≪子どもの「試し行動」≫
この本で、芹沢さんが取り上げているのは、
「里親・里子」の関係についてです。
虐待や家族崩壊、親の失踪など、なんらかの理由で、
実親とは別の「親」によって、育てられる子どもについてです。
まず「試し行動」という言葉についての説明があります。
【文字通り、自分の親になろうとしている相手が、
どこまで本気なのかということを、
子どもが試す行為のことだと考えられています。
この人はどこまで自分を受け入れてくれるのか、
どの地点で音をあげ。ぼくを投げ出すのか、
それを子どもはさまざまな行動でもって調べるのです。
とうぜん、大人の喜ぶようなことはいっさいしません。
逆に困り果てるようなことばかりが次から次へと持ち上がります。
どういうわけか、きらわれるような自分を、カワイクない自分を、
子どもは大人が音を上げるまで、
これでもか、これでもかと突きつけようとするのです。
そんなふうですから、試し行動は、
子ども自身にとっても大きなリスクをともなっているのです。
我慢の限界を超えてしまった里親によって、
関係を解かれ、再び施設へと送り返されるといった事態が
起こることだってありえないことではないからです】
この後に、具体的な子どもの例があげられています。
最初の数日は、何でも一人でやっていたお利口さんな子どもが、
だんだんわがままになる。
朝は起きてこない。ご飯を遊びながら手づかみで食べる。
放り投げる。ポテトチップしか食べなくなる。
ジュースしか飲まない。噛み付く。たたく。
投げる。ごねまくる。親の嫌がることをする。
芹沢さんは、この「試す」という言葉が、
子どもの動機を考えると、ふさわしい言葉ではないと言います。
【なぜ親の嫌がることをわざわざするのかということを考えるとき、
二通りの見方ができます。
一つは、「試し」という言葉に即したとらえ方です。
すなわち里親がいつ、もう我慢がならないと怒り出すか、
その限界、里親の許容範囲、その本気度を試しているのだという理解です。】
【もう一つの見方は、里親の関心を自分だけにいつも引きつけておきたいという、
受けとめられ欲求の表出の一つとみなそうというものです。
わたしはこちらの方が適切であるように思えるのです。
「試し」という言葉に惑わされさえしなければ、
これらの行動に子どもの受けとめられ欲求の動機の強さ、深さ、多様さを
感受することができるのではないでしょうか。】
【里親への必死のしがみつき、赤ちゃん返りの例でもあきらかなように、
幼ければ幼いほど「試す」という要素は小さくなり、
もっと切実な、生存の根底にかかわる欲求のあらわれであることが
浮かび上がってきます。】
長い引用になったが、
この「見方」は、私にとって、
私が今まで出会ってきた全ての子どもたちを、
「私がどう見てきたか」をとらえ返すことができる言葉でした。
子どもの気持ちを、
子どもの立場にたって考えようとがんばってきたつもりだけれど、
私は、問題を「すり替える言葉」を、
それと気づかず、いくつも持っているのでした。
(つづく)
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