くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

大魔人(73)【13章 それから】

2021-08-21 19:40:47 | 「大魔人」
         13 それから
 雪が、しんしんと舞い落ちていた。
 季節はすっかり変わり、辺りは、もう一面の銀世界だった。
 まだ、雪が積もるには早かったが、すれ違う人は誰もが白い息を吐き、走り去る車もそろそろと、タイヤが空回りしないよう、慎重にハンドルを操作していた。
 アマガエルは、袖丈の短い黒のジャンパーを着て、寺のそばの道を歩いていた。
 いつから着ているジャンパーなのか。サイズが合わないのは、ずいぶんと昔から、大事に着続けているせいなのかもしれなかった。
 前を開けているジャンパーの裏地は、目の冴えるようなオレンジ色だったが、黒い色はつや消しをしたようにくすんで、叩けばボワリ、とほこりが立ち上りそうだった。
 セーターの襟元からのぞく青色のシャツは、着ている本人は温かいのだろうが、見ていると思わず身震いをしたくなるほど、ひんやりとした冷気が漂ってきそうだった。
 目の調子は、ずいぶんと良くなっていた。
 しばらく特技を使わないでいることが、いい薬になっていた。
 失明しそうになるほど、眼圧が異常に高くなることは、今はまったくなかった。
 心配していたキクノさんも、いつのまにか、元気を取り戻していた。その様子を見かけると、ふと、行方不明なままの子供達の事を、思い出さずにはいられなかった。
 今日の午前中も、月に1回行われている講話があって、キクノさんも参加していた。
 集まった檀家の人達は、相変わらず、講話の後の懇談が目的で、やって来ていた。
 去年の火事の後、キクノさんは、集会にも、仲間同士のイベントにも、しばらく姿を見せなかった。仲のいい知り合いに誘われて、ようやく姿を見せたのは、本格的な冬が始まる直前だった。
 どう接すればいいのか、アマガエルをはじめ、みんなも腫れ物に触るように、どこか気を使って、話す言葉にも注意を払っていた。
 それが、街で偶然キクノさんと鉢合わせた時、アマガエルは満面に浮かべた笑顔を見て、驚かされた。

「お久しぶりです。どうも――」と、アマガエルは頭をかきかき、ぺこりと頭を下げた。「この子は?」

 キクノさんは、ゴシップ調のかわいらしい服を着た女の子と、手を繋いでいた。
「おや、タッちゃん」――久しぶりね。と、キクノさんは、いつになくうれしそうな笑顔を浮かべた。
「メグちゃんって言ってね、近所に引っ越してきた、シルビアさんの所の娘さん。じゃない、お孫さんなの」
「はじめまして」と、女の子は、スカートをつまみ上げて片足を後ろに突くと、ちょこんとお辞儀をして言った。「私は、マーガレットと言いますの。今日はおばあさまと一緒に、お買い物のお手伝いに行きますのよ」
 不思議な、人形のような雰囲気をした女の子だった。
「ぼくは、加藤龍青です」と、アマガエルは言った。「お寺の、お坊さんをやっています。よろしくね」



「次」

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