OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ハンコックの二番煎じも芸のうち?

2008-10-07 14:11:01 | Jazz

The Prisoner / Herbie Hancock (Blue Note)

ハービー・ハンコックと言えばハードバップ末期から新主流派、そしてブラックファンクからフュージョン、ネオ4ビートやヒップホップまで、何時の時代も名盤&人気盤を幾つも残してきたピアニストですが、それゆえに日陰者扱いのアルバムも確かにあります。

例えば本日の1枚は傑作盤「Speak Like A Chile (Blue Note)」の続篇というよりも、その進化形かもしれなのに、ジャズ喫茶でも敬遠気味だったと記憶しています。

なんとも言えないメタリックでブラコンみたいなジャケットデザイが、正統派ジャズっぽくなかったのも原因でしょうか。

録音は1969年4月、メンバーはハービー・ハンコック(p,el-p)、バスター・ウィリアムス(b)、アルバート・ヒース(ds) のピアノトリオを核に、ジョニー・コールズ(flh)、ガーネット・ブラウン(tb)、ジョー・ヘンダーソン(ts,fl)、ヒューバート・ロウズ(fl)、ジェローム・リチャードソン(fl,bcl)、トニー・スタッド(tb)、ロメオ・ペンケ(bcl)、ジャック・ジェファーズ(tb) が参加しています――

A-1 I Have A Dream
 この脱力したボサロック♪
 シャープさとズンゴトが同居した8ビート、それとモヤモヤしたテーマメロディが、ジャズ喫茶のもうひとつの楽しみである居眠りモードを誘います。トロンボーンやフルート、バスクラリネットで作りだされるカラフルなホーンセクションの響きも、実に良いですねぇ~~~♪
 もちろんハービー・ハンコックのピアノからはタイトルどおりに夢見るようなフレーズ、フワフワとして刹那的なアドリブが放たれ、些か小技に執着するアルバート・ヒースのドラムスや重心の低すぎるバスター・ウィリアムスのベースとの相性もバッチリじゃないでしょうか。
 そしてジョニー・コールズのフルューゲルホーンが「マイルスもどき」を演じれば、ジョー・ヘンダーソンが浮つきながらも狂おしいテナーサックスを聞かせるという展開ですから、演奏はどこまで煮え切りません。
 しかし、それが本当にかけがえのない雰囲気で、聴くほどに味わいが深まるのでした。

A-2 The Prisoner
 このアルバムタイトル曲も、やっぱりフワフワとしていながら落ち着きのないリズムパターン、不安感を醸し出すホーン隊のハーモニー、アルバート・ヒースの加熱気味のドラミングというミスマッチが……。
 しかしジョー・ヘンダーソンが熱血のアドリブに突入すれば、あたりは完全に新主流派の激烈モード節! ホーン隊がタイミング良くぶっつけてくるリフも刺激的です。
 さらにハービー・ハンコックのパートに至っては、バスター・ウィリアムスがハッスルしたペースワークで後押しする所為もありましょうが、何かに急き立てられるようなアドリブ展開が珍しく、アルバート・ヒースのドラムミングも怖さが増していくのです。
 そして一端は収束しかけた演奏が、ジョニー・コールズのリードによって再び混濁していく終盤の勢い! ラストで仕掛けられたバンド全員の稚気もニクイです。

B-1 Firewater
 このアルバムは当然ながら、ハービー・ハンコックのオリジナルがメインになっていますが、この曲だけはバスター・ウィリアムスが書いたもので、それゆえに普通のハードバップ&モード系の演奏になっています。
 メンバー各人のアドリブも平凡といっては失礼かもしれませんが、安心感があるのは高得点でしょう。ハービー・ハンコックも多彩な伴奏の上手さ、アドリブの冴えはマイルス・デイビスのバンドでの演奏と同じ味わいがあって、充分に納得出来るものでしょう。
 アルバート・ヒースがトニー・ウィリアムスを演じているのは、言わずもがな、思わずニヤリですよっ♪

B-2 He Who Lives In Fear
 これが前述した名盤「Speak Like A Chile」から直結している演奏で、ハービー・ハンコックの浮遊感に満ちたピアノが堪能出来ます。しかしそれが決してフワフワしたものだけになっていないのは、ベースとドラムスに厳しさがあるからで、それはもちろんハービー・ハンコックの指示によるものでしょう。
 トリオは意図的にテンポを変えそうで変えないという、こちらの期待を裏切ったりしてスリル満点! このあたりは「マイルス・デイビス」を簡単にやらないぞっ、という決意表明かもしれません。ラストテーマ直前に入ってくるジョニー・コールズがマイルス・デイビスに聞こえるのも意図的でしょうね。
 ちらりと響くハービー・ハンコックのエレピが、実に憎たらしいです♪ 

B-3 Promise Of The Sun
 オーラスも「Speak Like A Chile」を継承したサービス路線♪ 刺激的なアルバート・ヒースのドラミングに煽られて、如何にもハービー・ハンコックというピアノのアドリブがたまりません。バスター・ウィリアムスのペースもグイノリです♪
 しかし正直言えば、やっぱり二番煎じでしょうね……。これなら本家「Speak Like A Chile」を聴いたほうが良いというのが本音です。まあ、このあたりに作品の評価の低さがあるような気もしています。

ということで、結局は不人気(?)なのも実感されるアルバムではありますが、個人的には裏を返したというか、捨て難い魅力を感じる1枚です。

ちなみにハービー・ハンコックはこれ以降、レーベルの移籍やレギュラーバンドの不安定さもあって試行錯誤の時代へ入るのですが、近年ではそこでの演奏も局地的には評価されているようですから、この作品も……。まあ、無理でしょうか?

コメント
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