闇に消える・2
「お前は優しすぎるんだ 呆れるほどのお人よしー だがな・・・無茶はするな いいな
これでも心配してるんだ 俺の心配なんざ お前にとって何の役にも立つまいが・・・」
ー追想ー
立ち入り禁止区域となり その後で火事となった・・・しかも完焼
早々と整地されたのに まだ立ち入り禁止は解けていない・・・
街には寒々とした場所が増えている
監視の人間が見廻っているから昼間からおおっぴらに潜り込むのも面倒だが 夜に懐中電灯を使う方が目立つーと桂が話す
「同じ大学の学生がな肝試しとかで出かけていってーそれきりだ そいつらが行った場所がここだよ」
まだ火事にはなっておらず建物が残っている・・・・・
例によって高いバリケードで覆われてはいるが
そこは病院だった
以前に鳴海が見た時は そこそこ流行っている・・・・多くの人が出入りしているようであったのに
いつの間に廃院となったのか
桂が荷物から取り出したのは縄梯子
時代劇の泥棒かよーと鳴海は思う
案外 器用に上ると桂は鳴海をせかした
「馴れたもんだな」と鳴海が言えば 縄梯子を巻き取ってリュックに仕舞いながら桂は表情も変えずに言った
「大人の常識だ」
建物は静かだ・・・・・
本来なら自動ドアの入り口にはご丁寧にも鉄の壁が立ててある
まるで中の何かが出て来るのを怖れるように・・・・
窓にも外から鉄の壁が取り付けてある
「しかし貴水(たかみ)らは何処かから入った 入れたはずなんだ」建物の周囲を歩きながら桂が考え込む
「外付けの非常階段はどうだ あの一番上から屋上へよじ登り 中へ入れないか」
鳴海が言えば 桂も頷く
「駄目モトだな」
桂が頼りにするだけあり 鳴海は身が軽い 腕力もある
今度は先に鳴海が屋上へ上り桂を引っ張り上げた
「思った通りだー」と鳴海は言った「外からは囲えたが 中には入れなかったんだ 中には鍵がかけられていない」
屋上から中へ入るドアは風にバタバタ揺れていた
ぶるっと鳴海は武者震いをする「鬼が出るか蛇が出るか」
桂に続いて鳴海も建物の中へ入りかけて振り返る
「どうした鳴海」
「いや 今 誰かに見られているような気がしたんだ」
「俺は何も感じないぞ」
先に階段を降りていた桂の足が急に止まる
ライトをつけて確認
「血の跡がある」
壁に黒ずんだシミがある
降りる階段にも点々と血の散ったあとがあるのだった
「まるでゾンビ映画だな」鳴海が言えば桂も同様に呟く「立派なお化け屋敷だ」
五階建ての病院の階を上から順に回りつつ中の階段を降りていく
あちこちで壁や床に血のシミが見つけられた
この病院で何が起きていたのか
建物の中を調べながら桂は「引き返そう」とは言わなかった
一階まで降りてきて玄関ロビーの近くで桂が立ち止まる
横倒しになった自動販売機があった
「あれなー」と桂が言う
「自動販売機の横のゴミ箱に引っかかっている布の切れ端
貴水が着ていた服と同じ柄だ・・・タータンチェックみたいな格子柄の中に紫陽花の花が描かれてて・・・珍しいなと思ったから覚えている」
「貴水がここに来たのは間違いないってことか」
二人は周囲を警戒を帯びた目つきで眺めまわす
電気は切られていないのか薄暗い夜間用の照明がところどころに点いている
建物内部を見て回り 残るは地下室への階段だけとなった時 桂が言った
「トイレに行っておこう」
何かがあったとして漏らしながらという事態は避けたい 恰好悪すぎると言うのだ
トイレを使う前にも内部をチェック
隣り合った個室に入った桂が言う
「ゾンビなら日の光があっても平気でいるから 地下室に何か居るとすれば吸血鬼かな」
「面白いがあれは小説や映画 ツクリゴトだろ」
「まあ・・・そうだが 言い伝えや伝承には多少の本当にあったことが含まれているかもしれないだろ」
そう桂は薄く笑った
