杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

最後のユニコーン

2006年10月31日 | 
ピーター・S・ビーグル著  鏡 明訳
出版 : 早川書房
発行年月 : 1979.10

タンポポの毛のようなたてがみと貝殻色に光る角を持つ、この世で最も美しい生き物ユニコーン。なぜ彼らは姿を消してしまったのか? ユニコーン最後の生き残りは、仲間を求めて旅に出る……。

間違いなくファンタジーの分類に属するのに、何とも不思議な味わいの物語である。ふわふわした子供向けの甘さはなく、難解さが全編に溢れているのだが、それでいて惹きつけられて、本を閉じることが出来ない。

ユニコーンは後悔や涙を持つことのない存在として描かれている。そこには人間との感情の共有は見られない。然し赤い牡牛から逃げる(これは自己の死を意味するのか?)ために魔法使いによって人間の娘に変えられた後の彼女には迷いと愛の心が芽生える。伝説のハガード王の城での暮らしは彼女にとって何を意味したのか?最終的に、仲間を解放し去ってゆく彼女は旅に出る前の彼女には戻れないのである。

一方旅の連れとなる魔法使いシュメンドリック。彼は出来損ないの魔法使いとして自分の潜在能力に気付きながらも、真の魔法を操れず小手先の手品使いとして見世物小屋で働いていたのだが、捕らわれたユニコーンを逃がし、彼女との旅を通して本当の自分を見つけることになる。

もう一人、旅の連れ、モリーは森の強盗団の仲間であったが、これもユニコーンとの出逢いにより、自分探しを始めるのだ。

王や王子、破滅の赤い牡牛、魔法にユニコーンとファンタジーにお馴染みのキャラクターが勢揃いしているというのに、甘やかな夢の世界は微塵も出て来ず、其々の内面描写が続く。初めはユニコーン、それからシュメンドリック、モリー、そしてハガード王やリーア王子、城の老兵たち・・・

楽しい御伽話を所望ならこれは避けた方が良い個の模索と哲学の旅の道連れにはかも

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スタンドアップ

2006年10月30日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2005年製作 アメリカ

暴力夫から逃れて子連れで帰郷したジョージー。10代で息子を産んでシングルマザーとなり、父親の違う娘を連れて、戻ってきた彼女に鉱山の町の住人たちは、“身持ちの悪い女”と冷たい視線を向ける。そんな中、自立を目指して、鉱山で働きだした彼女だが職場でも、男性社会に進出してきた女性への会社ぐるみの厳しい洗礼と、屈辱的な嫌がらせが待っていた。遂に我慢ならなくなった彼女は女性に地位向上を求めて裁判を起こすが・・

鉱山労働者として働くシングルマザーが、男性社会の中で立ち上がっていく姿を、実話に基づいて描いた作品。


1989年と言えば、まだ十数年前のことなのに、先進国アメリカですらこうした女性差別と偏見がまかり通っていたことにまず驚かされる。田舎の鉱山労働者といった環境を考えてもなお、嫌がらせや虐めの質の低さに胸が悪くなる

ジョージーは特別に気が強いわけでも勇気があるわけでもない、普通の女性だ。シングルマザーとして子供達を養う為に男と同じ賃金を求め、鉱山での労働を選択する。その彼女を待っていたのはいわれない女性差別と屈辱的な嫌がらせの毎日だ。

女性に職を奪われるという不満や鬱憤が底にあるにせよ、男性達の態度は甚だしく野卑で暴力的な悪意に満ちている。ただ耐えるだけだったジョージーが決然と裁判の道を選んだこと、その勇気に拍手を贈りたい。

後半、彼女の真実が明らかになることで、父親や息子との絆が回復される場面は辛い場面もあるが清清しい涙を誘う。

一人では限界のある闘いを敢えて立ち上がり声をあげたジョージーと、これも最終的に立ち上がってくれた多くの同僚たち(男女問わず)に敬意を表する。

シャーリーズ・セロンは か弱さと力強さの混在する生身のジョージーを魅せてくれた

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フェリスはある朝突然に

2006年10月29日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
1985年 アメリカ 103分

人生は短い、楽しまなくっちゃ損だをモットーにする高校生のフェリス(マシュー・ブロデリック)は今日も仮病をつかってズル休み。校長のルーニー(ジェフリー・ジョーンズ)はずる休みの証拠を握ろうと彼の家を探り出すし、妹は兄ばかりが周囲から心配されるのが面白くない。一方、フェリスは、病欠の友人キャメロン(アラン・ラック)をパパの61年型フェラーリ250GTカリフォルニアに乗って迎えに来させ、フェリスのGFスローアン(ミア・サーラ)まで巻き込んで、シカゴ美術館、高級レストラン、パレード参加と目いっぱい一日を楽しむのだが・・・


