、かわいそうな子供たちを助け出すために“秘密の作戦”を決行する様子が描かれます。

今回の悪者役はミンナ・ピンナです。身寄りのない孤児たちの家の責任者として前任者から引き継いだ彼女は、ガチガチのルールで子供たちを支配します。名前じゃなくて番号で呼び、細かな規則を強要し、家の周囲は高い柵で囲んで庭には遊具もありません。リキネンさんはミンナ・ピンナと同級生だったことがあるようですが、子供の頃の彼女は掃除ばかりしている真面目な子だったと語られます。実は彼女は子供が嫌いなのではなく、子供たちが安全清潔に暮らせるよう過剰に気を配っているだけなのですが、子供にしたら息の詰まる生活なんですね。

窮屈な毎日に我慢できず、ある日一人の少年が逃げ出してオンネリとアンネリの山小屋に入り込み二人と出会います。

二人が焼いたパイを食べるシーンはこれまでの作品でも登場しますが、今回はクレープや焼きマシュマロも登場して、手作りのジャムと合わせてとても美味しそうでした

少年から「子どもの家」の実情を聞いて同情した二人は、市長に陳情の手紙を出します。ところが視察に訪れた市長は、連絡を受けてミンナ・ピンナが慌てて用意した遊具や綺麗に整えられた家の中を見て問題無しと判断してしまうの。この市長、いかにも市民の声を聞く善い人のように見えて、本当は上辺しか見ない薄っぺらな人間として描かれています。 今までより辛口な描き方ですね。

置いてきた妹に自分の無事を知らせようと書いた手紙を届けるため、プティッチャネンさんに協力を求める二人。悪い人に捕まることを心配する父親を息子のプティが説得し、ネズミに扮して届けます。ちょっとドキドキな冒険シーンです。ところがその手紙がミンナ・ピンナに見つかってしまい、少年の居場所がばれてしまいます。警官であるリキネンさんは可哀相に思いながらも法律に背くことができず少年を「子供の家」に連れ戻しますが、自分の行為が許せず警官を辞めてしまいます。

諦めない二人は、ミンナ・ピンナの弱点を探ろうとアンネリが孤児の振りをして「子供の家」に潜り込み、彼女がUFOを信じていることを知ります。懐中電灯を使ってのモールス信号で、オンネリやリキネン夫妻と連絡を取り合い、ノッポティーナ&プクティーナ姉妹の育てている「不機嫌な植物」を使ってミンナ・ピンナをおびき出すんですね。 巨大な風船状に膨らんだ植物と共に空を飛んでいくミンナ・ピンナはでも何だか楽しそう!遠くペンギンが一列になって歩いている地に降り立った彼女はそこで使命感に燃えて新しい生活を始めるの 適材適所というわけです。

いなくなった「子供の家」の所長にはリキネンさんが抜擢され、バラの木夫人の手でとても温かな居心地の良く作り変えられた「子供の家」で、子供たちとリキネン夫妻は楽しそうに暮らすのでした。


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オンネリとアンネリのふゆ

2021年07月16日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2018年11月24日公開 フィンランド 81分

クリスマスの近づくある日、バラの木夫人(エイヤ・アフヴォ)から買った小さなかわいいおうちで暮らすオンネリ(アーヴァ・メリカント)とアンネリ(リリャ・レフト)のもとに、プティッチャネンというこびとの一族の家族がバラの木夫人をたずねてやってきました。おうちをなくしたこびとの家族は、彼らをつかまえようとする悪い人間たちから逃げているといいます。そこでふたりは、夫人の居場所が分かるまで、ふたりのドールハウスに家族をかくまうことに。しかし、お金に困っているガソリンスタンド店の夫婦がこびとの家族の存在に気づいて…!はたして、ふたりは彼らを守ることができるのでしょうか。(公式HPより)

 

マリヤッタ・クレンニエミの児童文学「オンネリとアンネリ」の実写映画化シリーズ第2作です。前作に続いてリキネン(ヤッコ・サアリルアマ)、ウメ・ボーシュ(ヨハンナ・アフ・シュルテン)、プクティーナ(キティ・コッコネン)、ノッポティーナ(エリナ・クニヒティラ)も登場しています。

