goo blog サービス終了のお知らせ 

行政法学の「不当」概念

2018-05-18 20:56:21 | 地方自治・行政救済法

学生に煮え切らない講義をしてしまった反省による記事。

2022-12-22追記。

 

[主要学説による説明]

・田中二郎294「行政庁の自由裁量に属する範囲においては、その判断が、法律上、行政庁の自由に委ねられているのであるから、仮りにその判断を誤ることがあっても、それは単に不当であるに止まって、直ちに違法とはならないのが原則である」、324「...公益に反する場合(不当の行政行為)・・・」※初版1957

・塩野(1)113「…行政行為の当・不当の問題は行政裁判所の審査の対象とはならなかった。いいかえると、裁量の問題については行政裁判所の審査権限は及ばなかったのである。そして、この点は、行政行為のコントロールが司法裁判所の下に置かれることとなった現在においても異ならず…」※初版1991

・芝池救済156「…不当性とは、裁量の範囲逸脱や濫用に至らない程度の裁量の不合理な行使をいう...」※初版1995

→『救済法講義』の改訂はないと覚悟していたが、2022年12月、実質的な改訂版となる『行政救済法』[2022]が出た。御年77歳。芝池先生、待ってました!! 243「行政処分を行うについて行政庁に裁量が与えられている場合において、裁量の逸脱または濫用…に至らない程度の不合理な裁量の行使があるとき、この処分は不当の処分と呼ばれる…」、244(補論)「不当性審査についてもう1つ問題となるのは、その基準が不明確だということである。これは、不当性審査の実例が少ない(あるいは知られていない)ことにもよるが、逆に基準の不明確さが実例の少なさをもたらしている可能性もある(裁判所は不当性を審査できないので、判例の法創造機能に期待することもできない)。…不服審査における不当性審査は、理論上は…注目すべきものであるが、現状ではその役割は大きなものではない。」

・芝池読本120(脚注2)「…不当とは、違法ではないが、適切ではない、妥当ではないということを意味する...ただ、不当の意味は、具体的事例との関係では明確ではないし、不当処分の取消しの例も少ない」

・藤田98「…行政機関が専ら政策的・行政的見地から行う決定に対して、その政策的判断の当・不当をコントロールするのは、本来、裁判所の権限外である…」「「違法」の概念が、ある行為が法規範に違反した状態であることを意味するのに対し、「不当」の概念は、行政法の分野では、ある行為が「違法」ではないが、行政の課題に照らして必ずしも適当とは言えない状態であることを意味するものとして用いられている(例えば参照、行政不服審査法1条1項)」※初版1980

・阿部339「…不当(法律には触れないが、適切ではないもの…」、501「例えば、公務員に対する懲戒処分が重すぎるとして争う場合、重すぎると言えないことはないが、それは単なる不当にとどまり、違法(比例原則違反)という程ではないということもあろう...」

・高木ほか168「…「不当」とは、裁量判断の妥当性を欠くことまたは政策判断の合理性を欠くことをいう…」

・サクハシ98「...裁量行使が不適切である場合(不当)・・・」、243「・・・公益目的に合致しない(不当な)…」

・中原241「...処分の当・不当(これは裁量処分について問題となる...」

・法令用語辞典683「不当ー行為ないし状態が、実質的に妥当を欠くこと又は適当でないこと。違法であることを必要としない。むしろ...ある行政処分が違法ではないが不当であるといわれる場合のように「違法」に対する概念として用いられることが多い。この場合には、その処分や手続が法令の規定に違反しているとはいえないけれども、その制度の目的からみて適当でないということを意味する。...」※初版1950

・小辞典30「不当は、法には違反していないが制度の目的からみて適切でないことをいう。例えば、裁量権のある者が権限の枠内で不適切な裁量をした場合には、違法ではないが不当であるなどという。」※初版1972

・有斐閣1216「不当ー...(1)行為ないし状態が実質的に妥当を欠くこと又は適当でないこと。必ずしも違法であることを必要としない。...(2)法律違反ではないが、制度の目的からみて適当でないこと。違法に対する概念。...」※初版1993

 

[私見による整理]

以上の学説の各説明を踏まえると、行政法学における「不当」概念は次のようにまとめられよう(私見)。

[1]「不当」は、もっぱら行政裁量の場面で問題となる概念である。「不当=妥当(適切)ではないが逸脱濫用に至らない程度」との説明は実質について何も述べていない。実質に踏み込むと「不当=公益目的に合致しない」となろうが、こう述べたとしても、芝池が率直に述べるようにその外延はよくわからない。

[2]それはともかく、行政裁量の場面だから、裁量行使の「当>不当>逸脱濫用」は連続した諸概念と捉えることができる。

[3]司法権の限界により、司法裁判所は【「当・不当」=「法律上の争訟外」】の判断に踏み込むことができない。したがって、訴訟の場面では「不当性」が顕在化しない(たぶん)。※司法権による不当性判断が憲法問題となることを示唆する塩野宏『行政法2〔第5版補訂版〕』9の記載には痺れた。

[4]とはいえ、その裁量が度を超せば司法裁判所が「逸脱濫用=社会通念上著しく妥当性を欠く=違法」と評価することもある。その際に使われるモノサシが、実体基準(←裁量基準への注目含む)/手続基準/判断過程審査、である。ここで逸脱濫用が「違法」と呼称されるのは、司法権の範囲内であるとのポーズか。

 

田中二郎『行政法総論』[1957]

藤田宙靖『第三版行政法1(総論)』[1993]

金子宏ほか編集代表『法律学小辞典〔第4版〕』[2004]

芝池義一『行政救済法講義〔第2版補訂増補版〕』[2004]

法令用語研究会編『有斐閣法律用語辞典〔第3版〕』[2006]

高木光ほか『行政救済法』[2007]

塩野宏『行政法1〔第4版第8刷(補訂)〕』[2008]

阿部泰隆『行政法解釈学2』[2009]

櫻井敬子・橋本博之『行政法〔第4版〕』[2014]

芝池義一『行政法読本〔第4版〕』[2016]

角田礼次郎ほか共編『法令用語辞典〔第10次改訂版〕』[2016]

中原茂樹『基本行政法〔第3版〕』[2018]

芝池義一『行政救済法』[2022] ※2022-12-22追記。


コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。