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サイケおやじの生活と音楽

スワンの涙は歌謡ロックか?

2009-10-07 11:43:43 | 歌謡曲

スワンの涙 / オックス (日本ビクター)

昭和元禄を象徴するグループサウンズ=GSの大ブームは、日本のロックの本格的な夜明けだったと思いますが、同時に歌謡曲の全盛期でもありました。

と言うのも、GSはロックバンドの形態を標榜していながら、明らかに最初っから歌謡曲ノリを露わにしていたグループも多数あり、また彼等に楽曲を提供していた職業作家達が、如何に日本芸能界の伝統と新しい音楽の共存を模索する結果だったと思います。

と、まあ、些か固い書き出しになりましたが、平たく言えば日本語のロックは歌謡曲の発展系が一番売れるという事実が確かあって、本日ご紹介のシングル曲は、その最右翼かもしれません。

演じているオックスは大阪で結成され、GSブームが全盛の昭和43(1968)年春に正式デビューしたバンドですが、それまでのキャリアを活かした所謂「売れセン」狙いを最高の形で表現出来た実力は流石だと、今は思っています。

メンバーは野口ヒデト(vo)、岡田志郎(g,vo)、赤松愛(org,vo)、福井利男(b,vo)、岩田裕二(ds,vo) というルックスにも恵まれた5人組でした。そして中性的なイメージと過激なステージパフォーマンスのコントラストが強烈な人気を呼び、特にライプのクライマックスでメンバーが失神する演出が大評判! 感情移入しすぎたファンの女の子達が、一緒に真実の失神をしてしまう騒動が各地で頻発したのですから、それは忽ち社会問題化したほどです。

今日ではオックスが歌謡曲どっぷりのバンドだったという認識は、確かにあるでしょう。昭和46(1971)年頃の解散後、野口ヒデトが真木ひでとに改名し、演歌歌手に転身したことも、そういう部分を強調する結果になったと思います。

しかし私も実際に体験したオックスのライプステージは、ロック以外の何物でもありませんでした。メンバーのアクションは必要以上な動きもある、本当にド派手なものなんですが、それが演奏の荒っぽさと巧みにリンクして、まさに一期一会の熱気を巻き起こしていたんじゃないでしょうか。

ちなみにこの時はスーパーの駐車場みたいな野外のステージだったんですが、集まった女の子というか、お姉さま達の化粧品の匂いとか、失礼ながら痴態嬌態としか思えない熱狂は、今も生々しい記憶になっています。、

そこで、この「スワンの涙」なんですが、実質的にはオックスの3枚目のシングル曲として昭和43(1968)年末に発売された大名曲! もちろん作詞:橋本淳、作曲:筒美京平という黄金コンビの傑作として、昭和歌謡史に燦然と輝く大ヒットになっています。

まず女々しい男のメルヘンチックな恋心を綴った歌詞を彩るメロディが、もう抜群! そしてベタなストリングを前面に出したアレンジを支える、些かチープな音色のエレキベースが、なんとも味わい深いんですねぇ~♪ シャン、ララン、ラン~♪ という覚え易い合いの手コーラスも、たまりません。しかも後々になって気がついたのですが、こういうビートでのストリングの使い方って、当時のアメリカ南部系歌謡ソウルに通ずるものがあったんですねぇ~♪

また間奏で独白する野口ヒデトの台詞が、もう気恥ずかしいほどです。

これはカラオケじゃ、絶対に歌えませんよねぇ。

しかも曲の構成が、もしかしたら、未完の2曲を合体させたような、つまりサビが二度あるような密度の濃さは、前半部分と曲終りのパートでは、雰囲気が異なるといって過言ではないのです。う~ん、凄い!

ですから、レコーディングセッションの現場にメンバーが演奏で関わっている部分は少ないと思われますし、実際、テレビの歌番組ではカラオケで演じられることもあったと記憶しています。

そして、これを聴いてファンになり、実演ライプへ出かけた女の子達が、オックスのド派手なワイルドアクションに圧倒され、泣きながら歌うようなパフォーマンスに感情移入した末の失神も、本当にステージと客席が一体となったロック的な至上の愛!

しかし、それも長続きはしませんでした。

あまりにもロックの本質を体現したライプが「騒動」だと大人達からは批判され、ついに会場の貸出がストップされたり、GSのやること全てが反社会的なものと糾弾されるのです。また、ちょっと前にあった「エレキは不良」なんていう戯言が蒸し返されたのも……。

ちなみに「オックスの失神騒動」が大々的にマスコミに取り上げられたのは昭和48年初秋頃ですから、この「スワンの涙」が発売される直前というのも、微妙なところでした。

結果的にGSブームは、この頃から勢いを失い、その多くは急速に歌謡曲へ傾斜していくグループと過激なニューロックへ走るバンドのふたつに流れが変わっていきました。

もちろんオックスは前者であり、ほとんどムードコーラスのグループが如き、ズブズブの歌謡曲を歌っていくのですが、それとて今となっては、なかなか味わい深いのです。

というか、その意味では「スワンの涙」が所謂歌謡ロックの元祖のひとつかもしれないのです。

う~ん、何度聴いても、大名曲!

コメント
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