杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

TOVE トーベ

2022年08月03日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2021年10月1日公開 フィンランド=スウェーデン 103分 G

第二次世界大戦下のフィンランド・ヘルシンキ。激しい戦火の中、画家トーベ・ヤンソン(アルマ・ボウスティ)は自分を慰めるように、不思議な「ムーミントロール」の物語を描き始める。やがて戦争が終わると、彼女は爆撃でほとんど廃墟と化したアトリエを借り、本業である絵画制作に打ち込んでいくのだが、著名な彫刻家でもある厳格な父(ロベルト・エンケル)との軋轢、保守的な美術界との葛藤の中で満たされない日々を送っていた。それでも、若き芸術家たちとの目まぐるしいパーティーや恋愛、様々な経験を経て、自由を渇望するトーベの強い思いはムーミンの物語とともに大きく膨らんでゆく。そんな中、彼女は舞台演出家のヴィヴィカ・バンドラー(クリスタ・コソネン)と出会い激しい恋に落ちる。それはムーミンの物語、そしてトーベ自身の運命の歯車が大きく動き始めた瞬間だった。

 

「ムーミン」の原作者トーベ・ヤンソンの、ムーミンたちがどのように生み出され成長していったか、トーベその人の人生や創作への情熱が描かれたドラマです。

1944年のヘルシンキ。冒頭で防空壕の中で怯える子どもたちにムーミンのお話を語るトーベが映し出されます。身近な人々をモデルに不思議な生き物を創造して描くのが好きなトーベの原点ですね。母は画家のシグネ・ハンマルステン=ヤンソン、父は彫刻家のヴィクトル・ヤンソンという芸術一家で育ったトーベは、アトリエを借りて厳格な父とは相反する型破りな生活を始めます。パーティーで知り合った議員のアトス(シャンティ・ローニー)は既婚者ですが、トーベの方から誘っています。アトスという人物は、妻もトーベに劣らず奔放な女性だったようで、何も同じタイプに惹かれなくてもと思ってしまいますが・・

絵画の個展を開いたトーベは、煙草を吸う自画像を父に外すように言われますが聞き入れません。舞台演出家のヴィヴィカ・バンドラーがトーベのイラストに興味を持って話しかけてきたのが二人の出会いのきっかけでした。

芸術家の授賞式で、友人や父の名前は呼ばれたのに自分の名前は呼ばれなかったトーベは、自分の表現と芸術界の潮流とのズレを自覚し、焦燥感を持ちます。アトスの助言で絵画と並行してムーミントロールの物語を書き始めたトーベ。絵が売れず家賃にも事欠くトーベは、ヴィヴィカに連絡を取り仕事をもらいます。

仕事の依頼者のエーリク・ヴォン・フレンクルの誕生パーティーでヴィヴィカと意気投合し、彼女にキスされたトーベは、同性愛と知りながら惹かれていき、誘われるまま身体を重ねます。当時同性愛は認められていなかったのでこの交際をトーベは隠しますが、彼女との会話に触発されてトフスランとビフルランの物語を創り出します。

ヴィヴィカとの交際を告白したトーベに、アトスは驚きながらも「興味深い経験をしたね」と怒ることをせず見守ります。彼は自分が編集長を務める新聞に子ども用のお話の連載を持ち掛けます。ヴィヴィカもトーベの油絵を評価しながらも「でもそっちの方が素敵」と絵本『ムーミン谷の彗星』のイラストを指さします。

ヴィヴィカにパリ行きを誘われたトーベは絵本出版に集中していたので、そのうち行くと断ります。食堂の壁画の仕事をしますが、父は「絵はキャンバスの上に描くもの」と言い、認められないことに寂しさを感じるトーベ。更に、パリから戻ったヴィヴィカが踊り子のイルヤという若い女性を伴っていることに動揺し、彼女が他にも色々な女性と関係していたと知ってショックを受けます。そんなトーベにヴィヴィカは拗ねないでといって「ムーミンの芝居かミュージカル」をしないかと提案をします。

アトスは離婚したことを告げてトーベとの再婚をほのめかしますが、その時はスルーされます。ヴィヴィカの提案を受け入れ、スウェーデン劇場で舞台劇『ムーミントロールと彗星』を一緒にすることになったトーベですが、ヴィヴィカの心を独占できない寂しさから、アトスに求婚してと頼みます。結婚してもヴィヴィカが心を占めているトーベに傷ついたアトスは「僕は鈍感になりきれない」と去っていきます。

トーベの両親も見に来ていた劇は成功し、トーベとヴィヴィカは拍手を浴びます。

イギリスの新聞『イブニング・ニュース』にムーミンの漫画が連載され、サイン会には行列ができる人気となった頃、トーベはトゥーリッキ(ヨアンナ・ハールッティ)と出会います。ヴィヴィカとの別れもありました。

父が亡くなり、遺品の中に娘の作品を集めたスクラップを見たトーベは、辛辣な批評家だった父が本当は娘の作品に理解を示し、誇りに思ってくれていたと知り慰められます。その後も作家活動を続け、私生活ではトゥーリッキと暮らし、アトスやヴィヴィカとも親交を続けたトーベ。ヴィヴィカは後に「トーベの愛が自分には眩し過ぎた」と語ったそうです。

どうやってムーミンの物語が生まれ、紡がれていったのかがわかるかと思って観たけれど、当てが外れたかな。トーベという当時の芸術家の枠からはみ出した自由奔放な女性の生き方に焦点が当てられていました。彼女の生き方には賛同しかねますが、これが芸術家だと言われても何となく納得してしまいそうです。恋愛に関しては一途なところがあり、それ故に苦しんだこともあったのでしょうけれど、それがムーミンという作品の光にも影にもなっているような気がしました。


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