■African Waltz / Cannonball Adderley (Riverside)
鑑賞用音楽としてLPアルバムを中心に作られているモダンジャズにだって、やはりシングルヒットが必要なのは大衆音楽としての必須条件でしょう。実際、ラムゼイ・ルイス(p) やリー・モーガン(tp) あたりは、そうした大ヒットを持っていますし、本日の主役たるキャノンボール・アダレイにしても例外ではありません。あの「Mercy, Mercy, Mercy (Capitol)」は、その代表曲でしょう。
さて、本日の1枚は、そのキャノンボール・アダレイが初めて出した大衆ヒットの「African Waltz」をウリにした楽しい傑作アルバムで、サブタイトルにあるとおり、痛快なオーケストラをバックにアルトサックスを吹きまくった、サイケおやじには長年の愛聴盤です。
録音は1961年2&5月、メンバーはキャノンボール・アダレイ(as) とナット・アダレイ(tp) の兄弟をメインに、ウイントン・ケリー(p)、サム・ジョーンズ(b)、ルイス・ヘイズ(ds)、チャーリー・パーシップ(ds)、レイ・バレット(per)、マイケル・オラトゥンジ(per) からなるリズム隊、さらにクラーク・テリー(tp)、アーニー・ロイヤル(tp)、ジョー・ニューマン(tp)、ボブ・ブルックマイヤー(v-tb)、ジミー・クリーヴランド(tb)、ジェローム・リチャードソン(ts,fl)、オリバー・ネルソン(ts,fl) 等々のファーストコールの面々が参集した豪華ビックバンドがついています。そしてアレンジはフルバン王道派のアーニー・ウィルキンスとボブ・ブルックマイヤーですから、本当にスカッと楽しい仕上がりですよっ!
ちなみに皆様ご推察のとおり、実は最初に「African Waltz」のシングル盤が吹き込まれ、アルバムはそのヒットに乗じて後から制作されたわけですから、楽しさ優先モードは言わずもがなですね♪♪♪
A-1 Something Different (1961年5月9&15日録音)
痛快にしてファンキー、シャープなバンドアンサンブルが冴えわたる名曲にして名演ですが、カッコ良すぎるテーマを書いたのは、なんと後にフュージョンスタアとなるチャック・マンジョーネ(tp) ですから、たまりませんねっ♪♪~♪
そしてアニー・ウィルキンスの緻密にして豪快なアレンジに煽られ、最初にアドリブを演じるのは正体不明のテナーサックス、続くトランペットはナット・アダレイでしょうか? まあ、そんなこんなが気にならないと言えば嘘になりますが、演奏全体の勢いは大迫力! そして後半に登場するお待ちかねのキャノンボール・アダレイが、やはり豪快です。
演奏の大団円ではツインドラムスの威力も爆発的ですよっ!
A-2 West Coast Blues (1961年5月9&15日録音)
キャノンボール・アダレイによってメジャーデビューのきっかけを与えられた天才ギタリストのウェス・モンゴメリーが書いた、ワクワクしてくるワルツテンポのブルースです。それがここでは、またまたの痛快なアレンジで演じられ、キャノンボール・アダレイのウネリのアルトサックスと飛び跳ねてファンキーなウイントン・ケリーのアドリブに彩られるんですから、最高です!
ピンピンピンのジャズビートを弾き出すサム・ジョーンズも強烈な存在感ですし、オトポケのトロンボーンに対抗したようなリフからバンドアンサンブルに入っていくアレンジも秀逸だと思います。
A-3 Smoke Gets In Your Eyes / 煙が目にしみる (1961年5月9&15日録音)
邦題は「煙が目にしみる」として誰もが知っている泣きメロのスタンダードを、ゴージャスなオーケストラをバックにしてキャンノボール・アダレイが吹いてくれるという、最高のプレゼント!