お気楽なB級コメディ青春もの
この日、一番成長したのが友人キャメロン家族より愛車が命の父と自分を省みない母を持つ彼が、黙って乗り回した車が大破したことで、父親と向かい合う勇気を持てたというのはご都合主義的だが、まぁ、ありかな

何をしても上手くいき、周囲から愛されるキャラのフェリスをマシューがその童顔で楽しそうに演じている。この時実年齢24歳とか・・
意外に逞しい二の腕や上半身のサービスありん~~でもそそらん

フェリスに翻弄される校長が可笑しい。学校の中では威張っている彼は大人同士だと上手にコミュニケーションが取れないという人物設定がされている。学校の人気者のフェリスに対して対抗心?嫉妬?を剥き出しに何とか彼を潰してやろうとして裏目に出る姿が何とも滑稽で笑える
でも・・・ルックスはけっこう好みなんだなぁ

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サッド・ムービー 試写会

2006年10月28日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
11月11日公開予定
韓国 

愛はどうして終わる瞬間に 一番輝くんだろう。

4組の「別れ」の物語。

消防士のジヌ(チョン・ウソン)は愛情表現が下手でスジョン(イム・スジョン)へプロポーズの機会を逸してばかり。火の中に飛び込んで行く彼を心配するのに疲れた彼女の不安は大きくなっていくばかり・・。

フリーターのハソク(チャ・テヒョン)は恋人スキョン(ソン・テヨン)に別れを切り出され、別れさせ屋をして彼女の心を取り戻そうとするが・・

キャリアウーマンの母チュヨン(ヨム・ジョンア)は小学生の息子フィチァン(ヨ・チング)に手を焼いていたが、病に倒れた彼女と息子の間に変化が現れる・・

顔にやけどを負った聴覚障害者スウン(シン・ミナ)は、遊園地で画家のサンウ(イ・ギウ)に出会い恋をする。気持ちを伝えられずに着ぐるみのままで接する彼女に彼も関心を持つが・・


今日は原宿で行われた試写会に参加。
上映前に出演者のインタビュー画像や、メイキングシーンも流してくれて、プレスシートなどのプレゼント企画もあった。残念ながら外れだったけど
うち、2名には出演者(名前忘れた・・ウソンじゃなかったので)本人のサイン入りプレスが当って、これはウソンだったらメチャ嬉しいプレゼント

ウソンはインタビューの中で「脚本を読んで面白いと思った。」などとコメントしていた。

ハンカチを握り締めてさぁ、泣け!という映画かと思っていたのだが、良い意味で外している。むしろコミカルでユーモアに溢れた楽しいシーンが続き、それ故に最後の方の「別れ」のシーンが胸に迫ってくるのかもしれない。
ただ、母と息子のエピでは涙腺が緩んだが、他のエピは割りとさらっと終わってしまった気がする。

ウソンのファンとしては、彼のお話の結末は当然悲しいのだが、不器用でちょっと鈍感などこにでもいるような男性像をとても自然に演じているので、微笑ましいエピばかりが心に残っている。ファンサービス?の上半身の裸体やキスシーンもあり、嬉しいような、悔しいような・・ 背広姿も

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ヤング・シャーロック ピラミッドの謎

2006年10月27日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
1985年 アメリカ 108分

1870年のロンドン。若きシャーロック・ホームズが寄宿学校で終生の友・ワトソンと出会い、次々起こる殺人事件の解決に活躍する・・。

学校生活、特に食事のシーンはハリーポッターのホグワーツを彷彿とさせる。
意地悪な級友のダドリーはドラコのよう。同じイギリスの物語だし、クリス・コロンバス脚本、スティーヴン・スピルバーグも製作指揮に名前があるのだから当然か

