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**アカシアの木蔭で**

流れていく時間と逆らわずに流れていく自分を、ゆっくりペースで書いて行こうと思います

百合を植えました

2011年04月20日 | 病棟

夜勤明けにホームセンターで 百合苗を30ポット買って庭のあちこちに植えました。

5000円くらいでした。  惜しくはありません。

今日亡くなった患者さんのご家族に どうしても受け取ってとポケットにねじ込まれた5000円でした。

 

Aさんは皮膚癌が発見されてから、遠い病院まで通い入院して、

ケモセラやガンマナイフやインターフェロンなど つらい治療を沢山しました。

やってもやっても 転移が次々見つかり、それは段々と命を脅かすほどに範囲を広げました。

肺にも脳も肝臓も腹腔内も骨にも 癌は広がっていきました。

適応する治療が無くなり 後は残された短い人生を自分で選ぶようにと大病院は退院となり、

自宅近くの往診&入院可能なうちの病院を紹介されてきたのです。

 

まだ70歳、充分自分の状態を理解でき、生きたい気持ちと絶望感とに揺れるAさんは とても難しい患者さんでした。

ご家族も24時間受け止めることが出来なくなり 

「点滴をしたら楽になる」というAさんの希望的予測を 院長は受け入れて入院になりました。

実際はデュロテップなどの薬に思えない貼る麻薬を増減して 日々の安楽を目標にしました。

ホスピスほどスタッフの人数的にも設備的にも恵まれていなく、理想的とはとても言えません。

そんな中、Aさんは私に要求が多かったんです。

 

「女らしく 静かに やさしく ゆっくり時間掛けて 何でもやってよ」

「もっともっと優しく! 直ぐに部屋から出て行かないでよ」

「すぐ来てもいいけど、すぐ行かないでよ。」

「もっともっと 優しくしてよ!!!」

 

自分は こんなに不満を持たれる優しくない看護婦なんだと 密かにへこんでいました。

 「でもさ、たぶん看取るのはマムさんだと思う。文句言いながらもマムさんに見送られたいんだと思う」

助手さんからも仲間からも 何故か宣言されてました。

・・・なんで そんなこと言うのよお・・・

 

ゆうべ、みんなの予言どおり私が看取りました。

急変、でも家族がお別れできるような一番いいタイミングの看取りでした。

 

 

夜中に駐車場でAさんを見送る私のポケットに、奥さんが押し込んでいったティッシュの包みが その5000円です。

なんとなく使ってしまうより 餞の何かを買いたかったのです。

Aさん、夏に百合の花が咲いたら、ちゃんと思い出すからね。

もっともっと、優しい看護婦になるからね。