「ここまで来といて何だが桂 お互い気をつけような 幾ら真実の為でも死んだらつまらないぜ 命あっての物種ーだろ」
「ああ 鳴海はいよいよ危ない場面になると肝が据わるんだな 纏う雰囲気が変わる
俺に何か起きたらーそのまま放っておいてくれ
かなり俺は恐ろしがっている きっとこの先はかなりやばい」
それでも引き返すーという考えは桂には無いのだった
「貴水はただの学友じゃない 高校こそ違ったが幼馴染だ 中高校時代にもよくネタをくれた
好奇心旺盛の野次馬根性・・・軽薄馬鹿と見る奴もいるが
それだけの男じゃない シンも持ってる
貴水がここに入る事を言ってきた時 同行しなかったことを後悔している
だから鳴海を巻き添えにしていいーって理由にはならないが」
ここまで言って桂は 鳴海を横目で見て笑った「お前なら何かやってくれるーそんな期待する気持ちがあるんだ
勝手な話だが どんな時もお前なら生き延びてくれるって」
心の中で鳴海は呟くーあのなァ・・・-全くもってのーあのなァ・・・だと
「知ってるか桂 そんなふうにペラペラ喋る時ってな 映画や小説だと死亡フラグが立った状態なんだぞ
首 持ってかれないように気をつけろ」
鳴海と桂はトイレの壁に立てかけてあったモップ片手に地下への階段を降りて行く
間に合わせの武器としては甚だ心もとないが 無いよりはマシの二人だった
廊下を少し進むと何かの気配が伝わってくる
ネズミの騒ぐ声
病院の地下にネズミ・・・二人は顔を見合わせる
何が起きているのか?!
ネズミが何かから逃げるように走ってくる
しかし捕まったようだ
尻尾を掴まれたネズミはキーキー歯をむき出すもー頭から喰われた
食べているのは人間の形をしたモノ
そのモノは首が傾いている
いや半分首が無いのだ
何かに食べられたように
体に穴が開いている
桂が呟く「貴水・・・」
傾いた首の上の頭には・・・その顔は口からネズミの尻尾がはみ出している
尻尾は まだ動いていた
その口が桂と鳴海の姿を認めて だらしなく笑った
寄ってくる
穴だらけの体なのに動きが早い
桂は貴水だったモノの姿に動けずにいる
大きな口を開けて桂に迫ったモノの頭を鳴海はぶっ叩いた
一度は倒れるが またゆらりと起き上がってくる
「逃げるぞ 桂」
鳴海が叫ぶ
なんとなれば 奥から いずれも体に穴が開いた集団が現れた
「来い!桂」
桂は泣きそうになっている「なんでだよ貴水 なんでだよ」
貴水だったモノの口が桂の足首に近づく
鳴海は飛びだしてきたモノの一つを又ぶっ叩く
そうしながら器用に桂を引っ張った
その鳴海を引っ張った者がいる
桂ごと鳴海を階段の上までひっぱりあげた者は 地下へ下りすぐに戻ってきた
自動ドアを手で押し開け 外の鉄板を押し倒す
桂と鳴海の襟首掴みずるずると外へ引き出し
二人の襟首を掴んだまま 高い塀を軽々と飛び越えた
数分かかったかどうか
「噛まれてしまったか」
桂と鳴海から手を離した者は 桂の足首を見ていた
「君はー朝の人だよね あの良家のお嬢様ふうだった・・・」
確かめるように鳴海が尋ねる
あの清純派と見えた面影は今 目の前に立つ人物にはない
年齢不詳の・・・黒い革の上下に身を包み
「ああ 女はね髪形と化粧と服装でいかようにもイメージを変えられるのよ」
そう言いながら桂の足首に手をかざす
「穢れて澱み腐った血が流れ込んでいる」
鳴海を見上げてその者は言った「ちょっと押えていて」
鳴海が桂を押さえると その者は桂の足首に手を当てた
桂が悲鳴をあげる そしてぐったりした
「何をしたんだ」
「地下で見たアレらと同じ生き物にしたくないでしょ」
「一体 君は」
長い髪を後ろで無造作に縛りクールな美貌の女は「騒ぎにならないうちにここを離れましょ お互い人目につきたくないはずよね」
桂を左肩にかけてそう言った
