労働者側の事情に基づく解雇を検討する際の解雇権濫用法理のポイントを教えてください。
労働者側の事情に基づく解雇をする場合には,解雇予告制度,個別法令による制限,当事者自治による規制(労働協約,就業規則等)のハードルに加えて,労契法16条が,①解雇 の客観的合理性,②解雇の社会的相当性を要求しています。これが解雇権濫用法理と呼ばれているものです。①では客観的類型的な見地からみた解雇事由の有無を判断し,②では①を前提に,当該解雇の個別事情を踏まえて判断します。
まず,①解雇の客観的合理性は次の3つのステップを踏んで検討していきます。ここで注意すべきは,あくまでも普通解雇 は労働契約の債務不履行状態が将来にわたって継続することが予想される場合(将来的予測の原則)の最終手段(最終的手段の原則)であることを念頭に置くべきということです。
解雇事由の特定
解雇事由は以下の5つに分類できますが,裁判上は就業規則上の解雇事由該当性の有無を検討していることが多いです。
(1) 病気・負傷に基づく労働能力喪失を理由とする解雇
(2) 能力不足を理由とする解雇
(3) 職務懈怠を理由とする解雇
(4) 非違行為・服務規律違反を理由とする解雇
(5) 経歴詐称を理由とする解雇
将来的予測の原則に基づく検討
例えば,当該病気などが労働義務の履行を期待することができないほどの重大なものであるか,職務懈怠につき当該労働者に改善・是正の余地がないといえるのか,を検討していきます。
最終的手段の原則に基づく検討
を踏まえて,客観的にみて,使用者にそれでもなお雇用の義務を負わせることができるか,これができる場合には期待可能な解雇回避措置として考えられる方法及び使用者がこれを尽くしたかどうかを検討していきます。
裁判において,解雇回避措置義務については解雇事由の重大性の程度と相関的に判断されているようです。
次に,②解雇の社会的相当性についてですが,これは①が認められる場合であっても,
(1) 本人の情状(反省の態度,過去の勤務態度・処分歴,年齢・家族構成等)
(2) 他労働者の処分との均衡
(3) 使用者側の対応・落ち度
(4) 解雇事由の性格(非違行為としての重大性の程度)
などに照らして,解雇が過酷に失すると認められる場合に,解雇の社会的相当性を欠き,解雇権の濫用となり無効となるというものです。
この点,①が認められる場合であっても,実際上は不当な動機・目的で行われていた場合には,②解雇の社会的相当性を欠くとして,解雇権濫用とされます。
以上の通り,裁判で解雇の有効性が争われ,解雇権濫用の問題になった場合には,このようなステップで解雇の有効性を検討していきます。有効に解雇をするためには,検討すべきポイントが多くあることを理解していただけると思います。
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