新・徒然煙草の咄嗟日記

つれづれなるまゝに日くらしPCにむかひて心に移りゆくよしなし事をそこはかとなく紫煙に託せばあやしうこそものぐるほしけれ

東博に初もうで(その4:完結編)

2012-01-14 19:18:47 | 美術館・博物館・アート

東博に初もうで(その3)」のつづきを書きます。実は、「その3」はきのうのうちに書き上げるつもりにしていたのですが、時間切れになってしまい、今朝、さらに手を入れてアップした次第です(写真のファイル名が「120113_1_xx.jpg」なのはそれゆえ)。


120114_2_01


今年の「新年特別公開」は、「東京国立博物館140周年」と華々しく冠が被せられている割には、「秋冬山水図」も「風神雷神図屏風」も「冨嶽三十六景・凱風快晴」も「古今和歌集(元永本)」も、去年の「新年特別公開」と当日の他の展示で拝見したものでしたし(昨年の記事はこちら)、「賢愚経断簡(大聖武)」や「一休宗純墨跡『峯松』」も別の機会に東博で何度か拝見していましたので、初めて観た作品を中心に紹介しましょう。


120114_2_02 なんて書きながら、最初に載せたのは一休さんの書「峯松
小学校だか中学校の国語の教科書(だったか習字の副読本だったか)に、一休さんの奔放な書が載っていて、当時の私にはヘタクソとしか思えませんでした。
一休さんの書を教科書に載せた編集者は、書に劣等感を持つ子どもたちを元気づけようとしたのでしょうか?
いくらなんでもよほどの審美眼を持っていない限り、中学生には鑑賞なんてできませんって


   


この記事の最初に載せた写真は、この日の東博本館のエントランスホールを写したもので、大階段の右側に、東博の嚆矢とされる湯島聖堂博覧会を描いた錦絵「古今珍物集覧」の垂れ幕、左側に鳳凰の絵の垂れ幕が下がっていました。
この鳳凰の絵の元ネタは何なのだろうかと思っていたところ、それが展示されていました。


120114_2_04
初めて観ました
説明プレートを見ますと、


友禅染掛幅 桐鳳凰図
 江戸時代・19世紀
鳳凰は中国において瑞祥として知られ桐樹に棲むと言われてきた。日本においても桐と鳳凰の組み合わせは吉祥模様として好まれた。絵画的な図様を友禅染で染めた掛幅表装部分もすべて友禅染である。江戸時代後期には仏画や花鳥図なども友禅染で制作された。


とあります。
てっきり、普通に肉筆画を表装した掛け軸かと思ったら、絵も表装もすべて友禅染
驚きました…


驚いたといえば、こちらの「十組盤(とくみばん)のうち鷹狩香」の細工の細かさにも驚かされました。


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十組盤」は以前にも拝見したことがありました。これは、こちらの記事に書きましたように、組香(香を嗅ぎ分ける遊び)の成績をサイコロの目の代わりにした双六のようなもの。
この「鷹狩香」は、盤の奥に置かれた鷹匠が、組香の結果に応じて、手前の獲物に近づいていくというものものっぽい。


10人の鷹匠たちが、しっかりとつくり分けられているし、


120114_2_05


獲物たちもすべて違う種類です。


120114_2_06


それぞれのコマを、単独としてフィギュアとして楽しめます
ところで、ここでもタンチョウが獲物になっている…こちらの記事をご参照方)


   


江戸時代後期の絵師、鳥文斎栄之(ちょうぶんさい・えいし)の「隅田川図巻」が、意表を突いて楽しい


隅田川での舟遊びにやってきたのは、七福神のうち、大黒天恵比寿福禄寿のお三方。


120114_2_07


姐さんが持っている箱には「大黒屋」と書かれていますから、もしかするとこんな会話があるのかもしれません。


大黒天:うちの店に行こうじゃないか
恵比寿:
弁財天に怒られないかな?
福禄寿:大丈夫、大丈夫、ちょっとだけだから。


そして男3人が隅田川の舟遊びで行き着く先と言えば、、、


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当然のごとく吉原でして、もう恵比寿さんノリノリです


   


