本件は,富士通株式会社に勤務していた原告が,平成14年12月から通院・投薬を受けている精神障害に罹患したところ,その発症が同会社の同僚等の職務に伴ういじめとそれに対する適切な措置が訴外会社においてとられなかったという業務に起因するものであるとして,労働者災害補償保険法に基づいて京都下労働基準監督署長に対し,療養補償給付を請求したところ,原処分庁が,同請求について平成18年5月9日付けで不支給とする旨の処分をしたため,被告に対し,同処分の取消しを求めた事案です。
判決は,平成14年11月ころ原告に発症した「不安障害,抑うつ状態」は同僚の女性社員によるいじめやいやがらせとともに,会社がそれらに対して何らの防止措置もとらなかったことから発症したもの(業務に内在する危険が顕在化したもの)として相当因果関係が認められ,同認定を覆すに足りる証拠はないとして,本件疾病と業務との相当因果関係(業務起因性)を認めなかった本件処分は不適法となり,取消しを免れないと判示しました。
本件のような事案が放置された場合,使用者は使用者責任等を問われかねない他,職場環境の悪化による業務効率の低下を招きかねません。
ストレスが多くなると,誰かをスケープゴートにして,ストレスを発散しがちになりますので,使用者としては十分に注意する必要があります。
なお,本判決は,精神障害の業務起因性の判断基準については,下記のように述べています。
弁護士 藤田 進太郎
(精神障害の業務起因性の判断基準)
精神障害と業務との間の相当因果関係
労災保険法に基づく保険給付は,労働者の業務上の傷病等について行われる(同法7条1項1号)ところ,労災保険法に基づく労災保険制度は「業務に内在又は随伴する危険が現実化して使用者の支配下で労務を提供する労働者に傷病等を負わせた場合には,使用者が,使用者の過失の有無にかかわらず,労働者の損失を補償するのが相当である」という危険責任の法理に基づくものである。
そので,労働者に発症した精神障害について業務起因性が認められるための要件であるが,業務と疾病(精神障害も含めて)との間に条件関係が存在するのみならず,社会通念上,当該疾病が業務に内在又は随伴する危険の現実化したものと認められる関係(相当因果関係)の存在が必要であると解するのが相当である。
同相当因果関係の内容
業務と精神障害の発症・増悪との間に相当因果関係が認められるための要件であるが,前提事実(5)で記載した「ストレス-脆弱性」理論を踏まえると,ストレス(業務による心理的負荷と業務以外の心理的負荷)と個体側の反応性,脆弱性を総合考慮し,業務による心理的負荷が社会通念上,客観的にみて,精神障害を発症させる程度に過重であるといえることが必要とするのが相当である。
そこで,如何なる場合に業務と精神障害の発症・増悪との間で相当因果関係が認められるかであるが,今日の精神医学において広く受け入れられている前提事実(4)で記載した「ストレス-脆弱性」理論に依拠して判断するのが相当であるところ,この理論を踏まえると,業務と疾病との間の相当因果関係は,ストレス(業務による心理的負荷と業務以外の心理的負荷)と個体側の反応性,脆弱性とを総合的に考慮し,業務による心理的負荷が,社会通念上,精神障害を発症させる程度の過重であるといえる場合には業務に内在又は随伴する危険が現実化したものとして認められる(当該精神障害の業務起因性が肯定される。)のに対し,業務による心理的負荷が,社会通念上,精神障害を発症させる程度の過重であると認められない場合は,精神障害は業務以外の心理的負荷又は個体的要因に起因するものといわざるを得ないから,それを否定することとなる。
なお,被告が判断基準として主張する判断指針は,複数の専門家による検討結果に基づき,上記「ストレス-脆弱性」理論を踏まえたもので,現在の医学的知見に沿って作成されたものであって,その内容には一応の合理性が認められる。
しかし,それは労働者災害認定のため,大量の事件処理をしなければならない行政内部の判断の合理性,整合性,統一性を確保するために定められたものであって,基準に対する当てはめや評価に当たって判断者の裁量の幅が大きく,また,業務上外の各出来事相互の関係,相乗効果等を評価する視点が必ずしも明らかでない部分がある。
以上のような判断指針の設定趣旨及び内容を踏まえると,裁判所の労働者に発症ないし増悪した疾病と業務との相当因果関係(同疾病などとの間の業務起因性)に関する判断を拘束するものではないといわなければならない。