著名な教授が次々と謎の死を遂げ、恩師のワックスフラッター教授までも不可解な死に見舞われる中、教授の姪でGFのエリザベスをも巻き込んで、事件の謎解きが始まるが・・というストーリーは若さとスピード感で強引に展開され、細部に目を瞑れば、まぁまぁの出来

原作はコナン・ドイルではなくフィクションだと断りはあるが、ホームズのトレードマークの帽子とマントとパイプのいわれや、宿敵モリアーティの登場など、へぇ~!と思うエピソードが面白い

気の強くやや傲慢とも思える若きホームズをニコラス・ロウが好演 気の良いワトソン(アラン・コックス)も可愛い。敵役のレイス( アンソニー・ヒギンズ )の方がカッコイイけど

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日本以外全部沈没

2006年10月26日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2006年9月2日公開

世界が沈んで日本だけが残った・・・

筒井康隆のパロディ小説『日本以外全部沈没』が原作。題名の通り日本列島以外の陸地すべてが沈没、唯一の陸地である日本へ世界の首脳や映画スターを初め大勢の外国人が避難してくるという設定。『日本沈没』のヒットを祝う席で星新一が題名を提案し、小松左京の許可を得て筒井康隆が執筆。
本家『日本沈没』が第5回星雲賞(日本長編部門)を受賞した時、『日本以外全部沈没』は日本短編部門を受賞してしまったというまさにパロディの王道作品。
今夏の「日本沈没」の再映画化と前後するタイミングの良さも面白い。


シネセゾン渋谷で朝と夜の一日2回上映で、気になっていたものの、このままDVD待ちの予定だったが、招待券が余ったのでこれと「ルートヴィヒ」を天秤にかけてこっちを選んだ私。どういう基準だ!

政府関係者・映画関係者・在日外国人が総じて顔をしかめ眉を顰める爆笑問題作という触れ込みに相応しいドタバタナンセンス劇に終始するかと思われた最後にちょっとセンチで人道的エセ優しさで締める辺りもなかなかの毒である

原作の時代設定では違和感のある登場人物たちを現代に置き換えていると思われ、日本や各国の首脳たちの名前やキャラも現要人をもじったものになっている。それがまた完全な相似をわざと外した微妙な似加減で笑えるのだ

藤岡弘のGAT長官なんぞは腹抱えて爆笑もんで、きっと本人も演じていてさぞ楽しかろうと想像してしまうのである。田所博士(寺田農)のエロおやじぶりといい、俳優達の誰もが嬉々として各々のキャラを演じてる様を眺めるだけでも楽しい。

ハリウッド俳優然り・・ジェリー・クルージングってトムクルのことだと思うのだが、エリザベス・クリフトって・・・誰?こんなパロディでさえ、女優音痴の私。

世界が沈没するさまなど全てが特撮ヒーローもののチープさ(といったら昨今の特撮ものに失礼か)をわざと強調させてみせ、逆に乾いた笑いを誘う。
日本に外国人が押し寄せてくることで、日本人が思いあがっていく様子も「おれ」と日本の首相の姿を借りて表現してみせ、笑いながらも胸に一刺し来るのである。

作品中で登場人物の妊娠中の妻がお腹の子に絵本を読んであげるシーンがあるのだが、その絵本が「てぶくろ」一つの手袋の中に色んな動物が仲良く住むというお話が、痛烈な皮肉に聞こえてくる

朝早い時間のせいか、それでも一割の客入りは立派なものかと
然し、皆さん慎ましくしのび笑い程度で爆笑する客はなく、こちらもつい声を潜めて笑ってしまったのがちょっと残念。きっとレイト上映では遠慮のない笑い声が聞かれるのだろう。あ、でも慎み深い日本人だからやっぱり大人しいのか?

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地下鉄に乗って

2006年10月25日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2006年10月21日公開

いつもの地下鉄を降りるとそこは昭和39年の東京だった。
「お母さんの幸せと、私の愛した人の幸せを、秤にかけてもいいですか。」

浅田次郎の同名小説の映画化。長い間、父と疎遠だった息子・真次(堤真一)はある日“地下鉄”で過去へタイムスリップし、若き日の父に出会う。恋人みち子(岡本綾)も同様に過去を遡るのだが・・。それは反目を続けてきた父の真実を知り、恋人みち子との関係に切ない終わりを迎える旅でもあった。