通常よりは幾分早いテンポで情熱的な歌心を披露するキャノンボール・アダレイって、本当に良いですねよねぇ~~♪ もちろんジャズの魂、ソウルフルな心情吐露が満点です。
A-4 The Uptown (1961年5月9&15日録音)
ジュニア・マンスが書いた、これもワルツテンポのブルースですが、流石にドロドロファンキー派の作者の意図を尊重したヘヴィなアレンジと演奏が強烈です。
キャノンボール・アダレイも相当に入れ込んだアドリブを演じていますし、何よりもバンドアンサンブルのカッコ良さ! ハードボイルドにしてサスペンスタッチの編曲はクインシー・ジョーンズあたりと共通するグルーヴがありますが、これはもちろん、アーニー・ウィルキンスの十八番なのでした。
A-5 Stockholm Sweetnin' (1961年5月9&15日録音)
そのクインシー・ジョーンズが書いたソフトなメロディとシャープなビート感が満点という名曲に、ボブ・ブルックマイヤーが、ごれぞフルバンの魅力というアレンジを施した名演です。
まあ、このアルバムの中では正統派スイングに徹したオーソドックスな仕上がりと言えば、全くそのとおりなんですが、キャノンボール・アダレイのアルトサックスからはモダンジャズにどっぷりのフレーズが溢れ出し、おそらくはナット・アダレイと思われるトランペットも肩の力の抜けた好演だと思います。
そしてウイントン・ケリーの最高に楽しいアドリブは、ハードバップピアノの典型でしょうねっ♪♪ 短いのが本当に残念です。
B-1 African Waltz (1961年2月28日録音)
さて、これが冒頭に述べたシングルヒット曲で、1961年5月にはチャートの41位にランクされていますが、その曲調はタイトルどおり、混濁したブラスと打楽器が不思議な心持ちにしてくれるビックバンド演奏! もちろんイメージとしてのアフリカ色も強く出ています。
しかし驚くべきことには、キャノンボール・アダレイはおろか、アドリブパートなんて全く無いんですねぇ~!?! ですから、これをわざわざキャノンボールの名義で出す必要なんか、本当にあったのか!? というわけです。実際、バンドの合奏の中に、なんとなくキャノンボール・アダレイだけの、豊かに膨らみのあるアルトサックスの響きが混在しているだけなのですから……。
このあたりはアメリカの当時の業界とか、音楽チャートの仕組みの問題も関係しているのかもしれませんが、今となっては、そうした出来事があって、この痛快に楽しいアルバムが発売されたという事実を受け入れ、素直に楽しむしかないんでしょうねぇ。
B-2 Blue Brass Groove (1961年5月9&15日録音)
ということで、続くこの曲と演奏が、尚更に最高です!
それはワルツテンポで演じられるゴスペル調のメロディが胸キュンで、キャノンボール・アダレイのアドリブも出色♪♪~♪ またナット・アダレイが作者としての強みを活かした熱演ですから、バンド全体のグルーヴィなノリは、もうハードバップ天国ですよっ♪♪
その豪快な雰囲気を支えるリズム隊も素晴らしく、ウイントン・ケリーもサム・ジョーンズも隠れ名演だと思います。
B-3 Kelly Blue (1961年2月28日録音)
そしてこれが、もう曲名だけでワクワクさせられますねぇ~♪ ご存じ、ウイントン・ケリーが畢生のファンキーメロディですからっ! もちろんベースとフルートを使ったオリジナルバージョンの雰囲気を大切にしたアレンジも嬉しいところです。
アドリブ先発のウイントン・ケリーは十八番のファンキー節を存分に披露していますし、セカンドリフのシブイな使い方からキャノンボール・アダレイのダークにしてグルーヴィなアルトサックス、追い撃ちをかけるブラスのアンサンブルとベース&フルートの嬉しいラストテーマ!
短い演奏時間に原曲の魅力をギュッと凝縮した名演じゃないでしょうか?
ちなみにこのトラックは前述したシングル曲「African Waltz」のB面にカップリングされていたのも、納得です。
B-4 Letter From Home (1961年5月9&15日録音)
これまたジュニア・マンスが自作自演していた、ちょっとクセになるメロディのハードバップ曲ですが、それをここでは盆踊り系のグルーヴにしたアレンジと演奏が楽しめます。
アドリブパートはナット・アダレイだけですが、背後を彩るフルートも妙な雰囲気で賛否両論でしょうか……。
B-5 I'll Close My Eyes (1961年5月9&15日録音)
オーラスはリバーサイドではブルー・ミッチェルの名演が記憶される歌物スタンダード曲ということで、ボブ・ブルックマイヤーの正統派アレンジに支えられ、まずはナット・アダレイがミュートの妙技を聞かせてくれます。
う~ん、それにしてもボブ・ブルックマイヤーのアレンジが真っ向勝負で気持ち良いですねぇ~♪ それゆえに続くキャノンボール・アダレイのアルトサックスが登場すると、演奏はグイグイと盛り上がっていくのでした。
ということで、実に楽しい演奏集なんですが、1曲あたりの演奏時間の短さゆえでしょうか、これもガイド本やジャズ喫茶では無視され続けているアルバムだと思います。まあ、そのあたりを愛聴してしまうのが、サイケおやじの本性かもしれませんが……。
しかし冷静になってみると、これは「リバーサイドのヒット曲集」としての目論見もあるようで、例えばウェス・モンゴメリーの「West Coast Blues」、ブルー・ミッチェルでお馴染みの「I'll Close My Eyes」、そしてウイントン・ケリーの「Kelly Blue」等々が入っているところは、間違いなくジャズ喫茶通いのファンには気になるんじゃないでしょうか。
アニー・ウィルキンスとボブ・ブルックマイヤーという優れたアレンジャーの編曲も、確実に痛快ですし、何よりもキャノンボール・アダレイの必要以上に気負わない姿勢が、潔いと思います。
ただし、このブラックスプロイテーションならば充分合格のジャケ写はどうにかならなかったんでしょうか……? いや、もしかすると、ウリになったヒット曲の「African Waltz」は、なにかそれもんの映画かテレビドラマのテーマ曲だったんでしょうか……? それなら充分に納得ですが、流石に我が国のジャズファンにとっては先入観が強すぎるかもしれませんね。
虚心坦懐にお楽しみ下さいませ。