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【改訂標準算定方式】義務者の再婚と養育費

2024-03-15 22:54:37 | 親族法・児童福祉

2019年12月23日に改定標準算定方式・算定表が公表された。《養育費と再婚》の実質的改訂版。

【例題】家康と築山は離婚したが、その婚姻中に出生した子である信康(現在16歳)がいる。家康は、築山との離婚後に御愛と再婚し、御愛の連れ子である秀忠(現在8歳)と養子縁組をした。築山は、家康に対し、信康の養育費を支払うよう請求した。家康の収入は年額600万円(→基礎収入246万円)、築山の収入は年額450万円(→基礎収入189万円)である。

<現在の義務者世帯>家康(義務者)、御愛、秀忠(8歳)

<現在の権利者世帯>築山(権利者)、信康(16歳)

 

[養育費の基本的思想]

・父母が離婚をするときは「子の監護について必要な事項」を定めるところ、この一つに「子の監護に要する費用(=養育費)の分担」がある(民法766条1項前段)。協議で定められない場合は家庭裁判所が定めるところ(民法766条2項)、これは別表第二事件となる(家事事件手続法別表第2の3の項)。なお、未成熟子自身が別居親へ扶養料を請求する時の根拠は、直系血族(+兄弟姉妹)間の扶養義務(民法877条1項)となる。□松本算定6-7,8-9

・step1:「義務者の総収入」を元にして、理論値である「義務者の基礎収入」を算出する。□松本算定53、松本即解13-4

・step2:義務者と子が同居していた場合を仮定し、この仮装世帯内にて「義務者の基礎収入」から「子の生活費(=子に按分されるべき金額)」を算出する(※)。この按分には、仮装世帯構成員各自の生活費指数(義務者本人100、15歳以上の子85、14歳以下の子62)を用いる。

→【例題】の家康の再婚前であれば、「家康の基礎収入(246万円)」を、仮装世帯「家康(100)、信康(16歳=85)」内にて按分する。信康の取り分は「85/185」なので、信康に按分されるべき生活費は、246万円×85/185=約113万円となる。

※婚姻費用では、「義務者の基礎収入+権利者の基礎収入」から「権利者世帯の生活費(=権利者世帯に按分されるべき金額)」に割り振る。□松本即解13-4

・step3:もっとも、現実には権利者も収入を得ているのだから、「義務者の基礎収入から子に按分されるべき生活費」を、義務者1人に全額負担させるのは加重であるため、同生活費を義務者と権利者で按分負担する(※)。この按分負担は、双方の基礎収入に応じる。

→【例題】の家康の再婚前であれば、「家康の基礎収入(246万円)から信康に按分されるべき生活費(約113万円)」を、家康(246万円)と築山(189万円)の両者で按分負担する。この家康の負担割合は「246/435」となるので、最終的に家康が信康に支払うべき養育費は、113万円×246/435=約63万円(=月5.3万円)となる。なお、改定標準算定表(表2)では「4~6万円枠」の真ん中より上になる。

※婚姻費用では、「両者基礎収入合計から、権利者世帯に按分されるべき額」は、権利者世帯が最終的に得るべき理想値である。もっとも、実際には権利者も収入を得ているのだから、義務者が支払うべきは「権利者世帯に按分されるべき額」と「権利者の基礎収入」の差額で足りる。□松本即解13-4

 

[義務者の再婚:再婚相手に収入がない場合]

・義務者は、再婚相手の連れ子(養子)や新たに生まれた子を扶養する義務を負う。さらに、再婚相手に収入がなければ、再婚相手も扶養する必要が生じる。

・step2の応用=被扶養者の増員:再婚前であれば、「義務者の基礎収入」を、「義務者本人」「権利者との間の子」だけで分け合えば足りた。しかし、再婚によって「義務者の基礎収入」が同じであっても、「義務者本人」「権利者との間の子」「再婚相手」「再婚相手との子(養子・実子)」で分け合うことになるので、その限りで「権利者との間の子」への按分額は減る。この按分において、[59説]再婚相手の生活費指数に「59」を用いる見解と、[62説]14歳以下の子と同じ「62」を用いる見解がある。□松本即解66-8

→[59説]【例題】では、「家康の基礎収入(246万円)」を、仮装世帯「家康(100)、信康(16歳=85)、秀忠(8歳=62)、御愛(59)」内で按分する。この仮装世帯において信康は「85/306」の割合を有するので、信康に按分されるべき生活費は、246万円×85/306=約68万円となる。

→[62説]【例題】では、「家康の基礎収入(246万円)」を、仮装世帯「家康(100)、信康(16歳=85)、秀忠(8歳=62)、御愛(62)」内で按分する。この仮装世帯において信康は「85/309」の割合を有するので、信康に按分されるべき生活費は、246万円×85/309=約67万円となる。