うーーん  「三丁目の夕日」の世界を期待して観ると
ノスタルジーを誘うほのぼのした人情話じゃないことは確か。

戦後のオリンピック景気に湧く東京だけでなく、戦後まもなくの混乱の時代や戦時下の東京など、時代が行ったり来たりで、ややわかりにくいところも。

我儘で自分のことしか考えていないと信じていた父親の過去を知ることで、頑なだった真次の心が溶けて行く、そのことは素直に共感出来るのだが、恋人(というより、はっきりいって愛人という存在なのだが)に関わるエピソード自体は奇をてらったように感じられて、いささか興冷めしてしまった。

二人の関係自体、早くから想像がつくので、終盤の酒場でのシーンも特に驚愕もせず、その前に出てくる二人の交歓シーンも「拙いんじゃないのぉ」と

大体、タイムスリップにおける基本原則、無視しまくり
一人ならず二人までもが同じ時間軸に存在し、過去は大幅に変えちゃうわ、一人だけ記憶は残ってるわで疑問が頭の中でマラソン状態。

シーンの変わり目に地下鉄の運転席から見る?線路がジェットコースターのようなスピード感で映されるのが、これまた酔いそうになって気持ち悪かった。

原作との違いがどの程度あるのかは読んでないのでわからないが、おそらく本の方がより感動出来たのだろうと想像。

堤真一演じる真次は、飄々としてコミカルな面もあり、それなりに楽しかったのだが、そういう人物が、家庭の外に愛を求める動機が逆によくわからなかった。

つまらないわけではないが、好みの内容ではなかった分、私的に点数低くなった

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「はみだしっ子」及び三原順作品

2006年10月24日 | 
『三原順』1952年北海道生まれ。
1973年、「別冊マーガレット」に掲載された『ぼくらのお見合い』でデビュー。75年から6年間に渡り「花とゆめ」にて『はみだしっ子』シリーズ連載。少女コミックというジャンルにありながら、社会的なテーマに正面から取り組む作風が大きな話題を呼んだ。1995年、病気により42歳で永眠。
主な作品は、『はみだしっ子』『ルーとソロモン』『ムーン・ライティング』『Sons』『Xday』など。

昨日、「エミリー・ローズ」でみたトマス(この名前と風貌に)検事から三原作品に出てくるキャラを思い出し、久しぶりに彼女の作品に思いを馳せる。

三原氏の「はみだしっ子」は我が思春期・青年期におけるバイブルであり、彼ら4人の心の彷徨と成長は難解なほどの深みを持って胸に迫ってくるものがあった。

特に魅かれたのがアンジー。直感的で感情的、天邪鬼で捻くれてるくせに人一倍仲間思いで、愛されたい気持ちを持つという複雑極まりない性格の彼はヒラヒラのフリルと長いサラサラヘアーというビジュアルと共に一番のお気に入りである。

4人組のキャプテン的役割を演ずるグレアムは誰からも好かれ、誰よりも優しく冷静であるが故に誰よりも傷つきやすい精神を持つ少年である。後に精神を病んでいく彼をアンジーは人一倍案じ世話をする。無私欲な愛情が切ないほどである。

アンジーが助けて自由の身にしたのがサーニン。そして最後に仲間になった天真爛漫なマックスとで4人。それぞれが家庭の複雑な事情により親元を離れ、心に傷を抱えながら共に放浪生活をしている。色々な人間に出会い、助けられ、裏切られながら、互いの固い絆を頼りに生きている彼らが愛しくて、毎週本屋へ走ったものだ。

やがて事件が起き、離れ離れになり、また再会し4人揃って養子に入り、そこでまた事件・・・物語の最後も決して明るいハッピーエンドではなく、読者の想像力に任せるような幕切れだったのだが。

大人への不信感や将来への漠然とした不安感を抱えていた少女には、「はみだしっ子」の4人は自由への憧れと畏れの象徴でもあった。

時を経て、何度も読み返すうち、彼らの年齢を遥かに超えてしまった昔は省みようともしなかった養父のジャックやパム、オブザーバーのロナルドの気持ちが理解出来るようになったことが嬉しくも哀しくもあるこの頃

「ロング・アゴー」(ロナルドの視点で描かれたジャックとの歴史)や「Sons」「X Day」および「ムーン・ライティング」におけるトマスとD.Dなど、三原作品の登場人物は少年の頃からなかなかにひねていて可愛げがない大人びた少年達である。それ故に熱狂的に彼らにはまっていった私である

