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児童相談所長等による「必要な措置」

2019-02-26 19:22:46 | 親族法・児童福祉

2024-02-02追記。

【例題】児童相談所長は、未成年者Xを一時保護した。児童相談所長は次の行為を検討しているが、Xの親権者父Aと親権者母Bがこれに承諾しない。

(case1)風邪の治療のためXを内科に受診させること。

(case2)Xに予防接種を受けさせること。

 

[親権者の有無と児童相談所長の権限]

・親権者がいない場合:民法838条が後見開始の要件とする「親権を行う者がないとき」とは、例えば、[a]かつて親権者であった者が生物学的に死亡した場合、[b]親権者が親権停止等の審判を受けた場合、[c]親権者が事実上親権を行うことができない場合(行方不明、服役、著しい心身の障害など)、を指す。一時保護中(or里親委託中)の児童に親権を行う者がない場合(※)、児童相談所長は親権を代行できる(児童福祉法33条の2第1項、47条2項)。□青竹263-6、手引き170、児福法コンメ404

・親権者がいる場合:親権者が存在する場合であっても、児童相談所長(or児童福祉施設長or里親)は、保護している児童に対して「監護教育と懲戒に関する必要な措置(監護措置)」をとることができる(児童福祉法33条の2第1項、47条3項)。ここでいう「必要な措置」の外延は「親権のうちの身上監護権(民法820~823条)=監護教育権、引渡請求権、居所指定権、懲戒権、職業許可権」とほぼ等しい。ここには「医療同意権」も含まれると解されている。□手引き170、日弁子ども143、田中225-31

 

[補足:一時保護中の児童相談所長の権限=措置中の施設長の権限]

・親権者不在時の親権代行:児相長については児童福祉法33条の2第1項本文、施設長については児童福祉法47条1項本文。※同じ文言。

・必要な措置:児相長については児童福祉法33条の2第3項本文(3項4項)、施設長(+里親)については児童福祉法47条3項本文(4項5項)。※同じ文言。

 

[「親権」対「必要な措置」]

・児童の監護教育に関し、「児相長による必要な措置」と「親権者による親権行使」が時にバッティングしうる。私見では、次のように整理されようか。

[1]日常的な生活の範囲:児相長が企てていることが些細な事項であれば、あえて親権者の意思を確認するまでもないだろう。□日弁子ども144-5

[2]重要な事項であり、かつ、親権者の反対が「不当」とは言えない場合:親権者の意向が優先されるべきだろう。□手引き173、久保280

[3]重要な事項であり、かつ、親権者の反対が「不当」である場合:児相長は「親権停止審判の申立て+親権者職務執行停止の保全処分の申立て(家事事件手続法174条)」を経由して、親権代行を実現する。これを行う時間的余裕がない場合は、児童福祉法33条の2第4項を根拠として必要な措置を実行する。□手引き176-7、久保236-7

・厚生労働大臣から県市に対する技術的助言(地方自治法245条の4第1項)として、「児童相談所長又は施設長等による監護措置と親権者等との関係に関するガイドライン」が策定されている。

 

[医療行為の可否]

・侵襲を伴わない医療行為:日常的な疾病(風邪等)やカウンセリング等は、親権者の意見を聞くまでもなく「必要な措置」を行うことが可能だろう。□日弁連146、久保358-9

・心身への侵襲を伴う医療行為:既述の「当か不当か」によって判断することになろう。特に、不当性の判断を裁判所に委ねることも検討されよう。□手引き175、日弁子ども146-8

・予防接種:法令で特に定められた医療行為の一つである「児童への予防接種(予防接種法に基づく定期接種)」については、現行法では次のように整理される。□日弁子ども146

[1]予防接種法にいう「保護者」とは、親権者or未成年後見人をいう(予防接種法2条7項)。→《法令用語としての「保護者」》

[2]予防接種の実施にあたっては、保護者から書面による同意を得る必要があり(予防接種実施規則5条の2第1項)、児童相談所長等がこの書面同意をすることはできない(=「必要な措置」に含まれない)。

[3-1]もっとも、保護者が存在しない(行方不明も含む)場合には、児童相談所長が一時保護中(or里親委託中)の児童の親権代行者となるため(児童福祉法33条の2第1項、47条2項)、児童相談所長が「保護者=親権者」として書面同意ができる。→《単独親権者の死亡》

[3-2]これに対し、保護者の所在はわかっているものの同意が得られないケースでは、従前の規定ぶりでは親権停止等を選択するほかなかった。そこで平成28年に厚生労働省令が改正され、「長期間にわたり当該被接種者の保護者と連絡をとることができないことその他の事由により当該被接種者の保護者の同意の有無を確認することができないとき」には、児童相談所長等による書面同意が認められるようになった(予防接種実施規則5条の2第2項)。□久保294-5

[3-3]他方、依然として「保護者が明確に予防接種に反対している場合」には、予防接種を強行することはできない。親権停止等を検討するほかない。□久保295

・医療保護入院:明文で「当該精神障害者の配偶者、親権を行う者、扶養義務者及び後見人又は保佐人の同意」としているので、児童相談所長の「必要な措置」には含まれない(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律33条1項)。□日弁子ども146-8

 

[財産管理の可否?]

・児童相談所長等の「必要な措置」には、財産管理権や法定代理権は含まれない。□手引き170

・この例外として、僅少な財産については権限が及ぶとの有力な見解もある。□日弁子ども143,145、手引き170

 

★社会福祉法人恩賜財団母子愛育会日本子ども家庭総合研究所編『子ども虐待対応の手引き』[2014]

田中通裕「第820条~第823条」松川正毅・窪田充見編『新基本法コンメンタール親族』[2015]

青竹美佳「第838条」松川正毅・窪田充見編『新基本法コンメンタール親族』[2015]

日本弁護士連合会子どもの権利委員会編『子どもの虐待防止・法的実務マニュアル〔第6版〕』[2017]

久保健二『改訂児童相談所における子ども虐待事案への法的対応 常勤弁護士の視点から』[2018]

磯谷文明・町野朔・水野紀子編集代表『実務コンメンタール 児童福祉法・児童虐待防止法』[2020]


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