・step3:算出された「義務者の基礎収入から、権利者との間の子に按分されるべき生活費」を、原則とおり、義務者と権利者で負担し合う。

→[59説]【例題】では、「家康の基礎収入(246万円)から、信康に按分されるべき生活費(約68万円)」を、家康(246万円)と築山(189万円)で按分負担するので、家康の負担割合は「246/435」となる。つまり、家康が信康に支払うべき養育費は、68万円×246/435=約38万円(=月3.2万円)となる。

→[62説]【例題】では、「家康の基礎収入(246万円)から、信康に按分されるべき生活費(約68万円)」を、家康(246万円)と築山(189万円)で按分負担するので、家康の負担割合は「246/435」となる。つまり、家康が信康に支払うべき養育費は、67万円×246/435=約37万円(=月3.1万円)となる。

 

[義務者の再婚:再婚相手に若干の収入がある場合(方法1)]

・以上に対し、再婚相手に収入があれば、義務者の再婚相手への扶養義務は減少する。ここでいう「再婚相手の収入」につき、「自己の生活費を賄う程度の額」と称して、「再婚相手の収入をゼロと仮定した場合に、義務者と要扶養者全員が同居する仮装世帯において、義務者から再婚相手に按分されるべき生活費」と考える見解がある。□松本算定176

→【例題】では、「家康の基礎収入(246万円)」を、仮装世帯「家康(100)、信康(16歳=85)、秀忠(8歳=62)、御愛(59)」内で按分する。この仮装世帯において御愛は「59/306」の割合を有するので、御愛に割り振られるべき額は、246万円×59/306=約47万円となる。

・再婚相手が収入を得ている場合、義務者としては、再婚相手に「59」も与える必要はなく、「自己の生活費を賄う程度の額(=再婚相手が収入0の場合)」と「再婚相手の基礎収入(現実)」との差額を与えれば足りる。つまり、「生活費指数59⇔自己の生活費を賄う程度の額」の枠を、「修正生活費指数⇔義務者が再婚相手にこれだけ支払えば足りる額(上記差額)」の枠まで縮小させる。

→【例題】において、御愛が「総収入50万円(→基礎収入27万円)」を得ているとする。御愛の総収入が0円の場合に「自己の生活費を賄う程度の額=家康の基礎収入から御愛に按分されるべき生活費約47万円」なので、御愛の基礎収入(27万円)との差額は約20万円。家康は御愛にこの約20万円を与えれば足りる。つまり、「生活費指数59:自己の生活費を賄う程度の額(約47万円)=修正生活費指数:実際に家康からもらうべき額(約20万円)」となるので、御愛の修正生活指数=59×20万円/47万円=25。□松本算定177

・step2の応用=被扶養者の増員+修正生活費指数の利用:「義務者の基礎収入」を、「義務者本人」「権利者との間の子」「再婚相手」「新たな子(養子・実子)」で分け合うが、再婚相手も収入を得ていることを加味して、同人には修正された生活費指数を用いる。

→【例題】では、「家康の基礎収入(246万円)」を、仮装世帯「家康(100)、信康(16歳=85)、秀忠(8歳=62)、御愛(修正生活費指数25)」内で按分する。この仮装世帯において信康は「85/272」の割合を有するので、信康に按分されるべき生活費は、246万円×85/272=約76万円となる。

・step3:算出された「義務者の基礎収入から、権利者との間の子に按分されるべき生活費」を、原則とおり、義務者と権利者で按分負担する。

→【例題】では、「家康の基礎収入(246万円)から、信康に按分されるべき生活費約76万円」を、家康(246万円)と築山(189万円)で按分負担する。家康の負担割合は「246/435」となるので、家康が信康に支払うべき養育費は、76万円×246/435=約42万円(=月3.5万円)となる。

 

[義務者の再婚:再婚相手に若干の収入がある場合(方法2)]

・step1の応用=義務者世帯の基礎収入の合算:再婚相手に収入がある場合、「義務者の基礎収入」を「義務者の基礎収入と再婚相手の基礎収入の合計」へと拡張する。つまり、「再婚相手は権利者の子を扶養する義務はない」という点に目をつぶる。□松本算定177、松本即解68

→【例題】において、御愛が「総収入50万円(→基礎収入27万円)」を得ているとする。皆で分け合う対象は「家康と御愛の総収入650万円(→基礎収入266.5万円)」へと拡張される。なお、「各自の総収入の合計(650万円)→その基礎収入(266.5万円)」という順序によった場合と、「各自の基礎収入(246万円、27万円)→その合計(273万円)」という順序によった場合では若干の差が出る。

・step2の応用=被扶養者の増員:「義務者+再婚相手の基礎収入」を、仮装世帯「義務者本人」「権利者との間の子」「再婚相手」「新たな子(養子・実子)」で分け合う。この時は、再婚相手の生活費指数は修正しない。

→【例題】では、「家康+御愛の基礎収入の合計(266.5万円)」を、仮装世帯「家康(100)、信康(16歳=85)、秀忠(8歳=62)、御愛(14歳以下擬制=62)」内で按分する。この仮装世帯において信康は「85/309」の割合を有するので、信康に割り振られるべき生活費は、266.5万円×85/309=約73万円となる。