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エミリー・ローズ

2006年10月23日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2005年 アメリカ 120分

19歳の女子大生エミリー・ローズに起きた戦慄の出来事。彼女に棲みついたのは病かそれとも悪魔だったのか。神父による悪魔祓いは失敗に終わり命を落とした彼女への責任をめぐり過失致死に問われた神父の裁判が始まる。トマス検事の医学的追求に女性弁護士エリン・ブルナー(ローラ・リニー)が提出した物証とは・・

公開時、好評だったと記憶していたが、悪魔=ホラーというイメージがあってなかなか手に取れなかった作品。
でも・・良い意味で想像を裏切ってくれた

悪魔祓いの儀式そのものは短く淡々としている。
超常現象より、エミリーの死の原因を巡る検察と弁護側の証拠の応酬と、特に女弁護人の事件を通しての心境の変化に重点をおいたものと言ってもよいか

エミリーが悪魔祓いに失敗して後、再度の儀式を拒み逝ったのは神父を信用しなかったからでも生に絶望したからでもないことが、神父への手紙に綴られている。この手紙がエリンだけでなく陪審員や裁判官の気持ちを動かす重要なポイントになっている。判決に対する陪審員の提案が見事。実話であるということだが、まさに劇的である。

不可思議な現象に出会った時、それをあくまで科学的に説明しようとするのか、人智を超えた神(と対極にある悪魔)の仕業と考え、またそれを信じ受け入れるのか・・・とても難しい問題を突きつけられている。

ちょっと不謹慎だが、イーサン・トマス検事役のキャンベル・スコットがけっこう好み

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日の名残り

2006年10月22日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
1993年 アメリカ 134分

カズオ・イシグロ原作のベストセラー小説の映画化。

1938年、当時の屋敷の主であるダーリントン卿は第二次大戦後のドイツ復興の援助に力を注ぎ、非公式の国際会議をホールで行うなど、熱心な親独家となっていく。重要な政財界の外交の場として活躍した館の執事であるスティーブン(アンソニー・ホプキンス)は、そういった政治の面には全く目を向けず、ひたすら自分の任務に忠実であろうと頑ななまでに私的感情を表に出さずにいた。彼に好意を持つ女中頭のミス・ケントン(エマ・トンプソン)との間に芽生えた感情をも封じ込めようとする。彼のすげない態度に傷ついた彼女は屋敷を去っていった。

20年後、彼女からの手紙により、過去の想いを呼び覚まされたスティーブンは再会を決意し彼女のもとへ向ったが・・・。


職務に忠実なあまり、自分の気持ちに蓋をして気付かず、相手をも傷付けてしまった執事が老年になり、彼女への想いを呼び覚まされ、逢いに行くが、結局は遅すぎた勇気は報われず、一人孤独なまま生きていくであろう姿を暗示して物語は終わる。

スピード感のある現代の恋愛に比べ、なんともどかしく拙い恋愛だろう。そして何と品良く節度のある恋模様だろう。こういう作品が良作というのだろう

歴史の舞台を作った有名な屋敷に集う政界の大物達の姿と、そこで働く執事と女優頭のロマンスとも呼べないほど慎ましやかな恋が織り交ぜになって進む物語は、じれったくそして甘やかである。

アンソニーとエマという二人の名優の演技に、暫し現実を忘れて酔える作品。

但し、執事スティーブンについては、尊敬はしても共感は出来ない。恋愛感情については不器用な性格なのだと思っても、個人としての意見を持たず、ひたすら主に忠実なことを良しとする姿は違和感を覚えてしまう。卿の客に政治的意見を問われるシーンがあるが、そこまで個を滅することが必要なのだろうかと疑問を感じた。

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容疑者 室井慎次

2006年10月21日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2005年公開作品 117分

『踊る大捜査線』スピンオフ企画第2弾。
柳葉敏郎演じる室井慎次を主役にしたクライム・サスペンス。
若き女弁護士役に田中麗奈、徹底的に室井を追い詰める弁護士に八嶋智人。湾岸署のスリーアミーゴスも健在。今まで語られることのなかった室井の過去が明らかに・・


劇場公開時、迷ってるうちに他の洋画に順位を譲り、忘れてた作品。
やっぱり青島がいないのは寂しいな~~私はどちらも好きなんだけど、俳優同士仲悪いってホント? 