「お前は優しすぎるんだ 呆れるほどのお人よしー だがな・・・無茶はするな いいな
これでも心配してるんだ 俺の心配なんざ お前にとって何の役にも立つまいが・・・」
ー追想ー
立ち入り禁止区域となり その後で火事となった・・・しかも完焼
早々と整地されたのに まだ立ち入り禁止は解けていない・・・
街には寒々とした場所が増えている
監視の人間が見廻っているから昼間からおおっぴらに潜り込むのも面倒だが 夜に懐中電灯を使う方が目立つーと桂が話す
「同じ大学の学生がな肝試しとかで出かけていってーそれきりだ そいつらが行った場所がここだよ」
まだ火事にはなっておらず建物が残っている・・・・・
例によって高いバリケードで覆われてはいるが
そこは病院だった
以前に鳴海が見た時は そこそこ流行っている・・・・多くの人が出入りしているようであったのに
いつの間に廃院となったのか
桂が荷物から取り出したのは縄梯子
時代劇の泥棒かよーと鳴海は思う
案外 器用に上ると桂は鳴海をせかした
「馴れたもんだな」と鳴海が言えば 縄梯子を巻き取ってリュックに仕舞いながら桂は表情も変えずに言った
「大人の常識だ」
建物は静かだ・・・・・
本来なら自動ドアの入り口にはご丁寧にも鉄の壁が立ててある
まるで中の何かが出て来るのを怖れるように・・・・
窓にも外から鉄の壁が取り付けてある
「しかし貴水(たかみ)らは何処かから入った 入れたはずなんだ」建物の周囲を歩きながら桂が考え込む
「外付けの非常階段はどうだ あの一番上から屋上へよじ登り 中へ入れないか」
鳴海が言えば 桂も頷く
「駄目モトだな」
桂が頼りにするだけあり 鳴海は身が軽い 腕力もある
今度は先に鳴海が屋上へ上り桂を引っ張り上げた
「思った通りだー」と鳴海は言った「外からは囲えたが 中には入れなかったんだ 中には鍵がかけられていない」
屋上から中へ入るドアは風にバタバタ揺れていた
ぶるっと鳴海は武者震いをする「鬼が出るか蛇が出るか」
桂に続いて鳴海も建物の中へ入りかけて振り返る
「どうした鳴海」
「いや 今 誰かに見られているような気がしたんだ」
「俺は何も感じないぞ」
先に階段を降りていた桂の足が急に止まる
ライトをつけて確認
「血の跡がある」
壁に黒ずんだシミがある
降りる階段にも点々と血の散ったあとがあるのだった
「まるでゾンビ映画だな」鳴海が言えば桂も同様に呟く「立派なお化け屋敷だ」
五階建ての病院の階を上から順に回りつつ中の階段を降りていく
あちこちで壁や床に血のシミが見つけられた
この病院で何が起きていたのか
建物の中を調べながら桂は「引き返そう」とは言わなかった
一階まで降りてきて玄関ロビーの近くで桂が立ち止まる
横倒しになった自動販売機があった
「あれなー」と桂が言う
「自動販売機の横のゴミ箱に引っかかっている布の切れ端
貴水が着ていた服と同じ柄だ・・・タータンチェックみたいな格子柄の中に紫陽花の花が描かれてて・・・珍しいなと思ったから覚えている」
「貴水がここに来たのは間違いないってことか」
二人は周囲を警戒を帯びた目つきで眺めまわす
電気は切られていないのか薄暗い夜間用の照明がところどころに点いている
建物内部を見て回り 残るは地下室への階段だけとなった時 桂が言った
「トイレに行っておこう」
何かがあったとして漏らしながらという事態は避けたい 恰好悪すぎると言うのだ
トイレを使う前にも内部をチェック
隣り合った個室に入った桂が言う
「ゾンビなら日の光があっても平気でいるから 地下室に何か居るとすれば吸血鬼かな」
「面白いがあれは小説や映画 ツクリゴトだろ」
「まあ・・・そうだが 言い伝えや伝承には多少の本当にあったことが含まれているかもしれないだろ」
そう桂は薄く笑った
