台風10号接近に伴うニュース番組の中で視聴者のスマホ動画が紹介されていた。
強風に飛ばされる家屋の部材が空に舞い上がる動画だった。「やべー」という撮影者の声が録音されていた。あるいは傍らにいた人物の声を拾ったものか。強風の激しさを目にした者の驚きの声だったことは確かだった。
ことば探査の視点からいえば、なぜ「やばい」が「やべー」と音韻変化してしまうのか、が関心を惹くことになった。
たとえば類例を挙げてみよう。話し言葉、括弧内は書き言葉で列挙してみる。
・しょっぺー(しょっぱい)
・たけー(高い)
・ちいせー(小さい)
・でけー(でかい)
・ねー(無い)
・すげー(すごい)
いずれも形容詞ク活用の語例を挙げることになってしまった。
言えることはひとつ。母音の連続「ai」「oi」が母音「e」に置き換わり、さらに長音化することで拍数(音節数)を揃えている音韻現象が話し言葉に起こっている、ということ。
ただし付言すれば、形容詞ク活用固有の音韻現象ではなく、他の品詞にも同様の現象は起こっている。
名詞の場合でいえば、「手前」が「てめー」となり、今回の母音の連続は「ae」が「e」に置き換わり、さらに長音化することで拍数(音節数)を揃えている。あるいは母音の連続を避けて最初の母音が脱落して後続の母音が長音化したもの、と捉えることもできるのではないか。
さらに助動詞「ない」の例を挙げると、「読めない」が「読めねー」となり、形容詞ク活用「無い」と同じ音韻変化を起こしている。助動詞「ない」は形容詞からの転成だから当然の変化となる。
助動詞「たい」の場合は、「見たい」が「見てー」という言い方になる。
なぜ母音が連続した場合、すべてエ段に置き換わり、さらに長音化するのか。
取り敢えず「エ段の不思議」と名づけて後考を俟ちたいと思う。
追加情報 - 窪薗晴夫
日本語学では母音融合という現象だと説き、発音上の省エネだ言われている。