今日は雨、寒い雨です。
連休中の皆様もいらっしゃるのでしょう。私は虚しく仕事です。
で、本日の1枚は、実は昨日アップしようとしていたものですが――
ナッズと言えば、今でこそトッド・ラングレンが在籍していたバンドとして、ロック&ポップス・ファンには認知されていますが、リアルタイムでは本国アメリカはもちろんのこと、日本でも全くブレイクしていませんでした。
当然、私も当時は知りませんでした。それが1974年に幸運にもアメリカに行くことが出来た時、現地でいっしょに行動していたアメリカ人が私と趣味性が合い、忽ち意気投合♪ 音楽では誰が好きか? なんて訊かれたので、ちょっとマニアックにイキがってトッド・ラングレンと答えたところからボロを出し、じゃあナッズは? とツッこまれて絶句……。
ははは……、全く知らないのが本当のところでした。で、そこで聴かせてもらったのが、このアルバムです。もちろんその瞬間から完全に虜です♪
ナッズというバンドはトッド・ラングレンが1967年に結成、メンバーはストゥーキー・アントニ(vo,key)、トッド・ラングレン(g,vo)、カーソン・オステン(b)、トム・ムーニー(ds) という4人組です。
元々、トッド・ラングレンとカーソン・オステンは同じバンドでブルース・ロックをやっていたらしく、また他の2人もそれなりにキャリアがあったので演奏力は纏まっており、すぐにドアーズの前座の仕事を獲得、さらに当時人気絶頂だったモンキーズで稼ぎまくったスクリーン・ジェムスというエージェントと契約し、わざわざ彼等のために設立されたスクリーン・ジェムス・コロンビアというレコード会社から、1968年に第2のモンキーズとして華々しく売り出されるのですが……。
作られた作品群はハード&サイケ満載の、当時としては進みすぎたものでした。もちろん会社側はモンキーズと違って、自前で演奏し、ライブも完璧にこなせるバンドに期待していたのですが、商業的にポップでは無いことがわかると売り出しをアルバム中心のプロモーションに変更してしまうなど、戸惑いの中で発売されたのが、この作品というわけです。
しかし、これが素晴らしい♪ その内容は――
A-1 Open My Eyes
初シングルとして発売された、ハードでポップでサイケな、ウルトラ級の名曲です。そのメロディの基本はビートルズですが、ギューンというハードなギター、サイケなコーラス、手拍子まで入れて重く弾けるビートのリズム隊! あぁ、何回聴いても興奮します。もちろん作者のトッド・ラングレンが後々まで多用するメロディのキメも、既にして聴くことが出来ますし、積み重ねて圧倒するカッコ良いギターリフは永遠に不滅です。そして背後で唸りまくるジェット・マシーン=フェイザーは、このバンドのトレードマークになるのでした。
A-2 Back Of Your Mind
完全にクリームのコピーという微笑ましい曲です。ドラムスなんかジンジャー・ベイカーのキメをそのまんま使っていますし、動きまくりのベースやボーカルのシャウトの雰囲気はジャック・ブルース、もちろんギターはエリック・クラプトンを狙っています。
このあたりはブルースロックをやっていたトッド・ラングレンの本領発揮というところでしょうか、本当に憎めませんね♪ もちろん演奏は素晴らしいのですが、クリームには勝てるはずもないのでした。
A-3 See What You Can Be
おぉ、ジョン・レノンがボサノバしたような曲です♪ これが、イイんですよ♪ コーラスもキマッていますし、個人的には大好きです。
A-4 Hello It's Me
前曲から間髪を置かずに始まる永遠の名曲です。もちろん後にトッド・ラングレンが度々、再録しているオリジナルがこれなのです。
あぁ、このゆったり感は最高です。とろけるようなメロディ、ハードロックで甘茶なコーラス、ビシッと極めたリズムが、もう、たまりません♪ このあたりは甘茶ソウルの本場=フィラデルフィア育ちのトッド・ラングレンが本音を吐露した感がありますねぇ~♪ 繰り返しますが、最高です。
ちなみにこの曲は初シングルのB面として先行発売され、なんとA面の「Open My Eyes」を押しのけてラジオのDJ達に気に入られ、小ヒットしています。
A-5 Wildwood Blues
メンバー全員の共作によるハードなブルースロックです。トッド・ラングレンのギターを中心にしてギンギンに迫っていますが、やや古臭い感覚は隠せません。
B-1 If That's The Way You Feel
またまた甘~い、バラード路線の名曲です。このコーラス・ワークの冴え、ストリングスまでも導入した演奏は、完全に後のトッド・ラングレンのソロ・アルバムと一緒です。ただし比較すると、ここでの仕上げは素直すぎるのですが、それでも当時としてはビートルズを追従するバンドとして出色だと思います。
B-2 When I Get My Plan
コーラス全開&ハードなビートという、後のクイーンを想起させられる曲ですが、なるほど、これはイギリスのムーヴあたりの影響もあるようです。背後ではこのバンドのトレードマークであるジェット・マシーンが唸りますが、完成度はイマイチだと思います。
B-3 Lemming Song
ギター中心のハードロックで、動きまくるベースも素敵ですが、メロディが凡庸……。ここでも中盤からはクリームになっていますが……。
B-4 Crowded
一転してポップなナッズに逆戻り♪ ただしメロディを屈折させすぎていますし、才気が先走った雰囲気です。そしてこれも、後年のクイーンを想起させられますので、もしかしたら、クイーンのメンバーはこのバンドがお気に入りだったのかも? ちなみにこれはストゥーキー・アントニとトム・ムーニーの共作です。
B-5 She's Going Down
アルバムの〆はポップなハードロックです。このあたりから、ナッズは元祖パワーポップとされることが多いのですが、私は成り立ちから違うというか、サイケロックの進化形がナッズであり、ポップな雰囲気は作曲と演奏の要であるトッド・ラングレンの屈折性ゆえのことだと思うのですが……。
ということで、これは素敵なアルバムです。といっても万人向けの名盤ではなく、この手の音が好きな人には、棺桶まで持っていく盤という、聴き手を選んでしまうところが大きいのですが……。特にA面の流れは最高、その反面B面は……、というのが本当のところです。しかしビートルズでいえば、「ラバーソウル」と「リボルバー」の中間ぐらいの音は出していると思います。もちろんジャケ写からしてナッズがビートルズを意識していたのは、隠しようもありません。
ナッズはこの後、さらなる飛躍を求めてレコーディングを敢行するのですが、なんとほとんどの曲を書いていたトッド・ラングレンが完成を待たずして脱退するというハプニングが待ち受けているのです……。
で、私はこのアルバムを聴かせてもらい、忽ち虜になったのは言わずもがなで、ラッキーにも件の友人にロスの中古盤屋へ連れて行ってもらい、これを含めてナッズのアルバム3枚を入手することが出来ました。もちろん3枚とも、後々まで私の愛聴盤になるのです。
さて現在、このアルバムはボーナストラックを満載して、しかも紙ジャケット仕様で再発されています。リマスターもなかなか良く、このあたりのサイケポップなバンドが好きな人には、激オススメの1枚です。例によってジャケ写からネタ元へリンクしてありますので、ご確認下さい。