容疑者フランシス・ノーラン嬢は自分がなぜ事件現場にいたのか、意識を失っていて、記憶にないとのことだ。さらに話を聞いてみよう。

「さあ、ひとつずつ順を追って考えていきましょう。あなたがハリデイ特約ホテルの部屋で気づかれる前に、最後に覚えておられることはなんですか?」
「前の日の晩ベッドに入ったことです。日曜の夜はいつもパーシー・トリベリアン先生がわたしの家に食事に見えます。妹のロレッタが治療を受けているので、毎週お会いしては妹の回復状態をお聞きしているのです。それで、長年こうしていますうち、すっかり先生と親しくなったんです。 あの先生は10時にお帰りになりました。11時には女中のグレースがココアをつくって持ってきてくれました。わたしはココアを飲み、ベッドで少し本を 読んでから眠りにつきました。それっきり覚えていないんです」