l'esquisse

アート鑑賞の感想を中心に、日々思ったことをつらつらと。

日本の美術館名品展 その1

2009-05-03 | アート鑑賞
東京都美術館 2009年4月25日-7月5日



ゴールデン・ウィークも真っただ中、上野の山も大型の展覧会が目白押しで大変なことになっている。その中で私の一押しは東京都美術館で開催中の「美連協25周年記念 日本の美術館名品展 」。日本全国にある100の公立美術館のコレクションから、洋の東西を問わず近代美術作品の名品220点が集められた、壮大な展覧会である。

私自身、美術館に行くことのみが目的で関東圏を出たことがない人間であるし、都内・近郊で開催される主だった展覧会だけでも会期中に全て観るのはなかなか大変。ましてや日本全国に散らばる名品を見尽くすなんて、一般の鑑賞者にはなかなか出来ることではない。いや、それ以前に我が日本のどこにどのような作品があるのかを多少なりとも把握できる、良い機会となりそうである。始まって10日も経っていないので、大混雑必至の他の展覧会に比べればまだ余裕を持って鑑賞できると思われる。せっかくのお休みに人の波に揉まれたりせず、ゆったりとした気持ちでこんな豪華な展覧会を観ることができるのはまことに贅沢。

ではまず、本展の趣旨をオフィシャル.サイトから引用:

全国の公立美術館100館が参加し、その膨大なコレクションの頂点をなす、選りすぐりの名品を一堂に公開します。本展は、公立美術館のネットワーク組織である美術館連絡協議会の創立25周年を記念して開催するもので、教科書に載っている作品から、これまで美術館を出たことがない作品まで、西洋絵画50点、日本近・現代洋画70点、日本画50点、版画・彫刻50点の220点により、日本のコレクションのひとつの到達点をお見せします。

☆出品目録はこちらをクリック

☆美術館連絡協議会に加盟している美術館(現在124館)の一覧はこちらをクリック

この220点は、東京都美術館の学芸員さんたちが手分けして現地に赴き、所蔵先の美術館と丁寧に交渉を重ね、ただの作品の陳列にならないよう配慮して収集した多様な作品群。「日本の美術館」にある「名品」という、考えてみれば捉えどころのない括りでどのような展示構成になるのだろう?と気になっていたが、結果的に19世紀から20世紀の近代美術を辿るコンセプトのもと、「西洋絵画、彫刻」「日本近・現代洋画、日本画、版画、彫刻」の2分野で大枠を作り、1階は「西洋絵画」、2階は「日本近・現代洋画」、3階は「日本画、版画」とフロアー単位の間仕切りの非常に見やすいものとなっていた。観終わった後、皆で「1階では○○がよかった」「3階では○○が印象に残った」と言えるような展示である。彫刻作品も各フロアーに程よい間隔で並べられ、展示のよいアクセントとなってリズミカルな鑑賞の場を生み出していた。

とはいえ、さすがに220点全てを一度に並べられないので、前期・後期で展示替えをし(約40点ほどが入れ替わる模様)、バランスを取っているとのこと。大方の人気作品は通しで展示されているが、展示期間に関しては出品目録に明示されているので、もし気になる作品があるようであれば事前に参照した方がいいかもしれない。また、展示室がやや暗めになっているのは、照明も万全を期して所蔵先から指定を受けた照度よりも少し落としているためだそうだ。

もう1点の見どころは、各展示作品につけられたキャプション。通常はカタログの作品解説の概要であることが多いが、今回は所蔵先の担当者の書き下ろしによる、作品のみならず美術館のアピールをしたものも多く見られる。例えば広島県立美術館は「西洋美術に関しては、他館にない作家の作品収集に努めている」とあり、確かに出展作品を描いたフランシス・ピカビアは初めて知る画家であったし、この美術館に興味を持たされもした。また、ジョアン・ミロの作品を出展した福岡市美術館は、その作品がこの美術館によって購入が決まった時のエピソードとして、その報に際し「絵が美術館のものになったということは、つまり、みんなのものになったということです」というミロの一言を紹介。本展の趣旨にも沿った、示唆的な言葉として印象に残った。