で、感想。うーーん、劇場行かなくて良かったかも。
ユースケ・サンタマリア版の方が本元に近い雰囲気があって面白かったし

苦虫を噛み潰したような顔をして無口な室井さんは「まんま」だが、それはまぁ、良いとして。新宿北署の刑事を演じる哀川翔とその仲間達、何だか「踊る~」に別の刑事番組が乱入したかのような違和感 八嶋智人演じる弁護士の方がよっぽどイッちゃってて危なそうだし、田中麗奈の若手弁護士も空回り感が・・。

警察上部の内輪の権力闘争で踊らされる構図や、出身大による厳然とした学閥の存在とか、東北大でも官僚のエリートコースの本道には乗れない侘しさとかは、生々し過ぎて冗談として笑えないぞ。あんな小娘にあそこまで振り回されるってのも不快感が残る。

2匹目のドジョウのお味はちょっと苦かったかも~~




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ラフ

2006年10月19日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2006年8月26日公開 邦画 106分 


どんな見事な絵もまず最初は、ラフな下書きから始まる。
これから何本も何本も線を重ね、下書きを繰り返し、
その中から自分自身で一本の線を選び出すんだ。
荒削りでけっこう、大ざっぱでけっこう・・

下書きを繰り返せ!未完成こそが、おまえたちの武器だ。  原作より


祖父の代からライバルの家に生まれた2人が、初めはいがみ合いながらも、水泳への情熱を通し、次第に惹かれあう普遍的なラブストーリー。

『タッチ』で知られるあだち充が次に描いたのが、高校の水泳部を舞台にした青春ラブストーリー『ラフ』。1987~1989年にかけて週刊少年サンデーで連載された。

実は映画は観るつもりがなかったのだが、鑑賞券を貰ったので
でも・・・原作の方がやっぱり良いな

もう少し勝気なキャラの方が良いけど、二ノ宮亜美(長澤まさみ)はキュートででも大和圭介(速水もこみち)はちょっとイメージが・・というか、どう見ても高校生には無理じゃないっすか~もこみち君たしか1984年生まれ・・イケメンなんだけど、嫌いじゃないんだけど・・

それから、親友で高飛び込みのエース・緒方君(石田卓也)・・え?野球選手じゃなかったんすか?関君は消しちゃったんすか?二人のキャラちょっと混じってませんか?でも仲西さんはイメージに近かったかも

最後のカセットテープのメッセージは原作のあるエピソードを下敷きにしてるので、事情を知らないとやや意味不明な箇所があるけど・・最後の言葉を生かすためにはそこも削れなかったのかな

しかし、8月の公開から既に2ヶ月近いので、しかも平日初回なので・・観客6人、うち5人が♂。やば

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ブラック・ダリア

2006年10月18日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2006年10月14日公開

誰もが、逢ったこともない死んだ女に溺れていった・・

1947年1月、LAで起きた衝撃の惨殺事件。被害者は女優志望の女性、黒髪でいつも黒のドレスを着ていた彼女を、人は「ブラック・ダリア」と呼んだ。
捜査に当った二人の刑事、バッキーとリーは謎を解く二つのカギに辿り着くが・・

ボクサーとしての才能が警察で高く評価され、政治的に利用されることで地位も手にする二人はそのスタイルからファイアー(リー)とアイス(バッキー)と称される。リーの同棲相手ケイ(スカーレット・ヨハンソン)との微妙な三角関係やバッキーがのめり込んでいくマデリン(ヒラリー・スワンク)の事件への関わりなど、物語は複雑に絡み合い、最後に一気に解けるのは悪くない。

「サンキュー・スモーキング」でみせた、飄々としたアーロン・エッカードの演技はここでも陽の部分で楽しませてくれるが、今回はよりシリアスで陰のあるキャラである

ジョシュ・ハートネットの出演作は殆ど観た事がないかも「パールハーバー」「ハリウッド的殺人事件」「シン・シティ」・・・どうも好みの範囲外。
でも「恋する40days」は前々から興味は持ちつつレンタル棚を行ったり来たりだったので、次回の候補作にしよっと

ヒラリー・スワンクが美人という設定はちょっと納得いかない彼女の口元と顎のラインがどうしてもダメいかつい女のイメージ強くて「ミリオンダラー・ベイビー」はしっくりキャラに合ってたんだけどな~。