そうすると,本件疾病と業務との間で相当因果関係が認められるか否かを判断するにあたっては,本件疾病発症前の業務の内容及び業務外の生活状況並びにこれらによる心理的負荷の有無及び程度,さらには原告側の反応性及び脆弱性を総合的に検討し,社会通念を踏まえて判断するのが相当ということになる。
判決は,平成14年11月ころ原告に発症した「不安障害,抑うつ状態」は同僚の女性社員によるいじめやいやがらせとともに,会社がそれらに対して何らの防止措置もとらなかったことから発症したもの(業務に内在する危険が顕在化したもの)として相当因果関係が認められ,同認定を覆すに足りる証拠はないとして,本件疾病と業務との相当因果関係(業務起因性)を認めなかった本件処分は不適法となり,取消しを免れないと判示しました。
本件のような事案が放置された場合,使用者は使用者責任等を問われかねない他,職場環境の悪化による業務効率の低下を招きかねません。
ストレスが多くなると,誰かをスケープゴートにして,ストレスを発散しがちになりますので,使用者としては十分に注意する必要があります。
なお,本判決は,精神障害の業務起因性の判断基準については,下記のように述べています。
弁護士 藤田 進太郎
(精神障害の業務起因性の判断基準)
精神障害と業務との間の相当因果関係
労災保険法に基づく保険給付は,労働者の業務上の傷病等について行われる(同法7条1項1号)ところ,労災保険法に基づく労災保険制度は「業務に内在又は随伴する危険が現実化して使用者の支配下で労務を提供する労働者に傷病等を負わせた場合には,使用者が,使用者の過失の有無にかかわらず,労働者の損失を補償するのが相当である」という危険責任の法理に基づくものである。
そので,労働者に発症した精神障害について業務起因性が認められるための要件であるが,業務と疾病(精神障害も含めて)との間に条件関係が存在するのみならず,社会通念上,当該疾病が業務に内在又は随伴する危険の現実化したものと認められる関係(相当因果関係)の存在が必要であると解するのが相当である。
同相当因果関係の内容
業務と精神障害の発症・増悪との間に相当因果関係が認められるための要件であるが,前提事実(5)で記載した「ストレス-脆弱性」理論を踏まえると,ストレス(業務による心理的負荷と業務以外の心理的負荷)と個体側の反応性,脆弱性を総合考慮し,業務による心理的負荷が社会通念上,客観的にみて,精神障害を発症させる程度に過重であるといえることが必要とするのが相当である。
そこで,如何なる場合に業務と精神障害の発症・増悪との間で相当因果関係が認められるかであるが,今日の精神医学において広く受け入れられている前提事実(4)で記載した「ストレス-脆弱性」理論に依拠して判断するのが相当であるところ,この理論を踏まえると,業務と疾病との間の相当因果関係は,ストレス(業務による心理的負荷と業務以外の心理的負荷)と個体側の反応性,脆弱性とを総合的に考慮し,業務による心理的負荷が,社会通念上,精神障害を発症させる程度の過重であるといえる場合には業務に内在又は随伴する危険が現実化したものとして認められる(当該精神障害の業務起因性が肯定される。)のに対し,業務による心理的負荷が,社会通念上,精神障害を発症させる程度の過重であると認められない場合は,精神障害は業務以外の心理的負荷又は個体的要因に起因するものといわざるを得ないから,それを否定することとなる。
なお,被告が判断基準として主張する判断指針は,複数の専門家による検討結果に基づき,上記「ストレス-脆弱性」理論を踏まえたもので,現在の医学的知見に沿って作成されたものであって,その内容には一応の合理性が認められる。
しかし,それは労働者災害認定のため,大量の事件処理をしなければならない行政内部の判断の合理性,整合性,統一性を確保するために定められたものであって,基準に対する当てはめや評価に当たって判断者の裁量の幅が大きく,また,業務上外の各出来事相互の関係,相乗効果等を評価する視点が必ずしも明らかでない部分がある。
以上のような判断指針の設定趣旨及び内容を踏まえると,裁判所の労働者に発症ないし増悪した疾病と業務との相当因果関係(同疾病などとの間の業務起因性)に関する判断を拘束するものではないといわなければならない。
そうすると,本件疾病と業務との間で相当因果関係が認められるか否かを判断するにあたっては,本件疾病発症前の業務の内容及び業務外の生活状況並びにこれらによる心理的負荷の有無及び程度,さらには原告側の反応性及び脆弱性を総合的に検討し,社会通念を踏まえて判断するのが相当ということになる。