ワニなつノート

「向かう」を育てる (メモ2)

「向かう」を育てる (メモ2)


久しぶりに、Hr君の記事を紹介します。

【…Hrのてんかん発作が一晩中断続的に続いたため、急遽入院。
発作を止めるための強い薬の影響で、Hrは二日間眠り続けました。
白いベッドで小さく眠るHrを見ていたら、6年前に大学病院に入院していた時のことを思い出しました。

毎晩、なかなか寝付けないHrをベビーカーに乗せて、薄暗い病棟の廊下を行ったり来たりしたこと…。
…仲良くなったお母さんが「ここは守られているからいいけど、ここを出たら厳しい現実が待っているんだろうな」と不安そうに言っていたこと…。

私は、Hrに障害があるということにはそれほど動揺しませんでした。
Hrはかわいかったし、抱っこすれば何ともいえない幸せな気持ちになりました。

でも、Hrと世間の間に立つ時、どうがんばってもどうしようもない気持ちがありました。

…例えば、保健師さんと話すとき。発達についての質問。
「○○はできますか」「できません」
「意味のある言葉を話しますか」「しません」
「名前に反応しますか」「しません」
「できません」「しません」「できません」「しません」と答えているうちに私の目からは涙が溢れてくるのでした。

…療育教室。
先生と遊べるようになった子のはしゃぐ声を背中で聞きながら、眠ってばかりいるHrの足をさすっている時、涙がボロボロこぼれるのでした。

…障害について話すとき。
「この人はどう思うだろう」
「Hrはかわいそうじゃないし、私は大丈夫」
「こんなことを聞いて、この人は困ったりしないだろうか」
「困らせないように明るく話そう」
そんなことを考えながら話していると、なぜだか涙が止まりませんでした。】


           ◇

Hr君が入学したのは養護学校でした。
一年後に、お兄ちゃんと同じ地域の小学校(普通学級)に転校しました。
Hr君の障害が「軽減」されたから、転校したのではありません。
発達テスト的な質問なら、「できません」「しません」という答えは変わらないでしょう。
でもHr君のお母さんは、先の文章に続けて、「今は涙はこぼれません」と書いています。


【……目を覚まさないのを心配して、医師が様子を見にきたり、看護師が点滴の交換に来ました。
病院でHrのことを話しても、今は涙はこぼれません。】



クラスの一員として受けとめられている安心感。
地域の子どもの一人として受けとめられている安定感。
そうしたものを全身で感じているHr君の思いを、確かに感じているから、涙はこぼれないのですよね。

自分が一番大事にしたいものを、誰に遠慮することなく大事にできる自信と安心。
6年前の病院では見えなかった世界。

障害の有る無しのことじゃなく、できるできないのことじゃなく、
ただありのままのこの子を大切に思う気持ち。
それを、当たり前のように受けとめてくれる子どもたちと学校。

条件付きではない、受けとめられ体験。
子どもにとって。
そして親にとっても。
それは、普通学級でなければ、感じることのできないものです。


「今は涙はこぼれません」
その言葉はまた、いまのHr君がどれほどお母さんに受けとめられているかを、表わしています。

お母さんが、自分がいることを、泣かないこと。
子どもにとって、それが受けとめられ体験そのものであり、
自分の姿で安心して自分の「向かう」ところへ、向かえるのだと思います。

        ◇

【…クラスのみんなが手紙を書いてくれました。
「Hrくん、早く元気になってね」
「元気になってまた遊ぼうね」
「3の1に戻ってくるのをみんな待ってるよ」

この手紙が届いた日、眠り続けていたHrは目を覚ましました。…】
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