常々「書と茶の湯は苦手」と書いている私ですが、こちらの作品は、飾る場所があればお持ち帰りしたいと思いました。


120114_2_09


江戸時代中期の書家・武術家の三井親和(みつい・しんな)による「詩書屏風」。

説明には、


親和は、書家・武術家。細井広沢(こうたく)に師事し、中国の文徴明風の書を能くした。ことに篆書は染物に用いられ、親和染めの名前で流行した。この詩書屏風は、右から数えて奇数の各扇に様々な篆書の書風で大書して、偶数の各扇には行書で揮毫している。


とあります。


で、行書で何が書かれているのかといいますと、英語の説明によれば、


the works of Chinese poets and Wang Wei


だそうですから、王維(Wang Wei)ほかの漢詩のようですが、よく判りません


   


最後に根付をご紹介しましょう。


総合文化展の根付の展示の中で一番気に入ったのはこちら


120114_2_10


ピントが甘くて申し訳ない…


秀親」の銘が刻まれた「唐子狐面牙彫根付(からこ きつねめん げちょう ねつけ)」、江戸時代(19世紀)の作品です。

いやぁ~、なんとかわいらしい作品でしょうか

これはホント、いただいて帰りたかった…


この作品を含めて、総合文化展の根付の展示作品の多くは、


郷誠之助氏寄贈


でした。


この郷さん郷ひろみさんの親戚筋ではなくて、明治中期~昭和初期の財界の超大物

詳しくはWikiediaの記述をご参照くださいませ。


さて、根付といえば、「根付 高円宮コレクション」に触れずにはいられません。


前回、この「根付 高円宮コレクション」を観たのはこちらで書きましたように昨年11月末でした。それから1ヶ月ちょっとしか経っていないというのに、展示品は完全に入れ替わっていました。さすがは東博ですな。


今回も魅力的な根付がどっさり展示されていました。
もっとも、個々の作品が小さいものですから、展示室を使い余している感がなきにしもあらずですが…


今回の展示品の中で私が最も気に入った、っつうか、気になったのはこちら。


120114_2_11


蒔絵が施された小判型の弁当箱っぽいのに、く「」と書かれたこの作品の説明プレートには、


120114_2_12 「猫」


何と大胆な作品なんでしょ

作品も、そしてタイトルも、そしてこれをコレクションに加えた高円宮殿下


好きです、この感覚


今後、東博に行く時、「根付 高円宮コレクション」を観る楽しみが深まった気がします。


   


ここで2012年最初の東博観覧の感想を終えるつもりだったのですが、一つ、大事な作品に触れていなかったことを思い出しました


120114_2_13 こちらも初めて観る作品で、埴輪

茨城県行方(なめがた)市から出土したもので、


猿の埴輪としては唯一の存在で、当館には明治初年から寄託されていた。背中の剥離痕から、元は小猿を背負っていたとみられる。巻上げ成形でハケ目が残るが、ナデ整形で仕上げている。
顔面などには赤色顔料が残り、生き生きとしたさるの表情と捉えた傑作である。


という説明がつけられています。


なんだか手人形みたい…。


ってなところで、2012年最初の東博探訪記全巻の終わりでございます。

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東博に初もうで(その3)

2012-01-14 08:43:57 | 日記・エッセイ・コラム

東博に初もうで(その2)」のつづきは、「東京国立博物館140周年 新年特別公開」に限らず、新年らしい作品をお送りしましょう。


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まず、本館1階の「ジャンル別展示」の冒頭を飾っていたのが、なんともたおやかな菩薩さま


120113_1_02 新春特別公開の「菩薩立像」、鎌倉時代・13世紀の作品[重要文化財]です。
説明によれば、


鎌倉時代には木彫の一部や装飾に異なった材質を用いる例が増えた。目に水晶をはめる玉顔はその代表的な例であるが、本像は上下の唇にも彩色の上に薄い水晶板をあてる玉唇とでもいうべき技法を用いる。紅を塗ったような唇を表現する意図があったのだろう。


だそうな。
そんな細かいところはともかく(私には「『玉唇』ともいうべき技法」がよく判りませんでした)、私、鎌倉時代の彫刻って、好きです

私、日本の彫刻史上、鎌倉時代は日本のルネサンスだったと思っています。


   


