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くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

大魔人(10)

2021-06-19 18:58:02 | 「大魔人」
「ぼくがやる」と、真人が、ローソクを持った父親に言った。
「自分の誕生日は、もう少し先だろ」と、父親は言いながら、しぶしぶローソクを何本か、真人に手渡した。「そのかわり、お姉ちゃんの言うこと、ちゃんと聞かなきゃダメだからな」
「うん。わかった――」と、うなずいた真人は、心ここにあらずだった。
「ちょっと、多いんじゃない」と、おばあちゃんが言って、真人が刺したローソクを引き抜いた。
「ほんとだ。これじゃ、お姉ちゃんがおばちゃんになっちゃうよ」と、父親が笑った。

「――ちょっと」と、恵果が力ない声で言った。

 はっ、と顔を上げた真人は、残ったローソクをテーブルの上に置くと、
「ごめんなさい」
 と、小さく頭を下げた。

「いいのよ」と、母親がニコニコしながら言った。「ローソクなんか、最近めずらしくなっちゃったから、興味あったんだよね」

 急に静かになったテーブルで、誰もが、母親の表情をうかがった。
 真人もこわごわ顔を上げ、母親を見て、コクリとうなずいた。

「マコトの誕生日には、もっと、大きなケーキ買おうね」と、母親がうれしそうに言った。

 母親の横で、恵果は唇を噛んでいた。

「――さっ、じゃあローソクに火をつけるから、電気を消して」

 真人が、椅子から飛び降りて照明のスイッチを消すと、うつむいていた恵果の顔も、暗闇に隠れて、見えなくなった。
 ポツン。と、ローソクに火が灯された。次々に灯されていく炎に、一人一人の顔が、次々に浮かんでいった。
 手拍子と共に、父親が、ハッピーバースデイを歌い上げた。
 小さく揺らめくローソクの炎に照らされて、恵果は照れくさそうに、もじもじとうつむいていた。

「10才の誕生日、おめでとう!」

 と、みんなが言うのを合図に、恵果がひと息に、ローソクの炎を吹き消した。
 本来なら、友人達も呼んで、お祝いして貰うはずの誕生日だった。
「――ありがとう」と、恵果は言った。その笑顔は、病気のせいか、どこか寂しげだった。

 ――――……

 朝。食卓テーブルの上には、きのう片づけきれなかった料理が、それとなく並べられていた。
「おはよう」
 と、少し顔色の良くなった恵果が、居間に入ってきた。
「――あら。もう熱下がったみたいね」と、キッチンで準備をしている母親が、顔をのぞかせて言った。
「なんか、お腹すいた」
「マコトは? あの子、まだ寝てるの」

「ねぇ」と、母親にせかされて、恵果は思い出したように言った。

「ううん。なんか寝言、言ってたみたい」

「もう」と、母親がキッチンから出てきて言った。「だから、早く寝なさいって、言ったのに」
 母親は、エプロンで手を拭きながら、ドアに向かうと言った。
「今日は、きのうの残りね。好きな物食べていいけど、病院に行くから、早く食べて支度してね」
「――」と、恵果はなにも言わず、テーブルの席に着いた。

 居間のドアが閉まると、2階に行った母親の声が、わずかに聞こえてきた。
 いつもの朝だが、熱が下がったせいか、どこか雲の上にいるような、ふわふわした感覚だった。
 オードブルの入った容器をつかもうとして、プラスチックの器が指先から離れていっても、はじめは、なんとも思わなかった。

 スルル――ッ。

 と、テーブルの上を、滑るように動いたオードブルの容器が、吸いこまれるように床に落ちていった。
 手を伸ばしたまま固まる恵果を、タイミング良く居間にやって来た父親が、目を丸くして見ていた。

「――どうしたんだ」と、しっかりと洋服に着替えている父親が、大あわてで、床に散らばった料理を片づけ始めた。「まだ熱があるんじゃないのか。寝てなくて大丈夫かい」
「熱は下がったみたいだけど――」と、恵果は、椅子に座ったまま言った。
「それはよかったけど、母さんが戻ってくるまでに、片づけちゃおう」と、父親は急ぐように言った。「誰だって、失敗するんだから」





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よもよも

2021-06-19 06:18:07 | Weblog
はてさて。

ニュース見て驚いたけど、

札幌市内に熊が出たって??

被害に遭った人もいて、最後はため息しか出ないけど、

そもそもどうして街に迷いこんじゃったんだろうね??

本当にただ普通に散歩してて迷いこむんだったらいいのかもしんないけど

山に食べ物がなくてとか、

山に住んでいられないくらい何かの予兆を感じてたとか、

人にも影響が出るような異変を感じて迷いこんだんだったら、

なんかたまったもんじゃないXXX

でもどうして町に入ってきたのか、不思議??
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