黒髪のオンネリと金髪のアンネリは姉妹じゃないけど、子だくさんのお互いの両親は弟妹の面倒を見ることで手一杯。自分だけのお家を夢見ていた二人はバラの木夫人から可愛いお家を買い取って二人で暮らしています。魔法が使えるノッポティーナとプクティーナ姉妹や、警官のリキネンと結婚したウメたち、ご近所さんとも仲良しです。

前作では家の外観も中の家具や雑貨も彼女たちの色違いのお揃いのファッションも何もかもが女の子の心をくすぐる可愛さに溢れていましたが、今作でも冬仕様のインテリアや小物やお揃いの冬服が目を楽しませてくれます。

クリスマスも近いある夜、小人のプティッチャネン一家が、バラの木夫人を訪ねてやってきました。でも二人はバラの木夫人の連絡先を知らず、夫人の従妹のお隣の姉妹も出かけていました。また出直すと言って引き返したプティッチャネン一家でしたが、事故に遭い助けを求めてきます。夫人に連絡がつくまで一家を泊めることにした二人に、プティッチャネン氏は、悪い人間に見つかると危険なので自分たちの存在を秘密にして欲しいと頼みます。オンネリは壊れた車を弟のミニカーだといってガソリンスタンドの主人に修理してもらうことにしますが、彼の妻のアデレは昼に小さな車のタイヤ痕を見ていたので不審を抱きます。

2階のドールハウスに一家を匿うことにした二人。冒頭に登場するクリスマスのアドベントカレンダーから出てくる小さな道具は小人が使うのにちょうど良くて、「出来事には意味があるのね」と微笑み合う二人です。

ガソリンスタンドは売上が減って苦しかったのですが、お金が無くても愛があれば幸せと思う夫と反対に、妻のアデレはお金があれば暖かな南の国で幸せになれると夢見ていました。昨夜のタイヤ痕が気になってオンネリたちの家の様子をうかがっていたアデレは、二人が小さな人形のようなものを抱いているのを見ます。お金を稼ぐため掃除の仕事を探しに見世物小屋を訪ねたけれど断られてしまったアデレでしたが、小人を店に売り飛ばすことを思いつきます。

二人の家に押しかけたアデレは、両親に依頼されたと嘘をついて強引に掃除を始めます。警戒したプティッチャネン一家は、ドールハウスの中で本物の人形のように静止して、アデレの目をごまかします。翌日もやってきたアデレから何とか逃げ切った一家は、バラの木夫人を訪ねてきた理由を二人に語ります。「大きな人間」が森を切り開いたことで彼らは住む場所を失い、家を建ててくれると言う噂を聞いて夫人を頼ってきたのです。

今回、ノッポティーナとプクティーナが作るのは大きくなったり小さくなったりする魔法の薬です。アデレはオンネリとアンネリの留守中に家に忍び込み、難を逃れたプティッチャネンの息子のプティ以外の4人を連れ去って見世物小屋に売ってしまいます。小人たちがいなくなったと知り、オンネリとアンネリは隣人たちに協力を求め、アデレに問い質します。そこに魔法の薬を飲んだプティが現れ、小人たちも同じ人間なのだと気付いたアデレは反省します。このお話に出てくるのは悪者の役割を演じていても基本的には善人なんですね。 今回の教訓は姿かたちは違っても皆同じ「人間」だってことかな

見世物小屋の主人から一家を取り戻して、無事にオンネリとアンネリの家に戻ったプティッチャネン一家は、ドールハウスの中で通常のクリスマスより早い“プティクリスマス”パーティを開きます。バラの木夫人もやって来て、招待された一同は魔法の薬を飲んで小さくなって一緒にプティクリスマスを楽しみます。“サンプティクロース”も舞い降り子供たちにプレゼントを渡してくれました。

バラの木夫人が森の木の根元に作ってくれた自分たちにぴったりな家にプティッチャネン一家は大感激!それを見届けたオンネリとアンネリも嬉しそう で、めでたしめでたし


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弥栄の烏

2021年07月15日 | 

阿部智里 (著)文春文庫

八咫烏の一族が支配する異世界・山内を舞台に繰り広げられる、お后選び・権力争い・外敵の進入。大地震に襲われた山内で、100年前に閉ざされていた禁門がついに開かれた。崩壊の予感が満ちる中、一族を統べる日嗣の御子・若宮は、失った記憶を取り戻すことができるのか。そして、人喰い猿との最終決戦に臨む参謀・雪哉のとった作戦とは――。巻末には、先輩の大作家・夢枕漠さんとの熱い対談を収録!

