コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

孤児院のクリスマス

2009-12-24 | Weblog

クリスマスは、どの子供にも訪れる。どんな気の毒な境遇の子供たちにも、サンタクロースは、ちゃんと来なくてはならない。それで、地元のロータリー・クラブが、孤児院でクリスマスプレゼントを配る。日本大使に行事の「名付け親」になってほしい、と頼まれた。いいですよ、私で務まるならば、と引き受けた。

その孤児院は、エイズに関係した子供たちの孤児院である。両親がエイズで亡くなった子供、そしてかなりの場合、子供たち自身もHIV陽性になっている。そうした子供たちが、150人ほど一緒に暮らしている。ほんの物心ついたばかりの歳で、大きな不幸とハンディをかかえている。

そして、「名付け親」として、私からの励ましの言葉をほしいという。そんな子供たちに、どういう言葉を掛けてあげればいいのだろう。私は、とても困っていた。父母の愛情を失い、暗い気持ちの子供たちを、私はどう言って慰めてあげればいいのだろうか。両親がいなくても、力いっぱい頑張って生きていきなさい、人生はいろいろなドラマを用意して、君たちのことを待っているよ。ああ、そんな上滑りな言葉が、この不幸な境遇の子供たちの心に響くとは、自分でも思えない。

どういう挨拶をするべきなのか、いい考えもないまま、孤児院に向かったのである。孤児院の集会所には、クリスマスツリーが用意され、たくさんの子供たちが並んで座っていた。私が会場に入ると、ちいさな手で拍手をしてくれる。大きくても小学校の低学年くらいの子供たちである。そして、どの子供にももう父親も母親もいない。こんな歳で、一人で生きていかなければならないし、中には、自分の体のHIV陽性と、これから一生闘っていかなければならない子供もいる。

さて、私を席に導いたあと、三角帽子を被った司会の若者が、子供たちに誘いかける。さあ、歌を歌おう。そうしたら、子供たちみんなで、歌を合唱し始めた。大きな声が、会場に響く。普通の子供たちと変わらない、元気な歌声である。そして、次は、ダンスだ。舞台でダンスを踊る子はだれかな。そしたら、皆がいっせいに手を挙げる。私よ、僕だ、とまあ騒々しいこと。三角帽子のお兄さんが、5人ほど選んで舞台に上げた。ダンスの音楽が始まると、5人とも元気いっぱい踊る、踊る。

「さあ、サンタクロースがやってくるぞ。みんなで、サンタを呼ぼう。サンタさん、サンタさん。」
クリスマスの音楽とともに、三角帽子の司会がそう言うと、子供たちは大声で、サンタさん、サンタさん。そうしたら、戸口が開いて、真っ赤な服を着て、白い髭を付けた人が登場した。顔は褐色だけど、間違いなくサンタさんである。大歓声が上がる。

サンタさんは、大きな袋を抱え、キャンディを配りながら、会場を一周し、正面の舞台に座った。いよいよプレゼントが配られるのだ。サンタさんは、袋から一つ取り出して、そこに書かれた名前を読み上げる。
「アニマ・コネ。アニマちゃんは、どこに居るかな。」
女の子が、席を立って、舞台にやってきた。プレゼントを受け取って、はにかみながらマイクに向かって、
「サンタさん、メルシー。」

一人一人呼びだして、プレゼントを手渡す。そのたびに、サンタさんメルシー。プレゼントは、一つずつ包まれてリボンがかかっている。若者たちが、皆で用意したのだろう。でも、この人数の子供に、この調子で配っていては大分時間がかかりそうだ。そのことに、若者たちも気がついたようである。そのうち、3人ずつ呼び出しはじめた。私も舞台に呼ばれて、子供たちにプレゼントを手渡す。

順番に名前を呼んでいたのだけれど、もう子供たちは待ちきれない。まだ貰っていない子供たちが、舞台に押し寄せてきた。サンタさんの周りを取り囲んで、私も、僕も。それで、もう名前も何も関係なく、プレゼントは子供たちの手に奪われていった。子供たちの迫力に、丁寧な企画もたじたじである。子供たちの席では、プレゼントの包みを開けては、わーきゃーと大騒ぎしている。

それで、プレゼントを配り終えて、私の出番が来た。慰めの言葉どころか、私の方が、子供たちの元気に気圧されている。
「みんな、よかったね。楽しいクリスマスだね。」
あと、何を言おうか。
「メルシーだよね。サンタさんにメルシー、ロータリーの若者たちにメルシー、大人たちにメルシー、そして友達にメルシーだよ。」
子供たちも、私に応えて、メルシーと大声で叫んでいる。

想像していたような、不幸の影のある子供たちではなかった。どの子供も、元気いっぱい、夢いっぱい。自分の境遇は、もっと年長になったら分るのだろうけれど、今はこれでいい。今は、来てくれたサンタさんに大喜びして、配られたプレゼントを手に、大はしゃぎ。この元気と笑顔を、いつまでも失わないでいてほしい、と私は思った。

 踊りたい子いるかな、に元気な手が上がる。

 舞台で踊る子供たち

 サンタさんの登場

 サンタさんからプレゼント

 サンタさん、メルシー

 私にもプレゼント

 君たちにもプレゼント

 みんなが押し寄せてきた

 子供からの、ありがとうの挨拶


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