くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

機械仕掛けの青い鳥(61)

2019-05-31 20:21:29 | 「機械仕掛けの青い鳥」
 彼らは、なにをしようというのだろうか……。警察組織として、自由を求める声を摘んでしまおうとしているのか、それとも一部の人間達が集まって、立ち上がろうとしている人々を、力で押さえつけようとしているのか。しかしシェリルは、その答えを持っていなかった。歴史に暗い影を落としている事件を未然に防ぐ。使命感にも似た強い気持ちが、シェリルを突き動かしていた。
 彼らのアジトを求め、屋上に出たシェリルは、牧師のいるホテルを見通してみた。ジョンのいたホテルと比べ、距離も遠く、ほかの建物があいだに建ち並び、どんなに腕のいい狙撃手であっても、標的を捉えることは不可能だった。
 ふと、道路を走っている車を見て思いついた。彼らは、ホテルの牧師を狙っているのではなく、車に乗って移動するところを狙おうとしているのではないか。だとすれば、彼らがアジトにしている部屋は、限られた条件を満たす、わずかな部屋に絞ることができた。
 屋上の縁に立ったシェリルは、細いロープを伸ばして足下に放り投げると、突き出た鉄骨にくくりつけ、ためらうことなく、宙に向かって躍り出した。

 ――――――――        
 窓に向かってソファーに腰を下ろし、時計を気にしながら、男はあらかじめ書かれた計画のとおり、順調に任務を遂行していた。
 目の前のテーブルには、ずしりと重いライフル銃が置かれていた。取り付けたスコープの狂いも、銃を構える場所も、すべて準備は整っていた。後は打ち合わせのとおり、ターゲットが乗った車を、窓の外に見える道路まで、仲間が誘導してくるのを待つだけだった。
 警察無線にチャンネルを合わせた携帯用の無線機が、ジジ、ジジッと、かすれた音を時折鳴らしていた。動きがあれば、男に向けた連絡が、逐一入ることになっていた。
 自分以外にも、ターゲットを狙っている人間がいると、思わず耳にしてしまった。立ち話を盗み聞きしていたわけではないが、今回の計画にどれだけの人間が関わっているのか、大きな力が、水面下で不気味にうごめいているのを感じた。

 スサッ――。

 黒い大きな影が、窓の外をかすめ落ちていった。「なんだ……」思わず口走った男が窓に近づくと、ひらりとスカートの裾をひるがえしたシェリルが、ベランダの手すりを越えて飛びこんできた。
 男は、反射的にライフル銃に手を伸ばした。スタン、とベランダの床に片膝を突いたシェリルは、男の動きが見えているのか、顔を上げることなく、器用にライフル銃の銃口を避け、体ごと窓ガラスにぶつかって破り、室内に入ってきた。
 ガラガラと、甲高い音を立てて割れ落ちたガラスが散乱する中、「くっ――」と、男はくやしそうに顔を曇らせ、窓を背にしてしゃがむと、片膝を突き、ソファーの陰に隠れたシェリルに狙いをつけた。

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