八咫烏シリーズ第一部完結編です。
これまで周到に張り巡らされてきた伏線が全て回収され、この異世界の謎が明かされます。

山神の怒りにより大災害に襲われる山内。禁門が開いて大猿が現れ、若宮・奈月彦は神域の山神の元へ呼び出されます。人を喰らって化け物と化した山神から御供の少女の世話を命じられた若宮は、その一方で山神の正体を探ろうとしますが、同時に「金烏」とは何かと自分の存在意義を自問するようになります。

現世が舞台の前作「玉依姫」と対をなす今作で、山神の怒りを受けて殺された人物と生死の境をさまよう人物が誰なのかが明かされます。

一瞬で炭化したのは雪哉の親友の茂丸だったのねそして重傷を負ったのは澄尾でした。いつもは冷静沈着な雪哉の慟哭の描写は胸が痛くなるほどでしたが、彼の一番の理解者であり唯一心を許せる親友だった茂さんを喪ったことで、ますます冷徹な軍師となっていく姿は・・イタ過ぎる
展開は「玉依姫」で予めわかっているのですが、今作は八咫烏側の視点で進んでいきます。

浜木綿ではなく真赭の薄が志帆の世話をすることになった理由も語られます。

浜木綿は流産していて、子供が産めない身体だと宣告されてしまうのね 宗家の世継ぎを作るため、真赭の薄に側室になってくれと頼む彼女と、はっきり拒絶する真赭の薄。どちらの心情もしっかり描かれているのが凄い!

「玉依姫」では「英雄」が猿をも退治するのかと思わせる終わり方でしたが、猿との最終決戦は雪哉率いる八咫烏の勝利に終わります(それにしても雪哉の作戦は市井の者を犠牲にする冷徹なものでしたその雪哉が若猿に襲われた時、猿の最期の言葉に一瞬見せた表情はせめてもの救いになるのか??あれは「黄金の烏」で若宮が殺した子猿の兄だったっけ?)が、仲間を全滅に追い込んでまでも遂げたかった大猿の目的は、金烏の謝罪だったのです。謝罪と引き換えに金烏である奈月彦の「本当の名前」を教えると言いながら、謝罪を受けた後、その言を翻し自決した大猿に、彼の怨念の深さが窺えました。 

名前=自己を喪い消え去る運命にある金烏と八咫烏の世界。でもそれはまだ先の話です。

苦しむ奈月彦に浜木綿は、自分の過去の話(育てていた変わり朝顔が、身の変遷の後に同じ場所で原種に戻って逞しく咲き乱れていたこと)をします。希望は過去ではなく未来にあるのよね。玉依姫から授かった新しい命の報告をして物語は幕を閉じるのでした

今作では真赭の薄がクローズアップされていて、戦いの前に歩み寄りを提案する彼女は「女は引っ込んでろ」と雪哉たち武人に非難されるのですが、山神の命で神域に出向こうとする彼女を引き留める男たちに逆に「男は引っ込んでいろ」とやり返す場面があります。女はただ守られるだけの存在として認識されているのは八咫烏も人間も変わりないけれど、真赭の薄は性差を超えて、自分らしく生きることを選択した人として描かれていました。


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玉依姫

2021年07月11日 | 

阿部智里 (著)文春文庫

高校生の志帆は、かつて祖母が母を連れて飛び出したという山内村を訪れる。そこで志帆を待ち受けていたのは、恐ろしい儀式だった。人が立ち入ることを禁じられた山の領域で絶体絶命の少女の前に現れた青年は、味方か敵か、人か烏か?ついに八咫烏の支配する異世界「山内」の謎が明らかになる。荻原規子氏との対談収録。

 

これまでは山内という八咫烏の世界の物語でしたが、今作は人間の少女・志帆が主人公の人間界と神域が主な舞台で、若宮ら八咫烏は完全に脇役になっています。

作者はこの物語を最初に執筆したということで、シリーズとなっていった中で加筆再構築して出版されたのだそう。

志帆の祖母が嫁いだ村は、代々山神に供物を捧げてきました。御神酒や食べ物だけでなく、若い娘が人身御供として供されるのです。娘を生むことを期待されたその真意を知り、祖母は娘を守るため村を出ます。その際、仕方ないこととはいえ、息子を置いて行ってしまうのね。その後、娘は結婚して志帆が生まれますが、両親は事故で亡くなってしまいます。

