民事調停では話合いによる解決がなされます。
労働事件において民事調停は,弁護士が代理人についていない事案,請求金額が少額な事案,法的権利があるとは言いにくい事案等に利用されています。
東京簡易裁判所では,労働問題についての知識経験が豊富な調停委員による労働調停が試みられており,良好な成果を上げているようですので,将来的には労働調停が全国の簡易裁判所にも広まっていくかもしれません。
仮処分とは,訴訟における本案判決を待てない保全の必要性がある事案において,被保全権利の疎明がある場合に認められる裁判所の暫定的な処分をいいます。仮処分が認められるためには,
① 被保全権利の存在
② 保全の必要性
が必要となります。
労働事件における仮処分の代表例は,解雇 事案における賃金仮払仮処分です。これが認められると,訴訟で決着がついていない時点で一定額の仮払金の支払が命じられることになります。
使用者側が仮処分を利用することは多くありませんが,労働組合の街宣活動の差止の仮処分等を申し立てることがあります。
少額訴訟を提起された場合,会社はどのような対応をすればよろしいでしょうか。
少額訴訟を提起された場合の会社側の対応 としては,早期にざっくりと解決したい場合は少額訴訟に応じて判断してもらえば足ります。
請求金額が少額であっても時間をかけて丁寧に審理してもらいたい場合は,答弁書の提出と共に事件を通常の訴訟手続に移行させる申出をする必要があります。
少額訴訟 とは,証拠調べの対象が即時に取り調べることができるものに限られ,原則として1回の口頭弁論で審理を完了し,判決も口頭弁論終結後直ちに行われる簡易な訴訟手続です。少額訴訟は,60万円以内の金銭請求事件の場合のみ利用することができます。手続が簡易なため,労働事件においては本人訴訟で利用されることが多くなっています。
弁護士を訴訟代理人に立てて労働訴訟を提起してきた事案の特徴を教えて下さい。
近年では,早期に解決金を取得して労使紛争を解決することを希望する労働者は,労働審判 を利用するのが通常です。本人訴訟であれば,労働審判がどのようなものかよく分からないため,訴訟を提起してきた可能性がありますが,弁護士が訴訟代理人についている場合は,労働審判ではなく訴訟を選択したことにそれなりの意味がある可能性が高いものと思われます。
弁護士を訴訟代理人に立てて労働訴訟を提起してきた事案は,労働者が早期解決よりも自己の要求を認めてもらうことを重視しているケースが多い傾向にあり,早期の金銭解決の難易度が比較的高めの事案が多くなります。
労働審判に異議が申し立てられて訴訟に移行した場合,最初から訴訟が提起された場合と比べて,解決までの時間が長くなってしまうのでしょうか。
労働審判 から訴訟に移行した場合,労働審判手続において既に争点の整理ができているケースが多いことから,和解交渉のため期日を重ねたというような事案でない限り,異議申立て後,判決までの期間は短くなっており,労働審判を経ずに訴訟が提起された場合と比較して,解決までの時間が長くなってしまうということは多くないようです。
ただし,「訴状に代わる準備書面」の記載内容が労働審判手続を踏まえた内容になっていないような場合は,答弁書も労働審判における答弁書と同じような内容のものが提出されることになりがちであり,同じような主張・反論が繰り返された結果,解決までの時間が無駄に長くなってしまう可能性がありますので,訴訟に移行した後の主張書面には,労働審判の経緯を踏まえた主張・反論をしっかり記載する必要があります。
労働審判に異議を申し立てて訴訟に移行した場合,どのような流れで訴訟手続が開始しますか。
労働審判 に異議を申し立てて訴訟手続に移行した場合,労働審判の代理人が引き続き訴訟を受任する場合であっても,新たに訴訟委任状を追完する必要があります。
原告(労働審判手続における申立人)に対しては,異議申立てから2~3週間程度の間に,労働審判手続を踏まえた,「訴状に代わる準備書面」及び書証の提出,提訴手数料の追納及び郵便切手の予納が指示されることになります。
これに対し,被告(労働審判手続における相手方)は,「訴状に代わる準備書面」に対する「答弁書」等を提出し,第1回訴訟期日に臨むことになります。
労働審判に対し異議を申し立てるかどうかは,どのように判断すればよろしいでしょうか。
労働審判 手続で解決しておくべきか,労働審判に対し異議を申し立てて訴訟で戦うべきかの判断は,当該労働審判の内容自体の妥当性のほか,他の労働者への波及効果等をも考慮して決定すべきものです。労働審判の内容に若干の疑問があっても,問題の程度が大きくない場合や,他の労働者への波及効果が低い場合については,労働審判に異議を申し立てる必要性が低いと考えられます。
実際の労働審判事件では,代理人弁護士の意見を参考にするとよいでしょう。代理人弁護士が異議を申し立てるべきだという意見の場合は,異議を申し立てて訴訟で争うことも検討に値しますが,代理人の弁護士が労働審判手続で調停をまとめるべきだとか,労働審判に対し異議を申し立てずにそのまま解決した方がいいという意見を述べている場合は,異議を申し立てて訴訟で争っても良い結果に終わることは稀ではないかと思います。
労働審判 委員会から示された調停案を当事者のいずれかが最後まで受け入れなかった場合は,24条終了するような場合を除き審理の終結が宣言され,概ね調停案に沿った内容の労働審判が当事者双方に告知されるか,審判書が送達されることになります。
労働審判に対しては,告知・送達から2週間以内に異議を申し立てることができますが,当事者いずれも異議を申し立てなかった場合は,労働審判は裁判上の和解と同一の効力(既判力,執行力等)が生じます。他方,当事者いずれかから異議が申し立てられた場合は,異議を申し立てた当事者に有利な内容の部分を含めた労働審判の効力そのものが失われ,訴訟手続に移行します。
労働審判に対し異議を申し立てた結果,移行後の訴訟で,労働審判で支払を命じられた金額よりも多額の金銭の支払を命じられるということは珍しくありませんので,労働審判に対し異議を申し立てるかどうかは慎重に検討する必要があります。
労働審判手続の第2回以降の期日は,どれくらいの時間がかかりますか。
労働審判 手続は,第1回期日で事実審理が終了していることが多いため,第2回以降の期日は調停をまとめるための期日になるのが通常であり,第1回期日よりも短時間で終わる傾向にあります。第1回期日で既に労働審判委員会から調停案が示されていたような場合には,解決金の金額を中心とした調停内容についての調整がなされることになり,当事者双方が調停案を直ちに受け入れたような場合は,期日は30分足らずで終了することもあります。
ただし,第2回以降の期日であっても,当事者から新たな主張がなされそれが審理されることになったような場合には,事実審理に時間が取られることになりますし,当事者双方が調停案を直ちに受け入れなかったものの,もう少しで調停が成立しそうな状況だったため,その日のうちに調停を成立させるために交渉が継続されたような場合には,調停に長めの時間が取られることもあり得ます。私の経験でも,第2回期日に2時間30分かかったことがありました。
したがって,事前に話がついているような場合を除き,第2回以降の期日についても2時間程度は時間が取られても支障が生じないよう,スケジュールを調整しておくべきでしょう。万全を期すのであれば,3時間程度,裁判所での時間を確保しておくことをお勧めします。