もわりっ、とむせ返るような異臭が鼻をついた。
「早くしろ」
男の青い瞳を見ながら、ソラは戸惑うようにうなずくと、恐る恐る、地下に通じている穴に近づいた。
「うっ……」穴をのぞきこんだソラは、風に乗って噴き上げる臭気に思わず顔をしかめた。
「悪いが、手がかりになるものはついていない。落っこちないように縁に手をついて、ゆっくり降りるんだ」
ソラは言われるまま、体をかがめて、四角く開いた穴の縁に手をつくと、片足ずつ足を離して、穴の中におろしていった。
「足が、届かないよ」ソラが苦しそうに言うと、男が言った。
「よく下を見ろ、それほど高い場所じゃない」
ソラが歯を食いしばりながら足下を見ると、弱い光が、きらきらと水たまりに反射しているのが見えた。しかし、男が言うほど、低い高さではなかった。ソラの背丈は、間違いなく超えているはずだった。
「うわわっ」
穴の縁にかけていた手がズルリとすべり、ソラは両手を伸ばした格好のまま、真っ直ぐ下に落ちてしまった。
たん、とコンクリートの壁に足音を響かせ、ソラは地面に手をつくように下に降りた。
カサカサッと、ムカデに似た小さな虫が何匹か、壁際に素早く逃げていくのが目の端に見えた。
ぎくりっ、と首をすくめたソラが顔を上げると、そこは下水道のようだった。天井から点々と離れて洩れ差すわずかな光は、マンホールの蓋に開けられた小さな穴を通ってきたものだった。
「こっちだ」
ソラが振り返ると、下に降りてきた男が、どこかに向かって歩き始めていた。もやっとした湿気と鼻をつまみたくなるような臭いの中、大股に歩く男の後を追いかけて、ソラは小走りに進んでいった。
ふと、降りてきた穴を見上げると、穴はなぜか跡形もなく塞がれ、鉄の蓋も消え去っていた。もともと、なにもなかったかのようだった。どうしてなのか、ソラは疑問に思ったが、先を行く男に聞く勇気は出せなかった。
「ニコライ、戻ったぞ――」と、男が言った。
すうっと音もなく、暗い影の中から、狭い下水道には似つかわしくないほど大柄な、金色の髪の男が、姿を現した。
「イヴァン、その坊主は?」ニコライと呼ばれた男が、顎でしゃくるようにソラを指して言った。
「ああ」イヴァンと呼ばれた男はうなずくと、ため息混じりに言った。「上で拾ったのさ、青い鳥を見つけた子供の兄弟だ」
目を細めるようにソラを見ると、ニコライが言った。「ああ、思い出したよ」
「お兄ちゃん……」と、暗闇の中から声が聞こえた。ソラが顔を向けると、ウミがおずおずと薄明かりの中に顔を出した。
「早くしろ」
男の青い瞳を見ながら、ソラは戸惑うようにうなずくと、恐る恐る、地下に通じている穴に近づいた。
「うっ……」穴をのぞきこんだソラは、風に乗って噴き上げる臭気に思わず顔をしかめた。
「悪いが、手がかりになるものはついていない。落っこちないように縁に手をついて、ゆっくり降りるんだ」
ソラは言われるまま、体をかがめて、四角く開いた穴の縁に手をつくと、片足ずつ足を離して、穴の中におろしていった。
「足が、届かないよ」ソラが苦しそうに言うと、男が言った。
「よく下を見ろ、それほど高い場所じゃない」
ソラが歯を食いしばりながら足下を見ると、弱い光が、きらきらと水たまりに反射しているのが見えた。しかし、男が言うほど、低い高さではなかった。ソラの背丈は、間違いなく超えているはずだった。
「うわわっ」
穴の縁にかけていた手がズルリとすべり、ソラは両手を伸ばした格好のまま、真っ直ぐ下に落ちてしまった。
たん、とコンクリートの壁に足音を響かせ、ソラは地面に手をつくように下に降りた。
カサカサッと、ムカデに似た小さな虫が何匹か、壁際に素早く逃げていくのが目の端に見えた。
ぎくりっ、と首をすくめたソラが顔を上げると、そこは下水道のようだった。天井から点々と離れて洩れ差すわずかな光は、マンホールの蓋に開けられた小さな穴を通ってきたものだった。
「こっちだ」
ソラが振り返ると、下に降りてきた男が、どこかに向かって歩き始めていた。もやっとした湿気と鼻をつまみたくなるような臭いの中、大股に歩く男の後を追いかけて、ソラは小走りに進んでいった。
ふと、降りてきた穴を見上げると、穴はなぜか跡形もなく塞がれ、鉄の蓋も消え去っていた。もともと、なにもなかったかのようだった。どうしてなのか、ソラは疑問に思ったが、先を行く男に聞く勇気は出せなかった。
「ニコライ、戻ったぞ――」と、男が言った。
すうっと音もなく、暗い影の中から、狭い下水道には似つかわしくないほど大柄な、金色の髪の男が、姿を現した。
「イヴァン、その坊主は?」ニコライと呼ばれた男が、顎でしゃくるようにソラを指して言った。
「ああ」イヴァンと呼ばれた男はうなずくと、ため息混じりに言った。「上で拾ったのさ、青い鳥を見つけた子供の兄弟だ」
目を細めるようにソラを見ると、ニコライが言った。「ああ、思い出したよ」
「お兄ちゃん……」と、暗闇の中から声が聞こえた。ソラが顔を向けると、ウミがおずおずと薄明かりの中に顔を出した。