志帆は、他人の笑顔が自分の幸せと思う性格で、あまりに我欲のない孫をいつかその性格が身を滅ぼすのではないかと祖母は心配してきました。

ある日突然志帆の前に現れた伯父を激しく拒絶する祖母に違和感を覚えた志帆は、伯父の甘言に騙され祖母に内緒で村を訪れます。伯父の狙いは自分の家の番になった愛娘の代わりに志帆を御供(ゴク)にすることだったという!!現代の設定なのにまだそんな風習が残っている設定

逃げ出すことも叶わず村人たちに連れていかれた先に現れた大猿に「山神」の母になれと言われます。猿のように醜い見た目と不安定な感情を持つ山神に、恐怖と嫌悪を抱く志帆の世話役が八咫烏の若宮 逃がして欲しいと懇願する志帆を説得しますがどうにも冷淡

山神の罵倒に耐えながら過ごす志帆は、夢の中で「玉依姫」と名乗る女性の手引きで逃げだしますが、山神の怒りはすさまじく、若宮も呪いを受けてしまいます。この時意識不明の重傷を負った部下が誰であるかは明かされないのですが、「ますほのすすき」が献身的に看病する者って弟かそれとも??これは「弥栄の烏」で明かされるのかしら

人間界に戻り助けを求めた家の主は大天狗でした。彼は人間界と山内を行き来して商売をしています。このままでは八咫烏の存続が危ういと若宮は山神を殺す決意を固めますが、冷静になった志帆は山神は事の善悪をまだ理解できない幼い子供なのだと思い返して彼の元に戻る選択をします。志帆が戻ると思っていなかった山神は驚きますが、二人の関係はこの時を機に変化します。恐れる対象ではなく我が子として愛情を注ぎ教育する志帆はまるで人が変わったようですが、彼女の本質が表に出てきたのでしょう。それに応えるように山神は醜悪な外見から見違えるように可愛くなるの 

本作では日本神話が引用され、「玉依姫」についての解説もあります。

この山神は元々荒魂(祟り神)と和魂(守り神)の両方の性質を持っていましたが玉依姫として連れて来られたゴクの「母」に疎まれ憎まれて逃げられたり、約束を破って戻って来なかったりしたことから、祟り神となり人を喰らう化け物になっていったのです。八咫烏や猿は山神の使途として仕えていたが、先代の金烏は祟り神となった山神の呪いを受け山内を守るために禁門を閉ざしたという記憶を若宮は取り戻します。

ところで、志帆や若宮たちの前に現れる謎の少年「英雄」(このネーミングもう少し何とかならなかったのかしらん)の正体は和魂の方ということで、「ゲド戦記」のアレン王子を連想してしまいました。

彼女を捜しに来た祖母が亡くなり、葬儀に出ることを山神に許され里に下りた志帆ですが、ゴクが逃げ出してきたと誤解した伯父たち村人に櫃に入れられ湖に沈められたところを若宮が救出します。自分たちの事しか考えていない村人たちに、人間の醜さが凝縮されていました。

このことを知り龍となった山神が怒りに任せて村を焼く雷を、伯父を庇った志帆が受けてしまいます。我に返った山神は志帆に許しを乞い「英雄」の刃を受けますが・・・馬鹿がつくお人好しと祖母に呆れられていた志帆でしたが、実は彼女なりの考えがあってのことでした。つまり彼女こそ「玉依姫」そのものだったのね。また、山神が荒魂になった原因となったサヨですが、戻って来なかったのではなく村人に殺されていたこと、彼女の山神への想いが、彼女の後にゴクとなった女性たちを不幸に導いたこと、(祖母の死も彼女のせい)も明かされます。それでも人を喰らった時点で山神は成敗される対象となり果てたというわけですね。

大天狗は神や八咫烏の存在も、人間の信仰が薄れゆく中で消えゆく運命にあるのだと言います。異世界も人間の意識次第って

前作までは雪哉君の成長と活躍が目立ちましたが、こちらは全く登場しません。完結編となる「弥栄の烏」に期待しましょ

「空色勾玉」の作者である荻原規子氏との対談も古代神話について語られていたりとなかなか興味深いものでした。

このシリーズを読破したらもう一度「空色~」シリーズも再読してみようかなぁ。


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