l'esquisse

アート鑑賞の感想を中心に、日々思ったことをつらつらと。

樽屋タカシ展 付喪神

2009-11-12 | アート鑑賞
Ginza Art Lab 2009年11月2日(月)-11月14日(土)
15:00~20:00 (最終日 18:00まで)



このところ、私の周りは何かと妖怪づいている。

先月末にロンドンからイギリス人の友人が来日した。新宿で待ち合わせ、太宰治ファンの彼がその日訪ねたという玉川上水の話を聞きながら渋谷に向かう山手線の中、彼のジャケットの襟に何やら白いものがついているのが目にとまった。目を凝らして見ると、一反木綿のピンバッジだった。

数年前に、彼の奥さんの実家がある鳥取で水木しげる記念館を訪れて以来、彼の口からしばしばYOKAI(妖怪)という言葉が聞かれるようになり、お酒を飲みながらYOKAI PROJECTと題して二人で即興で新しい妖怪を創り上げて楽しんだりしていた。それが今回、私が半分冗談だと思っていたそのプロジェクトが結構具体的な形になっていることを知らされ、自費出版で本まで出そうな勢いだ。

そんな彼が日本を去った後、読売新聞に作家の京極夏彦氏の講演会の記事が載っていた。"「抽象力」 不安と共存 昔からの知恵"というのが題目のようだが、その横に「妖怪と遊ぼう」と大書されている。大変申し訳ないことに私は氏の作品は一つも読んだことがないのだが(これを機に今度手に取ってみます)、水木しげる氏の弟子を自称される京極氏の、「日本人は概念をもてあそぶのがとても上手である」「わからないものに対する不安とうまく添い遂げるための装置が妖怪である」等の妖怪論は非常に興味深く、私はせっせとその友達のために記事の英訳を始めた。

そんな折も折、今度は銀座のギャラリーで妖怪をモティーフにした作品の展覧会があるという情報を入手。初めて聞く作家さんだが、これは行かねばといそいそ足を運んでみた。

作家さんのお名前は樽屋(たるや)タカシさん(1974年生まれ)。京都造形大学芸術学部美術科終了、とプロフィールにある。

小さなギャラリーに入ると、一番大きいM60号(803x1303mm)からM8号(455x273mm)まで計9点の作品が並んでいた。いずれも木製パネルに金箔もしくは銀箔が施された背景の上にアクリルで描かれている。コンビニや自販機などが登場する現代の生活の情景の中に跳梁跋扈するカラフルな妖怪たちには”三ツ目小僧”、”犀妖怪”などそれぞれ名前が付され、深く沈みこむような鈍い光沢を放つ金箔、銀箔の上に映える。

展覧会の副題にもなっている付喪神とは(以下DMから転載)、「長い年月を経た道具や家畜に宿るとされる神々とのことで、人々に畏怖の念を抱かせ、ものを大切にする精神に立ち返らせてくれる存在」。この9作品は「付喪神夜行図シリーズ」というらしい。

現代の消費社会に対する批判、と言ってしまえばそれまでだが、この作家は作品のテーマのみならず、パネルの接着剤やコーティング剤にまでエコ素材を使っている点がユニーク。

しかしながら、作品から伝わってくるメッセージ性はまだちょっと弱い感じがしなくもなかった。各作品の解説を読むと、例えば『流通の躍進』と題された作品には以下のように書かれている(青字部分):

2005年2月16日に「京都議定書」が発効され、製造や流通には多くの廃棄物等の発生の抑制が求められています。企業と自然との共生を図りつつ環境保全のための継続的な改善は、今のビジネス形態を意味するのでしょう。

そして絵に目をやるが、踏切の前に停車する、古いテレビ1台を載せたトラック1台(運転台、荷台、トラックの周りには妖怪たちがいる)を観ただけで上記のようなテーマは今一つ汲み取れない。個人的にはもう一ヒネリあってもいいような気がする。

いずれにせよ、画面は丁寧で絵画作品としては美しい。妖怪は人気があるし、実際先週の時点で9点中8点に売約済みの赤いシールが貼ってあった。

11月14日(土)まで。