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ワニなつノート

『翔ちゃんがいた』 (その2)

『翔ちゃんがいた』 (その2)


2.説明


朝から先生は落ち着かなかった。
「今日は、みなさんにお話があります」
教室がざわつく。
「なんだ、お話って」
「いつも、話ばっかりしてるのにな」

「はい静かにしてください。川合君のことです」
翔のこと? 
翔がどうかした? 
そう言えば今日は来てない。

「交通事故?」
「そんなんじゃありません。給食のことです」
教室がいっぺんに静かになった。 

「昨日、お母さんたちから電話がありました。給食の時間になると、河合君がいなくなってしまうけどどうしたんでしょうか。子どもたちが心配している、というお電話でした。」
みんな、黙って聞いている。

「もっと早く、みんなにお話しすればよかったですね。みんなも知っているように、河合君は一人では給食が食べられないので、食事のお手伝いをしてくれる人と食べることになりました」

「今までは一緒だったのに」
誰かがつぶやく。
うなずく子がいる。

「そうですね。今まではお母さんがいましたからね。だから、給食もみんなと一緒でしたね。でも、お母さんが都合で来れなくなってしまいました。先生も翔ちゃんのために、ぜひ今までのように来て下さいとお願いしたんですが…、でも河合くんのお母さんがお決めになったことですから、先生にはどうしようもないんです。」

「せんせい、翔ちゃんはどこで食べてるんですか?」
ナオが聞く。

「職員室です。教頭先生や音楽の先生が河合くんの給食を手伝ってくださっています。だから、みんなは心配しなくていいんですよ。川合君のお母さんにも事情があるんですから、仕方ありません」

「教頭先生は、どうしてここでお手伝いしてくれないの?」
ナオがつぶやく。

先生は、ナオの言葉が聞こえなかったように話を続ける。
「河合くんのお母さんが来てくれれば、またみんなと一緒に食べられるようになりますから、心配しないでくださいね。いいですか」
「…」

「いいですか。これで分かりましたか?」
「……」
みんな黙っている。なんて言っていいのか分からない。

先生が言葉を変える。
「では、いま先生が説明しましたね。河合君が職員室でちゃんと給食を食べているのを説明しましたね。それじゃあ、先生の説明が分からなかった人はいますか? いたら手を上げてください」
………。
みんな、うつむいている。先生のまぶたがピクピクしている。

「どうしたんですか。わからない人はちゃんと手をあげなさい」

うつむいた子どものたちの間から、2本の手があがる。
その気配に気づいて、子どもたちがかすかに首をまげて二人を見る。良太とコージだった。先生の顔色が変わる。

「そうですか。良太くんとコージくんは先生の話がわからないのですね。どこがわからないのかしら。入学してからずっとつきそっていたお母さんが急に来れなくなったんだから、仕方ないでしょう。河合くんは一人じゃ何にもできないんだから。あなたたちだって、そんなこと分かってるでしょ」
子どもたちは顔を見合わせて、またうつむく。
先生の話がつづく。

コージが良太にだけ聞こえるようにつぶやく。
「翔が一人で食べられないくらい、わかってる」
良太が答える。
「でも、一人じゃ何にもできないなんてうそだ」





※この物語はフィクションであり、登場人物はすべてワニなつ世界の子どもたちです(^_-)-☆
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