120113_1_03 次は、これまでにも何度か拝見した(はずの)仁清(Studio of Ninsei)の「色絵月梅図茶壺[重要文化財]


にはちょいと季節が追いついていませんが、それでも、正月らしい華やかさに満ちた作品ですなぁ~


   


ところで、今年は辰年
東京国立博物館140周年特集陳列 天翔ける龍」では、に関係する作品が、これでもかとばかりに展示されていました。


にまつわる美術品って多いですから、学芸員さんは、取捨選択にかなり困ったのではないかと思う次第です(来年の「ヘビ」は苦労するかも…)。


まずは、自在置物の龍。


120113_1_04


こちらも、初めて観る作品ではありませんが、今回は、「こんなに動くんだぞ ここも動くんだぞ」といろいろといじったビデオが併せて上映されていて、かなり楽しめました。

それにしても、よくもまぁ、これだけ細かい仕掛けを組み込んだものだと感心します。


120113_1_05 こちらの作品は、岩佐又兵衛の「龍図 老子・龍・虎図のうち」。

通りすがりの龍がこちらと視線が合ってしまって、「どした?」と話しかけているみたいで、楽しい


このように、龍が主人公になったものだけではなくて、こちらのようなのもいい感じ


120113_1_06 鈴木春信の 「見立半托迦(龍を出す美人)」。


瓶から龍を出すという半托迦(はんたか)という羅漢を美人に変えて描いたもの。江戸時代には、今の年賀状のように元旦に摺り物を交換する習慣があり、これもそうした歳旦摺物のひとつ。昇って行く龍の姿は縁起がいいと喜ばれたのだろう。


とな。


120113_1_07縁側に腰掛けて、気楽に龍を出してみせるってのがいいし、美人のお顔もまさしく「春信美人」でいい


打って変わって、こちらはなんとも異様というか、滑稽です。


120113_1_08舞楽面 陵王」。鎌倉時代に造られて、高野山天野社に伝来したものだそうです。

説明には、


中国・北斉(6世紀後半)の蘭陵王があまりにも美男子だったため、怪異な仮面を着けて戦に臨んだという伝説に由来する面。頭上にまたがっているのは龍であるが、胴体が短く、脚が長い。前脚は腕のように、後脚は人のように膝、脛が表される。角が一本あった痕跡が残る。


このブログに蘭陵王が登場するのはこちら以来、お久しぶりです。

それはともかく、この面そのものと展示方法はかなり異様…。頭上の龍は、龍というよりもののけっぽいし、それよりも、この下あごの展示の仕方は何


突然、頭の上にもののけに乗っかられて、あまりに驚いたものだから、が飛び出し、あごが外れたという状況を表しているのでしょうか?


   


いつも地味な印象本館1階の歴史資料展示も「江戸の年中行事―新年を祝う」と題して、お正月バージョンでした。


その中で目を惹いたのは、萬歳漫才ではない)を描いたこちらの作品。


120113_1_09 幼少のみぎり、私は正月に母方の祖母の家に出かけるのが大の楽しみでした。

母は7人きょうだいでしたから、大勢のいとこたちと(12人)会えるし、お年玉をたくさんもらえることに加えて、獅子舞がやって来るし、萬歳(秋田万歳)がやって来るしで、もう、お正月炸裂でした。


まさしくこの絵に描かれた光景(右が太夫、左が才蔵)が、目の前でライヴで展開されたんです


もっとも、私には、太夫と才蔵のやりとりがさっぱり理解できませんでしたが…


こんな思い出にひたった萬歳、こんな作品も展示されていました。


120113_1_10

喜多川歌麿の「正月の雪」。


雪景色の中を男が二人背を向けてそれを眺めている女性が三人描かれている。鼓が雪の上に放りだされていることから男は千秋万歳(せんずまんざい)に訪れた声聞師であろう。背を向けているのは女性たちに期待した祝儀を弾んでもらえなかったことへの当てこすりか。どこと無くさびしげである。


正月早々、さびしい光景ですなぁ~


ちょっと気を取り直すべく、今回はこの辺で…。


つづき:2012/01/04 東博に初もうで(その4:完結編)

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