goo blog サービス終了のお知らせ 

解なし

2008-10-06 04:31:43 | 哲学・論理学・数学

神戸大は、1982年入試の数学で、「解なし」が正解となる問題を出題した。駿台名古屋校の授業で、講師の安田亨氏がこの「事件」に言及したのを覚えている(著書の中でも取りあげられている)。いままでその問題を見たことがなかったので、検索してみた。神戸大はウェブでその問題を公式に発表していないようなので、2ちゃんねるで拾った次の記述を信じる。

 

次の方程式で表されるxy平面上の3直線l_1, l_2, l_3を考える。

l_1 : x+y-1=0

l_2 : x-y+1=0

l_3 : x+k=0(ただしkは0でない定数)

このとき、次の各問いに答えよ。

(1)1次変換fによりl_1がl_2に、l_2がl_3にうつされるとき、この1次変換fを表す行列Mをkを用いて表せ。

(2)3直線l_1, l_2, l_3でつくられる3角形の重心が、(1)の1次変換fにより原点にうつされるとき、kの値を求めよ。

 

これは1次変換の問題であった。(1)では、題意の1次変換fを表す行列Mをkで表す(これは簡単)。これを受けて、(2)では、点Gがfにより原点Oにうつされるときの、kの値を求める。


点Gがこの1次変換fによって点G'(x、y)にうつされるとすると、 x、yはそれぞれkで表すことができる。あとは、点G'=点Oという仮定により、x=0、y=0という連立方程式を解けば、kの値が求まるはずである。

ところが、計算していくと、x=0かつy=0を満たすkが存在しないことがわかる(つまり、G'≠O)。だから、「解なし」が答えとなる、というのが神戸大の言い分だろう。

安田氏は、このような問題では「k=1億」と書いた答案も論理的に真となってしまう、と批判する。つまり、“G'=Oならばk=1億”という条件式を考えると、前件が偽なのだから式全体は真となってしまうのだ。

しかし、この批判に対しては、出題者は、仮定から出発して正しく演繹的推論をおこなうことを問うているのだ、と反論できるかもしれない。“G'=Oならばk=1億”という命題は真理関数の観点からは確かに真だが、「G'=Oを仮定して推論を進めていったらk=1億が導かれた」というのは間違いである。

自然推論では、「命題Aを仮定して推論をすすめていったら矛盾が導かれてしまった」というような場合、そこからnotAを帰結する(背理法。野矢氏の説明では否定notの定義そのものでもある)。だから、私としては、計算結果を示した上で「よってG'=Oは成立しない」と答案に書きたい。

いずれにせよ、私が受験生だったら、どこかの計算を間違えたと思って何度も計算をやり直した挙句、タイムオーバーになっただろう。入試問題として不適切なのは間違いない。

コメント (4)    この記事についてブログを書く
« チワワの保護 | トップ | たばこ増税 効果いかに »

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (通りすがり)
2018-09-02 06:25:18
そもそも安田氏の解釈がおかしいのではないでしょうか?問題文から「G' = 0 ならば k = ?」と解釈してしまいがちですが,「求めよ」と問われていることから,正しくは,「{k | G' = 0} の元を全て求めよ」と解釈すべきでしょう.

例えば,「方程式『x = x + 1』の解を求めよ」という問の解が,「解なし」となるのと同じです.

任意の k に対し,G' ≠ 0 なのですから,{k | G' = 0} は空集合であり,従って,解は存在しません.故に,神戸大学の主張「解なし」で特に問題はありません.
返信する
Unknown (通りすがり)
2018-09-02 06:38:05
先の投稿への追記です.

安田氏の誤解釈では

 {a | G' = O ⇒ k = a} に属する元を全て求めよ

になりますので,ここからもおかしいことが分かると思います.

尚,先の投稿と本投稿の k, a は勿論実数であることを前提としていますので,集合を書く際にこの事実については条件として書いておりません.
返信する
>通りすがり様 (横井克俊)
2018-09-04 15:31:37
コメントありがとうございます。集合論についてはまったく素人ですが、記事本文(自然推論)とご指摘は同趣旨(?)だろうと理解しました。ただ、受験生の立場だとなかなか辛い問題だと思います・・・。
返信する
正に (てつ)
2022-02-01 14:00:53
この試験、奇跡的に、解なしと回答して、合格したんですよ。40年以上前のことだけど、鮮明に覚えています。問題は、全然覚えていませんが('◇')ゞ
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

哲学・論理学・数学」カテゴリの最新記事