・step3:算出された「義務者+再婚相手の基礎収入から、権利者との間の子に割り振られるべき生活費」を、原則とおり、義務者と権利者で負担し合う。

→【例題】では、「家康+御愛の基礎収入(266.5万円)から信康に割り振られるべき約73万円」を、家康(246万円)と築山(189万円)で按分負担する。家康の負担割合は「246/435」となるので、家康が信康に支払うべき養育費は、73万円×246/435=約41万円(=月3.4万円)となる。

 

[義務者の再婚:再婚相手に相当な収入がある場合]

・再婚相手が「自己の生活費を賄う程度の額」に相当する収入を得ている場合は、義務者が再婚相手を扶養する必要はないので、再婚相手の生活費指数は0となる(=再婚相手の存在を無視する)。□松本即解67-8

→【例題】では、「家康の基礎収入(246万円)」を、仮装世帯「家康(100)、信康(16歳=85)、秀忠(8歳=62)、御愛(十分収入あり=0)」内で按分する。この仮装世帯において信康は「85/247」の割合を有するので、信康に按分されるべき生活費は、246万円×85/247=約84万円となる。

→【例題】では、「家康の基礎収入(246万円)から、信康に按分されるべき生活費約84万円」を、家康(246万円)と築山(189万円)で按分負担する。家康の負担割合は「246/435」となるので、家康が信康に支払うべき養育費は、84万円×246/435=約47万円(=月3.9万円)となる。

 

[義務者の再婚:再婚相手に十分な収入がある場合]※定説不在(松本即解68)

・さらに、再婚相手が「自己の生活費を賄う程度の額」を超える収入を得ているならば、その超過収入分が「新たな子(義務者と再婚相手の間の子)」の扶養に回される。つまり、「義務者一人で新たな子に按分すべき生活費」を、義務者(基礎収入)と再婚相手(超過収入分)で按分負担すれば足りるので、再婚相手の超過分が充当される限度で「義務者の負担すべき額⇔義務者との関係における新たな子の生活費指数」を低減させる。その反射として、権利者の子に回される枠が増える(割合の分母が減る)。□松本即解67

→【例題】において、御愛が「総収入300万円(→基礎収入126万円)」を得ているとする。御愛の総収入が0円の場合に「自己の生活費を賄う程度の額=家康の基礎収入から御愛に按分されるべき生活費約47万円」なので、御愛は、超過収入約79万円を得ており、これは秀忠の扶養に回される。家康(基礎収入246万円)は、本来は秀忠との関係で生活費指数62の生活費を負担するべきだったが、御愛からの約79万円をあてにすれば良いので、家康との関係で秀忠の生活費指数が修正され、修正された生活費指数は、62×246万円/325万円=46。

→【例題】では、「家康の基礎収入(246万円)」を、仮装世帯「家康(100)、信康(16歳=85)、秀忠(修正生活費指数=46)、御愛(十分な収入あり=0)」内で按分する。この仮装世帯において信康は「85/231」の割合を有するので、信康に按分されるべき生活費は、246万円×85/231=約90万円となる。

→【例題】では、「家康の基礎収入(246万円)から、信康に按分されるべき生活費約90万円」を、家康(246万円)と築山(189万円)で按分負担する。家康の負担割合は「246/435」となるので、家康が信康に支払うべき養育費は、90万円×246/435=約50万円(=月4.2万円)となる。

 

[再婚と事情変更]

・家庭裁判所は、「必要性」を唯一の要件として養育費に関する定めを変更することができる(民法766条3項)。もっとも、同条は「子の利益の最優先考慮」を要求する民法766条1項2項の支配下にあるので、養育費減額の根拠にはなり得ない。□松本算定193

・特に養育費の減額の根拠規定は民法880条に求められる。同条は、「扶養義務者or被扶養者の順序、扶養の程度方法について協議(審判)があった後、事情に変更を生じたとき」を要件として、家庭裁判所による「協議(審判)の変更や取消し」を許容する。この手続も別表第二事件となる(家事事件手続法別表第2の9の項)。□松本算定193-4

・事情変更による養育費の増減が主張された場合、裁判例は、[1]現定めが前提とする客観的事情の変更、[2]その事情変更の予測不可能、[3]当事者の無責、[4]現定めの履行強制の著反公平、[5]信義則違反とならないこと、要求している。□松本即解69、算定205、森森元202-3

・「義務者の再婚」を理由とする養育費減額請求の当否は、現定め時の交際の有無、再婚時期までの時間的間隔、新たな子出生(養子縁組)までの時間的間隔などが判断要素となる。現定めから一定期間後に新たに扶養する子(実子・養子)が登場した場合は、事情変更減額が認められる可能性は高いか。□松本即解71-2、森森元237-8

 

松本哲泓『〔改訂版〕婚姻費用・養育費の算定』[2020]

松本哲泓『即解330問 婚姻費用・養育費の算定実務』[2021]

森法律事務所(森公任・森元みのり)編『Q&A養育費・婚姻費用の事後対応』[2021]

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