権力に擦り寄ったり、事件を揉み消したり、ご都合主義的な生き方の二人はヒーローではないし、絡み合った謎も、インパクトのあるマデリンの家族の紹介で既に臭いプンプン。でも並行して起きた二つの事件の解決のスピード感はけっこう好き。

エロもグロも過剰というほどはなく、適度に楽しみつつ、不条理な世の習いでラストまでうやむやにぼかして(あれで良いのか?)確かに大人の映画だ

尚、ブラックダリアというのはアラン・ラッドとヴェロニカ・レイクの主演映画『ブルーダリア』に準えて呼ばれたとのこと。

<以下はネタバレ抵触>
死体の内臓を抜くってことはやっぱりアレしかないっしょ実際そういう趣味なんだし。なのにどうして空き地に本体を捨てたりしたんだろ?その辺の細かい事がよくわからんです。

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恍惚の人

2006年10月17日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
今夜の日テレのドラマSP

ついチャンネル合わせたのが何とやらで、ツヨポンのドラマは録画にしてこちらを見ちゃった。

有吉佐和子の不朽の名作が現代に甦る・・というタイトルは今、ラレ欄で目にしたけど まさに高齢化社会の今に相応しい見応えのあるドラマ。
というか・・以前に騒がれた時は孫の世代かもっと若かったんだよな~それが今や、介護する側にならんとするお年頃。専ら嫁の気分で見てる自分。

昔は辛く当られた義父の世話、それも呆けてる徘徊老人というのはかなりの負担。然も夫は会社人間で面倒なことは押し付けて当たり前の顔。義妹は、本当に大変な事態を察するやさっさと逃げ出すし、唯一の救いは優しいできた息子の存在。

ややご都合主義的で、奇麗事っぽい進行(妻が最期まで看る覚悟を決めた途端、そう来るか!の展開はなんだかなぁ)だけど、それでも家族の負担は察するに十分かも。義父役の三国連太郎がつい釣りバカのスーさんに見えてしまい、「あれ~スーさんってば・・」と涙が出ちゃう

本人を前に病名やら老人ホームやらの会話はいかがかと思うが、介護する家族の側からの視点で描かれているので仕方ないか?

親ならずとも自分が子供に還っても不思議じゃないご時世。せめて特養施設がリーズナブルで待機期間もなく利用出来たら良いのにね。そして家族も世間体を気にせずにいられて、ということは、私達が老いることは恥ではないという認識を持つことと、どんな状態でも人の尊厳を認めることをしっかり教育されていたら・・ってことなんだけど

結局は家族の絆と愛情次第ですかねぇ

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Mr.&Mrs. スミス

2006年10月16日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2005年公開 アメリカ 118分

一瞬で恋に落ちた、ふたり  おたがい、その正体は秘密。

運命的な出会いの末、電撃的に結婚したジョンとジェーン・スミス夫妻。しかし2人には互いに相手に知られたくない秘密があった。実は、ジョンは直感を頼りに修羅場をくぐり抜けてきた一流の殺し屋、ジェーンも最新鋭のテクノロジーを駆使してミッションを遂行する暗殺エージェントだったのだ。しかも2人は対立する組織に属していた。互いに正体を隠し結婚生活を送っていた2人だったが、ある時ついに、ミッション遂行中の現場でバッタリ出くわしてしまう。正体を知られたら終わりのこの世界、さっそく2人は相手を始末すべく、壮絶な戦闘を開始するのだが…。


これは劇場公開の前の試写会で一度観ていたが、もう一度観たくなりレンタル

殺し屋という特殊な職業を除けば、スミス夫妻の悩みはどこにでもいる夫婦の悩みと一緒。マンネリと倦怠の毎日が互いの正体を知り、バトルすることで打破され、再構築される恋の感情

大雑把なジョンと几帳面なジェーンのちりばめられたエピの一つ一つがクスっと笑えて、アクションよりもロマコメ重視なのを再確認
2大スター共演の文句なしの娯楽作

なのだが・・監督と脚本家のコメンタリーを聴いてると、そんな大スターを二人も起用した苦労の方に耳ダンボになったりして
ちょっと海外ロケ、なんて思っても二人の移動費用だけで足が出る、なんて話がポンポン出てきて、これはこれで裏話としては好奇心を満たしてくれるかも。

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