「ここまで来といて何だが桂 お互い気をつけような 幾ら真実の為でも死んだらつまらないぜ 命あっての物種ーだろ」
「ああ 鳴海はいよいよ危ない場面になると肝が据わるんだな 纏う雰囲気が変わる
俺に何か起きたらーそのまま放っておいてくれ
かなり俺は恐ろしがっている きっとこの先はかなりやばい」
それでも引き返すーという考えは桂には無いのだった
「貴水はただの学友じゃない 高校こそ違ったが幼馴染だ 中高校時代にもよくネタをくれた
好奇心旺盛の野次馬根性・・・軽薄馬鹿と見る奴もいるが
それだけの男じゃない シンも持ってる
貴水がここに入る事を言ってきた時 同行しなかったことを後悔している
だから鳴海を巻き添えにしていいーって理由にはならないが」
ここまで言って桂は 鳴海を横目で見て笑った「お前なら何かやってくれるーそんな期待する気持ちがあるんだ
勝手な話だが どんな時もお前なら生き延びてくれるって」
心の中で鳴海は呟くーあのなァ・・・-全くもってのーあのなァ・・・だと
「知ってるか桂 そんなふうにペラペラ喋る時ってな 映画や小説だと死亡フラグが立った状態なんだぞ
首 持ってかれないように気をつけろ」
鳴海と桂はトイレの壁に立てかけてあったモップ片手に地下への階段を降りて行く
間に合わせの武器としては甚だ心もとないが 無いよりはマシの二人だった
廊下を少し進むと何かの気配が伝わってくる
ネズミの騒ぐ声
病院の地下にネズミ・・・二人は顔を見合わせる
何が起きているのか?!
ネズミが何かから逃げるように走ってくる
しかし捕まったようだ
尻尾を掴まれたネズミはキーキー歯をむき出すもー頭から喰われた
食べているのは人間の形をしたモノ
そのモノは首が傾いている
いや半分首が無いのだ
何かに食べられたように
体に穴が開いている
桂が呟く「貴水・・・」
傾いた首の上の頭には・・・その顔は口からネズミの尻尾がはみ出している
尻尾は まだ動いていた
その口が桂と鳴海の姿を認めて だらしなく笑った
寄ってくる
穴だらけの体なのに動きが早い
桂は貴水だったモノの姿に動けずにいる
大きな口を開けて桂に迫ったモノの頭を鳴海はぶっ叩いた
一度は倒れるが またゆらりと起き上がってくる
「逃げるぞ 桂」
鳴海が叫ぶ
なんとなれば 奥から いずれも体に穴が開いた集団が現れた
「来い!桂」
桂は泣きそうになっている「なんでだよ貴水 なんでだよ」
貴水だったモノの口が桂の足首に近づく
鳴海は飛びだしてきたモノの一つを又ぶっ叩く
そうしながら器用に桂を引っ張った
その鳴海を引っ張った者がいる
桂ごと鳴海を階段の上までひっぱりあげた者は 地下へ下りすぐに戻ってきた
自動ドアを手で押し開け 外の鉄板を押し倒す
桂と鳴海の襟首掴みずるずると外へ引き出し
二人の襟首を掴んだまま 高い塀を軽々と飛び越えた
数分かかったかどうか
「噛まれてしまったか」
桂と鳴海から手を離した者は 桂の足首を見ていた
「君はー朝の人だよね あの良家のお嬢様ふうだった・・・」
確かめるように鳴海が尋ねる
あの清純派と見えた面影は今 目の前に立つ人物にはない
年齢不詳の・・・黒い革の上下に身を包み
「ああ 女はね髪形と化粧と服装でいかようにもイメージを変えられるのよ」
そう言いながら桂の足首に手をかざす
「穢れて澱み腐った血が流れ込んでいる」
鳴海を見上げてその者は言った「ちょっと押えていて」
鳴海が桂を押さえると その者は桂の足首に手を当てた
桂が悲鳴をあげる そしてぐったりした
「何をしたんだ」
「地下で見たアレらと同じ生き物にしたくないでしょ」
「一体 君は」
長い髪を後ろで無造作に縛りクールな美貌の女は「騒ぎにならないうちにここを離れましょ お互い人目につきたくないはずよね」
桂を左肩にかけてそう言った