では、ざっと個人的に印象に残った作品を挙げていく:

1.西洋画

サー・エドワード・コリー・バーン=ジョーンズ 『フローラ』 (1868-84) 郡山市立美術館



ラファエル前派、ヴィクトリア朝絵画好きには東京で出会えて嬉しいバーン=ジョーンズの佳品。かく言う私も絵の前に立ったとき、思わず笑みがこぼれた。フローラの手から撒かれる植物の種は金粉のようで、彼女が歩くそばから足元に次々と花が咲き出す。ゆるい螺旋のように宙にはためくフローラのショールは春風を感じさせる。ちなみにこの作品を所蔵する郡山市立美術館はイギリス絵画のコレクションが充実していて、今回改めてサイトを拝見したらレイノルズ、ターナーからホガース、ノリッジ派のコットマンまで所蔵する充実ぶり。

ジャン=フランソワ・ミレー 『ポーリーヌ・V・オノの肖像』 (1841-42頃) 山梨県立美術館蔵



日本でミレーといえばこの美術館であるが、同館の人気投票で3位という本作品が出展。ミレーの最初の妻の肖像画で、彼女は結婚3年後に22歳の若さで世を去ったそうだ。整えられた艶やかな黒い髪やまだ少女の面影を残す面持ちが、静謐な雰囲気の中写実的に描かれている。それにしてもやっぱり1位と2位を観に山梨に行かなきゃダメなのね。

ジョヴァンニ・セガンティーニ 『夫人像』(1883-84頃) ふくやま美術館
セガンティーニというとあの点描風の筆致が思い浮かぶが、若い頃はこのような、ホイッスラーを彷彿とさせる肖像画を描いていたことを知った。

ピエール・ボナール 『アンドレ・ボナール嬢の肖像 画家の妹』(1890年) 愛媛県美術館



カタログの表紙に使われている作品。188x80cmの縦長の画面に、背景の森の緑に映える赤いロング・スカートが印象的な画家の妹の全身像が描かれている。彼女が手にするバスケットには梨だろうか、緑色の果物が入っており、足元には彼女と森へ行くのが嬉しくてたまらないといった風の2匹の犬が弾むように歩いている。本展のあと、画家の回顧展が開かれる南仏のロデーヴ美術館へ貸し出されるとのこと。

エゴン・シーレ 『カール・グリュンヴァルトの肖像』(1917年) 豊田市美術館



彼の作風があまり得意ではない私には、普通に良い絵だと鑑賞できるシーレの肖像画。濃紺を背景に、椅子に座る白シャツ姿の男性が浮かび上がる。色彩のゴツゴツ感(マチエールではない)はまさしくシーレ。本作品は、28歳で夭折したこの画家の日本にある唯一の油彩画だそうである。

モィーズ・キスリング 『オランダの娘』(1928年) 北海道立近代美術館
上瞼がやや落ち気味の大きな青い瞳が独特の目力で鑑賞者を吸引する。チューブの丸い口から絞り出した白い絵の具を、直接キャンバスの上に点々と置いていくキスリング独特の手法で、娘の羽織るレースの質感が立体的に表現されている。

サルバドール・ダリ 『パッラーディオのタリア柱廊』(1937-38) 三重県立美術館
ダリというと筆跡を余り残さない滑らかな絵肌を思い浮かべるが、これは油絵の具を早い筆致でラフに載せている興味深い作品。

フランソワ・ポンポン 『シロクマ』(1923-33) 群馬県立館林美術館
白大理石で歩行中のシロクマを掘り上げた彫刻作品。太い四肢を含め、まろやかな体のフォルムが可愛い。

以上、どちらかというと自分にとっての珍しさから印象に残った作品を挙げたまでで、実は他に良い作品がごまんとある。ルノワール、モネ、ピサロ、セザンヌ、ルソー、ユトリロ、シャガール、ピカソ、デルヴォー他。

長くなったので、2.日本近・現代洋画、3.日本画、版画はその2に続く。